IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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専用機タッグマッチトーナメント 青崎葵の気持ち

 一夏が突然部屋を飛び出していくのを、私は黙って見ることしか出来なかった。部屋を飛び出す前、一瞬だけ一夏の横顔が見え、その表情に私はやり過ぎた! と後悔し一夏を追いかけようとしたが、

 

「葵、動くな。今回はお前が追いかけては駄目だ」

 

 重い口調で言った千冬さんの言葉が、私の動きを止めた。千冬さんの言う通り、今回は私は一夏を追いかけるのは駄目だ。それは一夏をかえって追い詰めてしまう。

 箒も私同様に突然飛び出した一夏を心配し追いかけようとしたけど、簪に止められた後は会長にがっちり身柄を拘束されている。「離せ! 何故止めるのですか!」と叫んでるが、こればかしは今は一夏の所に行かせるわけには行かない。

追いかけるのを止められた私達二人を尻目に簪が一夏を追いかけて行った。……少し心配だけど、簪なら多分大丈夫だろう。

 

 ああ、しかし……あ~も~どうしようかなあ……

 

 

 

 

「一体どういうことですか! 何故私は止められたのです!」

 一夏が飛び出して数分後、どうあがこうと会長の拘束から逃げられないと悟った箒は、おとなしく会長の横にふて腐れながら座っている。

 

「う~ん箒ちゃん、それは複雑な男心ってやつよ。今の一夏君はちょっと……ね」

 

「ならなんで私や葵が駄目で、貴方の妹の簪はいいのですか。それと会長、箒ちゃんって……」

 

「ん~それは簪ちゃんは一夏君のタッグパートナーだしね。それに今の一夏君だと簪ちゃんが一番適任だと思うよ。そして箒ちゃんと呼ぶのは箒ちゃん、貴方が私のタッグパートナーになったからよ! パートナーと信頼関係を築くためには、フランクな呼びかけは必須よん。だから箒ちゃんも私のことは会長でなく楯無ちゃんって呼んでね」

 

「……すみません、さすがに上級生にちゃん付けはちょっと」

 

「お姉ちゃんって呼んでも構わないわよ? 束博士に言うみたいに」

 

「やめてください! 私が構います!」

 

「ああ、そうよね。お姉ちゃんはやっぱり実の姉である束さんの特権だものね」

 

「姉さんをそんな風に呼んだことは私はありません!」

 箒を相手に会長はとても楽しそうにからかっている。簪とは違い箒は感情をわかりやすく見せるから面白いんだろな。会長と箒はしばらくそうやってじゃれていたが、

 

「じゃあ箒ちゃん、私とパートナーになったからまずはお互いをよく知るためにフィジカル検査受けよっか」

 会長は箒に検査室に行くように指示した。しかし会長は箒と一緒に行かず、後から行くから先に箒が行くようにと言ったら箒は少し難色を示したが、「篠ノ之、いいから早く行け」という千冬さんの鶴の一声で渋々部屋から出て行った。

 

 こうして部屋には十蔵さん、千冬さん、会長、そして私の四人が残っている。重苦しい空気が漂うが最初に口を開いたのは千冬さんだった。

 

「さて、これで話しやすくなったが……葵、正直に話してくれ」

 

「はい千冬さん、何でしょうか?」

 学園内なのに千冬さんは葵と私を呼んだので、私もなら千冬さんで応える。千冬さんは何か言いにくそうな戸惑った表情を浮かべながら言った。

 

「一夏のことなんだがな……もうお前、あいつの気持ちに気付いてるだろ?」

 

 ハイ? キモチ? ナンノコトデスカ?

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………っは! いけない、ちょっと意識飛んじゃった! まさか学園の一室を借りて、影の学園長に生徒会長までいる場でまさかそんな事を聞かれるとか。一瞬完全に思考停止してしまった。

 

「ええっと、なんのことです? 一夏がどうしました?」

  私は千冬さんの質問の意味を反芻して表情が出てしまう前にとぼけることにした。顔に出るな顔に出るな、出たら不味い、とても不味い! 

 

「とぼけるな、あの愚弟とは違いお前はその辺の機微は理解できるだろうが」

 私が必死でしらを切ろうとしているのに、千冬さんは無慈悲に追い込んでくる。私はこの場にいる会長に何か言ってもらうと視線を移したら、会長は苦笑いを浮かべながら手を合わせ私に謝っていた。その姿にまさかと思いながら千冬さんの方を向くと、千冬さんは物凄く申し訳ない顔をしていた。

 

「ちなみに葵、お前が楯無に言った悩みは楯無から聞いている」

 

「ちょと会長! 何バラしてるんですか!」

 思わず詰め寄る私に、会長は苦笑いを浮かべながら「ごめん! でもこれ大事なことだから!」と弁明しだした。

 

「そもそも葵君、あの時簪ちゃんや虚ちゃんと一緒に相談してた時に結論出てたじゃない。織斑先生に相談しようって」

 

「それはそうですけど……一夏がそれで」

 私はちらりと横目で千冬さんと十蔵さんを見た。この場に残っていることから、十蔵さんもアレ知っているんだろうな。千冬さんだけならともかく、十蔵さんがあれを知っているのは……。

 

「ああ、葵君ご心配なく。この事は学園の教師陣では織斑先生と私しか知りませんので。私としては一つ確認すればそれで問題ありません」

 

「確認?」

 

「はい、貴方が一夏さんに襲われ」

 

「ていません!」

 十蔵さんが言い終わる前に、思わず私は叫んでしまった。十蔵さんの確認とやらが言う前から察しはついていたけど、いざ言葉に出されたら……何故だろう、物凄く動揺してしまった。

 

「ま~そりゃそうでしょうね。してたら一夏君の歯が全部無くなるとか言ってたし」

 

「愚弟にそこまで度胸は無い、か」

 会長は苦笑浮かべているだけだけど、千冬さん……弟がレイプ疑惑されて否定したのに、何故がっかりしてるんです?……………いや、貴方の考えはわかりますけどね!

 残念そうな顔をしていたが、千冬さんは頭をふり再度私の方を向いた。

 

「葵、もう一度聞く。お前はもう一夏の気持ちに気付いているな?」

 再び同じ質問をした千冬さんだが、そこには先程みせた躊躇いの表情はない。腹をくくったのだろう、千冬さんは真剣な顔で俺に問いただしている。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はあ、ここまでか。

 そう、早い段階からそんなことは気付いていた。私はラノベの鈍感主人公じゃない。一夏が私を見る視線が変わったのなんてすぐにわかった。それは私が一夏の親友だったから? そんな理由でなく、経験でわかっていた。島根で裕也に、皆からそれは肌で感じ察していったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 友達としてでなく……好きな異性を見る目だって。

 

 

 

 

 

 

 これは知りたくなかった。知ろうとしたくなかった。

 

 

 一夏と再び会おうとした時から、これだけはそうなって欲しくなかった。

 

 

 そう思うのは自惚れかよと内心で笑いながら、ありえない未来だと気にしないように過ごしていたけど。

 

 

 なんでだろう、本当は……。

 

 

 

 

 

 

 

 言葉に出せない、私からはそれの意味を言えない。だから私は千冬さんに向かって首を縦に振った。

 

 首を縦に振った私に、十蔵さんは相変わらず微笑みながら、会長は「ま~そりゃそうよね。気付かない方が変だもん」とぼやき、千冬さんは「……そうか。気付いているんだな」と相変わらず真剣な顔をしながら呟いた。

 

「一夏が、葵を親友としてでなく、男女の意味で好きになっていったのは最近の様子から、楯無の話を聞かずともわかってはいた」

 

「なら……何で今それを私に言うんです? いくら千冬さんでも、一夏の姉だからと言って、これは千冬さんが私に伝えるモノではない」

 一夏の気持ちはわかっていた、でも、だからといって一夏が私に伝えてもいないのに、千冬さんが私に先に言うのは違う。剣呑な口調で言う私に、千冬さんも真剣な口調で返した。

 

「確かにそうだな。弟の恋愛沙汰に姉がつっこむなんて野暮でしかないのは私もわかる。ただな、お前達は今同室で生活している。そして片方が性的な意味で襲い掛かるかもしれない状況をほっとくこととそれは別だ」

 

「……それなら最近の一夏はもう相談に行く時とは大分改善されましたから問題は」

 

「無いわけないだろう! いいか、お前はさっき言ったな日本の代表になる為に一人でタッグトーナメントを勝ち進めると! なら今の状況で出来るというのか! 化粧で誤魔化そうがお前が最近寝不足なのも知っている。一夏の奴が態度を改めたとか言っても、お前はもうはっきり感じてしまってるんだろう! 一夏が自分を狙っている野獣だと」

 

「ちょ、ちょっと千冬さん! 声がデカい!」

 外に漏れてたらどうするんですか! 速攻で学園中に広がりますよ!

 

「まあまあ織斑先生、少し落ち着いてください。貴方がそんなでは話が進みません」

 熱くなる千冬さんを十蔵さんがやんわりとたしなめた。千冬さんも熱くなりすぎたと反省したのか、ひとつ咳払いして落ち着いていった。

 

「……通常ならともかく、タッグトーナメントの日はお前は万全のコンディションで臨まなければならない。でも今の現状ではそれは難しい。それはわかるな」

 

「はい」

 

「そのための措置としてたが、タッグトーナメントが終わるまでは一夏の部屋に住むのはお前でなく簪が住むこととなった」

 

「はい?」

 え、ちょっと待ってください? なんでそうなるんです?

 

「昨日簪から要請があってな。このままでは一夏とコンビネーション取れないから一緒に生活することで互いを知るとかなんとか。当日は62秒でけりをつけれるようにしますとぬかしていた」

 え、今回の話が無くても簪はガチでやる気だったってこと? いつも飄々としているというか、自分が気になる結果以外は無頓着だったのに。以外に燃えている簪に驚きながら、私は一夏と同室しようとする簪をどう思っているのか会長に尋ねることにした。だって言っては何だが、私にあれだけやらしい視線送ってた一夏と同室なんて、妹大好きな会長が許しているのだろうか?

「うん、私は一夏君のこと信じているからね。簪ちゃんに変なことをしない紳士だって。だから大会に向かって本気な簪ちゃんの応援をしたいと思ってるわよ」

 

 笑顔で一夏を信じていると言っている会長だが……目は全く笑ってなく、何で部分展開して震えながら蒼流旋握りしめてるんです。しかも「……何で簪ちゃん、私も一緒じゃ駄目なの?」と嘆いてますが。

 

「……そういうわけで、期間限定だがお前は簪が住んでいた部屋に移動してもらう」

 会長の様子に呆れている千冬さんだが、続いて言われた台詞に私は困惑した。

 

「って! ちょっと待ってください! 簪の部屋ってことは」

 

「布仏と同室になるな」

 

「え、それは……あの、すみませんが」

 

「駄目だ。部屋の空きがない」

 一夏の部屋を追い出されるなら、どうか個室をお願いしようとしたが千冬さんから却下された。

う、う~~~~~~そりゃあ今は私完全に女なんだから、一夏でなく女子と部屋が一緒の方が自然なのはわかるんですけど女子は、その……。

 

「葵、いづれは避けては通れない道だ。そろそろ女子と一緒の生活に慣れろ。一夏なんて男なのに今まで箒にデュノアと一緒に生活していたんだぞ」

 

「……ま~そうなんですけど。……同室になるのは布仏さんなんですよね?」

 

「そうだ。あいつは……なんというか天然すぎるが、お前が慣れる相手としては良い相手だろう。それにもうお前はあいつがどんな人物なのかクラスを通じてわかっているし、臨海学校では一緒の部屋で寝たんだろ?」

 

「……あの時は箒も一緒でしたから」

 箒か、もしくは鈴が一緒ならともかくまだ私は……。

 

「……本当に無理になったなら私に言え。その時はまた考える。お前がそれでコンディション崩すのなら本末転倒だからな。ただな葵、今回の事を良い機会だと思い少しづつでいいから試していこう」

 悩む私に、千冬さんは優しい顔を浮かべながら私の頭に手を置いて撫でた。その感触はむず痒いながらも、私の心はそれで落ち着いていった。

 しばらく穏やかな空気が流れて行ったのだが、

 

「で、葵。一夏がお前の事を好きだがおまえどうする?」

 

 ……千冬さんの言葉によってそれは粉々に吹き飛んでしまった。

 

「ちょっと千冬さん! その話まだやるんですか!?」

 

「当然だろう。このタッグトーナメントが終わったらまたお前は再び一夏と同室になるんだぞ。この辺の関係をしっかり考えないと最悪な事態に発展する可能性がある。10代で入れ歯の弟とか私は見たくはない」

 

「いえ、それは一夏が私を襲うという最悪な事態の場合ですよ。さすがに一夏がそんなことするわけが」

 

「無いとお前言い切れるのか?」

 

「……はい」

 

 う~ん……無いよね? 一夏の寝言のあれ、夢だけで終わらすよね?

 

「大丈夫と言ってるけど葵君、一時はそれで本気で悩んでたわけだし学園側としてはその辺懸念するのは当然だよ。唯一の男性操縦者の一夏君がある日顔に重傷負ってその理由が女子暴行とか世界的にシャレにならないし」

 

「会長の言うことはもっともなんですけど、そんなこと言った所で私にはどうしようもないんですが? 一夏の気持ち知ってるからどうしろと言うのです。まさか私から言うんですか『一夏、私は貴方の事をそういう対象として見れません。ごめんなさい』って。告白もされてないのに?」

 告白されてもないのに、一夏に振れと? 何その自意識過剰女?

 

「いや、そうまでは言わないんだがな」

 

「織斑先生、これってどう反応したらいいんでしょうか?」

 

 私の言葉に千冬さんと会長は困ったような戸惑っているような、とにかく何か納得できないな顔をしてぼやいている。十蔵さんだけは私の話を聞いても相変わらず笑顔を浮かべている。

 

「う~ん、話聞く限り葵君は一夏君に対しはっきり恋愛感情はないんだね?」

 どこか納得できない様子の二人をよそに、十蔵さんは笑顔を浮かべながら私に尋ねた。

 

「はい、ありません」

 

「その野暮とは思うのだけど、理由を聞いてもいいかな。葵君と一夏君の学園内での様子見るとおそらく多くの人が一夏君と葵君は脈ありと思うんだよね」

 

「理由と言いましてもそりゃあ一夏はずっと一緒にいた幼馴染だし、一番気やすい関係でいられるし、誰かと一緒にいるのを選べと言われたら迷わず一夏を選びますけど……私の中での一夏に対する感情は昔からなんも変わっていないんですよ。好きか嫌いか聞かれたらはっきり好きと言いますが、恋愛的な意味での好きでは無いです」        

 

「ね、ねえそれなら昔から一夏君のことを好きでそれに気づいてないとかは」

 

「ありません。簪みたく腐った考えしないでください」 

 会長の意見を私はばっさり切り捨てた。昔ならなおさら恋愛感情なんてあろうわけない。

 

「ふむ、そうですか。今の貴方に一夏君に対し恋愛感情が無いのは私にとっては嬉しいですね。襲うは問題外にしても、両者合意の不純異性交遊なんてのもこちらは許容出来ませんので。特に一夏君の場合世界的に衝撃与えて学園の存在そのものが問われるうえに、今の女尊男卑世界での男性の地位が最悪なものになってしまう」

 ……そりゃ唯一の男性操縦者の一夏がそんな理由で退学しちゃったらね。あいつは今や全世界の男性にとって希望なんだから襲って退学、合意でもやらかして退学はどちらにせよ今の世界の男性の地位を最底辺まで叩き落す。

 

「……う~ん、ごめん葵君。君はそういうんだけど、君が全く一夏君に恋愛的な意味無しは信じられないんだよねえ」

 十蔵さんは納得してくれたというのに、会長はなおも納得できないようだ、多分千冬さんも同じだろう。会長と同じ表情しながら私を見ているし。

 仕方ない。ここは理論的に二人を納得させよう。

 

「会長、千冬さん。お二人ともどうも納得出来ないようですが簡単なロジックでそれは納得できますよ」

 

「簡単なロジック?」

 

「葵、何を言っているのだ?」

 

「いえ単純な話です。会長に聞きますが会長は簪が大好きですか?」

 

「勿論! 議論の余地無し!」

 私の質問に、会長は素晴らしい程のシスコン溢れた回答をしてくれた。

 

「じゃあ千冬さんに聞きますけど、一夏は大切ですよね?」

 

「……まあただ一人の肉親として大切でない事もないな」

 千冬さんはどこかぶっきらぼうに答えるが、一夏は大切のようである。うん、素直ではないね。相変わらずのツンデレです。

 

「では例え話ですけど、ある日世界が突然変わってしまいました。その世界では簪は男となり、しかも結婚も可能となりました。一夏も姉弟だからと言って結婚出来る世界となったのです。その場合会長は簪に、千冬さんは一夏に結婚申し込みます?」

 

「ちょ、ちょっと待って葵君。それは極端すぎる例えでしょ!」 

 うん、我ながら無茶苦茶だとは思う。でもこれを踏まえて私に一夏に対し恋愛感情があるか言ってほしいのだ。

 

「どうなんです会長、千冬さん。大好きな相手が兄弟だからとか、同性だからという縛りが無くなり結婚出来るんですよ。しない理由が無いじゃないですか」

 私の言葉に会長と千冬さんは絶句している。いえ、わかりますよ自分でも暴論言ってますの。これでラッキー! 結婚できる素敵な世界なんて二人が言うわけないのは。

 

「わかるでしょう? 私が一夏に対し恋愛感情とか無いの。私にとって一夏はどこまで行っても男の親友なんです。女になったからと言って、それが変わることはありません」

 女になったからと言って、皆何で私がすぐに一夏を恋愛対象として見ると思うのだろうか? 今まで同性として見てた存在を、何故簡単に異性として認識出来ると思うのか。

 私の理路整然としたロジックに納得したのだろう、二人とも言葉を無くして私を……あれ、どうしてだろうか二人は私の言葉に納得した風ではなく、

 

「……織斑先生、どうしてこの子ここまでなってるんです?」

 

「楯無、それは私が知りたい」

 会長と千冬さん、何故か私をとても残念な人を見る目で眺めている。おかしい、私の持論に何か問題があったのだろうか? 十蔵さんの方を向くと十蔵さんは相変わらず笑顔を……でなく、何故か苦笑いを浮かべながら私を眺めていた。

 その後、私は山田先生から放送で呼ばれ部屋を退出したが、最後まで3人とも生暖かい目をして私を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうします織斑先生?」

 

「どうもこうも……まさか一夏に対し頑なにそう思っているとは」

 

「でもそれですと一夏君がもし葵君に告白しても……」

 

「……振られる未来しか無いな。葵の言葉が本当なら」

 

「あれは葵君の本心でしょうね。一夏君が葵君に告白したところで現状じゃ100%振られますね。ただ……いえなんでもありません」

 

「ちょっと十蔵さん、気になるところで切らないでくださいよ」

 

「いえいえ、あくまでちょっとした意見ですよ。先程の葵君の一夏君に対し惚れない理由ですがようは男の時に作られたアイデンティティが一夏君をそう見れないと言ってるわけですね」

 

「そうです。まあわからないこともないのですが」

 

「なら何の問題もないですね。むしろ葵君がそう固執してるなら一夏君にとって大きなプラスです。ようは一夏君次第でどうにかできますよ」

 

「ええ! 何で?」

 

「どうしてそうなるのです?」

 

「さあ、どうしてでしょうね」


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