IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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専用機タッグマッチトーナメント 特訓

「ふむ、これで全ての組み合わせは決まったわけだが……なかなか面白い試合になりそうじゃないか」

 千冬は専用機持ちのタッグ申し込みリストを見ると薄く笑った。今朝一夏、簪の二人がペア申請に来たので、これにより専用機持ちによるペア組み合わせが全て決まった。ペアの大半は千冬の予想通りの組み合わせとなっているが、一部だけ千冬でも予想外の組み合わせがあった。

 

「……まさか織斑君が青崎さんでなく、簪さんとペアを組むとは思いませんでした」

 真耶は驚いた顔をしながら、千冬同様申し込みリストを眺めながら呟いた。真耶もこの学園の大半の者と同様、一夏は葵と組むと思っていたからだ。しかし蓋を開けてみたら、葵は箒とペアを組み、一夏は簪とペアを組む事となった。

 

「しかし元々青崎と更識姉妹の三人には、タッグを組む相手は織斑か篠ノ之の二人どちらかしか選択肢を与えなかったから妥当な組み合わせともいえるな。一人足りないがあぶれたのは楯無なのも、妥当と言えば妥当か」

 

「それはそうなのですが……普段の二人を見てましたら当然のように織斑君と青崎さんかなと思ってましたので。でも実際はそうではなく、しかも相手は簪さんとか予想もしなかったです。まだ織斑君が楯無さんと組んだとかなら納得しますよ」

 真耶は普段の一夏と葵の様子を考えると、改めて今回の結果について不思議だと思った。着替えや一夏の特訓時以外では何時も一緒にいており、真耶自身『あ~この二人何時頃くっつくんでしょうね~』とか思っていた二人がまさかの別々でペア組み。

 しかも一夏が組んだ相手が簪だったことがさらに真耶を驚かせていた。

 

「……簪さんの性格や気性考えましたら、織斑君と組むなんて本当に驚きです。そしてさらに言えば、今回簪さんがこの学園のイベントに参加した事の方が驚きました。前回の臨海学校では『他にやることあるから』で欠席し、その前のタッグトーナメントでは『やる意味なし』で興味すら抱きませんでしたし」

 

「私も昨日青崎と篠ノ之の二人がペア申請に来るまではそう思っていたよ。何せ更識妹……簪の性格等を考えたら今回のイベントも不参加する可能性が高かったしな」

 千冬自身、今回の簪の参加は意外だと思っていた。数日前姉の楯無と一緒に千冬の所に訪れた簪は、『お姉ちゃんと組みます。チーム名は二人はSARASHIKI!でお願いします』と言って来たが、千冬は問答無用でその申し入れを却下した。すると簪は『そうですか。じゃあ今回も私は不参加の方向で~』と言ってあっさり引き下がった上に、イベント不参加を表明したからだ。

「そうですよね~。一体簪さんに何があったんでしょうか?」

 

「さあな。ただ簪の参加によって織斑は簪とペアを組む事となった。一人残った楯無は、一人で出場。ロシアの国家代表の楯無には良いハンデだろう」

 

「本当に一人で戦わせるのです? せめて楯無さんの機体ですが、限定解除させてシールドエネルギーを通常の2倍設定とかしてあげたりは?」

 

「相手が同じ国家代表ならともかく、相手は代表候補生だぞ? ひよっこ相手にそんな事やったら恥ずかしいだろう。私ならそんな恥ずかしい事はしない」

 

「……そりゃあ織斑先生はそうでしょうけど、いくら楯無さんでも青崎さんと簪さんを相手にしてそれは酷なのでは?」

 

「問題ない。学園最強を名乗るならそれくらいやってのけて見せろ。……おお、もうこんな時間か。山田先生どうです? 今日は仕事もそんなに残ってませんし、終わったらこれから飲みにでも」

 

「いいですね~ってあれ織斑先生? 今日はこれから織斑君の指導があるのでは?」

 

「タッグマッチトーナメントは来月だからな。それまでに織斑と息を合わせたいと簪が言ってきて、大会までは織斑を簪に預ける事にした。今頃は簪の奴に織斑はしごかれてるだろうよ」

 

「そういうことですか~。残念ですね~織斑先生、可愛い弟さんとの時間を取られちゃいましたね」

 

「山田先生、今夜はとことん飲みましょうか」

 

「あ、ちょっと織斑先生! まだ仕事が残ってますよ! 腕引っ張らないでください~!」

 

「ああ、そうだ。どうせなら束も呼ぶとしよう。あいつの家の御神酒美味いし持ってこさせて三人で大いに盛り上がりましょう」

 そうして千冬はとても良い笑顔を浮かべながら泣き顔になっている真耶を強制的に引きづり、職員室を後にした。

 

 

 

 

「はい、そこでしっかりガードする! って遅い! もっと早く腕を上げて! そしてしっかり踏ん張って耐える! 」

 

「わかってるよ!」

 簪が高速、いや閃光の如き速さで繰り出す薙刀の一撃を受けて吹っ飛ばされた俺は、すぐに痛む頭を振り気合を込めて簪が繰り出す薙刀を雪片弐型で必死に防御する。その一撃一撃はとてつもなく重く、一撃を防ぐ度に俺の全身の筋肉は悲鳴を上げていく。簪の攻撃を防ぐので精一杯で、攻撃に回る余裕が全く無い。いや、そもそも簪が繰り出す薙刀が、俺に反撃する機会を全く与えてくれないのだ。

 

「一夏! あんた剣しかないのに何時まで縮こまってるの! さっさと貴方からも攻めてくる!」

 

「うるせえ!」

 反撃の糸口が見えない俺に、容赦なく簪は俺に挑発する。しかし威勢よく吠えても、俺には簪に攻撃を与える手段が無い。

 簪の薙刀と俺の雪片二型はリーチの差が大きく、絶妙の間合いを維持する簪に俺は踏み込めず、結果一方的に俺は簪から攻撃を受けている。昔何かの本で剣が槍を持つものに勝つには三倍の実力が必要とか言ってたけど、まさにその通りだと思う。俺の攻撃圏外から一方的に攻撃する簪に、俺は手も足も出ないからだ。

 こうして戦う前までは、俺は簪の実力をセシリアやシャル辺りと漠然と予想していた。葵と同じ日本の代表候補生だが、代表候補生でも葵は例外で、他はそう大きな差なんてないと思っていた。

 しかし、簪の実力は俺の予想を遥かに超えていた。本人曰く薙刀はあくまでメインウェポンをサポートする為の武器だという。なのに……俺はその簪のメインで無い武器で振るわれる攻撃だけで、完全に押されまくっている。

 この簪の薙刀捌き、銃を使わない近接戦でここまで追い込まれるのは葵以来だ。しかし葵は武器が刀な為、まだ戦いやすい。しかし簪の薙刀は完全に勝手が違う。長得物なら鈴の双天牙月もそうだが、鈴と簪では繰り出す攻撃のレベルが桁違いだ。戦いながら認めざるを得ない。以前葵が言っていた簪は楯無さんと同等。それは本当なのだと。

「ッ!ハアア!」

 しかしこのままで終わってたまるかと、意を決して俺は襲い掛かる薙刀に俺は渾身の力を振り絞り横へ打ち払った。俺の一撃を受けた薙刀は横に大きくそれ、その衝撃で一瞬だが体が泳ぎ隙が出来た。

 ここだ! と思い、俺はスラスターを噴射させ一気に簪との距離を詰めようとしたが、

 

「はい残念~」

 簪は俺と対峙したままで『瞬時加速』を行い、後方へ一気に俺から距離を取った。俺は呆然と一瞬で後方に下がっていく簪を見つめる。十分な距離を取った簪が、また薙刀を構えると、

 

「ラウンド2~」

 笑みを浮かべ、片手を上げて手招きしながら俺を挑発した。

 

 

 

 

 簪と組んだ日から四日が経ち、俺と簪は毎日一緒に訓練を行っている。いや、正確には毎日俺が簪からボコられてるというのが正しいか。

 事の発端は来月にあるタッグトーナメントに勝つため、トーナメントがあるまで俺のコーチを簪が引き受けると宣言した。

 コーチは千冬姉と楯無さんがやってくれてたから渋った俺だが、『更識妹なら問題無いな』『簪ちゃん、一夏君をよろしくね~』とあっさり二人が簪にコーチの件を任せた為、否応なく俺は簪から指導を受けることとなった。

 そうして簪の指導が始まったのだが……初日から今日まで、俺は簪から薙刀で毎回ズタぼろにされる日々を送っている。

 

 

「……う~ん、今日で私が指導して四日経つけど、相変わらず一夏は動きが悪い」

 

「……う、うるせえ」

 簪にシールドエネルギーが無くなるまで薙刀で叩かれまくり、俺は地面に横になりながら呻いた。大体お前指導って、俺を薙刀で叩く以外してないだろ。

 

「基礎的なトレーニングは織斑先生やお姉ちゃんがしっかり一夏にさせてたから、もう一夏に必要なのはISに対する馴れだけなのに」

 

「馴れって、今まで俺は十分この白式を使いこなして」

 

「はい、それ間違い」

 

「ぐは!」

 ISに対してまだ馴れてないという簪に、俺は上半身を起こして反論しようとしたが、最後まで言い終わる前に簪が俺の頭をチョップして黙らせた。

 

「一夏、勘違いしてないかな? 私が言っている馴れをそんな君の周りにいる代表候補生達と同程度と思ってる? 違うよ、それ。君が良~く知っている人はISをどんな風に扱っているかよく思い出してみて」

 痛さで頭を押さえながら呻く俺に、簪は淡々と俺に説明する。

 

「貴方の幼馴染はこのISの性能を、息をするかのように引き出している。その結果、あの出鱈目な威力を放つ空手を繰り出している。この四日間一夏が私に一方的に負けてるのはそういうこと」

 淡々と、相変わらず無表情で簪は俺に言っていくが、目は真剣さを帯びていた。

 

「つまり、俺がこの四日間簪にやられまくってるのは……俺が白式の性能を全く引き出してないからだというのか?」

 

「そう。経験の差も物凄くあって私と一夏の間に埋めがたいな差があったりもするけど、まずはそれ。葵程でもないけど、私もISは操縦するでなく肉体の延長的なものと考えている。お姉ちゃんもそう、世界の代表クラスにもなれば皆そう。それが出来ない限り、一夏は私は勿論、葵にも勝つ事が出来ない」

 淡々という簪の言葉を聞き、俺は口を噛みしめる。ISを操縦する出なく、肉体の延長的な物。それはかつて葵が俺に言った言葉でもあった。その時の俺はそれがどういう意味なのかよくわかっていなかったが……葵はあの時、とても大切なことを俺に教えてくれていたのだ。

 

「なるほどね……。あの時のあいつの言葉が今になってわかるなんて」

 

「どうやら葵も一夏にそれは教えてたみたいね。でも全く君はその意味を理解しようとしなかったようだけど」

 

「……まあな」

 

「じゃあ今後は、それを肝に銘じてISを動かす事。一夏が少しでも引き出せるようになれば、私にこうまで一方的に負けるなんてことは無くなるかな」

 

「そうかい。なら当面は簪、お前にきつい一撃を入れるのを目標にするよ」

 俺はそう言って立ち上がると、ISのシールドエネルギーを補給すべくアリーナの脇まで歩いていく。はやく補給してもう一度簪と戦おうと思っていたら、

 

「一夏」

 簪に呼び止められた。何だと思って振り返ったら、

 

「一夏、イメージして。イメージするのは、常に最強の自分。ISに必要なのは、そのイメージだから。それがイメージできるようになれば一夏、貴方の殻は破れる」

 簪がニッと笑みを浮かべながら俺に向かって言った。この四日間で初めての簪からのアドバイス。抽象的すぎるが、今度はその意味をしっかり考えよう。簪は意味の無い事を、俺に言っているわけでは無い事はもうわかっているし。

 

「ああ、肝に銘じておくよ」

 簪に片手を上げて礼を言い、俺は一刻も早く簪の言った通りイメージして戦おうと思いながら、補給場所まで向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 一夏と簪が特訓をしている同日、同時刻ではある記者会見が行われようとしてた。

 4日前から、現IS日本代表から何か発表があるということで多くの記者が詰めかけている。来年には第三回のモンド・グロッソ大会が行われる為、それと何か関係があるのかと記者達の中では思われていた。

 そして日本代表が姿を現し、会見の席に着いた。彼女は居並ぶ記者達を眺め、そして笑みを浮かべると、記者達に言い放った。

 

 

「え~っと、私妊娠しちゃったからもう普通の女の子に戻りま~す。今後は妻として夫を支え、母として子供を育てる専業主婦になりますのでIS引退します。あ、それで私の代わりの日本代表だけど、私は次の代表は更識簪さんを指名しますね」


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