IS~女の子になった幼馴染   作:ハルナガレ

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葵VSラウラ

 それは、俺がシャルと水着を買いに行った翌日の事だった。アリーナで皆と訓練を行い久しぶりの大浴場を満喫し、寮の自室に戻ったらその部屋の中で、

 

「気付いたら代表候補生の中で、いつもラウラだけ勝てない~」 

 …ベットに座りながら葵は謎の歌を熱唱していた。

 

「くじけずに~ラウラと勝負するけどすぐにエネルギーなくなる~」

 俺が部屋に入っても一瞥しただけで歌い止む気配は無い。さらによく見たら葵、携帯を片手に歌っているし。こんな電波ソング、誰に歌ってるんだ?

 

「零落白夜でもあれ~ば、多分ラウラに勝てるけれども」

 …いやあっても勝てないぞ俺。葵ならあれば…確かに勝てそうだ。

 

「何度やっても、何度やってもラウラが倒せない~よ、近づいたらAICで止められる、距離を取って戦おうにも、俺には遠距離武器が無い、瞬時加速使ってもオーディンの瞳が逃がさない」

 そういや今日も葵、ラウラと戦って負けたな。大体そんな感じで。いや毎回そんな感じで最後はラウラのAICに捕まって負けている。

 

「だけど次は必ず勝つために、俺は切り札だけは最後まで残してく~~~。…以上がラウラと戦って勝てない理由と感想です。え、ふざけるなですか?いえいえふざけていません。私は真面目にやってますよ。え、俺とか言うなですか?いやこれは歌詞ですよ、歌詞。普段はちゃんと私ですよ」

 布団に座りながら凄く良い笑顔をしながら電話をしている葵。その顔に真面目な成分など欠片も見れない。誰だかしらないけど完全に相手をおちょくっているな。

 

「はい、はい。え、言い訳はいいからさっさと勝てですか?いや無理です。現状では私ラウラに勝てませんよ。そもそも学園の訓練機で最新第三世代のISに勝てと言う方が無茶ですよ。さすがドイツの科学力は世界一!ってね。え、ええまあセシリアと鈴やシャルロットには勝ってますけど。なら勝てるだろですか?いや無理ですって。現状じゃ真っ向勝負でラウラに勝つのは無理だと何回か戦ってわかりました」

 どうも葵の電話相手、ISに関わる人物からの電話のようだな。会話からしてラウラと戦って勝てない葵を非難してるようだが、葵の言う通り普通訓練機で専用機持ちに勝てという方が無茶だよなあ。普通ならな。…ラウラ以外の俺含める専用機持ちは全員葵に負けてるが。いやこれは葵が異常だとしか思えないけど。

 

「え、さっき言ってた切り札使って勝てですか?いやあれは切り札ですからそんな簡単には…ええ、はい。はあ?そんなまだ入学して一カ月しか経ってないんですけど…、え、関係無い?それは横暴ですよ………、はいはい。あ~わかりました。なら次は要望通り勝ってあげますから朗報期待しておいて下さい。じゃあ私寝ますので」

 かなり面倒くさそうな顔をしながら葵は電話を切った。切る前に葵の携帯から何やら怒鳴り声が聞えてたが…いいのか?その後葵は携帯を放り投げ、顔を俺の方に向けた。

 

「おう、一夏おかえり。久しぶりの大浴場は満喫したか?」

 

「ああやっぱ広い風呂はいいな。日本人なら風呂だなやっぱ。っていやそれよりも葵、さっきの電話は一体何なんだ?」

 

「あれか?ああ、あれは何年か前動画世界で一世を風靡した岩男の替え歌だ。ラウラに勝てない現状を歌にしてみたんだがどうだ?」

 

「70点って所だ。サビの辺りの歌詞もだが色々苦しいぞ。後最後はもっと伸ばして歌った方がいいと俺は思う」

 

「そうか。歌ってみたで投稿するにはまだまだ練習が必要だな」

 投稿するつもりなのかよ。というか個人名とかISの機密情報バラしまくりだからそれをするのは止めておけ。千冬姉にぶっ殺されるぞ。

 

「いや葵、歌はもういい。それよりも誰と電話してたんだよ?」

 

「ん?ああ、国会議員」

 はあ!?国会議員!

 

「え、なんでお前そんな奴と電話を!」

 

「まあ代表候補生だからだな」

 驚愕する俺に葵は何て事無いような感じで応えた。いや葵、ならお前そんな相手にあんな歌を歌ってたのかよ…。

 

「そんなことよりも、ちょっと面倒な事になったな。ある程度予想はしていたが。ったくあの糞ババアめ」

 そう言って葵は溜息をついた。

 

 

   

 

 

「査定、ですか?」

 

「あんたまだここに入学して一カ月程度じゃない。早すぎないそれ?」

 

「まあね、普通ならそう思うよね。ま、これはあの糞ババアが勝手に言ってるだけだけど」

 翌朝、先に食堂に来ていた鈴とセシリアに葵は昨日の電話の件を話していた。葵曰く、昨日の電話はIS関係の議員さんで、代表候補生の中でラウラだけに負けてる現状を至急なんとかしろというもの。できなければお前の代表候補生としての立場を危うくするぞとの事らしい。

 

「ババアが言うにはISを開発したのは日本で、IS競技世界一の称号を手にしたのも日本人。なら私も専用機無かろうと日本の代表候補生ならまず学年で最強の座につくのは当然だって。それくらい出来ずに我が国の代表目指すとはおこがましいと電話で言い放ったわ」

 なんだそれ理不尽すぎだろ。つうか専用機持ってないのに、専用機持ってる俺やシャル、最新の第三世代持ってる鈴やセシリアを倒せる葵の実力は、むしろ誇るべきだろ普通。

 

「…なにその滅茶苦茶な理屈」

 

「その方わたくし達を舐めてるとしか思えませんわね」

 

「全くよね。私がどれだけ必死で戦ってるか知ってるくせに。私がいた施設の連中よりも鈴達はレベルが段違いに上なのに、軽く言ってくれるし」

 

「しかし葵、どうしてその議員にお前そこまで嫌われてるんだ?お前もかなりその人嫌ってるみたいだけど」

 さっきからババア連呼してるしな、何があったんだよ?

 俺の疑問に、

 

「何で嫌われてるかって?単純な理由よ。あのババアの糞息子の歯を10数本程殴って吹き飛ばしたのと、IS戦でババアの娘さんを完膚なきまでに叩きのめしてIS乗りの道を諦めさせたせいでしょうね」

 葵は息子のくだりでは心底嫌悪した顔で、娘のくだりでは少し悲しそうな顔をした顔で答えた。ってなんだそれ!

 

「…まあ確かに子供がそんな事されたらあんたを憎むのもしょうがないかもしれないけど、葵、とりあえずなんで息子の方は歯を10数本も折ったわけ?」

 

「ああそれ。その男が私にキスしようとしたから」

 

「ええ!キス!」

 

「ま、まさかお前」

 キスされたのかという前に葵に殴られた。いてえ。

 

「ちゃんと聞きなさい一夏。しようとしたからと言ったでしょ。唇の代わりに拳を思いっきりぶち込んであげたわよ。本気で容赦なく殴ったから…結構なイケメンだったけどそれはもう見るも無残な姿に」

 暗い笑顔を浮かべながらふ、ふ、ふと笑う葵。…凄く怖いぞお前。

 

「…あの葵さん、どういう状況でそうなったのです?」

 セシリアが若干引いた感じで葵にそうなった理由を聞いた。

 

「う~ん、まあ娘さんの方も絡めて話すけど去年私がいた施設にババアと糞息子と娘さんの三人がやってきたのよ。来た理由だけど、娘を代表候補生にしたいから代表候補生である私と戦わせるためだったのよね。私を倒し代表候補生として認めさせようとしたのよ。ちなみにそのババアの関係者から事前に連絡があって、わざと負けるよう私は言われてたわ。ようは八百長をやってくれと。拒否したら私の立場は悪くなるぞと脅されたりもしたわね」

 

「うわ、それ完全な不正じゃないか。酷いなそれ」

 

「そんな事して代表候補生になられても、実力無かったら惨めになるだけだと思いますけどね」

 セシリアの言う通りだよな。まさかその議員は代表まで全てコネで通すつもりだったのだろうか?それで世界大会に出ても…結果が悲惨な事にしかならないと思うんだが。

 

「ちなみに糞息子は別な理由で一緒に来てたわよ。その糞息子だけど憂鬱な思いで私が待機してる部屋に勝手に入ってきて、『へえ、やっぱり写真で見た通り君かなり可愛いね。とても元男とは思えないね』と言いながら私に近づいて来たのよ。いきなり何言ってんだこいつ?と思ってたら、『ねえ、俺の彼女になんない?』と言いながら私の肩に触れようとしたのよ。無論『頭大丈夫あんた?』と言いながらそいつの手を弾いたけど。そしたら急にそいつ顔つきが変わって、『へえ、いいのそんな事言って?俺の母親ISの関係者の中ではかなりの地位にいるのに。俺が母親に言って君の代表候補生の立場を外す事も出来るよ』

と言って私を脅して来たのよ。脅迫に親の威光を借りるこの男を最低な奴だと怒りに震えてたら、どうも向こうは私が恐怖に怯えてると勘違いしたようで、さらに下劣な笑顔を浮かべながら『なあ、そんなのは嫌だろう。なら俺の言う事を聞いた方がいいぜ。心配するなよ、俺が女の喜びをお前に教えてあげるからよ。むしろ感謝しろよ』と言って私の顎を右手で上げると、そいつは顔を私に近付けてきた。その瞬間私はキレた。寸での所で後ろに下がって、惚けた顔をしたそいつの顔面に右拳を叩きこんであげたわよ」

 

「殴って正解!むしろよし!」

 

「ええ、そんな男性は容赦要りませんわ!わたくしならブルーティアーズで射殺してますわ!」

 葵の話を聞いて、鈴とセシリアの二人は葵の行動に賛同している。俺もそう思う。同じ男だけど、そんな奴は虫唾が走る。俺もそいつをぶん殴りたい!

 

「ま、そっからは色々あったわね。ババアが警察に私を捕まえようとしたけど、今の女尊男卑の風潮って便利ね。私がこの男に乱暴されそうだったと言ったら無条件で私許されたし。…ま、二度とこんな権利を使いたくはないけど」

 そういって苦虫を噛み潰したような顔をする葵。どうやら不本意ながら今の女尊男卑の権利を行使した事に忸怩たる思いがあるようだ。…男として育っただけに。

 

「無罪放免になった私を、ババアは娘さんに私をコテンパンに叩きのめすよう叫んでたわね。八百長仕組んでるから一方的になるのわかってて言ってたんでしょうけど。で、施設の訓練所に行ってお互い対峙した時、向こうはプライベートチャネルでこう言って来たわ『申し訳ありませんが、全力で私と戦って下さい』って」

 

「へえ、なかなかフェアな心持ってたのねその子は」

 鈴が少し感心しながら頷く。

 

「ちょっと違うかな。その後適当に試合しながら、お互いプライベートチャネルで会話していったよ。まず最初に糞兄の事で何度も謝ってきたわ。過去にも同じような事をしていたようで、妹として大変心苦しかったようね。次に本気で戦って欲しい理由。それは彼女、代表候補生になりたくなかったのよ。正確にはISよりもやりたい夢があるから、って」

 

「ふうん。で、葵。お前はそれを信じたのか?というか八百長止めた場合お前の立場危うくなるんだろ?よくお前その娘さんの言う事を聞いたな?」

 まあ強制でIS乗らされてるのは可哀想だが、葵の立場も考えて言ってるのかよその子。

 

「まあ嘘言ってる顔にも見えなかったしね。なら本気で戦って来てと私が言ってその子本気出したみたいだけど…今の一夏の二倍強い程度の実力だったかな。二年以上乗ってそれじゃ確かにこの先厳しいかなと思い、私は全力出して引導渡してあげたわ。回し蹴り叩きこんで、結果壁に磔になって気絶させたけど」

 …容赦ねーなおい。つうか何さりげなく俺を貶してんだよ。

 

「そしてそれからだけど、例によってババアが私に怒鳴り散らしてきて『貴方立場わかってるんでしょうね!貴方今後ISに乗れないようにしてあげるわ!』と言って来たんだけど、目が覚めた娘さんが必死で止めた上に『もうお母さんの言う事は聞きたくない!』と言って私を指差し『私よりずっと強い人がいる!なのにそれを無視して私を日本代表にしようとしないでよ!』と叫んだわね。

いいぞ!もっとやれ!って気持ちで親子喧嘩見てたら、予定では来ないはずのババア以外のIS委員会のお偉いさん方がやってきて、それを見た娘さんがすかさず八百長の件や兄の犯罪を母親がもみ消してた事などを盛大に暴露。結構な大騒動になったわねえ。

で、顛末だけど、色々あったけど私はなんのお咎めなし。まあ元々八百長破ったのが罪になるわけ無いし、ババアも色々追及された上に権力大幅に無くなったし。息子の方はさっき言った理由で不問。娘さんは親戚頼って家飛び出してパティシエールになるべく今は勉強中。ババアはこれらの事を全て私が悪い!あんたが私の人生プランを滅茶苦茶にした!と完全に私を逆恨みするようになり、事あるごとに難癖を私に言うようになったわ。…一度でもあのババアが息子の事で詫びたり、娘さんの意見を聞いたりしたら私もババアとか言わないんだけどねえ」

 そう言ってずずーっとお茶を飲む葵。…しかし女になってからこいつろくな目にあってないな。それよりも、

 

「葵、お前の菓子作りにハマってるというのは、その娘の影響なのか?」

 

「そう、たまに電話したり、美味しそうな菓子のレシピを教えて貰ったりしてるわよ」

 葵の返事を聞いて、納得。なるほどな、いくら女になったからといっても、いきなり菓子作りにハマるというのは何故?と思ってたんだよなあ。葵、どっちかというと菓子よりもがっつり食べれる料理の方を優先して作ってたからな。

 

「しかし葵さん、それならそんな方の言う事なんて聞かなくてよいのではないんですの?ただの横暴ですし、話しを聞く限りもうその方に査定がどうのこうのとか言って葵さんを不利な状況に追い込む事はもう出来るとは思えませんわよ」

 

「まあね。セシリアの言う通り、査定とかもババアが勝手に言ってるだけで誰も取りあったりしないわよ。一応まだ議員にはなっているけど、今じゃあのババア完全に名ばかりの議員まで転落してるしね」

 

「じゃあ無視しなさいよそんな奴からの電話なんて。いちいち相手にしてやる必要なんてないじゃない」

 俺もセシリアや鈴の言う事に賛成だな。なんでそんな奴の言う事なんて聞かなけりゃならないんだよ。そんな俺達の疑問に、

 

「まあそうだけど、ババアは出来ないと思って私に難癖つけてきてるのよ。じゃあさ、それをやってのけた方が糞ババアの鼻をあかせるじゃない。それにあのババア、私を代表にしないよう陰でまだ無駄な抵抗してるみたいだし。ここでラウラを倒せばババア以外の議員さんからの評価も上がるし、そうすれば糞ババアももう黙るしか無くなるだろうしね」

 葵は不敵に笑いながら俺達に言った。

 

「まあそんなわけだから、鈴にセシリア。無駄に長かった前置きは脇に置くとして、どうやったら私がラウラに勝てると思う?一夏は当てにならないし」

 

「悪かったな!当てにならなくて!」

 …いやまあ俺もラウラには毎回コテンパンに負けてるからな、葵の言う通り有効な策なんて思いつけないけど。でも葵、この二人にそれを聞くのは…。

 

「…いや葵、あたしとセシリアは二人がかりでラウラに負けたのよ。しかもその後も勝った事ないし」

 

「…それがわかってたらわたくし達がまず先にラウラさんに試してますわよ」

 だよなあ。そもそも俺達のメンバーの中でラウラに勝った奴いないぞ。唯一勝った試合はあの時のペア対抗戦の時だけだし。でもあれは俺とシャルの二人がかりだから勝てただけだし。

 

「何でもいいのよ。こうしたら私なら勝てるかもしれないって案があれば」

 

「…そういわれましても。まあ葵さんがラウラさんに勝つ方法はともかく、負ける理由はすぐにわかりますわね」

 

「あら、何それ?」

 

「あんたが馬鹿みたいに接近戦でしか勝負しないからでしょ」

 呆れた顔して鈴が応えた。

 

「あんたと何度も戦ったけど、一度も銃を使った事無いじゃない。一夏みたいに零落白夜でAICを斬れるならともかく、それが出来ないと知ってるからラウラは葵の姿だけ注意しておけばいいんだから。あんた一夏と違って打鉄なら他の武器も使えるのに何で使わないわけ?あたしの衝撃砲もラウラのAICには通用しないけど、それでも衝撃砲使えばラウラがどこにAIC張ってるかわかるわよ」

 

「葵さんは別に射撃の腕は下手では無く、むしろ上手でしたわよね?以前射撃の実習がありましたけど、拳銃片手に正確に的を撃ってましたし」

 そう、飛び道具を全く使わないからてっきり俺同様射撃の腕が下手だと思ってたが見事に裏切られた。次々出る的を葵は動き回りながら正確に撃ち抜いていった。聞けば代表候補生だから当然のように軍事訓練を課されたかららしい。ちなみに鈴も射撃の腕前はそこらの軍人顔負けな程上手い。セシリアにシャル、ラウラも同様だ。なんだこいつらのチートっぷりは。箒は…、まあ剣道一筋だしね!

 

「そういや前から俺も不思議だったんだよな。葵、どうして鈴達の言うように飛び道具使わないんだ?」

 俺、鈴、セシリアの疑問に葵は、

 

「銃が嫌いだから」

 と嫌な顔をしながら応えた。

 

「…おい、なんだその理由は」

 

「嫌いなものは嫌いだからしょうがないじゃない」

 

「お前昔映画見て『ガンマンかっけ~』とか言ってただろが。ガン=カタの真似事したり銃撃戦は男の浪漫みたいな事も言ってなかったか?」

 

「女になって嫌いになったのよ。一応代表候補生として軍事訓練はやらされたけど、命令以外なら銃なんて使いたくないわね」

 なんだそれは。しかし実際葵は不機嫌そうに応えている。何があったんだ葵に?

 

「しかし葵さん、ラウラさんと葵さんとでは今のままでは相性最悪ですわよ」

 

「あたしもそうだけど、それ以上に一夏と葵と箒じゃラウラに勝つのは難しいわね。一夏は零落白夜使えばAICを斬れると言っても、それ使ったら早く倒さないとエネルギー切れになっちゃうし。で、焦った一夏は攻撃が雑になり腕をAICで拘束され負けるってのがいつものパターンよね」

 そうなんだよなあ。AICに拘束されないよう動き回ってるんだが、零落白夜使ったらすぐエネルギー無くなるから焦って攻撃→腕拘束→フルボッコ。大体いつもこんな感じで負けている。

 

「私と箒の場合も似たようなものよね。なんとかAICに捕まらないよう動き回っても、最後には捕まって負けるから」

 いや葵、確かにそうなんだがお前の場合のみ違う。

 

「似てると言っても、お前と俺達では全然違うぞ。ラウラ、お前と戦う時は眼帯外して勝負してるからな」

 そう、基本ラウラは追い詰められた時位しか眼帯を外さないが、葵と戦う時のみ初めから眼帯を外して戦っている。眼帯を外したラウラは反則な程強い。疑似ハイパーセンサーのそれは脳への視覚信号の伝達速度の飛躍的な高速化と、超高速戦闘下での動体反射を向上させる。その目を使うと弾丸すら捉える事が出来る為、どんなに動き回ってかく乱しても正確に位置を捉える事が出来る。しかし昔はその目のせいで色々弊害があったようだが、ドイツにいた頃千冬姉のおかげで克服したらしい。…すげえな千冬姉。

 

「眼帯外されれたらマジでどうしようもないわね。どんなに動いても私の動きを正確に捕えてしまうから。外す前なら勝てたかもしれないけど」

 

「確かにあれは惜しかったですわね。色々なフェイントを織り交ぜてラウラさんに近づき、ラウラさんがAICをされる前に間合いを詰めた葵さんがお得意の正拳突き叩きこんだまではよかったのですが、その後ラウラさん眼帯外されて葵さん負けましたものね」

 

「最近じゃ初めから外してるから、瞬時加速使っても止められるのよねえ。正直AIC

とあの目のセットは凶悪すぎるわ。正攻法じゃ勝てる方法思いつかないわねマジで」

 

「だから葵、さっき鈴とセシリアが言ってたように銃使ってみたらどうだよ。俺みたいに雪片弐型だけしか武器が無いってわけじゃないだろ」

 

「だから銃を使うのは嫌」

 

「あのなあ」

 

「…あのねえ葵。それじゃあたし達に聞いても無駄じゃない」

 

「ブレードしか使わずラウラさんに勝つ方法なんて、近接戦法に特化した葵さんが思いつかないのにわたくし達がわかるわけありませんわよ…」

 

「何の話をしてるんだ?」

 お、箒も朝飯食べに来たな。

 

「いや箒、葵がラウラにどうやったら勝てるか話をしてるんだよ」

 

「それは私も興味あるな。葵と私は機体も装備も同じなのだからな。それでみんな、何かわかったのか?」

 少し期待した目をしながら箒は俺達を眺めるが…、すまんお前の期待には応えられないと思うぞ。

 

「全然。二人にも相談したけど思いつかなかった」

 

「だから葵、あたしとセシリアはとりあえず銃器でも使ってみたらと言ってるでしょうが!」

 

「銃か…、出来ればそれ以外であれば私もいいのだが」

 

「う~ん、何か他に良い手は…」

 

「…もう諦めろよ葵。というかさっき言ってた議員の鼻をあかしたいんだろ。ならそんな変なこだわりは捨てて、鈴やセシリアが言ったように銃とか使って色々試してみようぜ」

 悩む葵に俺はそう言うも

 

「…は~。正攻法で勝つのはもう諦めるしかないわね」

 と、葵は溜息をつきながら言った。って、今聞き逃せない事言わなかったかお前。

 

「どういう事だ葵?正攻法で勝つのは諦めるというのは?」

 

「ん?ああババアの鼻をあかすために、とりあえず正攻法を捨てて勝ちに行くって事。卑怯だからやりたくないけど、私も一回はラウラを倒してみたいし」

 箒の疑問に対し、葵はしれっと答えた。

 

「ババア?誰のことなのだそれは?」

 

「また今度教えてあげるわよ」

 

「いやそれよりも葵、どういうことだ?さっき散々ラウラに勝てる方法なんて思いつかないっていってたじゃねーか」

 

「だから正攻法ではって言ってるでしょ。邪道の方法なら勝てるって事。あ、ちなみにこの場合も銃を使わないわよ」

 

「何をされるのはわかりませんが…あんまり卑怯な事をするのはどうかと思いますわよ」

 

「まあ大丈夫、織斑先生なら多分呆れた顔して、ひっかかったラウラを責めて私も少し怒られる程度で済むだろうから」

 俺達の疑問に、葵は自信満々で答えていく。しかし卑怯な手でも俺はラウラに勝てる気がしないけど、葵は一体何をする気なんだ?

 

「あ、もしかして葵。昨日言っていた切り札の事か?」

 

「そう、正攻法じゃ無理だけどそれを使えば絶対ラウラに勝てると思うわよ」

 あの歌適当に言ってたわけじゃなかったのか。

 

「ほう、ならば見せて貰おうではないか」

 

「あ、ラウラにシャルロットおはよう」

 うお、いつの間にか俺達の後ろにラウラとシャルロットが来ていた!

 

「葵、さっきの話は本当なのか?正攻法で無ければ私に勝てると?」

 

「ええ、勝てるわよ」

 ラウラの質問に、葵は笑みを浮かべながら答えた。…ん、なんだこの凄い緊張感は?

 

「面白い、ならば次の模擬戦でそれを証明して貰おうではないか」

 

「いいわよ、なら次私が打鉄貸出されたら証明してあげる」

 

「ふ、楽しみにしておこう」

 そう言ってラウラは俺達から離れ、朝食を取りに行った。

 

「え、何?あまりにも二人があっさり勝負の約束したけど、そもそも何でそんな話になってるの?」

 シャルが一人事態についてこれず、説明を俺達に求めて来たが…さてどう説明しようかな。

 

 

 

 

 かくして葵対ラウラの戦いは、学園の訓練機が二日後貸し出し可能となった為、その日に行われる事となった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 食堂で葵とラウラが決闘の約束をした二日後の今日、ようやく葵がIS学園から打鉄を借りる申請が通った為、二人は約束通り戦う事となった。

 すでにラウラはアリーナの中央で待機しているが、葵の姿はまだ無い。まだ貸出の手続きに手間取っているんだろうか?しかし箒もだが、毎回あんだけレポート書かされてIS借りるのは凄く面倒だろうな。たまに一般生徒から俺達専用機持ち組を嫉妬深い目で見られる事があるが…まあそう思うのも無理はない。専用機持ってる俺達はいつでもアリーナが空いていれば練習できるが、持ってない人は貸し出しを順番で待たないといけないからなあ。

 専用機持っている俺、鈴、セシリア、シャルの四人はそれぞれISを展開し、アリーナの隅の方で試合を観戦する事にしている。流れ弾の危険が無いわけでもないが、葵は銃関係の武器は使わないし、それだとラウラのレールカノンさえ注意すればいいから特に問題は無い。ちなみに箒は貸し出し許可が下りなかった為、観客席でのほほんさん達といる。

…すっげえ睨まれたが許せ、箒。観客席で見るよりISのスーパーセンサー使った方がよく見えるんだよ。

 

「ねえ、青崎さんどうやってボーデヴィッヒさんに勝つと思う?」「楽しみよね~試合」「動きを逐一観察し、見逃しては駄目よ。目に焼き付けて次貸し出しの時少しでも再現できるようにしないと」「青崎…次は私が勝つ」

 

 観客席では箒達以外でも結構な数の一般生徒達が座っている。しかも一年生だけでなく、多くの数の二年生、三年生も観に来ていて、その中には専用機を持ってない他国の代表候補生達も多数見に来ている。

 彼女達が来ている理由は、葵の操縦技術を少しでも見て覚えたいからだ。俺達専用機持ちの動きより、同じ打鉄に乗っている葵の動きは彼女達にとって良い参考になり、しかも学園の量産機で専用機持ち代表候補生を倒す葵は、目指すべき目標となっているようだ。葵がISを借りる日のアリーナはそういう理由で見学に来る生徒が結構多い。…葵が空手で俺達を吹き飛ばして勝った時は観客席から歓声が聞えたりする。

 さらに葵はよく、葵同様専用機を持ってない代表候補生達から試合を申し込まれている。同じ境遇というのもあるが、同じ訓練機に乗る葵なら互角の条件の上己の操縦技術を試せるかららしい。何人か訓練機なのに鈴やシャルよりも強いんでは?と思える程の実力を持っているのも何人かいたが、全て葵はそれらを殴り、蹴り飛ばして倒して行った。

 ちなみに俺達専用機持ちには誰も試合申し込まれない。いや、多分相手は専用機だから戦っても敵わないとかではなく、別の理由もあるんだろうな…。

 

 

「…遅いわね葵。なにやってるのよあいつ」

 

「そうだね。訓練機貸し出しが面倒な手続きとはいえ、普通ならこんなにかからないはずなのに」

 

「さっさと来なさいっての!何もったいぶってんのよあいつ!」

 未だやって来ない葵に少し苛立っている鈴。しかし確かに変だな。普段ならもう30分前には借りてここに来てもおかしくないのに。

 

「そういえば一夏さん、葵さん何か切り札があるとか言ってましたけどそれが何か聞いたりしました?」

 

「いや、その事なんだが…」

 セシリアの質問に俺は昨日、葵が部屋で俺に語った内容を皆に話す事にした。

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とうとう明日だけど葵、あれだけ大見得切っていたが本当にラウラに勝てるのか?」

 

「ああ、俺が勝つ勝率99%ってところかな」

 俺の疑問に、葵はドラゴンボール完全版を読みながら自信満々に言った。

 

「本当かよ?あの日からお前、ISに乗って特訓とか全くしてないのに?切り札があるとか言ってたが練習とかしなくて大丈夫なのか?やってる事といや部屋で漫画しか読んでないじゃないか」

ラウラに勝てると豪語したあの日から今日まで、葵は特になにもしていない。やった事と言えば、通販で漫画を買って部屋で漫画読みながらゴロゴロしてるだけだ。今読んでるドラゴンボール以外に、ひぐらしという漫画も部屋の隅で積まれている。何なんだ葵のこの余裕さは?

 

「特訓とか必要無い。そもそも、あの切り札は別にISに乗って訓練云々ってものじゃないからな。しかも切り札って言っても実際はすごくくだらないしお前も知ったら……、いや何でも無い」

 

「おい、なんだよ思わせぶりな事言って。気になるじゃないか?」

俺がそう言っても、葵はニヤニヤしながら俺を見ている。うわ、すっげえむかつく。

 

「まあまあ一夏、それは明日のお楽しみって事で。そだな、そんなに気になるなら一夏、ヒントをあげよう」

 

「ヒント?」

 

「ああ、ヒントだ。これ以上は本当に教えないぜ」

 

 切り札の事は気になるが…葵は言わないと決めたら絶対言わないし。ここはヒントで我慢する事にしよう。

 

「わかった、ならヒントを教えてくれ」

 

「ふ、ふ、ふ。なら仕方ないがヒントをやろう」

 

 偉そうにふんぞり返りながら、葵はから顔を上げて話しだした。

 

「一夏、良く聞いとけよ。ラウラの第三世代ISのAICだが、それは操縦者のイメージ・インターフェイスを用いた特殊兵器。つまりラウラがイメージして初めて兵器としての役割を果たすものだ。無意識では発動する事ができない。銃や剣と違い、最後まで意識した行動しないと途端に霧散してしまう代物だ。ようは意識を少しでも逸らす事が出来ればAICは発動しない」

 そうだな、確かにあのタッグ戦の時も二人で波状攻撃してラウラのAICの意識を逸らす事で攻略してたし。

 

「いや葵、そんな事は俺だって知ってる。現にそれを実践して俺とシャルはラウラを倒したぞ。だがあれは二人がかりだから出来た事だぜ。一人で戦うお前はどうするんだよ?しかもオーディンの瞳使用時のラウラに小細工は全く通用しないし」 

 あの眼帯外したラウラは弾丸すら見えるからな。葵がどんなに変則的な動きしても見逃さない。

 

「ふ、一夏。オーディンの瞳対策は万全だ。オーディンの瞳が発動してる時、俺の切り札が活かされる。どんな物でも見逃さない瞳ってのを仇にさせる。以上ヒント終了」

 

「え、ヒントもう終わりなのかよ?というか今のヒントなのか?ただのラウラのスペックの再確認だろ今の」

 俺が文句言っても、葵はニヤニヤしているだけ。くそ、結局何なんだよ一体。葵のこの余裕さは何なんだ?答えがわからず憮然とした顔をしている俺に、

 

「ま、何をするかは明日のお楽しみってな。見せてやるよ、世代の差がISの強さでは無いって事をな。そしてどれだけISが規格外だとしても…操縦者は人間という事を」

 葵はそう言って、俺を見て不敵に笑った。

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…というわけなんだが、皆どう思う」

 

「う~ん、聞く限り葵の言う切り札ってAICに対してではなく、オーディンの瞳対策なわけね。でもそれだけじゃあたしもわかんないわよ」

 

「先日の食堂では正攻法では無く邪道な方法なら勝てると葵さん言われてましたけれど…、現時点でわかりますのはオーディンの瞳解放された状態のラウラさんに、邪道な方法をされるってことですわね」

 

「あの状態のラウラに小細工なんて通用するかなあ?」

 昨日の葵の話を皆に話してみたが…、切り札が何時使われるかはわかったが、結局葵が何をするかまでは皆思いつかない。ただ一つ、俺が気になるのがある。

 

「葵が最後に言っていた、操縦者は人間。これが鍵だと俺は思う」

 

「操縦者は人間って…当たり前の事じゃない。ISは操縦者がいないと動かないんだし…、って前無人機が襲ってきたわね。でもあれは例外中の例外じゃない」

 

「もしくは操縦者の腕の事を指してるのかもしれませんが、それでしたら今まで負けてますから違うと思いますけど?」

 

「う~ん、そうなんだけど…葵が一番自信もって言った台詞がそれだったんだよ。あの時見せた葵の顔は、それだったし」

 あの時見せた葵の不敵な笑顔。勝利を確信した時葵はいつもあんな顔するからな。

 

 

 

 その後さらに10分程経っても葵は姿が現れず、いい加減少し様子を見に行こうかと鈴達と話していたら、

 

 

「ごめ~ん、遅れた~!」

 打鉄を装着した葵が、オープンチャネルで謝りながらアリーナに姿を現した。

 

 

 

 

「ようやく来たか葵、待っていたぞ。準備はもういいのか?」

 数十分もアリーナ中央で待ちぼうけをくらっていたラウラだが、怒る事無く葵の姿を確認する。…凄いなラウラ、これだけ待たされたら俺なら絶対罵声の一つや二つ言っているぞ。

 

「ええ、ばっちり。準備万端、すぐに開始できるわよ」

 

「そうか、お前が何をするかはわからないが、それでも私が今日も勝たせてもらう」

 

「残念、今日は私が勝つわよ」

 そう言って、体をほぐしながら答える葵。見た所葵が使用する打鉄に変化は見られない。なら何でこんなに遅くなったんだ?

 

「…まさか宮本武蔵の真似が切り札ってわけないよな」

 

「なんですのそれ一夏さん?」

 

「あ~、なんか昔聞いた事あったような…」

 

「有名なの一夏?」

 

「ああ、日本人なら多くの人が知ってるぞ。おしいな、箒がここにいたら耳が痛くなる位語ってくれそうだが。まあ簡単に言うとわざと遅刻して相手の神経を苛立たせ、相手の平常心を無くさせる戦法だ」

 

「なんですのその姑息な手段は?その宮本さんって方は卑怯で有名なんですの?」

 セシリアが嫌悪した顔で武蔵を責める。いや剣豪として有名なんだが。戦略として相手の動揺を誘う心理戦を制した事で称賛されてるんだけど、…いやセシリアみたいに思う人もいるのも事実だけど。

 

「でもラウラ、凄く平常心保ったままだよね」

 

「ラウラは軍人だし、待機には慣れてるんでしょ」

 アリーナ中央にいるラウラは落ち着いており、冷静に葵の動きを観察している。こりゃ葵の小細工は無駄だったかな?

 

「…一夏、そんなしょうもない策が私の切り札のわけないでしょ。馬鹿言ってないで、準備出来たから開始の合図頼むわね」

 回線を通じ俺達の会話を聞いていた葵が、呆れた表情を浮かべながら俺に言った。何だ、違うのか。半分冗談で言ってたが少し本気だったのに。

 

「ラウラ、葵は準備いいみたいだぞ。ラウラはどうだ?始めていいか?」

 オープンチャネルでラウラに試合を始めていいか聞いてみたら、

 

「ああ、私は何時でもいい」

 と、葵を見据えながら返答。そしてそれを聞いた葵がラウラから少し距離を開ける。お互い離れた所で対峙したのを見届けると、

 

「では、始め!」

俺は開始の合図を送り、葵とラウラ、二人の試合がついに始まった。

 

 

 

 

 葵とラウラの戦いだが、先に動いたのは葵だった。俺が開始の合図を出すと同時に、葵は近接ブレードを取りだすと『瞬時加速』を使い、一気にラウラの間合いを詰めていき…、ってこの戦法!

 

「…まさか嫁と同じ戦法を取るとはな。さすが親友同士と言いたい所だが、…葵、こんな戦法が私に通用するとでも思っていたのか?いや、嫁とは違い多少の小細工はしてはいるが、それでもその程度では私に通用しない」

 オープンチャンネルからラウラの呆れた声が流れていく。

 開始と同時に『瞬時加速』による先制攻撃。トーナメントで俺がやった戦法だが、当然の如くラウラには通じてはいなかった。

 

「まさか。全く思ってないわよ。むしろ効いたらこっちが驚いたかな」

 笑みを浮かべながら両手を広げ、ラウラを真っ直ぐ見据えながら葵は軽口を叩いた。何でそんな余裕あるんだ葵?かなり絶体絶命な状況なのに?

 葵はラウラの張ったAICにより、ラウラの眼前で空中に浮いたまま胴体を捕えられていた。かなり接近してはいたが、やはりラウラに届く前に停止させられていた。もはや押しても引いても動きがとれない。後はラウラのレールカノンの攻撃を受けたらお終いである。

 しかし、俺の時は胴だけでなく腕、足もAICに捕えられていたが、葵は胴体だけしか捕えられていない。その原因はおそらく、

 

「…葵、いつのまに投げたのあれ?」

 

「あの一瞬で?」

 

「それを防いだラウラもラウラだね…」

 鈴、セシリア、シャルが驚愕の眼差しで葵を、正確には空中に停止している葵の下に浮いている近接ブレードを見ていた。葵は『瞬時加速』を行う前に、ラウラめがけて近接ブレードを投擲していた。葵よりも一瞬早く迫ってくる近接ブレードを、AICで捕え、その後来る葵をまたAICを使い捕えた。最初の近接ブレードによる奇襲がある分、ラウラは葵本体の対応に遅れたが、それでも胴体を拘束できれば十分だろう。

 

「では葵、何か策があったようだがこれで終わりだ」

 レールカノンを葵に向けるラウラ。レールカノンに搭載している弾は対IS用特殊鉄鋼弾だ。数発撃ちこめばそれで終わりだ。

 

「何よ葵の奴期待させといて!もう終わりじゃない!あんた勝てるって言ったじゃない!」

 絶体絶命な状況を見ながら、葵に対し怒鳴る鈴。その顔には怒りと同時に、…失望した顔を見せていた。横にいるセシリア、シャルも葵に対し少し失望した顔を見せている。

 

 あれだけ大口を叩いて、結局これ?

 

 おそらくアリーナで観戦してる多くの人達も、今の葵を見てこう思っているだろう。

 

 しかし、俺はそうは思わない。

 

 昨日俺に不敵な笑みを俺に浮かべた葵が、これで終わる訳が無い。

 かつて葵があんな笑みを浮かべた時は、どの勝負でも俺は葵に負けた。絶対勝つ自信がある時、葵はあの笑みを浮かべるからだ。

 

 しかし眼前にはAICで動きを拘束されている葵に、ラウラが止めを刺そうとしている。レールカノンの照準を合わせたラウラが、葵にそれを撃ちこもうとした瞬間、

 

 葵は両手の指を広げ、両手を顔の前にかざした。ん、あの構えってまさか…。

 

 

 

「太陽拳!」

 葵の叫びと同時に、葵の眼前から凄まじい光と爆音が鳴り響いた。

 

「キャッ!」

 

「ちょっ!」

 ハイパーセンサーによって視界と聴覚を大幅に強化されているため、まともに見て聞いてしまった鈴、セシリア、シャルは唸りながら悶絶している。俺は葵が叫ぶと同時に目を手で覆った為、目はやられずにすんだが、…音の方は予想外だった為俺も耳鳴りと眩暈で苦しんでいる。

…いや、あの動きを見てもしやと思ったが、本当に「太陽拳」をするとは…。まさか最近あいつがドラゴンボール読んでたの、これを真似する為だったのかよ。どうやったんだあれ?

 いやそれよりも試合はどうなったんだ?俺は慌てて葵達の方を向くと、

 

「………」

 

「ほう、切り札を使った割には慎重だったな。もっとも、そのおかげで無事なのだが」

 太陽拳を使ったおかげでラウラのAICの拘束を抜けだせたのか、その一瞬の内に葵はラウラの右側に回りこんだようだが、その葵の見据える先に……先程同様空中に浮いている近接ブレードが存在していた。ラウラのすぐ傍で、それはがっちり拘束され空中に浮いている。

 

「あらかじめ安全弁を外したスタングレネードを量子化させ、それを私の眼前で再び出現させたと同時に爆発させる。そしてそれに驚いた私がAICを解除させても、とっさに私が前面にAICを展開している場合を考えて、左右どちらかから回り込んで攻撃。それが葵の考えた作戦だったようだが、残念だったな。確かに驚きはしたが、私にそんな手は通用しない」

 

「…直感で貴方に効いてないと思ったから突っ込むのは止めたけど…、ラウラどうしてあのスタングレネード防げた訳?かなり自信あったのに」

 固い声を出しながら、戦悔した顔で葵はラウラに尋ねる。

 

「何を言ってるのだ葵。私の目と、第三世代兵装対策にスタングレネードを使用される可能性等考えない方がおかしいだろうが。閃光で目を潰し、AICを大音響で意識をかく乱させ消す。我が部隊の副官クラリッサが一番それを懸念し、本国で相手が使用した場合の対策は完璧なまで行われた。もっともISは便利だ、通常なら耳栓と専用ゴーグルが必要だが、ハイパーセンサーで一時的に視覚の制限、聴覚をカットするだけでいい」

葵の問いに、余裕を持ってラウラは答えていく。…なるほど、昨日わざわざAICとオーディンの瞳について言ってたのはそういうことか。

 

「あ~、やっぱりスタングレネード対策はしてたのね。しかも対策方法も私と同じだし。あ~も~、せっかく整備課の人に無理言ってややこしい状態でスタングレネードを量子変換させてもらったのに!何度も失敗してなんとか準備出来たのに!」

 …お前が遅刻した理由はそれかよ。そんな葵に嘆きに、

 

「…葵、そもそも使う前に両手で顔を隠す、目を瞑る、さらになにやら叫んだ後スタングレネードを空中に展開させただろう。そこまで予備動作をされたら気付かない方がおかしいではないか。ISのハイパーセンサーの視覚制限してるはずなのに、何故わざわざ目を隠したのだ?それでは次何をするかなどまるわかりではないか」

 ラウラはかなり呆れた声を出しながら葵に言った。…あ~太陽拳ってそう見えるんだ。

 

「あー!真似る事にこだわりすぎてた!言われてみればそうだったー!」

 頭を抱え絶叫する葵。…いや葵、気持ちはわからんわけでもないがな。いやそれよりも、

 

「…ねえ、まさか葵の切り札ってこれで終わりって訳じゃないわよね」

 スタングレネードから復活した鈴が、顔を引きつらせながら俺に聞いてくる。…いや、まさか違うよな?まだ何かあるんだよなと思いながら葵の方を向くと、

 

「あ~どうしよ。効くと思ってたのに…、やっぱ富竹フラッシュの方がよかったのかな?でも直感で危ないと思ってよかった~。つーかあの一瞬でこっちの意図を読んで瞬時に待ち構えるとか、さすがラウラ…」

 …ラウラを見ながら頭を抱えたままだった。

 

 …まさか本当にこれ?そしてそれで終わり?いや頼む、嘘と言ってくれ。

 

「では葵、次は私の番だ」

 そう言って、頭を抱えている葵めがけて、ラウラは後退しながらワイヤースピアを放って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

    

(切り札がスタングレネードとは、予想通りだったな)

 葵に二本のワイヤースピアを放ちながら、ラウラはアサルトライフルを構える。葵は左右から迫ってくるワイヤースピアを上昇して回避。その軌道上にラウラはアサルトライフルを放っていく。普段ならプラズマ手刀を使う場合も考え、アサルトライフルを使う事は無い。しかしアサルトライフルをラウラが使用する理由があった。

 

(葵相手に接近戦をするつもりは無い。遠距離で倒す!)

 ラウラはかつて、こちらの攻撃をかいくぐって来た葵を、プラズマ手刀で向かえ討った時の事を思い出す。ラウラの攻撃を紙一重で葵はかわして行き、お返しとばかりに葵が正拳突きを放ち、その一撃で壁まで吹き飛ばされた時の事を。他のメンバーとの模擬戦を見ても、明らかに近接格闘では数段も葵が上だと言う事を、ラウラは理解していた。

 

(あの妙なポーズはともかく、近接ブレードとスタングレネードを取りだすあの早さ。シャルロットのラビットスイッチとまではいかなくとも、訓練機なのに一秒と立たず量子構成を完了させることができるとはな)

切り替えの早さなら、シャルロットのラビットスイッチの方が数段優れている上に早い。しかしそれはシャルロットの乗っているラファールが拡張領域を大幅に広げているのと、取り出す武器はシャルロットが主力としている武器で、イメージしやすいせいでもある。

 

(しかし葵は、普段使わないスタングレネードなのにあれだけ早く出せるとは…。セシリアは見習った方がいい)

ラウラは同じクラスメイトの顔を思い浮かべる。主力武器を取りだすのは早いが、使い慣れない近接武器を出すのがセシリアは苦手だからだ。

 

(やはり葵は一つ一つのIS基本動作のレベルがかなり高い)

 動きを先読みして放ったはずのアサルトライフルだが、葵は読んでいたかのように体を捻りながら弾丸を回避していく。すぐさま三本目のワイヤースピアが右から、四本目が後ろか迫ってくるが、

 

「ハア!」

 葵は三本目のワイヤースピアに自分から近づき、迫りくるワイヤースピアを右手に持っている近接ブレードで打ち払った。四本目のワイヤースピアが、葵のそのすぐ傍を通りすぎていく。

 

(…操縦技術も高い。得手不得手はあるにしても、あんな芸当は私は無理だ。そして)

 五本目、六本目のワイヤースピアが葵の下から迫ってきて、葵は急上昇して回避しようとするがワイヤースピアの方が早い。二つのワイヤースピアが葵の足に絡みつこうとするも、

 

「ああ、邪魔!」

 葵は空中で半回転し、頭を地面に向けた格好で迫りくる五本目、六本目のワイヤースピアを打ち払った。

 

(やはり葵は似ている、……教官と動きが似ている)

 ラウラは自分が尊敬してやまない織斑千冬の姿を思い浮かべる。第一回、第二回のモンドグロッソ大会で戦っている千冬の姿を、ラウラは何度も見ていた。そこで見せていた千冬の動きと、今目の前にいる葵の動きが、ラウラにはダブって見えていた。

 

(教官に一夏に箒に葵。皆同じ道場で剣を習っていたせいか、一夏も箒も教官と似た動きを見せたりもするが…、葵が一番教官に近い。そして一番教官に近いからこそ…負けたくない!)

 自らの場所を変えながらも、ラウラはアサルトライフルを間隔を開けて葵に掃射。その後オーディンの瞳をこらし、体の動きから回避先を予測し、その場所にレールカノンを放つ。その攻撃は葵の予測を上回り、レールカノンの一撃は葵の左肩に着弾し、葵は錐揉みしながら吹き飛んで行く。

 

(教官に一番近づくのは、この私だ!)

 その後もラウラの猛攻は、じりじりと葵を追い詰めていった。いかに葵が抜群の回避能力を持っていたとしても、遠くからひたすら狙い撃ちされては避け続ける事は不可能である。動き回る葵に、距離を開けながらもラウラは追っていく。ジリジリとシールドは削られていき、葵のシールドエネルギーは残り半分となった。

 

(そろそろどうにか私に近づこうとするだろうが、そこで必ずAICで捕える!)

 過去の戦闘から、何故か近接戦にこだわっている葵は、勝負を決めるべくラウラに特攻をするのだが、そのことごとくをラウラは防いでいった。どんな手を使おうとも、ラウラは己の技量なら葵の接近を止める自信がある。ラウラは葵が勝負を決めようとしている時を、じっと待っている。

 

 

 ワイヤースピアが三本、左右と下から葵に迫ってくる。葵は前方に『瞬時加速を』をして逃れたが、

 

「あ!」

 逃げた先に、また三本のワイヤースピアが葵を待ち構えていた。葵を取り囲むように迫るワイヤースピアを、葵は近接ブレードを振り回し二本打ち払うが、一本が胴体に直撃。動きを止め衝撃に呻く葵に、ラウラは好機とばかりにレールカノンを葵に照準、発射させた。

 

 しかし、この瞬間初めて葵は回避以外の行動に移った。

ラウラがレールカノンをこちらに向けているのを確認した葵は、即座に近接ブレードを取りだし、ラウラのレールカノン発射と同時に、葵はラウラに向けて近接ブレードを投擲した。

 ラウラのレールカノンによる特殊鉄鋼弾と、葵が投擲した近接ブレードは互いに交差して対象に迫っていく。

 迫りくる特殊鉄鋼弾を、葵は身を捻り右足装甲を掠めるも直撃を回避。一方、ラウラは迫りくる近接ブレードを見ながらも動かない。レエールカノンの照準を再度葵に合せるだけであった。そして、

 

 葵の投擲した近接ブレードは、ラウラから右に少し離れた地面に突き刺さった。

 

 葵の投擲した近接ブレードの角度から、自分に当たらないと判断したラウラはその場から動かなかった。それよりもさらに動きを乱した葵に、攻撃を行おうとしたが、

 

「何っ!」

 それはラウラ自身も、何故先程葵が投げた近接ブレードを気になったかはわからなかった。しかし、無視できない直感が、ラウラを近接ブレードに目を向かわせた。そして、

 

 葵が投げた近接ブレード、その近接ブレードの柄にスタングレネードが取り付けてあるのが見えた。

 

そしてその直後、再びラウラに閃光と爆音が襲った。

 

 

 

(今だ!)

 スタングレネードが爆発したと同時に、葵はラウラ目がけて『瞬時加速』を行った。今度こそ、ラウラに効いたと思い葵は勝負に出た。しかし、

 

 

「…ラウラ。ちょっと隙が無さ過ぎない?」

 

「…意表を突いたつもりだろうが、残念だったな」

 葵が勝負をかけたスタングレネードの罠も、ラウラは間一髪で回避。そして『瞬時加速』を使い、迫りくる葵の手がラウラに届く寸前で、ラウラのAICが葵を拘束していた。葵の右手は、ラウラの胸から後数センチという所で停止させられていた。

 

「では葵、今度こそ終わりだ!」

 ラウラは動けない葵に、レールカノンとアサルトライフルを構える。しかしそれよりも前に、

 

 再びラウラと葵との間に、スタングレネードの弾が現れた。

 

 しかし、ラウラは無視して攻撃を続行しようと決意。来る事がわかっていれば脅威でも無い。ラウラは瞬時にハイパーセンサーの切り替えを行った。その直後、弾は爆発し、ラウラは閃光と爆音が来ると思い、目を閉じながら身構えた。

 

 しかし、それはラウラの予想とは違い、爆炎と襲撃がラウラを襲った。

 

(くっ!)

 爆発の衝撃で吹き飛ぶラウラ。辺りは爆煙で白い世界の中、ラウラは己の迂闊さを後悔していた。

 

(やられた!あの密着状態で爆弾を使わないだろうと思ってた私が馬鹿だった。二発スタングレネードを使ってた為、先程のもそうだと思ってしまったのも迂闊すぎた!)

 葵の最初のスタングレネードによる攻撃、あの時は葵が目を隠した為閃光弾の類と判断し、爆弾で無くスタングレネード対策をして防いだ。二発目も一発目と見た目は同じ弾だった為、同じ対策をして防いだ。そして先程の三発目、またも見た目は同じ弾だった為ラウラは、これもスタングレネードだと判断してしまった。

 

(見かけは同じだが中身は通常爆弾か!こんな子供騙しに引っかかるとは!)

 白い爆煙の中、葵の策に引っ掛かったラウラは怒りに燃え葵の姿を探した。葵も近距離で爆発を受けた為、どこかへ吹き飛んだはずと思ったからだ。そしてラウラがふと上に顔を向けると、

 

 ラウラの視界を、葵が操縦する打鉄の右足が覆い尽くした。

 

(何故葵がここに!?)

 同じ爆弾を受けて吹き飛んだはずの葵が、もうすでにラウラのすぐ近くまで来ていた。

 そして愕然とするラウラの顔面に、葵の右飛び後ろ回し蹴りが迫る。その一撃はラウラの額に当たり、

 

 大砲の一撃を受けたような轟音と衝撃と共に、ラウラは地面に叩きつけられた。

 凄まじい衝撃に、眩暈を起こすラウラ。頭部に凄まじい衝撃を与えられ、脳震盪寸前まで陥いる。

 

 しかし、葵の攻撃はそこで止まらなかった。

 地面に倒れているラウラに、葵は右足を上げ、渾身の力を持って振りおろした。再び凄まじい衝撃が、ラウラの腹部を襲う。衝撃でさらに地面にめり込み、足は衝撃で反り返った。

 その反り返った足を、葵は右手で掴む。そしてそれを引き上げ、宙に投げると、

 

 葵は右手を構え、ラウラの腹部めがけて正拳突きを放った。

 

 その一撃は吸いこまれるようにラウラの腹部に当たり、その結果―――ラウラはアリーナの壁まで吹き飛ばされていった。

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘、何今の連撃…」「何度見てもありえない威力…」「今までスタングレネード使ってたのはあの攻撃の為?」

 アリーナにいる全ての観客が、驚愕の眼差しでラウラを、そして葵を見ている。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 俺の横にいる、鈴、セシリア、シャルの三人は無言で驚愕の眼差しをしながら、食い入るように葵を眺めている。俺も茫然としながら、葵を眺める。やった、本当にやりやがったあいつ!

 

「まさか本当にラウラを倒すとは…、化け物かよあいつ。でも何で、葵の奴あの時一緒に爆弾に巻き込まれたのにラウラよりも早く動けたんだ?」

 ラウラが爆発から立ち直った時、すでに葵はラウラに攻撃を行っていた。俺の疑問に、

 

「…それは一夏、葵の乗っている打鉄が防御型ISと言われる程、防御に優れているからだよ。第三世代のラウラのISよりも、防御力の点で言えば葵が乗っている打鉄の方が上だからね。…でもあの爆発の後にすぐ行動に出る葵も相当無茶をするね。下手すればその衝撃でシールドエネルギー全て無くなっちゃうよ」

 

「実際ギリギリだったみたいよ…」

 鈴の指摘を聞いて、葵のシールドエネルギーを確認してみる。うわ、もう残り一割と少ししかないじゃないか。

 

「ギリギリだな…、まあそこまでしないとラウラは倒せないか」

 

「いえ一夏さん、それは違いますわ」

 セシリアが堅い声を出しながらラウラを眺めている。そこには、

 

「マジかよ…」

 葵の怒涛の連続攻撃をくらったラウラだが、体を起こし再び戦闘態勢に戻っていた。

 

「…あ~あ、さすがにあれだけじゃ倒し切れないか」

 葵が悔しそうな顔をしながら、ラウラを眺めている。俺はラウラのシールドエネルギーを確認してみたら、残り3割となっていた。

 

「え、嘘だろ!葵の攻撃を受けて、しかも最後は正拳突きを受けてあれだけ派手に吹き飛んだのに、まだ3割残ってるなんてありえないだろ!」

 

「…普通武器使わないで、残り3割まで減らしてる方がおかしいんだけどね」

 シャルが呆れた声を出すが、それでもおかしい。倒し切れなかったにしても、もっとシールドエネルギーを減らしてるはずだ!毎回吹き飛ばされてる俺ならそれがわかる。

 

「最後の一撃、ラウラタイミング合わせて後方にスラスター噴出させて、威力を緩和させたはね。…は~、もう見事としか言いようがないわ」

 戦闘態勢を取るラウラに、呆れた顔をしながら、そして若干の尊敬した目を向けながら葵は言った。

 

「葵もな、毎度ながらふざけた威力だ。だが葵、―――今回も私の勝ちだ」

 アサルトライフルを構え、ラウラは葵に勝利を宣言する。実際ラウラの言う通り、もはや勝負はついたも同然だ。葵の切り札は全て使い果たした。そしてシールドエネルギーも残り僅か。アサルトライフルとワイヤースピアなら数発、レールカノンなら一撃でも当たったら勝負はつくだろう。

 どうするんだ葵、と思いながら葵の方を向くとそこには、

 

 ラウラを見据えながら、真剣な表情を浮かべている葵がいた。その目は…、まだ試合を諦めてはいなかった。

 

「では葵、これで終わりだ!」

 ラウラの叫びと同時に、ワイヤースピアとアサルトライフルの弾丸が、葵を襲う。葵は上昇し、必死になって避けていく。しかし、それではいずれジワジワと追い詰められるのは、先程の戦いで証明されている。どうするんだよと思ってたら、

 

「馬鹿な!そんなわけが無い!」

 いきなりラウラが葵に向かって叫んでいる。は?何が起こってるんだ?

 その後もラウラは葵に攻撃しながらも時々、

「う、確かに…」

 

「いやまさか…」

 と困惑の顔をしながら葵を、そして偶に俺の顔を凝視する。え、どうしてラウラ、困惑した顔で俺の方を向くんだ?

 

「どうしたんだラウラの奴?」

 

「おそらくですが、プライベートチャネルを使って葵さんはラウラさんに何か言ってるようですわね…」

 

「何で葵、わざわざプライベートチャネル使っているわけ?」

 

「さあ?聞かれると不味い事言ってるのかな?」

 

 俺達が疑問に思ってる中、戦いは次第に葵の方が優勢になっていった。困惑顔のラウラの攻撃は、葵に通用せず全て避けられていく。そして、

 

「これで止め!」

 葵はそう叫びながら、葵は『瞬時加速』をしながらラウラに向かっていった。

 本来ならこんな小細工も無い突撃、ラウラに効く訳も無いはずなのだが、

 

「!!!!!」

 ラウラは驚愕の顔をしているだけで、葵にAICを使って拘束する事をしなかった。ってえええ!何でだよ!

 そして驚愕の顔をしていたラウラが、葵の接近に気付き慌てて防御しようとしたが、

 

「はあ!」

 その前に葵の渾身の正拳突きがラウラの胸に当たり、ラウラはアリーナの壁まで吹き飛ばされていった。そして轟音と共にアリーナの壁が砕け、ラウラは破片と共に地面の上に横たわった。その瞬間試合終了のブザーが鳴り響き、葵の勝利が決まった。

 

 

 

 

 

 

「で、葵。あんた最後ラウラに何をしたわけ?」

 気絶したラウラが担架に乗せられて運ばれるのを見ながら、鈴は葵に問いただす。

 

「え、何もしてないわよ」

 明後日の方を向き口笛を吹きながら、葵はしれっと言った。この野郎、何もしてないわけ無いだろ!

 

「嘘こけ!ラウラ、明らかに後半困惑した顔でお前と、たまに俺の顔を見ていたぞ」

 

「葵さん、一体何をラウラさんにされてましたの?」

 俺達がしつこく追及していくと、

 

「まああれよ、私の切り札をラウラに使ったのよ」

 葵はばつの悪そうな顔をしながら答えた。

 

「何だと?スタングレネードが切り札じゃなかったのか?」

 箒が驚いた顔をしながら、葵に言う。いや、俺もスタングレネードが切り札だと思ってたから驚いている。

 

「あれ~、別に私スタングレネードが切り札とは言ってないわよ」

 葵はニヤニヤしながら俺達に向かって言う。うわ、ムカつく!

 

「じゃあ葵、切り札っていったい何なの?一体ラウラに何をしたの?ラウラのあの表情、ただ事じゃ無かったよ?」

 シャルの疑問に、葵は頭を掻きながら、

 

「じゃあ教えてあげるわ」

 そう言って、葵は再び打鉄に乗りこんでいく。そして、

 

「これをラウラに見せてあげたのよ」

 と、打鉄から空中ディスプレイが投影された。そこには、

 

 

 

 俺と弾がキスしている光景が写り出されていた。って!何だこりゃ~~~~~!

 

 

「な、な、」

 

「え?一夏って」

 

「そんな、一夏さんが…」

 

「あんた、あいつとそんな関係だったの…」

 箒、シャル、セシリア、鈴が驚愕の眼差しで俺を見ていく。いや待て!誤解だ!

 

「言うまでも無いけど、これ合成写真だから」

 皆の驚愕の顔を見ながら、葵は呆れた顔をしながら言った。

 

「…うわ、予想以上に皆信じるわね。最初にラウラにプライベートチャネルで一夏は同性愛者だって言ったら、ラウラ最初は信じなかったけどさ」

 そう言って葵は俺とシャルの方を向き、

 

「一夏、シャルロットが男装してた時、更衣室でしつこく着替えようとか、裸の付き合いがどうのこうの言ってた様ね。その後もなんか男最高とか言いながら、シャルロットとべったりだったようだし」

 ニヤニヤしながら、葵は先月の事を誇張しながら言っていく。いや待て、確かに似たような事は言ったけど!

 

「あの時の様子は結構他の皆も話題になってたようね。他クラスの子から一夏とシャルル本みたいなの読ませて貰ったし」

 そんな本あったのか!

 

「まあそういう疑惑があったもんだから、少しずつ揺さ振りをかけていったらラウラだんだん信じていったわよ。そして、止めにこの画像を見せて思考が停止した所を一気に私が突いたって訳。オーディンの瞳展開してたから、この映像を必ず見てしまい、さぞ網膜にこの映像が焼きついたでしょうね。ふ、ラウラもこれ見て相当心を乱したようね。心が強かったらこんな手に引っ掛からなかったはずだけど、ラウラもまだまだってところかな」

 明後日の方を向きながら、偉そうなことをほざく葵。

 …あ~そうか、昨日言っていた最後の台詞、操縦者が人間云々はこの事だったのか。いや確かに、その言葉通りだったわけだが…。

 

「…最低」

 

「…姑息すぎます」

 

「…途中まで尊敬してたんだが」

 

「…最後の最後であんたは」

 シャル、セシリア、箒、鈴が白い目で葵を眺める。…だよなあ。途中まであんなに熱い展開だったのに最後でお前って奴は…。葵も自覚しているようで、頬に若干の汗を掻きながら、

 

「っとにかく!これで私が学年最強になったわ!アイアムナンバーワン!」

 と叫んだが、皆白い目をするだけで誰も祝福するものはいなかった。

 

 

 

 

 夜、葵は部屋で件の議員さんにドヤ顔で電話していたが、

 

「あんな勝ち方認めるわけ無いでしょ!」

 という怒鳴り声が、携帯電話から聞こえた…。

 葵が本当に議員さんを黙らせる日はまだ先のようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まあ、一応青崎さんがボーデヴィッヒさんに勝ちましたね」

 

「…あの馬鹿。ひっかかるボーデヴィッヒもボーデヴィッヒだが」

 教師だけが入れるモニター室で、真耶と千冬の二人は葵とラウラの試合を観戦していた。その試合状況は全て記録されているのだが、

 

「どうします織斑先生、この試合政府から提出するよう言われてるんですよね?」

 

「…ありのまま提出しろ。それで何かあっても、こんなくだらない事をした青崎が悪い」

 

「わかりました」

 そう言って真耶は編集作業に入った。

 

「しかし、本来なら訓練機で第三世代、しかもボーデヴィッヒに勝つ事が無理なわけだが。よくやったと言うべきか。…まったく、訓練機の青崎がここまでやっているというのに、他の連中は何をやってるんだ。あいつらが青崎を責める資格は無い。勝てないと諦めてるあいつらよりも、手段はアレだったが、勝とうとする青崎を私は評価する」

 

「そうですね。私もラウラさんと戦って勝つ自信はありますが…でも青崎さんみたいに近接戦で勝つのは無理ですね。私なら遠距離でレーザーライフルを使って倒しますけど」

 

「元々ボーデヴィッヒとその機体相手に、近接格闘で勝とうと言うのが無茶だからな。絶対的に相性が悪すぎる。青崎の馬鹿はわざわざ困難な道を選んだだけだ」

 

「しかし青崎さん、本当に何で銃を使わないんでしょうね?わざわざ剣を投げたりするよりも、グレネードランチャーでも使えば楽だし威力も数段上ですのに」

 

「あいつの戦闘スタイルが近接戦重視というのもあるが…、おそらく誰とは言わんが、そいつが剣しか使えないからだろう。近接戦での戦い方を見せつけてるんだろう」

 

「…なるほど。ですから打鉄に備わっている防御シールドも使わないんでしょうか。そういえば織斑先生、織斑先生でしたらボーデヴィッヒさんに青崎さんみたいな条件で倒せますか?」

 真耶の問いに、

 

「当然だな。私なら青崎が使ったスタングレネードも、あの妙な画像もいらん。剣一本で十分だ」

 千冬は余裕の顔をしながら答えた。

 

「葵は気付いてないのか、もしくは出し惜しみしてるのか、それとも本当にまだ無理なのかは知らんが、…葵もいずれ私と同じ事を言うだろう。そしてそれに必ず一夏も、箒も続くだろうよ」

 そう言って、千冬はモニター室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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