「あぅ……」
1時限目が終了したと同時に私は机に突っ伏した。
今朝和也君にメールを出したのは良かったけど、返信が来ない……。送る勇気が出なくて遅くなったから、もう学校にいて見てないからかもしれないけど……。
「うぅ……」
「どうかしたの、詩織?」
いきなり隣で突っ伏した私に驚いたのか文乃が話しかけてきた。
「ふぇっ!? ふ、文乃……」
「授業中もぶつぶつ何か言ってたし、何かあったの?」
「―――っ!?」
にゃーっ!?
考えてること口にしていたみたい…。恥ずかしさのあまり死んじゃいそう……。
「あぅ……」
たぶん真っ赤になっている顔を隠そうともう1度机に突っ伏す。
もう、私のバカバカ。なんで口に出しちゃってるの……。
「ち、ちなみにどんなこと……つぶやいてた?」
「具体的には聞こえなかったわよ」
それならよかった……。いくら文乃でもあまり聞かれ―――
「でも、さっきの反応から見て大体わかったけど」
―――えっ?
「ど、どういうこと?」
「簡単なことよ。私には……というより他の人に聞かれたくない内容で、あんな反応するのは1つしかないからよ」
そこで一度言葉を切って私の方に顔を寄せて、
「青山君のことでしょ?」
小声でそういった。
「――――っ!?」
「やっぱりそうね」
「あぅ……」
私ってやっぱりすぐに顔に出ちゃうみたい……。
それにしても頭がくらくらする……。顔もすごく熱い……。
「やっぱりわかりやすいわね――って詩織?」
文乃の声が聞こえたけどそのまま意識を手放した。
休み時間になり今朝のメールのことを聞こうとAクラスに向かった。
ここまでは良かった。
教室に着いて詩織を探していたら、何故か頭から湯気を出して机に突っ伏していて横にいる萩原さんが慌てていた。
「青山君、ちょうどよかった!」
萩原さんが俺がいることに気づき話しかけてきた。何がちょうどよかったのかは謎だけど。
「どういう状況?」
なんでこの1時間くらいの間に3回もわけがわからない状況に遭遇するんだ……。いや1回はまだわかる状況か。
「詳しいことは歩きながら話すから、とりあえず手伝って」
「手伝えって一体何を?」
「この子を保健室に連れて行くのを、よ」
詩織を保健室に……。
「俺が……運ぶのか?」
なんで俺が? というか体調悪かったのか?
「私が連れて行っても良かったけど、さすがに大変だから」
「了解」
とは言ったけどどう運べばいいんだ?
………………………。
仕方がない、アニメとかでよくあるお姫様抱っこをやるしかないか。
「……やっぱりそう運ぶんだ」
萩原さん、やっぱりってなんですか?
「し、仕方ないだろ時間ないし……」
「それもそうね。早く連れて行きましょう」
とりあえず詩織を抱えて廊下に出る。
休み時間がもうすぐ終わるためか廊下には人がいなかった。この状態で通るには好都合だ。
「それじゃあ、説明してくれ」
「そうね」
………………。
萩原さんの説明で大体の事はわかった。なんで俺の名前が出たのかは気になるが、話からするとしばらくすれば起きそうだな。体調不良とかではなくて良かった。詩織と話すのはそれからでいいか。
しかしよく考えたらこの状況、
1、詩織をお姫様抱っこしている。
2、さらに萩原さんと話している。
これは相当まずい。 かなりまずい。あいつらに見つかれば襲われるんじゃないか?
しかも今は教室にいないしどこにいるかもわからない。今この瞬間にも遭遇しかねないのだ。
やめやめ、考えるだけでも恐ろしい。
「それはそうと、清涼祭の事どうなった?」
恐怖の塊を頭の隅に追いやり、今まで聞いていなかった対談の時の提案のことを聞くことにした。
「教師の方はAクラスが良ければ問題ないみたいだけど。Fクラスの方は言うまでもなく全員賛成で可決されたけど」
西村先生に聞いたところAクラスがOKすればいいとのことだった。あの状態の教室で出し物をやるのは西村先生もまずいと思ったのだろう。
「こっちも大丈夫よ。人数増えた方がいろいろ楽になって当日も休みが増えるって言ったら、反対意見もなく終わったわ」
やはりAクラスとは言っても高校生。文化祭は楽しみたいみたいだ。
「それならよかった」
「出し物とかの話し合いはどうするのかしら?」
「そっちで決めてもらった方がいいかな。丸投げして悪いけど、こっちが考えてもまともなものが出ない可能性があるし」
「わかったわ」
と言ったところで鐘が鳴った。
「授業始まったけど大丈夫なの?」
「たぶん大丈夫だ。クラスに4人しかいないし」
他の連中が戻っていなければの話だけど。
「それはそれでどうなのよ……」
俺の言葉には困惑した声を出す萩原さん。
「まあうちのクラスだし……。そういう萩原さんは大丈夫なのか?」
「一応遅れるとは言ってきたから大丈夫よ」
「そっか」
ここで戻られると保健室のドアが開けられなくて困るんだけどな。
「それに私が戻ったら困るでしょ?」
「まぁ……はい」
そうこうしている間に保健室に着いた。
「失礼します」
萩原さんがドアを開けて中に入った。続いて中に入る。
「あれ、先生がいない?」
「そうみたいね」
保健室内はもぬけの殻だった。人一人いない。丁度出ているタイミングだったのか。
先生がいないとなると詩織はとりあえずベッドに寝かせておこう。制服のままだと皺になってしまいそうだけど仕方ない。
「それで、どうする?」
「どうするって?」
「教室に戻るかって話だ。俺は今の時間はもう自習済みの範囲だから目が覚めるまでここにいようと思ってるけど」
さっき聞いた話から今朝のメールの返事、昼休みまでとか先延ばしにするとまたこうなりそうだし、タイミング的にはちょうどいい気がする。
「それはどうして?」
「いや、目が覚めたら保健室に寝かされていて、誰もいないとなるとパニック起こすんじゃないか?」
「この子ならあり得そうね……」
その光景を想像したのか少し苦笑いをする萩原さん。言った自分が言うのもなんだがやっぱり想像つくんだ。
「それなら私も残るわ」
……予想外の回答。これじゃあメールの話ができな――――いや、問題ないか。
「だってあなたと保健室で2人きりなんてことになったらもっと混乱しそうだもの」
た、確かにそうかもしれない。
だったら彼女に伝言を頼んで俺は戻ればいいか。
「それにあなたに少し聞いてみたいことがあったのよ。長月中元生徒会長さんに」
そう言って萩原さんはベッドに腰かけた。
俺に話ってことは戻れないな。
でも、どうしてわざわざその呼び方をするんだろう。今では水瀬が会長と呼ぶくらいなのに。
もしかして中学のときの話か? それなら面識がなかった俺じゃなくてほぼ一緒に行動していた水瀬に訊けばいいはずなのにどうして。
「俺に?」
「そうよ。まずは……」
まずは、ということはいくつかあるらしい。
「この娘のこと好きなの?」
「……えっ?」
今この人なんて言った?
「詩織のこと好きなの?」
「――――――」
あまりにも突拍子の無い質問に頭がついていかない。中学の頃の話かと思っていたから完全に意表を突かれた。
と、とりあえず頭の中で整理しよう。
まず質問が、『俺が詩織のことが好きか?』だ。
もちろん嫌いではないけど好きかと言われるととてつもなく答えにくいわけで、どうすればいいんだ!?
「え、えーと、どうしてそんな質問を?」
「さっきこの娘の事お姫様抱っこしていたから?」
「だからあれは!」
「冗談よ」
えっ、冗談?
真面目な顔していたから騙された。
「私なりにあなたがこの娘を事故から助けた理由を推測してみたのよ。その結論として好きなのかと思ったの」
――って、なんでいきなりあの事故の話になるんだ?
この事故というのが俺と詩織が出会うきかっけになったものだろう。
というより、あの事故のことも知ってるのか。詩織から聞いたのか?
あの時のことは当時の新聞に小さく載っていたけど、名前は書いていなかったはずだし。
「それ以外に考え付かなかったわ。わざわざ危険を冒してまで他人を助けようとする理由が、ね」
そこでようやく最初の質問が理解できた。
別に恋愛の話ではなくて、俺が助けた理由が知りたかったのか。
「……別に好きだから助けたってわけではないよ。そもそもあの時点では詩織のこと知らなかったし」
「それなら――」
「目の前で危険な目に遭っている人を助けるのに理由なんてない。それもこの学校の制服を着ている人だったから見過ごせなかっただけだ。それに……」
「それに?」
「似ていたんだよ……って、あっ……」
「似ていたって誰に?」
「えっ、あ、いやなんでもない」
まずい、思わず口に出してしまった。このことは誰にも言ってなかったのに。
「なんでもないわけないでしょ? それで誰に似ていたの?」
「言わなきゃダメ、かな?」
「ダメとは言わないけど気になるわね」
「えーと……」
「…………」
無言でじーっと俺を見つめてくる萩原さん。なんとなく怖いです。
「それはその……昔の……知り合いに……」
「昔の知り合い?」
「そう、昔の知り合い」
これ以上は答えないという意味も含めて俺は繰り返した。
正確には誰に似ていたのかというのはいまだにわかっていないから答えられないだけなのだ。ただあの時、詩織の姿と重なっただけで、そもそも知り合いなのかも怪しいくらいだ。空想の人の可能性だってある。
優衣にでも聞けば分かるかもしれないけど、出来れば人に聞かずに見つけ出したいんだよな……あの人のことは。
「ふーん、昔の知り合い、ねぇ……」
「な、何か引っかかることでも?」
「その人って青山君の好きな人?」
「――――――」
思考が再び停止した。
「ごめん、再起動するからちょっと待ってくれ」
「えっ、再起動?」
目を瞑り、深呼吸をする。
……………………。
……………。
……。
「ふぅ。再起動完了。それで何の話してたんだったか?」
「記憶を抹消した!?」
「なんのことだ?」
もちろん記憶を抹消しているわけではない。ただ俺はとぼけているだけだ。そうでもしないと問いかけに答えなければいけなくなるからな。
「それじゃあ、俺そろそろ戻るよ」
そう言いながらドアの方に歩き出す。
「ちょっと、まだ話が終わってないわよ」
「その話はまた今度にしよう。それと1つ頼みごとが」
「何かしら?」
「詩織に伝言を。『放課後、校門で待ち合わせ』と」
「……了解よ、起きたら伝えるわ」
「それじゃ、よろしく」
俺はそのまま保健室を出た。
あいつらを止める前にまず彼女に頼まれたことやっておかないとな。
「好きな人……か……」
あの時無意識に体が動いたってことはあの人は―――