IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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専用機タッグマッチトーナメント タッグ結成

 更識は理由もなくいきなり槍、いや薙刀を俺に投げた後、俺を見ながら何故か笑っている。人をいきなり攻撃しておいて笑顔とか、もしかしてこいつサドなのだろうか?

 地面の上に立って俺を見上げている更識はISを展開させていた。更識の機体は……そうそう確か打鉄弐式という名前だったな。しかし更識の専用機、見るの初めてだけど名前が打鉄って割には、普段授業で見ている打鉄とは似ていない。防御型ISとまで言われた打鉄と違い、更識が展開している打鉄弐式は装甲がどこかすっきりしている。形状としては葵のスサノオと近い事から、更識の機体は機動性重視なのだろう。しかし纏っている装甲は少ないが、更識の肩の上から浮遊しているジェットブースターが大きな存在感を示している。二基で対となっており、更識を守る楯のようにも見えるが、実際はどうなのかは知らない。

 更識は新たに出した薙刀を肩に担ぎながら俺を見上げている。そんな更識を俺は上から見下ろしていたが、無言で地面に降り立った。足元に落ちている薙刀を拾うと、それを持って更識まで近づき、

 

「悩み?……ああそうだな、人にいきなり攻撃してくる同級生とかで悩んでるよ」

 悩みがあるかと言ってきた更識に、嫌味を含めながら俺はそう言うと薙刀を更識に向かって放った。更識はそれを片手でキャッチし、俺が放った薙刀は粒子化させた。

 

「ああ、確かに織斑君の周りにいる子達っていつもそうだもんねえ。いつも見てて不憫に思ってたのよねえ。まあ元気出して、彼女達も悪気は無いと思うのよ、たぶん」

 あれ、嫌味言ったはずなのに……なんか本当に憐れんだ目をして、俺を慰めてきた。 ……おーい箒達よ。お前達のせいで嫌味が嫌味で無くなってしまったぞ。そして俺ってそんなに可哀想に見られてたの?

 

「あ~でもそんなのはどうでもいいとして」

 少し黄昏てしまった俺だが、更識は自分で聞いといてどうでもいいとぬかし、

 

「聞いたよ織斑君。何時も君の周りにいたお仲間さん、君を除いてさっさとタッグ組んじゃったってね」

 さっきまで浮かべていた笑みを消し、何時もの眠そうな目を俺に向けながら更識は俺に言った。

 

「……」

 

「だんまり? まあそりゃそうか。一昨日私からの誘いを蹴って、組むならデュノアさんか葵が良いとか言ってたけど、その二人から声掛けられなかったんだし」

 

「ッ!」

 淡々という更識に、俺は反論したかったが……言葉が出なかった。だって更識の言う通り、それは事実だからだ。

 

「私の言った通りだったでしょ? 織斑君はどうせ私と組むことになるって」

 ああ、そうだよ。こうなってしまった以上、後残った専用機持ちって楯無さんか……お前しかいないもんな。楯無さん以外にも二年生に一人、三年生に一人専用機持ってる人がいるけど、その二人とは全く面識ないし、それにその二人が組む事は昨日の昼休みの時には既に聞いてたからな。

 なら楯無さんとタッグ組みたいけど……あの学園祭の閉会式で見せた更識のシスコンっぷりから考えると、更識がぼっちになる位なら自分からなるって言い出すだろうしな。俺が頼んでも断られそうだ。

 

「だからあの時私が組もうと言った時、頷いておけばよかったのに。そしたら周りからハブられた奴扱いされなかったんだから。まあこうなったから言うけど、今回織斑君がこうなったのは」

 

「俺が弱いから、だろ」

 

「……あ、なんだわかってるんだ」

 眠そうな目をしながら、更識は俺に何でこうなった原因を偉そうに言おうとしたが、それを言う前に俺は更識に答えを言った。

 認めたくはないが、皆パートナーを決めた後、一人になった俺の頭に流れたのが、一昨日の更衣室で更識が言ったあの言葉。

 

 どうせ織斑君は私と組むことになるんだから

 

 この意味を昨日俺はずっと考え、考え続けてそして理解することが出来た。そして理解出来たら、更識が今の状況を予言出来たのかもすんなりと納得することも出来た。

 しかし、それを理解出来たからこそ……その意味は俺をさらに憂鬱とさせた。

 

「そ、君が弱いから、今回のタッグマッチでまずオルコットさん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんから君はタッグのパートナーからは対象外とされた。まあ授業でペアを作らないといけないとかなら、織斑君でも全く問題無かったんだけど、今回は公式の、実績が残ってしまうイベントだからねえ」

 

 

「……弱い俺と組んだら、良い成績残せないからな」 

 

「わかってるじゃない。まあ、彼女達が実績作ろうと焦ってるのは自業自得の部分もあるんだけどね」

 そこまで言うと更識は心底呆れた顔をしながら、ため息をついた。

 

「彼女達も可哀想と言えば可哀想で、理不尽とも思うけどね。本来はクラスで一番強いはずのクラス代表の座。それをオルコットさんは織斑君にクラス代表譲ったのは、君が唯一の男性操縦者だしここが日本でもあるから、織斑君を立ててあげるのが当然という空気あるし。デュノアさんは親とフランスの思惑のせいで織斑君の情報を盗むために、男性操縦者として送り込まれた。ボーデヴィッヒさんはVTシステムみたいな爆弾しこまれたせいで暴走し大騒ぎ」

 

「でも、それらは」

 

「うん、これらはさっきも言ったけど……オルコットさんは微妙だけど男装やVTシステムは彼女達のせいではない。でもそう思わない人も多い。でもこれだけならまだ良かったんだけど……ほらボーデヴィッヒさんが君にキスしたでしょ。あの時この3人の他にもう一人いたけど、校内でIS展開させて暴れたでしょ。さらに決定的なのが期末テストでの事件。あれも合わさって各国のお偉いさんは『お前ら専用機まで持たせて送り込んだのに、何やっとんじゃ!』と激怒しちゃったようよ。これでタッグマッチトーナメントで優勝とかしてたらまだよかったけど、そういうの無いし」

 

 ……あれか。テスト中いつの間にか寝てしまい、葵に強制的に目覚めさせられたら箒達から襲われてわけがわからなかった。そういやあの事件、何で起きてしまったのか原因は皆口を固く閉ざして言ってくれないんだよなあ。葵に聞いても、『寝言がよくなかった』しか言ってくれないし。

 

「で、今回のタッグマッチトーナメントイベントがあるのを知った各国は、これで結果を見せてみろと3人に迫った。焦った3人はどうしても勝たなければならない。そのため、絶対勝てる相手を探した結果、織斑君は見事に対象外だった」

 

「……」

 

「まあこの時3人とも葵を選ばなかったのは、模擬選で葵に負け続けてたからでしょうね。葵と組めば勝率は跳ね上がるのは間違いない。でも葵と組まないのは、葵と組んだら葵のおかげで勝ったと思われかねない。なんせ模擬選結果では皆葵に惨敗してるのだから。それは各国の人も知ってるでしょうね。だから3人とも、葵には勝ちたいと思ってるわよ。だから皆こう思ってたかもしれない―――私達がこうして結託すれば、葵は一夏と組む。そうしたら葵に勝てるかもしれないって」

 

「……それは、弱い俺が葵の足を引っ張ってしまうからってことか」

 

「うん。片方が葵相手に時間を稼ぎ、もう一人が君を瞬殺。その後二人掛かりで葵を倒す。多分あの子達は言葉で言わなくてもそう思ってたでしょうね。その葵は篠ノ之さんと組んじゃってるけど、方針は変わらないと思うわね。ここまで長々と喋ったけど、全て私の憶測だけどそう外れてるとも思わないかな」

 更識は言いたいことを言い終えたのか、言い終えると満足した顔をした。そしてすぐに、何時もの眠たそうな目にして俺を見つめ、

 

「で、織斑君。君はどうしたい?」

 目は眠たそうなのに、俺に尋ねる更識の声はそれを微塵も感じさせない、力強いものだった。

 

「どうしたいって?」

 

「あら惚けるの? ここまで言われて、織斑君は悔しくないの? 怒らないの? これ暗に『仲間を守る! とか言ってるけど、あんたの力程度で? 笑わせるなバーカ』と皆思ってるのよ」

 ……いや、それは無いと思うけどな。短い付き合いだけど、そこまで酷い事思わないと思うぞ。むしろお前が俺に対しそう思ってるのは、よく伝わってくるけどな!

 

「……別に、俺が皆の要求する実力が無いなんてよく知ってるよ。大体、皆IS学園に来る前にそれぞれ自国で代表候補生の座を巡って戦って勝利した猛者達だぞ。それをこの学園に入学してから特訓している俺が肩を並べらるとか、おこがましいにもほどがある」

 二学期始まって最初のクラス対抗試合。夏休みの間の特訓の成果を見せようと思ったら鈴にボロ負けして、葵からその辺を叱責された。あれは確かに葵の言う通りだった。俺はまだようやく皆とのスタートラインに立てただけに過ぎないんだし。

 

「おお、ちゃんとわかってるのね。……なるほど、じゃあ君が今一番悩んでるのって、やっぱり葵が君を選ばなかったからか」

 

「……」

 更識の言葉に、俺は一瞬動揺した。……まあな、結局の所、セシリア達が俺を選ばない理由も堪えるけどそれ以上に、俺の気持ち云々は置いといて、親友が俺を選ばなかったのが一番堪えてるよ。

 俺の一瞬の動揺を更識は見逃さなかったようで、更識は俺が動揺したのを見ると、残念な者を見るような顔をして溜息をついた。

 

「はあ、結局そこかあ。うん、じゃあ聞いてあげる。何でそれがショックなの? まさかとは思うけど、『親友だと思ってたのに、何で俺を選ばなかった? 葵の気持ちがわからない!』みたいな本当にどうでもいい理由じゃないでしょうね?」

 

「……」

 呆れた顔で質問する更識に、俺は何も言えなかった。……だってそれ事実だしな。

 

「はあ? まさか本当にそれ? ちょっとくだらないにも程があるんだけど?」

 

「煩いな! だったら何なんだよ! 俺達は何時も何か協力するときは無条件でペア組んだりしてたんだよ。……それが今回あいつ何も言ってくれなかったから」

 

「言わないのは何か理由があると思わないの?」

 

「……」

 更識の言葉に、俺はまた口をつぐんだ。……ああ、そんなのはわかってるよ。あいつが何も考え無しでこんな事するわけないのはわかってる。

 

「……あいつにも考えがあるのはわかるよ。ただな」

 

「あ~織斑君、君全然わかってないから。もう面倒くさいからはっきり言うね。君はただ単に、好きな子が君を無視して他の子と一緒になったのがショックなだけ」

 

「な!」

 

「こう例えたらわかりやすい? 今回の件だけど、君はタッグを組む=交際を申し込むみたいな気持ちになってたのよ。だけど葵は君が申し込む前に篠ノ之さんと組んじゃったから、君は疑似的な失恋気分味わって落ち込んでるの」

 

「い、いやちょっと待て! なんだよそれ」

 

「違わないの? というか織斑君、もしかして葵に対してこんな事思ってたんじゃない? 『言葉を交わさなくても、何が言いたいのかわかる親友』とかそんなの? そんな風に思ってたのに、葵が何も言わずに君の思惑外の行動しちゃって、それで葵の事がわからないとか思ってない?」

 

「……」

 俺は再び、更識の言葉に言い返すことが出来なかった。

 何もいわなくても、わかってくれる親友。

 10年以上も一緒にいた親友は、中学一年まで……あの日俺の前からいなくなる前はそうだったんだ。

 再会してあいつが女になっても、それは変わらなかった。なのに、

 

 ……そういえば何時からだったかな。時々それがわからなくなったのって。

 今では、もうはっきりとはわからないことが多い気がする。

 

「また図星? ……あのね織斑君、何の為に人は言葉を喋れると思ってるの? 葵は聞けば拍子抜けする位あっさり教えてくれると思うよ。 大体織斑君、言わなくてもわかるなんて幻想だから。それは単にわかってる気がするだけ。親友とか家族とか恋人でも……はっきり自分の気持ちを言わないとわからないんだから」

 落ち込んでる俺に、更識は容赦なく俺に言っていくが……言葉は厳しいが、俺に忠告する更識の顔と声は、どことなく優しい雰囲気を出していた。

 特に後半の台詞を言っていた更識の言葉は、何故か言い知れない説得力があった。

 

「なあもしかして、それって更識さんにも経験あるの?」

 なんとなく聞いてみたが、

 

「それは秘密です」

 更識は俺の質問に、ちょっと顔を赤くしたが、笑みを浮かべながら人差し指を立てた。 

 

「……葵もそれやるけど、流行ってるのか?」

 

「さあ? 葵とは芸風が被ってるのかな?」

 いや、お前と葵じゃ芸風一緒と思いたくないな。

 

「……なんか更識って、葵の事よく知ってるな」

 さっきから妙に葵の事わかってる風な事言ってるから気になってきた。

 

「いや、織斑君以上に葵の事知ってないけどね。ただ……織斑君よりも、『今の葵』を理解してあげてるとは思ってるかな」

 

「『今の葵』?」

 

「そ。 それがどういう意味なのか織斑君には教えてあげない」

 

「……なんでだよ」

 

「親友なんでしょ? なら自分で理解しないとね。でも、ヒントあげようか?」

 

「ヒント?」

 

「そうヒント。私の言う『今の葵』が知りたいのなら教えてあげる」

 そこまで言うと更識は妙に楽しそうな顔をしながら、俺を見つめていく。……ああ、そういう楽しそうに人を見る目、楯無さんに似ているな。姉妹の血を感じるよ。

 いやそんな事はどうでもいい。さっきから更識の言っている『今の葵』

 これは一体何を言っているのか? 

 おそらくだが、『今の葵』というのは女になってからの葵という意味だろう。それ限定なら、更識は俺よりも葵を理解していると言っている。このIS学園で出会い、Lineや生徒会とかでしか葵と交流無いような更識が、俺よりも葵の理解者? 知りたい、何でか知りたい!

 

「……教えてくれ」

 

「それが人に頼む態度?」

 

「教えてください!」

 更識に向かって、俺は直角にお辞儀した。

 

「うむ、ちょっと腰曲げすぎなのは駄目ね。斜め45°位にした方がいいわよ」

 俺のお辞儀にダメ出しをした更識は偉そうな事を言った後に、笑みを浮かべながら言った。

 

「ヒント。私と組む」

 

「……は?」

 

「ん? 聞こえなかった? ヒントは私と」

 

「い、いやそうじゃなくて……更識さんのいう『今の葵』を理解することのヒントが更識さんとタッグを組む事?」

 

「うん」

 俺の質問に、更識は自信満々に頷いた。……ああもう、どういうことだよ!葵の気持ちを知りたいのに、それを知る近道が更識とタッグを組む? 一体どういう理屈でそうなっているんだよ?

 

「さあて、もうすぐ7時になるわね。ここで練習するつもりだったけど、織斑君と話してるせいで時間なくなったなあ。自室に戻って授業の準備したいから帰るね。でもその前に―――改めて問おうかな、君は私と組みますか?」

 

「!」

 時間が来て戻ろうとした更識だが、帰る前に再度、更識は俺にタッグを組むかと尋ねた。尋ねる更識の顔は、眠そうな顔でも人を馬鹿にしている顔でもない、真っ直ぐな目をし、今までに見たこともないような真剣な顔で俺に向かって右手を差し出しながら問いかけている。

 

 ……更識に対し思っている俺の印象は、正直あんまり良くない。でも、さっきまで交わしていた会話。そしてあの更衣室での会話も、よく考えたら……俺に対して事実をぶつけているだけな気がする。

 更識の事はよくわからない。なんとなく俺を馬鹿にしているような気もするけど……そうでないような気もする。

 何故かはわからないが、一昨日までよりも俺は更識の事が嫌いではなくなった。いや今でも決して好きってわけじゃなく、どっちかと言うと嫌いな方だけど。でも、更識が言ってたように、さっきまで言葉を交わして、更識の事を少し理解出来たせいなのだろう。

 葵は更識の事を好きだと言った。あの葵が、更識の事を好きとか言ったのだから、俺が変な目線で

まだ見ているだけなのかもしれない。

 それに……更識の言うヒントの意味も知りたい。何故更識と組む事が葵を知ることとなるのか。

 更識が差し出す右手を見つめる。これを握れば、もしかしたら変わるかもしれない。そうだよ、今のままじゃどうせ俺は悩むだけで前には進めない。前に進む変わるためにも―――

 

「ああ、タッグを組みたい。いや、違うか。―――更識さん、俺とタッグを組んでください」

 俺は更識が差し出した右手を握り、俺は更識とタッグを組むよう頼んだ。さっき更識が言ったように、腰を45°曲げて。

 しばらく曲げていたが、一向に返事が無いので俺は顔を上げると、更識さんは俺の顔をじっと見つめると、

 

「うん、わかった」

 先程薙刀を投げた後に浮かべた時の笑顔よりも、もっと嬉しそうな笑みを浮かべた更識は、俺のタッグ申し込みを受け入れてくれた。

 

 

 こうして、俺は更識とタッグを組む事となった。

 その後更識と一緒に食堂に行き、待っていた葵達にその事を伝えると、昨日に引き続き食堂は騒然となった。箒達はどうやら俺は楯無さんと組むと思ってたようで、手紙の件があるとはいえ更識と組むとは思ってなかったようだ。

 それは箒たち以外も同様だったようで、

「万馬券来たー!」「え、ちょっと待って! オッズ何倍?!」「どういう事なの!」

な叫びが食堂に飛び交っていった。

 そして……葵に俺と更識が組んだ事を伝えると、葵はにんまりと笑い、嬉しそうに俺と更識に向かっていった。

 

「うん、うん。そうこなくっちゃ面白くないもんね」

 


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