《日本史勝負 限定テスト 100点満点》
《Aクラス 霧島翔子 97点》
VS
《Fクラス 坂本雄二 83点》
「三勝三敗一分になりました」
皆で雄二のもとになだれ込む。
「……殺せ」
「良い覚悟だ、殺してやる! 歯を食い縛れ!」
「お兄ちゃん、落ち着いて」
明久が雄二に掴み掛ろうとしたところを愛莉が後ろから抱きつき止めた。これなら明久もとまるだろう。妹を振りほどいてまでやるはずがない。
「だいたい83点ってなんだよ! 満点じゃないと意味ないのに、この点数だと―――」
「いかにも俺の全力だ」
「この阿呆がぁーっ!」
「明久、とりあえず落ち着け。今のお前でも確実に100点は取れないだろ」
「それについては否定しない!」
そんなに力強く否定するのもどうなんだ?
「否定しないなら、雄二を責めることは出来ないだろ。それに今死なれると困る」
「くっ! なぜ止めるんだ和也! この馬鹿には喉笛を引き裂くという体罰が必要なのに!」
「それは体罰ではなく処刑だと思いますが……」
「この勝負は引き分けということで、この後どうするかは、双方の代表同士で決めてください」
高橋先生の声がしたので雄二の処刑は中断された。
俺は雄二に近づき声をかける。
「雄二、1ついいか?」
「なんだ?」
「この後の会談、俺が全部進める」
「なっ!」
「文句は受け付けない。自信満々で挑んだのに負けた雄二が悪い。雄二が勝っていればこの会談もなかったわけだしな。でもまあ、代表がいないと困るからいてもらうが」
「ぐっ……!」
何も言い返せずに言葉に詰まる、雄二。
「そんなこと言ってみたが、俺がやっても雄二がやっても変わりはないはずだ。違いがあるなら1つくらいだろうな。そんなわけでとりあえずついてきてくれ」
いつものメンバーを連れて会談場所に向かう。
会談場所には霧島さんと萩原さんがいた。
「待たせたかな?」
「大丈夫よ。それで青山君が代表でいいのかしら?」
「ああ」
「そう。それでこれからどうするのかしら? 延長戦?」
Aクラス側は随分と好戦的なようだ。延長戦をやってもいいがやるとなると普通の試召戦争になるだろう。わざわざそこまでして勝敗を決めてもお互いに消耗するだけで得られるものがない。だから、
「俺たちFクラスはAクラスに和平交渉を申し込む。それと2つ提案がある」
和平交渉、引き分けで終わらせることを提案した。
「どういうことかしら?」
「このまま続けてもお互いにデメリットしかない。正直どっちが勝ってもおかしくはないからな」
「私たちAクラスが負けるなんてことあるわけないじゃない!」
Aクラスのほとんどの生徒が萩原さんの言葉に頷く。
状況はよく考えた方がいいと思うぞ。1から説明はするけど。
「ちゃんとわかってないみたいだから説明するよ」
「なっ!? どういうことよ!」
「ふ、文乃。お、落ち着いて」
萩原さんが俺の言葉に反応して少し感情的になったところを後ろにいた女子が抑えてくれた。
この一騎討ちの間ずっと萩原さんの後ろに隠れていたけど、ようやく前に出てきてくれたみたいだな、神崎詩織。
「続けていいかな?」
「う、うん……」
答えると同時にまた萩原さんの後ろに隠れてしまった。なぜだ? というかこの様子じゃ一騎討ちに出てこられるわけないか。この感じやっぱりどこかで見たことがあるような……。
おっと話を戻そう。
「それじゃ続けるけど、まず、吉井愛莉、佐藤美穂、吉井明久、工藤愛子、木下優子、久保利光、姫路瑞希。この7人は戦死。戦争終了まで補習室だ」
「それはそうね」
「そしてAクラスの萩原文乃、川越勇人は点数を消費している」
「それは試験を受ければ回復できるわよ」
「対してFクラスは、俺とムッツリーニは腕輪で点数を消費しているが、優衣は全くの無傷だ」
「…………」
ここまでは今回の戦いをおさらいしただけだ。
本題はここからだ。
「更に致命的なのがAクラス代表の霧島翔子」
「代表が?」
俺と雄二、ほか数名を除いて全員が首をかしげる。
やっぱりわかっていなかったみたいだな。
「霧島さんの日本史の点数が今何点あるかわかるか?」
「大体350点くらいあるはずよ」
「……文乃。今の私はそんな点数はない」
「だ、代表。何を言って……」
まだ気づかないみたいだな。
「日本史のテスト、最後に受けたのはいつだかわかるか?」
「さ、さっきです……」
「あっ……」
詩織の言葉を聞いてそれに気が付き青ざめるAクラスの面々。
そう、Aクラス代表、霧島翔子の日本史の点数は97点。下手をすればFクラスの生徒、誰もが倒すことができる点数だ。これは雄二にも言えることだが、あの感じ、それにあの数学の点数からいつもとほとんど変わらない気がするから言わないでおく。
ちなみに補充試験を受ければどうにでもなると思うかもしれないが代表は試召戦争中に補充試験を受けることを禁止されている。これは補充試験中で代表不在という事態が起きないようにするためだ。
「さっきの話をまとめると、去年の成績上位10名の中で優衣と優子さんはFクラス。残り8名のうち4名が戦死、3名が点数を消費している。よって無傷なのがここにいる神崎詩織1人だけ」
「でも、他の人だっているわ」
「で、でも文乃。和也君達の点数忘れたの?」
「……そうだったわね」
そう言って少しこっちを見る。
俺と優衣の点数というのもあるけど、操作技術ならこっちが圧倒的に有利だ。
というか代表2人を放置して話し進めているがいいのかこれ? 雄二は別にいいとして霧島さんの方は萩原さんが全権代理だと思っていいのか、ずっと2人で話してるけど。
「雄二。今更なんだがこのまま俺が続けていいのか?」
「本当に今更だな。まあホントに俺が考えていたこととほぼ同じだったからな、あとはすべてお前に任せる」
クラス代表がそんなこと言っていいのか……。『すべてお前に任せる』その言葉、後悔するなよ?
「了解。それじゃ提案の方に行ってもいいかな?」
Aクラス側に確認する。
「そうね。続けても私たちにメリットはないし。いいですよね、代表?」
「……話、続けて」
Aクラスの代表も続けていいと言っているし次に行くか。
「1つは、今度の清涼祭Fクラスと合同にしてくれないか? まあこれは教師に許可貰わないといけないから、出来るかどうかわからないけど。Aクラスとしてはどうなのか聞いておきたいんだ」
これはあくまで俺の提案。Fクラスの人にも話してない。
雄二がすべて俺に任せると言ったから文句は出ないだろうし、他の人たちもAクラスと一緒ならむしろ進んでやってくれるはずだ。
「それはどういうことなのかしら?」
「Fクラスの教室を見てみればわかると思うけど、あの場所で出し物をするには色々と衛生的に問題がありそうなんだ。だからこの際Aクラスと合同にできないかと思ったんだ」
「そこまで酷いのね……」
俺の言葉に苦笑いをする萩原さん。新校舎と旧校舎だと知らないのか。
「ど、どうするの?」
「ここで話し合っている私達だけで決めるわけにはいかないわよね。代表はどう思いますか?」
「……私は構わない」
「ちょっと、和也」
Aクラス側が話し合っているからか後ろから声をかけられた。
「なんだ?」
「なんだ……じゃないよ!? さっきの話、初耳だよ!」
「それはそうだろ、さっき初めて話したんだから」
「じゃが、予め話しておいてもよかったじゃろ?」
「いや、勝っても負けてもこの話はないから言わなかったんだよ」
このひと言で優子さん辺りはわかったみたいだけど、わからない連中もいたみたいだ。
「どういうこと?」
「勝てば設備を交換するから必要ないですし、負ければ交渉も何もないということですよ」
さっき優衣には話しておいたから代わりに説明してくれた。
「そういうことだ」
「なるほど、引き分けるなんてほとんどありえないからね。たとえそうだったとしても、僕らに何も相談なしで進めるのはどうなの?」
雄二がテスト受けている間に思いついたんだよな。だから優衣には話せたんだけど。
「確かにそれは悪かったとは思ってる。でも反対はしないだろ?」
「しないというより出来ないかな?」
その他のメンバーも頷く。
「これでFクラスはOKだな」
Aクラスの方に向き直る。あっちはまだ話し合っているみたいだった。
「長くなりそうならこの件は今度でいいけど?」
「その方がよさそうね。欠席している人もいるから」
やはり水瀬は休みみたいだ。
「了解。それで2つ目は、戦争前に決めた約束のことだけど」
「何でもひとつ言うことを聞くだったわね。それがどうかしたのかしら?」
「引き分けたから、代表戦で勝った霧島さんに使ってもらおうかと思ったんだ」
そう言いながら逃げ出そうとしていた雄二の襟をつかむ。
「ぐっ……和也、どうして俺の襟をつかむ!」
「クラス代表がこの場にいなくてどうするんだ」
「何してるのよ……」
俺と雄二のやり取りに周りの人たちが呆れている。そもそもこの提案は雄二のためでもあるんだけどな。
雄二がこの試召戦争を始めた理由を俺なりに推測したところ霧島さんと何かあるのではないかという結論に至ったわけだ。この反応からして合っていたみたいだな。
「それじゃあ霧島さん、なんでもどうぞ」
「……わかった」
そう言って雄二の方を向く。
「……雄二、私と付き合って」
「お前、まだ諦めてなかったのか。その話は何度も断っただろ」
「……私は諦めない。ずっと雄二のことが好き」
俺が仕掛けておいてなんだけど代表2人は置いておいて。
「とりあえずこれで終わりかな?」
「話が急すぎてついていけないのだけど…」
「その辺は気にしないで。Aクラスからは何かある?」
「特にないわよね?」
と萩原さんは後ろの皆に確認をとる。
「ないみたい」
「それじゃ、これで終わりだな」
代表が2人はまだ何か言っているが、こっちは終わった。
俺が後ろに戻るとそこに西村先生が現れた。
「どうしたんですか、西村先生」
「我がFクラスに伝えることがあってな」
我がってどういうことだろう?
そんなことを考えていると、西村先生は少し溜めて言い放った。
「戦争に勝てなかったお前らの担任を今日から俺に変わることになった」
『なにぃっ!!』
Fクラスの男子生徒、いつもながら俺と秀吉を除く、が悲鳴を上げる。俺にとってはみんなが静かになってくれるから好都合で割とうれしいことだ。
そんなこんなでAクラス戦は終了した。
その後のちょっとした会話。
「ところで萩原さん」
「どうかしたの?」
「水瀬って今日休み?」
「芹菜? ええ、休みよ。そうでなければ出てもらってるわよ」
「そうだよな。あいつは地学なら誰にも負けないレベルだし」
「理由はいつもの迷子よ。今朝早くに電話が来て『ここ、どこ?』って言ってたから星空を眺めながら歩いて遠出したんだと思うわ。全く、地図も読めないし集中すると周りも見えなくなるから困ったものよ」
「やっぱり、それか」
「やっぱりって?」
「いや、昨晩は春には珍しいくらい星空がきれいだったから。そういう日の翌日は大体休むんだよ。中学の頃はよく探しに行ったからな」
「ということはそのタイミングで仕掛けてきたのかしら?」
「いやいや偶然だって。その辺りは雄二が決めることだから」