「何があった……?」
教室がやたらと静かになったので顔を上げると教室には俺を含めて5人しかいなかった。
朝のHRが終わって1時限の授業が始まるというのに誰も戻ってくる様子がない。俺が今朝のメールの返事をどう伝えるかを出席とってから考えている間に何が……。
「あの騒ぎの中寝てたの?」
「いや、少し考え事を……」
隣の席の優子さんは俺が寝ていたのかと思っていたらしい。明久や雄二はいつもの事だが俺は1度も授業中とかに寝たことないんだけど……。
話しかけられたついでに何があったか聞いてみることにした。
「どれだけ考え込んでいたのよ……」
優子さんが言うには出席をとっているときに起きたらしい。
Aクラス戦で勝てなかったアタシたちの担任は西村先生に変わった。
何事もなくスムーズに進んでいく出欠確認。そのまま進むかと思ったら雄二君のところで事件が起きた。
「坂本」
「………………明久がラブレターをもらったようだ」
『殺せぇぇっ!!』
隣のアタシでもぎりぎり聞こえるくらいの小声だったのにクラス全員――かと思ったけど和也君が机に突っ伏したまま動かない――が聞き逃していないとはこのクラス何かがおかしいと思う……。
「ゆ、雄二! いきなり何を言い出すのさ!」
「どういうことだ!? 吉井にラブレターだと!」
「それなら俺達だって貰っていてもおかしくないはずだ! 自分の席の周りを良く探してみろ!」
「ダメだ! 食いかけのパンと潰れたパックしか出てこない!」
「もっとよく探せ!」
「……出てきた! 未開封のパンだ!」
「そんなもの今はどうでもいい! 何を探してるんだお前は!?」
戸惑いの声を上げる明久君の後ろで騒ぎ始めるクラスメイト達。
明久君が貰っているからって貴方達が貰っているはずないでしょ……。というか、ホントにどうなってるのよ、このクラス。
「お前らっ! 静かにしろっ!」
西村先生の一喝で教室が静まり返る。
「それでは続けるぞ」
「手塚」「吉井コロス」
「藤堂」「吉井コロス」
「みんな落ち着いて。返事が『吉井コロス』になってるよ!」
「そうだ。『吉井コロス』じゃなくて『明久コロス』にしろ」
『そうだなっ!』
吉井だと愛莉も含まれるからってこと?
雄二君も火種撒いておきながら――って寝てる!? 今さっきまで起きてたのにそんなにすぐ寝れるものなの?
「そういう意味じゃないよ!」
「吉井、静かにしろ」
「注意するべきなのは僕じゃないでしょう!?」
ここでいつもなら止める和也君は動かないし、というよりこっちも寝ているみたい。和也君の場合凄く珍しい気もするけど……。
だからと言ってここでアタシが何か言うとまた新たな火種になるかもしれないと思うと黙っているしかなかった。
「新田」「明久マジコロス」
「根岸」「明久ブチコロス」
さらに酷くなっているわね……。
「欠席者はいないな。今日も一日真面目に勉学に励むように」
そう言って西村先生は教室を出て行った。
「なるほど、西村先生が居なくなってからFFF団が明久を血祭りにしようとしたところで明久が逃走。捜索中というわけか」
「それで大体あっているわ」
となると様子を見に行くべきか静観するか……。雄二もこうなることはわかってるはずなのに口に出すとか、何やってるんだか。
でも騒ぎのもとのラブレターは確か鞄の中だった気が。そしてその鞄はそこにあるし。
……………まぁいいか。
「でも、兄さん。良かったですね」
「ん? 何がだ?」
「今朝のメールです。内容が内容ですし、気付かれたらどうなっていたかわからないですよ」
「確かに……」
女子からのメールってだけで明久と同じように追われていたはずだし。しかもその相手が神崎詩織だ。前に聞いたところ詩織は結構男子に人気があるらしい。ムッツリーニ調べでは守ってあげたい女子ランキング不動のトップだそうだ。うちのクラスにもファンがいることだろう。それでもってあの内容じゃあ…………うん、命が危ない。
そこまで考えてふと1つ引っかかりを覚えた。
どうして優衣は内容まで知ってるんだ?
「優衣、なんで内容知っているんだ?」
「あの時、誰からとしか聞かれなかったのにわからないのですか?」
俺の顔の近くにあったというのに見えたとかいうのか?
「……まさか見えたとかいう?」
「雄二君は見てなかったみたいですが、私にはばっちり見えました」
優衣、そこは見えました、ではなく見ました、だと思うぞ。どう考えても故意に見ない限り見えないんだから。
「メール?」
「今朝、神崎さんからメールをもらったのです」
「女子からのメールね。それだけでも狙われそうね」
雄二に見られなかっただけ良かったのか……。見られていたら今頃は明久と同じように追われていただろうし。でも詩織からメールを貰ったことは知ってるはずなのにどうして明久だけ? まさかただ単に口が滑っただけとかいうのか。もしくは今朝の死亡フラグが原因か。
本人がいないしこのことは置いておいて優衣はどうやって見たんだ? 俺より身長の高い雄二が見えるならわかるけど優衣は無理だろ。俺と優衣の身長差15㎝は最低でもあるんだし。どういうことだ……。
「優衣……」
「なんですか?」
「どうやって携帯の画面見たんだ?」
「教えません」
「そ、そうか」
なんで教えないんだ?
気になるけど仕方ないか。
ふと時計を見る。現在時刻8時51分。1時限の授業開始時間を過ぎている。
「で、先生はいつまで来ないんだ?」
「そういえば来ておらんのう」
「私達しかいないけど、変だね」
前の席で話していた2人もこっちの会話に参加してくる。
「呼びに行った方がいいか?」
「私が呼びに行ってきましょうか?」
「いや俺が行くよ。何の授業だっけ?」
「化学よ」
「化学な、わかった。授業は出来なくても出席だけでもとってもらわないと」
俺はそう言って教室を出ようとしたが、ちょうどそこに担当の教師が来た。立ちあがって損した。
「遅れてしまって申し訳ありません。授業を――」
と言ったところで固まってしまった。
教室には5人しかいないうえ、俺が教室から出ようとしているのだから無理もない。
「呼びに行く必要なくなったね」
確かに愛莉の言うとおりだけど、どうやってこの状況を説明すればいいんだ?
「他の人達は?」
その疑問はもっともだと思う。
「えーと……」
「色々ありまして……」
「たぶん校舎のどこかで……」
「暴れ回っています」
「大体こんな感じじゃ」
『ぎゃぁぁ!!』
リレー式に説明したら、それに合わせるかのように悲鳴が聞こえてきた。それにこの声は明久ではなさそうだな。追ってる側のか。
『……………』
「さ、さて授業を始めます」
それはそうと俺達だけで授業進めていいのか? 今残っている人はクラス内の成績では上から数えた方が早い人しかいないんだけど……。