IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

45 / 58
専用機タッグマッチトーナメント 二度目の出会い

―――「一夏、何で剣士なのに剣使わねーの?」―――

 喧嘩に負け、地面に倒れている俺を幼い頃の姿をした葵が、呆れた顔をしながら俺を見下ろしている。女ではない、男だった頃の葵を俺は下から見上げながら……ああ、俺は今夢の世界にいるんだなと理解した。

 確かこれは葵と出会ったばかりの頃で、葵に喧嘩で負けたのが悔しくて会う度に俺は葵に喧嘩を挑んでいたっけ。まあ毎回俺が負けて地面に這いつくばっていたんだけど。

 

―――「葵は何も持ってないのに、そんなズルできない」―――

 

 ああ、そうそう。葵に聞かれた時、俺はそう答えたんだよな。葵は素手なのに、俺だけ武器持ってるなんて卑怯だって。

 

―――「一夏は剣士なんだろ? だったら剣使ってトーゼンじゃん」―――

 でも俺の言葉を聞いて、葵はさらに呆れた顔で俺を見下ろしてたな。確かに葵の言う通り、剣士が剣持ってなくて戦ったって負けるに決まってる。もっとも俺はあの当時千冬姉の剣道やってる姿に憧れて真似事をしてただけの自称剣士だ。千冬姉が家で素振りしてたのを見て、それを真似てただけで、剣道のことなどこれっぽちもわかってなかった。振るってたのもちょうどいい長さの棒きれで、そんなのを竹刀の代わりにしていた

 でも、それでも俺はあの当時自分は剣道家のつもりだった。そう思い込んでいた。

 そして、そう思い込んでいたからこそ、素手の葵に武器を持って挑もうなどとは思わなかった。……まあ、どのみち棒きれ一つ持って挑んだ所で絶対葵に勝つなんて無理なのだが。

 

―――「千冬姉が言ってた。剣はむやみに振るうものではないって」―――

 千冬姉が素振りをしてる時、俺は千冬姉に悪いやつをそれで倒していくんだなって言ったら、千冬姉は苦笑しながらそれを否定した。そして剣はたとえ相手が悪い奴だろうと、むやみに振るうものではない。剣は武器だから使うと相手を怪我させてしまう。だから守りたいものを守る時こそ使うものなんだと、千冬姉は微笑み、俺の頭を撫でながらそう諭してくれた。

 

―――「それに剣を使って葵を怪我させたくない」―――

 

―――「こんな棒で俺に怪我?」―――

 怪我させたら危ないという俺に、葵は俺が持ってた棒を拾うと鼻で笑った。幼い子供が持てる程度の棒だ。軽いし太さもそんなに無い。俺がそれを持って葵に全力で叩いても、鍛えてる葵には大した威力は出せないだろう。

 俺が立ち上がると、葵は持っていた棒を俺に渡してくれた。負けた悔しさから、俺は千冬姉がやってた素振りの真似事をして悔しさを紛らわした。それを横で葵は見ていたが、

 

―――「つまんないな。俺と一夏、どっちが強いかはっきりさせたいのに」―――

 そう呟く葵の顔は、確か………

 

 

 

「……」

 酷く懐かしい夢を見た後、俺は目を覚ました。時計を見ると午前5時。まだ外は暗く、部屋も暗闇に包まれている。しかし何時もより早く起きてしまったというのに、眠気は全く無かった。

 ふと隣を見てみると……葵もまだ寝てるようで、寝息が聞こえてきた。上半身だけ起こし、俺は隣のベットで寝てる葵を眺める。少し前なら、葵のそんな姿を見たら欲情してしまっていたが……今はそんな気が起きなかった。

 

 昨日の昼食堂で、ラウラとシャル、セシリアと鈴がタッグを組み、それを見ていた俺は葵とタッグを組もうとした。でも俺が葵に申し込む前に、

 

 ―――箒、私と組まない?―――

 ……葵は、俺でなく箒をパートナーに選んだ。葵にとって、箒も大切な幼馴染だ。葵が箒とタッグを組んでも、別におかしいことではない。葵が誰かとタッグを組もうと、それは葵の自由だ。

 それは頭ではわかってる。わかってるけど……今まで、何かチームを作る時は俺と葵は必ず一緒だった。一緒じゃない時は、どっちかが一言何か言ってたりしていた。

 でも今回はそれがなかった。

 そして俺は……それが凄くショックだった。

 葵と箒がタッグを組む光景を少し放心状態で眺めてたら、箒と話がついた葵は俺の方を向くと、

 

「一夏、そういうわけで……私は全力で勝負しにくるからね」

 俺に向かって不敵に笑った後、箒と一緒に食堂を後にした。

 それ以降はあまりよく覚えていない。確か授業終わった後は部屋に戻り……ああ、そのままベットの上に倒れたんだった。全てにやる気が起きずそのまま横になってたら寝てしまい、今に至るってところか。

 布団が掛けられてたのは葵がしてくれたんだろう。学生服のまま寝たせいで、少し体が固い。服も変な皺が出来てるし着替えるか。

 葵が起きないよう音をたてないように着替えを済ましたが、時計を見ると5時15分。どのみち後15分もすれば葵が起きる頃だろう。

 しかし……なんとなく、今は葵と顔を合わしたくない。

 タッグの件で葵に聞きたいことはあるが……聞きたくないような気もする。

 

「ん……」

 そんな事を考えてたら、葵からくぐもった声が聞こえてきた。もう起きるのかもしれない。

 そう思った俺は、葵から逃げるように部屋を後にした。

 

 

 冬が近づいてきたせいか、少し肌寒い。まだ朝の5時半前で誰も起きていない。薄暗い中俺は適当に学園内を歩いていく。今日は幸いなことに朝練は無い。たまに休日を挟み体をゆっくり休めないと、体が成長に追いつかないから休みの日を千冬姉に指定されている。

 今日がそれだったのは助かった。今は俺、練習に集中出来ないのが自分でもわかってるから。

 

 何も考えず学園内を歩いていたら、気が付いたら第四アリーナの前に俺はいた。

 そういえば、何時も千冬姉や楯無さんと訓練してるのは第一か第二アリーナで、ここには来たことが無い。授業でも基本第一か第二で行われるし、箒達がコーチしていた時基本その二つでやっていた。まあ第一と第二が一番近いから、わざわざ遠い第三か第四までいく理由がないしな。

 そういえば……夏休みの間、葵と鈴は何故か知らないがここで特訓してたんだった。俺が夏休みの間は千冬姉と楯無さんから訓練に明け暮れてる間、鈴も近接戦闘の技術向上の為、葵相手に格闘戦に明け暮れてたと二学期初めのクラス対抗試合で負けた後知った。

 そういえば、葵と特訓し何回も鈴は吹き飛ばされ、壁に激突し壁に人型の跡を作ったとか。確かここに訪れたシャルがそれを見たとか言っていたな。

 そこまで思い出し、俺はなんとなくこの第四アリーナの中に入ることにした。理由は特に無い。ただ、葵と鈴がここで特訓してたというのと、ここには入学したての頃の学園案内の時にしか来てないから久しぶりに中を見てみようと思っただけだ。それにまだ朝食まで時間あるし、暇つぶしにもなるだろうし。

 当然だが中に入っても誰もいなく、無人の建物の中を俺は歩いていく。アリーナ内に入り中を見渡すがまあ作りは他と同じだ。どこか目新しいものは無かった。

 溜息をつき、時間の無駄かと思ったが元々時間潰しの為なんとなく入ったんだから目的は叶ってるか。それにせっかくアリーナの中にいるんだし、軽く体を動かそう。

 何のために休みを取らせてるかを一瞬考えたけど、今は体を動かして何も考えないようにする方が精神衛生上良いと俺は判断した。

 白式を展開し、上空へ飛翔。地面から10m程離れた所で停止。宙に浮いた状態で俺は雪片弐型を取り出したら、俺はそれを居合の型に構える。

 ここ最近千冬姉に頼み込んで教えてもらった、千冬姉が世界一を取った居合。昔教えてもらったが、6年も剣道をやってなかった為自分でやっても上手くできなかった。

 箒は当然のように出来、見事な一閃で巻き藁を両断した。葵もブランクあったが俺よりもマシだし、島根でも剣道の練習と同時に篠ノ之流の剣術を思い出し、半分独学で鍛錬を行った結果、葵も見事な居合で巻き藁を両断する。

 さらに葵はそれをIS戦でも繰り出し、楯無さんと戦った時もそれを決め手としていた。それを見ていた箒は自分もそれに続こうとしている。そして、それは俺も同じだ。

 足場のない空中で、体重移動等の一連の行動をPICの操作を脳内で調節し、地面に立っているのと同様の感覚にする。それが出来たらさっきから構えている居合の型を俺は思い切り振りぬく!

 特訓で何度も行われた動きを、ISがさらに何倍もの速さで補正し繰り出された一閃。見ている人がいたら一瞬の出来事に見えただろう。しかし

 

「……はあ。全然駄目だ」

 振りぬいた後、俺は溜息をつきながら構えを解いた。先程の動き、俺が生身で繰り出すよりも何倍も速く威力はあるだろう。でもこれは……葵に言わせればISに動かされてるだけ。形は居合でも、ISの性能を全て動員させて本当の居合として繰り出す千冬姉や葵と比べたらまがいものも甚だしい。

 

「葵は言ってたっけ。ISは乗り物じゃない。装備するものだって」

 白式を纏ってからもう半年以上経つが、俺は未だに葵が立っている領域まで辿りつけていない。最後に葵と戦ったのは……男子会の3日前だったか。あの頃は葵に疑問持ってて集中出来て無かったとしても、ボコボコにやられた。葵のシールドエネルギーなんて半分どころか1割しか減らしてない。葵はスサノオを手に入れてからは強さにさらに拍車がかかり、楯無さんと並ぶ実力がある。

 空中で居合を行いながら、現状の葵との力の差を考えてると……俺、考えが浅すぎてたなと思い知らされる。強くなる。それをずっと追い続け千冬姉や楯無さんにお願いして師事してもらったおかげで、俺は強くなった。でも強くなればなるほど……今の俺と葵との力の差を理解出来てしまう。

 恋に浮かれ、葵を倒せば~なんて思っていた自分を殴りたくなった。馬鹿か俺。ちょっとは冷静になれよ。今の俺があいつに勝てる? ありえない。そもそも俺はまだ葵どころか、セシリアに鈴、シャルにラウラよりも弱いじゃないか。箒も紅椿は第4世代機だけど、決してそれに胡坐をかかず訓練を行っている。まだ紅椿のワンオフアビリティ、『絢爛舞踏』は発動するのにムラがあるようだが、あの調子だとそう遠くないうちに使いこなすようになるだろう。

 強くなろうとしてるのは俺だけじゃない。葵も、箒達も俺と同様強くなろうと日々努力してるんだ。

 そんな皆に俺が追いつき、追い越したい。でも現状は俺が強くなっても、同様にみんなも強くなっている。強さの差が、あまり埋まってない気がする。ああくそ! これじゃ俺は何時になったら俺は!

 嫌な考えが脳裏に張り付き、それを振り払おうと俺はさらに居合を繰り出していく。呼吸が荒れてきて、汗が噴き出してきたけど雑念が払われない。さらに俺は維持になってもっと早く繰り出そうと居合の構えをした瞬間、

 

「!」

 言葉に表せない、ただ俺の全身の肌が一瞬鳥肌を浮かべるような何かが俺を襲った。感覚というか本能で俺はそれは背後、それも地面から放たれたものだと思い、後方に振り返ると、弾丸のような速さで俺に向かってくる槍の姿があった。

 

「!!!?」

 槍は一瞬で俺に向かって近づいてくる。それをISのハイパーセンサーによって知覚し、穂先が俺の頭めがけてくるのをわかると、俺は右手に持っている雪片弐型でその槍を俺に刺さる前に叩き落とした。

 狙って落とせたわけじゃない。ほぼ無意識の反射行動が運良く功をそうし叩き落とせただけ。もっとも直撃した所で、シールドバリヤーがあるから問題は無いとしても、いきなり槍が俺めがけて飛んできたら怖いものは怖い。

 いきなりの襲撃に俺は驚愕しながら槍が来た方を見て、誰が投げたのか確認した。投げた相手はすぐに見つかった。地面に立っているISが一機ある。そして相手の顔を確認すると、

 

「……うえ」

 俺は思わず呻き声を上げてしまった。だっていきなり俺を襲った相手は、今の俺にとって、葵と同じくらい会いたくない相手だったからだ。

 そいつは投槍の一撃が俺に防がれた事に驚いてるようだが、俺が睨んでいると次第に驚いた顔は無くなっていった、そいつは新たに槍、いやよくみたら薙刀を取り出すと肩に担ぎ、

 

「悩んでいるようね青少年。でも今の悩んでる君は、一昨日の君よりは何倍も良い顔してるけどね」

 今俺が会いたくない相手―――更識が俺を見ながら笑みを浮かべた。

 その笑顔は、今まで見てきた眠そうな顔や更衣室で俺に見せたムカつく笑顔では無い。俺が初めて見る、更識の含みの無い笑顔だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。