IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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専用機タッグマッチトーナメント 逃亡

「タッグ戦なのに一人で出場だと! ふざけているんですか!」

 

「いえ箒さん、ふざけてなんていません。私はただ葵さんが日本政府に第三回モンド・グロッソの日本代表として選ばれる為の手段の一つを提示したまでです。それに箒さん、今回の件が無ければ生徒会長は一人で出場するつもりだったのですよ。それが葵さんに代わっただけです」

 

「そうだね~、まあ私はロシアの国家代表だし葵君同様一人で出場しても優勝する気満々だったしね~」

 

「い、いやそれは……」

 十蔵さんのあまりの無茶な条件に箒が激昂し非難するが、十蔵さんは涼しい顔をしてそれを流し、楯無さんもそれに同調した。

 箒が非難する気持ちはわかる。今回のタッグ戦は1学期に行われた学年別トーナメントとはわけが違う。参加者は俺と箒を除けば各国から選び抜かれた代表候補生、国家代表達だ。いずれも俺なんかよりもずっと強く、しかも国家代表の楯無さんに至っては葵でも1対1で勝つのが難しい相手。そして俺の横にいる簪も訓練では薙刀だけで俺を打ち倒すし、葵曰く専用機同士の戦いなら勝てないとか言っていた。

 そんな一人でも勝てるか怪しい者がいるのに、さらにもう一人を相手にして勝てとか、……うん、こりゃ確かに箒が怒るのも無理ない無理ゲーな話だ。出場しても多少の善戦は出来たとしても最後には押しつぶされて負けるのが目に見えてしまう。楯無さんもああいっているが、いくら楯無さんが俺達と違い国家代表でIS学園最強といえど優勝する可能性は無いと思う。

 

「葵、こんな話に付き合う必要なんかない! 大体1対2で戦えなど会長が出場している時点でありえないではないか!」

 俺と同じ考えなのだろう、箒もこの異常性を指摘し憤慨している。しかし

 

「……」

 

「葵?」

 当の葵は真剣な顔をしながら沈黙をしたままだ。その様子に箒が少し困惑している。黙ったままの葵に、

 

「葵、お前はどうするんだ? 本当に一人で出場する気なのか?」

 俺は黙ったままの葵にどうしたいのか尋ねてみた。こんな無謀な提案、吞む方が馬鹿げている。いくら代表になるためとはいえ、確実に失敗するとわかっているのに挑戦するとか普通ならありえない。

 

 そう普通なら。

 

 ただ……こいつは

 

 俺の質問でここにいる皆が葵に視線が集まり、全員の視線を受け止めた葵は先程から沈黙していた口が開くと、

 

「当然やるわよ。それで勝てば代表になれるのなら、やらない理由がないもの」

 葵は不敵な笑いを浮かべながら俺に言い返した。葵の声には、それを絶対に成し遂げてやるという強い意志込められていた。

 

「な、正気か葵! お前本当に一人で」

 

「ええ、勝って見せるわよ。相手が会長だろうと簪だろうと、私の夢の障害になるのなら」

 まさかの葵の返答に驚愕する箒。その箒に葵は正面向いて自信を漲らせながら再度自分の決意を言った。葵の返答に箒は信じられないといった顔をして葵を凝視する。

 箒は信じられないのかもしれないが、俺は葵が十蔵さんの条件を飲むとわかっていた。忘れたのか箒、久しぶりに再会した葵が言った今の目標が何なのかを。

 

――ゆくゆくは日本代表になって、千冬さんが出場したモンド・グロッソで優勝が今の夢で目標――

 

 葵が女になってから抱いた目標。それを叶えられるチャンスに飛びつかないわけがない。

俺はそれを箒に伝えようとし口を開いた。が、

 

「ふうん、言ってくれるわね」

 

 俺の口は開いたまま硬直し、声を出す事が出来なかった。何故なら俺の横に座っている簪が放った一言。その声に多少の苛立ちや不快感が込められた一言と共に簪から放たれた――殺気、鬼気と呼ばれる類の強烈な重圧が俺の体から動きを止めたからだ。その重圧は俺でなく葵に向けられているはずなのに、余波だけで他者を圧倒する強さがあった。

 さらに、

 

「まったくだよねえ簪ちゃん。私達姉妹相手にハンデ付きでも勝てるだなんて」

 簪に続き、楯無さんからも多少含みがある声と共に簪と同様他者を圧倒する重圧が放たれた。その重圧、簪と勝るとも劣らず強烈で葵に向けている。

 

「だよねえお姉ちゃん。別に代表の座に執着とか無いけど、私に勝つとか言われたらちょっとねえ」

 

「しかも私なら篠ノ之さん、簪ちゃんなら一夏君も相手にするのに。それで勝つとか私達舐められてるのかなあ」

 楯無さんは笑顔だが目が全く笑っていない。簪を見たら楯無さん同様に笑顔だが目だけは違う。ヤクザでもその眼力で目をそらすんじゃないかって位鋭く葵を睨んでいる。

 突然の二人の威嚇に箒は二人の顔を交互に見ながら動揺している。

 十蔵さんは武道の嗜みが無いのだろう、二人が放つ重圧の余波のせいで顔を盛大に引きつらせている。

 千冬姉はさっきから変わらず険しい顔をしながら楯無さんと簪、そして葵を見つめている 

 そして姉妹二人から放たれる、一般人だとそれだけで失神させることが出来るのでは思える程の重圧を浴びせられている葵だが、二人の重圧にビビり十蔵さんみたく顔を引きつらせている――なんてことはあるはずなかった。

 姉妹二人からの重圧を向けられても、葵は二人を見つめ

 

「絶対勝ってみせます。二人が私の夢になるのなら、その壁粉砕します」

 不敵な笑みを浮かべながら力強く言い、右手で虚空の何かを殴った。それは国家代表、そして次期国家代表の二人に対し、葵は一切臆することなく、勝って見せるという宣言だった。

 葵の返事を聞いた楯無さんと簪は、二人顔を一瞬見合わせると先程まで出ていた重圧を消した。そして再び葵の方に顔を向けると、

 

「そ、じゃあ遠慮はいらないわね。どうやって私達を攻略するか楽しみにするわ」

 

「ヘラクレスの12試練並の難易度で葵の障害になってあげる」

 先程までとは打って変わり、何故か楽しそうになって葵の挑戦を受け入れたのだった。

 

 

 

「……どういうわけか丸く収まったようだな」

 

「……ああ、そうみたいだな。で、箒としてはもういいのか?」

 さっきまで納得してなかった箒だが、俺がそう聞くと箒は苦笑し首を横に振った

 

「葵がここまで決意をしてるのなら、もう私がどうこう言うわけにはいかないだろう」

 まだ不満はあるようだが、箒ももう止める気はないようだ。

 

「……ではこれでもう話がついたでよろしいですね。来月のタッグトーナメントは楯無さんが箒さんとペアを組み、葵さんは一人で出場する。これで学園にも学園外にも広報します。言っておきますが葵さん、止めるなら今のうちですが?」

 楯無さんと簪の重圧が無くなりほっとした顔をした十蔵さんがまとめに入った。

 

「当然やります」

 十蔵さんの問いに葵は頷き、これでこの場の話し合いは終了した。

 葵と楯無さん、十蔵さんと千冬姉は今後の方針を話し合うと言われ、俺と箒と簪はもう退出してもいいと言われたので、話の邪魔をしてはいけないと思い俺達は部屋を出ることにした。部屋を出る前に一瞬俺は葵の姿を視界に入れ、真剣な顔で話し合いをしている葵を見て先程までの話し合いの内容を思い出し

 

 

 ………

 ………

 ………

 

 あ、

 

 これって―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ~あ、本当にこれで話し合い終了しちゃうの?

 でも一夏はもう話すことありませんな感じで部屋出るみたいだし、十蔵さんもお姉ちゃんも織斑先生も、なにより葵がもういいやみたいになっているから、まあいいのかな。

 篠ノ之さんにも期待してたけど、まあ流石に無理だったかあ。でも篠ノ之さんはあれで正しいから、あの結果は私としては良かったかな。それにひきかえ一夏はさてさてどう動くか楽しみにしてたのに、こりゃガチで期待外れ?

 皆がっかりしてるからもう投げやりになって――

 

 あ、一夏が乱暴にドアを開けてどっか走っていった。

 

 いきなり一夏が部屋を飛び出したせいで、皆びっくりしている。篠ノ之さんも驚いているが一夏の後を追おうとしたので、それは止めてもらおうかな。

 篠ノ之さんは私に引き留められて文句言っているけど、お姉ちゃんも篠ノ之さんを行かせないように篠ノ之さんを捕まえてくれた。よし篠ノ之さんはお姉ちゃんに任せて、私は一夏を追うとしましょうか。葵、めっちゃ気になるようだけどあんたのせいだから追おうとしないでよね?

 


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