IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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専用機タッグマッチトーナメント 覚醒

「いや、本当に驚いたわ」

 

「あ、何がだ!?」

 

「確かに私はちょっと前一夏に貴方はヒーローになれると言ったけどまさかもうそれを現実味させるなんて。わずかの間でここまで強くなってきてるなんて、ね!」

 簪の薙刀から繰り出される猛攻を防いでいたら、簪からどうも本音らしい賛辞をくれた。

 

特訓当初は簪の薙刀に手も足も出ず俺は負け続けていたが、最近ではようやく簪の攻撃に慣れてきたのか、最初ほど一方的に負けるようなことは無くなってきた。最近自分でもわかる。俺は強く、いやそうじゃないか。葵や簪の言っていた、ISを手足の延長として考える。それが少しわかってきた。

 

――一夏、イメージして。イメージするのは、常に最強の自分。ISに必要なのは、そのイメージだから――

 

 俺が簪から受けた最初のアドバイス。昔の俺だったら全く意味がわからなかっただろう。でも、今ならわかる。簪から言われてから毎日、俺は自分の動きを細部まで、俺が唯一得意としている剣道と剣術の動きをIS装着した状態でイメージし続けた。

 かつて俺は篠ノ之流剣術を葵や箒と共に叩き込まれ何度も反復し体に刻みこんでいた。箒がいなくなり、IS学園に入学するまでさぼっていた為、技術は頭では覚えていても体が付いてこれなくなった。千冬姉に再教育をお願いしたが、いまだ今の体にかつての動きと感覚は完全に身についてはいない。でも、それでも少しずつではあるが千冬姉のおかげで頭で考える動きと実際に俺が行う動作の祖語は消えていった。

 そしてそれはISにも通ずるものだったんだ。千冬姉により俺が必死で取り戻していった感覚。それを明確にイメージし、ISを第二の肉体として動かす。今までずっと俺が動かしていた白式を装備という概念でなく肉体の延長として振る舞い、俺の理想と近づけさせる。

 最初はただ漠然としたものなだけだったのが、最近ではそれが形となり、頭と体に刻み込まれていくようになった。そしてそれは簪との特訓で成果を出してきている。一方的に打ち負かされていたのが、徐々に一撃を防げるようになっていく

 そして今日は訓練開始して10分経ったが、未だに俺は簪から一撃を貰わず凌いでいるのだ! ……もっとも、俺は未だに簪に有効打を浴びせたことはないけどな。

 

「毎日毎日唯一の近接戦闘で負かされたんだ、そろそろ簪の攻撃にも慣れてきたからな。それに俺だって何時までも負けっぱなしとか嫌だから必死で考えあがいてんだよ!」

 

「その心意気良し! でも一夏、防御は良くなったようだけど攻撃できなければ勝てないよ」

 

「わかってるよ! 今日、お前をぶっ飛ばしてやる!」

 

「ならば来い!」

 簪はやけに嬉しそうに笑うと、さっきまでもさらに苛烈に俺を攻撃してきた。

 俺が簪に勝つ為にはまず簪の薙刀、俺が持っている雪片弐型よりもリーチが長いこの武器を攻略しないことには話にならない。いくら簪の攻撃を防げるようになったといっても、簪は決して俺を雪片二型が届く距離まで近づけさせてくれない。

 

 

 今まで通りに戦っていては簪には届かない。

 

 なら、今までとは違うようにすればいいだけだ!

 

 簪の薙刀を打ち払い、スラスターを噴射させ簪に近づく。当然簪も後方にスラスターを噴射させ後退しながら俺が手の届く範囲まで近づけないように牽制の一撃を放つ。

 

 俺はその一撃を―――打ち払うその一瞬に零落白夜を発動し薙刀のエネルギー刃を消失させた。

 簪が言っていたイメージの大切さ。それはISの動きだけではなく、ワンオフアブリティの発動にも同様だった。今まで発動まで遅い零落白夜だったが、なんのことはない俺が零落白夜の発動をちゃんと形にしてイメージしてきてないだけだ。

 でもISをどうすれば動かしてよいのかわかってきた今の俺は、零落白夜の発動も俺の確固たるイメージがあれば驚くほど速く展開できるようになった。

 簪にはこれを秘密にしていたので、簪は俺の攻撃で薙刀を破壊されたことに目を大きく開いて驚いている。俺はようやく掴んだこのチャンスを生かし、俺の攻撃が届く範囲まで簪に近づく事に成功した。簪は俺の接近から逃げようとするが、もう遅い。簪が逃げる前に俺は再度零落白夜を発動し、簪にその刃を振り――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ようやく目を覚ましたわね」

 俺が目を開けると、打鉄二式をつけた簪が微笑みながら俺を見下ろしていた。辺りを見渡すといつも俺達が練習で使っているアリーナで、俺はその地面に倒れていた。

 ……あれ? ちょっと待て、俺さっきようやく簪を追い詰めてたよな? なのに何で俺気絶して倒れてるんだよ? え、まさかさっきまでの流れは俺の願望が生んだ夢?

 

「一夏、夢じゃないわよ」

 混乱する俺の心を読んだのか、簪は嬉しそうに俺を見下ろしている。

 

「私の攻撃を防ぐだけでなく、まさかあれほどまで精密に零落白夜を発動し私の薙刀を破壊するなんて。しかも最後の一撃も零落白夜を発動してたし。あれが決まってたら私は負けていたかもね。一夏、あなた本当に前よりも強くなってるじゃない」

 そう言って簪は俺の横に座り、「やるじゃん男の子」と微笑みながら俺の頭を撫でた。

 頭を簪に撫でられながら、俺の頬は緩んでしまった。簪の言葉、態度は俺を心から称賛してくれている。大会までの特訓では簪と俺は師匠と弟子の関係に近いが、タッグトーナメントでは対等のパートナーとして出ないといけない。俺はようやく、簪と肩を並べて戦える資格を得られた気がした。

 満たされた気持ちになりながら俺は横になっていたが、

 

「いやちょっと待て。なら何で俺気絶してんだよ」

 そうそこまで俺は簪を追い詰めたはずなのに、結果は俺が気絶していて簪は無傷なままだ。0%も簪のシールドエネルギーは減っていない。

 俺は簪に問い詰めようと起き上がると、

 

「なんだよ、これ……」

 起き上がった先に、空中で浮かんでいるそれを見ると俺は思わず呻いてしまった。

 

 いつの間にか現れたのか、俺のすぐ目の間に空中に浮かんでいる……対IS専用のライフル銃を俺は茫然としながら眺めた。

 まさか、俺が気絶したのって。

 

「一夏、貴方の想像通りよ。そしてこれこそ私が本気になった時使う技」

 何もない空間に浮かんでいる銃に驚いたが、簪の方を向くと俺はさらに驚き絶句する。

 立っている簪の周囲を覆うように、薙刀が、先ほど見たライフル銃が空中に浮いている。そしてそれ以外にも大型拳銃に散弾銃、グレネードランチャーまであり、そしてそれら全てが――俺に照準を向けていた。

 

「か、簪……これって」

 

「見ての通り、理屈は単純なものよ。自分が保有している武器を展開させ、それをPICを応用させて空中に固定させてるだけ。さっきの一夏の一撃もとっさに一夏の横にライフル展開させて自動射撃で一夏の頭を吹き飛ばしただけ。まあ当たり所悪くて気絶させてしまったんだけど」

 簪はそれだけの事と言っているが……わかる、今ならわかる! 簪のやっていることがどれほど途方もないのか!

 武器の展開。これはISに収納されている武器をイメージすることで顕現される。これを形にするまで1週間はかかったが、今では俺も瞬間的に取り出すことが出来る。無論それは鈴達も同様で自身の得意とする武器を一瞬にして展開可能だ。シャルに至ってはラピッド・スイッチで戦闘中だろうと瞬時に武装を展開して多彩な攻めを仕掛けてくる。

 しかしそれでも同時に展開できる武器は2個までだ。両手で持てる武器がそれまでもあるし、それ以上出しても扱えないから意味が無い。そもそも一個展開するだけでも明確なイメージが必要なんだ。それを簪は10数個も一瞬にして展開させている。しかもただ展開してるわけではなく、銃口の全てを俺に正確に狙えるように、さらにそれら一つ一つをどうやってやっているのかわからないがPICを使って空中に固定させているのだ。しかもさっき簪は戦闘中にそれをやってのけている。動き回りながら瞬時に自分から離れた空中に座標を固定し、同じく動き回る俺に正確に当てる。もはや何をどうすればここまで頭で組み立て想像できるのか全く分からない。俺がイメージできる事と簪が出来るイメージは完全に次元が違った。

 

「一夏、大したことじゃないから。根性あればできる」

 

「出来るか!」

 茫然としている俺に簪は簡単に言うので全力でツッコんだ。

 

「いや本当に根性あれば出来るから。IS程根性と精神論がものを言う兵器ってないと思う。イメージし、それを明確にすればするほど強くなれる。それは一夏もわかっているでしょ?」

 

「……それは身にしめてわかってきたが、お前のそれは俺らの常識とは全く違うと思うぞ」

 

「そう。でも一夏、それを理解できないようじゃ葵には永遠に勝てないわよ。方向性が違えども、葵の空手の一撃は私が今やっているのと同じなんだから」

 

「う……」

 

「私でも葵の空手みたいな攻撃は出来ない。いや葵以外じゃ織斑先生しか出来ないかもしれない。でも一夏、貴方ならその二人の領域に届くかもしれないのよ」

 

「俺なら? 他の皆は」

 

「さあ? 世界は広いから他にいるかもしれないけど貴方の周りにいる専用機乗り達は無理だと思う……いえ一人は可能性あるかな?」

 

「誰だそれ」

 

「教えてあげない。大体私より貴方の方が彼女達詳しいでしょ」

 く、それを言われたら反論できない。でも誰だ? この簪が可能性ありと認める奴って。

 

「さあ一夏、そろそろ休憩を終わらせて練習再開するわよ」

 いつの間にか簪の周りにあった武装を全て収納させていた。

 

「今からは薙刀だけでなく、私は本気で持てる武装全てを使って戦うわよ。一夏、私に山嵐を使わせるまで追い込みなさい!」

 簪は薙刀を展開せず、大型拳銃を二丁構えている。

 

「……ようやく薙刀攻略したと思ったのに、これからはそれに加え銃まで、しかもどこから撃ってくるかわからないようなの相手に戦うのか」

 あ~薙刀だけ攻略すればと思っていた頃が懐かしい。

 

「私の本気を引き出したのは一夏でしょーが。日本代表候補生の強さ、それを一夏に教えてあげる」

 お前はもう候補生でなく代表だけどなとつっこみたかったが、簪の両手に構えている拳銃が俺を襲ってきたので言葉に出すことは叶わなかった。

 

 

 そして本気で俺に襲い掛かってくる簪に瞬殺された俺はしみじみ思った。世界一となった千冬姉に現代表にされた簪に代表候補生の葵。日本の代表と候補生はおかしいって。

 再びグラウンドで横になっている俺がそんなぼやきをしたら

 

「例え同じ肩書きだろうと他国の代表候補生と違い、我ら日本代表候補生は

 

鍛え方が違う! 精根が違う! 理想が違う! 決意が違う!」

 簪が握り拳作りながら俺に力説したが、もはやそれにつっこむ気力が俺には無かった。

 

 

 

「あおあお~一緒に寝ようよ~」

 

「……本音、さすがにそれは勘弁して」

 悪気無い100%純粋な笑顔で私のベットに迫ってくる本音を、私は全力で押し返しながらため息をついた。ここ最近本音は毎夜一緒に寝ようと言って私のベットに入ろうとし、それを私が拒む日々が続いている。簪に一夏の部屋を追い出された為、私は簪がいた部屋に転がり込むこととなった。簪の同居人は本音であったことを私は少し安堵した。クラスでも一夏や箒達を除いたらクラスメイトの中で仲が良いし、本音の性格は私が苦手としている……あの連中とは全く違う。あんな絶対一緒の部屋で生活したくない連中と違い、本音は一緒にいるとなんというか癒される。

 今まで私の周りにいなかったタイプなせいか、本音は食べるのが好きでならばと思いお菓子を作ってあげたり朝が弱い本音を起こしてあげたり服装が乱れてたら直してあげたり髪とかしてセットしてあげたりしていたら……なんかすっごく懐かれてしまった。

 よく親愛の意味で抱き着かれたりするけど……だぼだぼな制服を着ているから普段は意識してないけど本音って凄く着痩せするタイプだとわかる。抱き着かれた時押し付けられる胸の感触が、そのつい気持ち良いと思ってしまうのは私が前男として生きてきたから?抱きついた本音が私の胸に顔を埋めながら「あおあお良い匂い~」と甘えた声を出してくると、私もつい抱き返してしまったりする。

 

……なんかヤバい精神状態になってきてる気がするけど、まだ大丈夫だよね? 

 

 

 

「本音、いい加減一緒に寝ようとするのはやめて」

 

「う~かんちゃんは一緒に寝てくれるのに~」

 私が本気でお願いすると、本音は頬を膨らませて抗議してくる。着ぐるみみたいなパジャマを着て抗議する姿は可愛らしく、一瞬まあ一回くらいはなんて考えが頭を過ったけどすぐにその考えを頭から追い出した。しかし簪は本音と一緒に寝てるんだ……なんか凄く以外かも。

 

「あおあお~明日は土曜日で学園休みだよね~。明日はあおあおも私達と一緒に毎に遊びにいこうよ~」

 本音の言う私達とは清香や癒子達の事だ。最近……セシリア達と少し距離を取るようになり、一夏も箒も簪や会長と一緒に行動することが多くなった為、ちょっとぼっちとなった私は本音や清香達と一緒に過ごすようになった。

 この休日の誘いもタッグトーナメントに向けてる私に対する気晴らしと、純粋にもっと仲良くなろうよという善意なんだろう。本来なら二つ返事でOKと言いたい。でも、

 

「……ごめん本音。せっかくの誘いだけど明日は用事があるの。そして明日から私1週間ほど学園離れるの」

 涙を呑んで遊びの誘いを断ることにした。……箒除いたら初めてクラスメイトから誘われたのに。何で私毎回こういう誘いのタイミング悪いんだろう。

 

「え~! 明日だけでなく1週間学園休んじゃうの~! あおあお~、その間一人で部屋で寝るのさみしいよ~……」

 本気で寂しそうに呟く本音の姿に、「行くの止めようかな」と一瞬思ってしまったけど頭を振りそれを押し出す。いや、駄目でしょう。行かなきゃ何の為あそこまで一夏に、簪に会長にセシリア達に啖呵切ったのやら。

 

「本音ごめんね、お土産買ってくるからさ」

 

「う~わかったよ~。それであおあおは学園休んでまでどこに行くの~?」

 

「ああ、それは……秘密です」

 行き先を知りたがる本音に、私は人差し指を立てそれを唇に当てると意地悪く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「さて一夏、今日も死ぬほど体を酷使したけど寝る前のIS講座を始めるわよ」

 

「……よろしくお願いします」

 簪と同室になってから、俺は寝る前に簪のIS講座を受けている。内容はタッグトーナメントに関する事が多いが、それ以外でも俺が見落としがちなISの基本動作や授業で習う内容をさらに踏み込んで教えたりと多岐に渡る。

 最初は疲れのせいでつい居眠りしたりしたが、その度に容赦のないほど頭を殴る簪の目覚ましのおかげで最近では全く居眠りなどしない。

 今日もタッグ戦以外でも俺の知らないIS戦の理論を聞き、俺はそれを忘れないように必死でノートに要点を纏めながら書いていった。簪の教える内容は普段の授業でも習う範囲も多いので、真面目にやれば成績も上がるからやりがいがある。1学期の期末では赤点取ってしまったが、2学期は大丈夫そうだな。

 

 およそ1時間程が過ぎて簪の講座は終了した。

「はい今日の授業はお終い。明日も早いから早く寝るわよ」

 そう言うと簪はテキパキと片づけをし寝支度に入った。

……普通なら年頃の異性と一緒の部屋で寝るなんて思春期の少年としては大変心の衛生上よくないはずなのだが、IS学園に入学してから箒にシャルに葵と続けて生活していたからか、なんか慣れた。それに……万が一簪になにかしようもんなら簪に絶対殺されるイメージしか浮かばない。運良く生き延びたとしても、確実に楯無さんに殺される。このため俺は簪を襲うという死の選択を最初から除外し、おとなしく寝るようにしている。

 何時もなら簪が寝ようとしたら俺もその後に続くのだが……今日の戦いで見せた本気の簪の代表候補生としての実力。それを思い返していたら以前簪があることでぼやいていた事を思い出した。

 

「なあ簪、寝る前に教えてほしいことがあるんだけどいいか?」

 

「なあに一夏、今日の講座でわからないことがあったの? それならその時間の時質問してよ」

 

「いやそうじゃなくてさ、以前お前が言っていた日本代表になりたくないってやつ。それが何でかと思ってさ」

 あの時の簪は突然日本代表から次の代表を名指しで指名されたことに怒り、日本代表になるのを嫌がっていた。国の代表に選ばれることはIS乗りにとって最高の名誉のはずなのに。

 

「あ~それのこと。……う~んまあ秘密にすることでもないからいいけど」

 

「じゃあ教えてくれ。どうして簪は日本代表を嫌がったんだ? 俺は前の日本代表がどんな人か知らないが、その人から名指しで指名されるほどお前認められてたんだろう?」

 

「……あ~一夏、代表をいやがる理由を言う前に先に何で元代表が私を指名したか教えてあげる。あれね、あいつが私が葵より強いから指名したとか、そういうのじゃないのよ。あいつは私と葵、両方嫌いだからあんな会見開いて私を指名したのよ。あいつは葵が代表になりたがってるのも、私が代表に興味無い事を知っていたから」

 

「……なんだそりゃ?ああ、そういえばあの時もお前これは元代表の嫌がらせとか言ってたな。お前と葵って元代表から嫌われていたのか?」

 

「嫌われていたでしょうね。私の場合は模擬戦で私が勝ったからだろうけど。葵の場合は……外見で」

 

「なんだそりゃ?」

 外見が理由って何だよ。いやそれよりも葵、お前簪以外の日本のIS乗り全員から嫌われてたのか……。

 

「元代表の画像だけど、見たらわかるわよ」

 簪はそう言って打鉄弐式から画像を浮かび上がらせ俺に見せてきた。映像の元代表、まあ顔は結構美人な方だろう。身長も高く、髪も黒で腰まであるほど長い。美人の系統としては千冬姉や葵に似ている。うん、似ている……ある部分を除いて。ある一部だけ、鈴やラウラ寄りの部分がある。

 

「……なあこの元代表、もしかして」

 

「ええ、織斑先生も嫌っていたわよ」

 俺の疑問に簪は察してくれた。……ああまあ、鈴とか思うとこんなことでとかは言えないか。

 

「ようはお前に対しては実力が負けていたから、葵に対してはそういうことで嫌ってたのか。ああうん、なんというか」

 

「葵の場合それだけってわけでもないけどね。ほら私と葵以外にも昔もう一人代表候補生いたでしょ。そいつと元代表は仲が良かったみたいだから。何で良かったかは私も知らないけどね」

 そう言って笑う簪を見て、以前葵から聞いた屑と元代表の共通点がなんとなくわかった。

 

「あいつは今後本格的に始まる葵との代表争奪戦で惨めに負けるのが嫌だから逃げたのか、本当に赤ちゃん出来ちゃったから引退したのかわからないけど、そんな理由があって辞めたんでしょうね」

 

「そうか、なんか脱力するほどしょうもない理由がわかったが、では肝心のお前が代表を嫌がったのは何でだよ?」

 

「ヒーローになりたいからよ」

 

「は?」

 今簪は何て言った? ヒーローになりたいから? 意味が分からん?

 

「一夏、理解力が足りないわよ。国のお飾りとしてでなく、私はヒーローとしてこの国を守りたいのよ」

 

「……国を守りたいなら日本代表でも良いんじゃないのか? ある意味国家代表ってヒーローだろ。国民から絶大な人気誇るんだし」

 

「国家代表はわかりやすいヒーロー像だけど、それじゃ駄目なのよ。本当に守りたい時に動ける存在になりたいのよ。例え誰からも見られず、知られなくとも私は陰で守ることをいとわない」

 そう呟く簪の目はとても真剣で、普段の緩い視線とは全く違っていた。

 

 

 

「これは私の中二病な考えとでも思ってくれていいわよ」

 そう言うと簪は眼鏡を外しベットに横たわり寝始めた。

 

 

 

 

 

 そして月日が流れ、

 

「一夏、覚悟はいい?」

 

「無論だ」

 

「よし、じゃあ目指すは」

 

「優勝!」

 

 様々な思惑が流れるタッグマッチトーナメントが始まった。

 

 

 

 

 

   おまけ

 

「ねえあおあお~何読んでるの~?」

 

「いやベットの下にルーズリーフの束が落ちてたからなんだろと思って」

 

「あ~それかんちゃんが作ってる漫画や小説のネタ帳だ~。前没だから捨てるとか言ってたよ~」

 

「あ~没ネタね。納得。どんなストーリー考えてたか知らないけど……この妹が絶望してシーツで自殺しようとするのなんて話重すぎでしょ」

 

「あれ~? それはかんちゃん『ヤバ、これ予想以上にウケが良かったわ~没にしなくてもよかったかな~』とか言ってたような?」

 


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