Bクラス戦後の補給試験が終わってから2日後の朝、Aクラス戦の作戦の説明を聞いていた。
あの後、雄二が実行しようとしていた作戦が必要なくなったので、昨日Dクラスへ行き条件を変更、こちらとも3か月の同盟を結んだ。
「まずはみんなに礼を言いたい。周りからは不可能だと言われていたのにも関わらずここまで来られたのは、他ならぬ皆の協力があってのことだ。感謝している」
雄二が珍しく素直に礼を言った。これは真面目に雪か霰が降るかもしれない。
「ゆ、雄二、らしくないよ?」
「どうしたのじゃ?」
「ああ。俺もそう思う。だが、これは偽らざる俺の気持ちだ」
本当に珍しい。雄二が素直に認めるなんて。
「ここまで来た以上、絶対にAクラスにも勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すればいいってことじゃないという現実を、教師どもに突きつけるんだ!」
『おおーっ!!』
「そうだーっ!!」
「勉強だけじゃねぇんだ!!」
いや、お前らはもう少し勉強した方がいい。
そんな中優子さんが小声で話しかけてきた。
「勉強も立派な武器の1つよね」
「それはそうだが、みんなには言うなよ?」
「わかってるわよ」
わかっているからこそ小声で話しかけてきたんだろうけど。
「皆ありがとう。そして残るAクラス戦だが、これは一騎討ちで決着をつけようと考えている」
屋上で聞いた話がようやくか。
雄二の言葉にクラス全体が騒然とする。事前に聞いていた俺達とは違い、いきなり一騎討ちと言われたら驚くのは当然だ。
「どういうことだ?」
「誰と誰が一騎討ちするんだ?」
「それで本当に勝てるのか?」
「落ち着いてくれ。今からその説明をする」
雄二が教卓を叩いて皆を静かにさせる。
今回は壊れなかったな。何がって? もちろん教卓のことだ。
「戦うのは当然、俺と翔子だ」
代表同士の一騎討ちだから、Aクラス代表の霧島翔子とFクラス代表の雄二が戦うのはわかる。
でも雄二がどうやって勝とうとしているのかがわからない。相手は学年主席。よほどのことがない限り勝てるはずがない。それに霧島さんのことを翔子って? まさか知り合い?
「馬鹿な雄二が勝てるわけなぁぁっ!?」
思ったことを言ってしまったらしい明久の頬を雄二が投げたカッターがかすめる。
明久の自業自得ではあるけどカッターは危ないだろ。
「カッターなんて投げるなよ、雄二」
「悪い、つい。まあ、明久の言うとおり確かに翔子は強い。まともにやりあえば勝ち目はないだろう。だが、Dクラス戦やBクラス戦も同じだっただろう」
確かにそうだったかもしれないな。それにしてもやっぱり翔子か。
「今回だって同じことだ。俺は翔子に勝つ。俺を信じて任せてくれ。過去に神童と言われた力を、今皆に見せてやる」
『おおーーっ!!』
このクラス、相変わらず士気だけは高いな。
「さて、具体的なやり方だが……一騎打ちではフィールドを限定するつもりだ」
「フィールド?」
「何の教科でやるつもりじゃ?」
「日本史だ」
日本史? 雄二が得意だとか、霧島さんが苦手だとか聞いたことがない。
「ただし、内容を限定する。レベルは小学生程度、方式は100点満点の上限あり、召喚獣勝負ではなく純粋な点数勝負にするつもりだ」
試召戦争は別に召喚獣同士で戦うことだけではない。要は試験の点数が関わっていればなんでもいいのだ。例えば早解きとか。
「それだとどちらも100点で延長戦になるよ?」
「延長戦になったらテストのレベルも上げられちゃうだろうから、ブランクのある雄二には厳しくない?」
「確かに明久達の言う通りじゃ」
「おいおい、俺を舐めるなよ? 俺がそこまで運に頼り切ったやり方を作戦などというものか」
「それなら、霧島さんの集中力を乱す方法を知ってるとか?」
「アイツなら集中なんてしてなくても、小学生レベルのテスト程度なら問題ないだろ」
今度はアイツ呼び。仲がいいのか?
「雄二。あまりもったいぶるでない。そろそろタネを明かしても良いじゃろう?」
「ああ。それで俺がこのやり方を選んだ理由は、ある問題が出れば、アイツは確実に間違えると知っているからだ」
なんで雄二がそんなことを知っているんだ? 知り合い、いや幼馴染?
「ある問題って?」
「その問題は――『大化の改新』だ」
「大化の改新?」
「誰が何をしたのか説明しろ、とか?」
「いや明久、そんな掘り下げた問題じゃない。もっと単純な問いだ」
「いつ起きたのか、ですか?」
「それだ。優衣が言ったとおり、その年号を問う問題が出たら、俺たちの勝ちだ」
「大化の改新が起きたのは645年だよね。こんなの本当に霧島さんは間違えるの?」
「ああ、翔子は確実に間違える。そうすれば俺たちの勝ち。晴れてこの教室とおさらばってわけだ」
どういうことだ、明久ですらわかるというのに学年主席なのにもかかわらず霧島さんが間違えると雄二は断定している。
「雄二」
俺は話の途中ではあるが聞いてみることにした。
「なんだ、和也?」
「さっきから気になっていたんだが、霧島さんとは仲がいいのか?」
「ああ。アイツとは幼馴染だ」
やっぱりそうか。これで雄二がAクラスとの試召戦争にこだわっている意味が少しわかった気がする。おおよそ霧島さん絡みだろう。
「総員、狙えぇっ!」
俺が雄二の返答に納得していたら、突然明久の号令とともに男子ほぼ全員が上履きを構えた。
「なっ!? なぜ明久の号令でみんなが急に上履きを構える!?」
何してるんだ明久、それに他も……。
「黙れ、男の敵! Aクラスの前に貴様を殺す」
「俺が一体何をしたと?」
「遺言はそれだけか? ……待つんだ須川君。靴下はまだ早い。それは押さえつけてから口に押し込むものだ」
「了解です、吉井隊長」
了解するな、須川。
これは止めるしかない。今雄二に死なれると戦争に勝てなくなるからな。
「やめろ、明久。あと他も」
「ど、どうして止めるんだ、和也!」
「あいつが憎くないのか?」
「明久、お前にもいるだろ、幼馴染」
そういって俺は優衣を指す。
「そ、そうだね」
「それに雄二に今死なれると困るだろ」
「和也、それどういう意味だ?」
「別に、そのままの意味だが?」
別に今でなければ構わないという意味だ。
「と、とにかく、俺と翔子は幼馴染で、小さい頃に間違えて嘘を教えたんだ。それにアイツは一度覚えたことは忘れない。だから今、学年トップにいる」
一度覚えたことは忘れないほど頭が良いって凄すぎるな。
ズキン!
唐突に頭が痛んだ。なんだ、この痛み?
「俺はそれを利用してアイツに勝つ。そうしたら俺たちの机は――」
『システムデスクだ!』
俺が頭痛の原因を考えているうちに雄二の演説が終わっていた。本当になんだったんだあの痛み……。そういえば雄二と最初に会った時も……。
☆ ☆ ☆
クラスでの説明が終了し、俺たちは宣戦布告のためにAクラスに来た。
今回の宣戦布告には代表の雄二と明久と俺が来ている。この3人がいればいいだろうと雄二が言っていたからだ。確かにこれ以上人がいても意味ないな。
「Fクラス代表の坂本雄二だ。Aクラス代表はいるか?」
「今、代表はいないわよ」
雄二の問いかけに近くにいた女生徒が顔を上げずに答えた。
「そうか。それなら誰かAクラスの代表代理として出てきてくれないか?」
「それなら私が受けるわ」
さっき答えてくれた女生徒が顔を上げてこっちを見た。
「萩原さん?」
「あら、吉井君じゃない」
知り合いなのか? というか明久を見た一瞬顔が赤くなった気がするが気のせいか?
「知り合いか?」
「萩原文乃さん。中学の時の同級生だよ」
明久と同じってことは俺とも同じ中学出身ってことだよな。萩原文乃……ああ、明久の隣の席に座っていた人か。いつも本を読んでいるか勉強していたから顔に見覚えがないのはそのせいか。
「立ち話もなんだし座らない?」
「ああ、そうだな」
彼女の提案でロビーにて話し合うことになった。
「一騎討ち?」
「ああ。Fクラスは試召戦争として、Aクラス代表に一騎打ちを申し込む」
「何が狙いなの?」
「もちろん俺達の勝利が狙いだ」
雄二の言葉に萩原さんは眉をひそめた。
萩原さんが訝しむのも無理はない。最下位に位置する俺たちが、一騎討ちで学年主席の霧島さんに挑むこと自体が不自然なのだから。裏があると考えるのは当然だろう。
「面倒な試召戦争を手軽に終わらせられるのはありがたいけど、わざわざリスクを冒す必要はないわね」
確かにそうだな。いくら優衣と優子さんがいるとはいえ、AクラスとFクラスじゃ戦力差は明らかだ。
「賢明だな。ところでBクラスとやりあう気はあるか?」
「Bクラス? BクラスはFクラスに負けたはずよね? だから3か月間は宣戦布告できないはずよ」
「知っているだろ? 実情はどうであれ、対外的には『和平にて終結』になっている。規約には何の問題もない」
これは設備を入れ替えなかったからこそできることだ。でもこれじゃあ脅迫に近いよな……。
「……それって脅迫?」
「人聞きが悪い。ただのお願いだよ」
萩原さんもそう思ったらしい。これだと雄二が悪役に見えるよな。いや、見えるではなく悪役そのものか。
「うーん……わかったわ。何を企んでるかわからないけど、代表が負けるなんてありえないからね。その提案受けるわ」
「え? 本当?」
「でも、こっちからも提案。代表同士の一騎討ちじゃなくて、お互い7人ずつ選んで、一騎討ちを7回で4回勝った方が勝ち。これでいいなら受けてもいいわ」
そこはAクラス。ただで提案を受けてはくれないか。
「なるほど。こっちから優衣が出てくる可能性を警戒しているんだな?」
「ええ。彼女は去年常に学年2位にいたからね。万が一があるし」
これなら普通の試召戦争よりは勝ち目がありそうだな。それにこれを拒否すると普通の試召戦争をする羽目になりそうだし。
「その条件で受けるよ」
「おい、和也。何を勝手に」
とりあえず雄二を無視して話を進める。
「でも、勝負する科目はこっちで決めさせて貰うよ。そのくらいのハンデはあってもいいはずだから」
一応こっちの意見を付け加える。
言っといてなんだけど、挑む側からハンデをくれとか意味わからない気がするんだが。でもこれなら雄二も文句は言わないはずだ。
「え? うーん……」
「……受けてもいい」
突然後ろから声が聞こえた。
「ぅわっ!」
「いったい……どこから?」
驚いて後ろを向くとそこには、Aクラス代表の霧島さんが立っていた。
声がするまで気配すら感じなかった。いつからそこにいたんだ?
「……雄二たちの提案受けてもいい」
「代表、いいの?」
「……その代わり、条件がある」
「条件?」
「……負けた方は何でもひとつ言うことを聞く」
「それと、勝負の科目の7つの内4つそっちで決めさせてあげる。3つはこっちで決める。これでどう?」
妥当なところだろう。これに反対すると1からやり直しになりそうだ。
「それでいいと思うけど、雄二?」
「まあ、そうだな。交渉成立だな。それと和也、俺を無視して進めるな」
「悪い」
「……勝負はいつ?」
「午後からでいいか?」
「……わかった」
「よし、いったん教室に戻るぞ」
「そうだね。皆にも報告しなくちゃいけないからね」
交渉は終了し、Aクラスを後にした。
それはそうとどうして霧島さんはこんな条件を出してきたんだろう。絶対に勝つという自信があるからだろうか? それとも……。