IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

48 / 58
専用機タッグマッチトーナメント 青崎葵の本音

  現IS日本代表の突然の引退宣言と次期後継者指名発言。

 俺と簪がそれを知ったのは、何時ものように簪と訓練していたら血相変えた山田先生がアリーナに表れてからだった。

 

「―――そういうわけで簪さんに織斑君! 話があるとのことで学園長がお呼びです! 急いで学園長室まで来てください」

 

「え、俺もですか?」

 代表候補生の葵はともかく、今回の件は俺関係無くない?

 

「織斑君もです。理由は私も聞いてないのですが、簪さんと一緒に同行するよう学園長から言われてます。ではお二人とも学園長室までお願いします。

 

「はあ、わかりました」

「……わかったわ」

 

 山田先生の言葉に、俺は呆けながら、簪は心底嫌そうな顔をし、苦々しい声で頷いた。

 山田先生から現代表が引退したと聞かされた時、俺は声を出して驚いたのに簪は少しも驚くそぶりも無く表情を変えなかった。しかし次期代表に簪が指名されたと聞いた瞬間、再度驚愕した俺だが簪は物凄く嫌な顔になった。

 そして簪と俺は特訓を中断し、学園長室に向かう事となった。

 

 

 

 

「はあ~~~……」

「……何だよ、日本代表に選ばれたのがそんなに嫌なのか?」

 学園長室に向かう道中、次期代表に指名されたと聞いてから簪は何度も憂鬱な表情を浮かべながら溜息をついている。

 

「ええ、はっきり言って嫌ね」

 

「……そうかい」

 普段すまし顔でいる簪だが、はっきりと嫌そうな顔が見て取れる。どうやら本気で嫌なようだが、俺はその顔を見ていると……無性に気が障った。

 

「日本の代表候補生でISの国家代表に選ばれたってのに、それが嫌なんだな。是非とも葵の前でもそれ言って欲しいもんだな」

 簪は何故か日本代表になるのは嫌なようだが、葵にとって日本代表は女になってから出来た新しい夢なんだ。それを棚ぼた的に手に入れたのに、いらないだっていうのか!

 

「ええ、勿論いうわよ。あの女の癇癪と嫌がらせで選ばれる代表の座なんて、こっちから願い下げだし」

 俺が簪に対し憤慨していたら、呆れた顔をした簪が俺を横目で見ながら溜息をついた。

 

「え? 癇癪に嫌がらせ」

 

「そうよ。これ完全にあの現代表だった女の嫌がらせ。まあその辺は学園長室に着いたら話があると思うわよ」

 どういう事だ? 今回の件は何か裏があるという事か? 

 一体どういうことなのか問いただしたかったが、簪はそれだけ言うと後は無言になってしまったので、俺も学園長室に到着するまで黙ってついていった。

 

 

「やあ待っていたよ簪君、一夏君。さあどうぞそちらのソファーにでも座ってください」

 

「……は、はあ。わかりました」

 学園長室に到着し、中に入るとそこには学園長が……ではなく、何故か用務員さんの十蔵さんが歓迎してくれた。戸惑う俺だが、簪は少しも動揺せず、言われたソファーに座ったので、俺もそれに続くことにした。先に来ていたのか、他のソファーには千冬姉と楯無さん、そして葵と何故か箒の姿があった。

 今回の件で葵が呼ばれているのは当然のことで、千冬姉や楯無さんはまあこの場にいても変じゃあないけど……何で箒も呼ばれてるんだ? まあ俺も今回の件で関係無いはずなのに呼ばれているから人の事は言えないけどさ。

 千冬姉はいつもより少し険しい表情を浮かべながら座っている。楯無さんはそんな千冬姉と不機嫌な顔で座った簪を見比べながら苦笑した。葵は簪を見た後、俺に視線を向けた後苦笑いを浮かべた。箒は……何故か一番関係無いはずなのに、緊張した顔で座っていたが、俺を見てほっとした表情を浮かべた。……まあわかるぞ。何で呼ばれたかわからないのにこんな所に呼ばれたら不安になるよな。

 

「では全員揃ったようなので、始めるとしましょうか」

 俺達を見回した後、そう言って十蔵さんは椅子に座ったが……え、ちょっと、学園長がいないんですが? 俺達呼んだの学園長でしたよね? いなのに初めていいのか?

 

「さて皆さん聞いてますとおり、つい先程現日本代表が突然の引退宣言を致しました」

 俺の心配を他所に、十蔵さんが何故かしきりながら話が始まってしまった。しかし俺が心配してるだけで、千冬姉や楯無さん、簪に葵も平然として話を聞いて……あ、箒だけ目を白黒してる。そして箒は俺を見るとまたしてもほっとした。ああ、この場で俺の仲間はお前だけのようだ。

 

「そしてその時一緒に宣言してしまったのが、次期代表者の名前。挙げられた名前は更識簪さん」

 

「は、はは~良かったね簪ちゃん、これで姉妹揃って代表だよ~」

 笑顔で簪に言っている楯無さんだが、頬が引きつっていた。褒められた簪も少しも嬉しそうな表情を浮かべていない。

 

「おほん。まあ簪さんは突然のご指名という事で戸惑っているようですね」

 微妙な空気を出した二人を十蔵さんは苦笑しながら見つめた後、一つ咳払いをし二人のフォローに入った。

 

「……納得いかない」

 

「まあ急な事ですからね。気持ちの整理がつかないのはわかりますが、日本代表に選ばれるなんて大変名誉な事ではないですか」

 

「……ええ? こんな形で手に入る代表の座が名誉ですか?」

 

「そうですよ。どんな形であれ」

 

「なんの責任も取らずただ一方的に代表の座が下りて、それを私が押し付けられただけなのですが? こんなのが名誉ある物だと言ってるのですか?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いて簪ちゃん!」

 

「いいえお姉ちゃん、我慢できないよ。子供が出来たから普通の女の子に戻ります? は、20代中盤にもなって女の子なんてだけで失笑なのに。代表の座も本当に目指してる葵で無く私を指名してる時点で葵と私に対する嫌がらせだよ。そもそも」

 

「いい加減にしろ!」

 何時も冷静な簪が興奮しながらさらに何か言い募ろうとしたが、それは千冬姉の一喝で吹き飛ばされた。

 

「簪、お前の言いたいことはわかる。しかし今は抑えていろ。話が進まん」

 

「……わかりました」

 千冬姉に注意され、簪も頭が冷えたのか素直に従った。さすが千冬姉だな、あの簪も千冬姉の前じゃおとなしくなった。

 

「おほん、まあ簪さんは納得いかないようですが、葵さんはどうですか? 同じ代表候補生として、此度の件をどう思います?」

 また咳払いをした後、十蔵さんは今度は葵に尋ねた。

 そうだよ、どうなんだ葵? お前この学園で再開した時、日本代表になってモンド・グロッソで優勝するのが夢とか言ってたじゃないか! 現代表が降りた後勝手な指名だけで決められたりしたら、お前も納得するわけないよな!

 

「え~っと……いえ流石にこの状況じゃ簪が代表に選ばれるのは当然だと思いますよ」

 

「納得するのかよ!」

 あっさり簪の代表を認めた葵に、俺は思わずつっこんでしまった。

 

「いやだってさあ。そりゃあ戦えば私は簪に勝てる可能性あるけど」

 

「まあ6:4で私の方が勝つだろうけどね」

 

「でしょうね。現時点じゃ総合力で言えば簪の方が強いのよね」

 俺のつっこみに、葵と簪は冷静にその理由を答えていく。

 

「? では今回の日本代表の指名の件は、あの元日本代表の言い分が正しいという事なのですか?」

 

「ええ。実は箒の言う通り現時点じゃ間違ってないのよねえ。現時点じゃ私よりも簪の方が代表にふさわしいのは日本のIS委員会の人達も認めるでしょうし」

 箒の疑問に、葵は若干悔しそうな顔をしながら答えた。え、ちょっと待て? 葵も認めるなら今回の件、実は真っ当な理由で簪が選ばれてるの? 簪のさっきっていた代表の嫌がらせとかは何だったんだ?

 

「ふむ、まあ葵さんの言う通りIS委員会の多くは納得するでしょう。でもそれじゃあ困る人達もいますし……葵さん、貴方も若干納得いかないでしょう」

 

「……ええ、若干ですが納得はしませんね」

 十蔵さんの質問に、葵は不敵な笑みを浮かべながら答えた。……いや、お前実は若干で無く結構不満あんだろ。

 

「ほお、先程は今回の件は納得のような返答してましたのに?」

 

「理屈は納得しますし、それが答えだと強弁されたら文句は言えません。現段階で簪より弱いのも事実ですしね。でもですね、それでもデータではそうかもしれませんが―――最後に勝つのは私です」

 葵はそう言うと、簪の方を向くとニヤッと笑った。それを受けた簪は、さっきまで仏頂面していたのに、嬉しそうに笑い返した。

 そして俺は不敵に笑う葵を見て、思わず頬が緩んでしまった。ああ、そうだよなあ。お前が黙って従うなんておかしいよなあ。負けず嫌いのくせに大好きな勝負で戦わず負けを認めるなんて、そんなことあるわけない。

 十蔵さんも代表の座を諦めていない葵の返答を聞き、満足気に頷いている。

 

「ふむ、葵さんが諦めていないのなら安心しました。ではこれから本題に入りましょうか。葵さん、貴方が日本代表になるための条件をお伝えしましょう」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。