まさか予感が当たるとは思わなかった。
今俺達3人は、いや優衣を含めて4人は保健室にいる。あともう少ししたら救急車が来るらしい。学園長が呼んだみたいだ。
なぜそんなことになっているのかというと、目の前のベッドで眠っている和也、それが理由だ。
それは30分ほど前の学園長室で起こった。
最初は普通に教室環境の改善について交渉するはずだった。
それが突然、
「(盗聴器を見つけた。他にないか調べるために康太から機材を借りてきてくれ)」
と耳打ちされた。植木鉢を探っていたし、その時見つけたのだろう。だからすぐにムッツリーニの所に向かった。
それが終わり、俺たちが先ほどいた場所に戻ると学園長が口を開いた。
☆ ☆ ☆
「では、話を戻そうかね。あんたたちの要求はわかった」
「では、学園長――」
「ただし、1つ条件があるさね」
「条件、ですか」
「そうさね。その条件を無事完遂できれば教室の改修は保証しよう」
「その条件とはどのようなことでしょうか?」
「清涼祭に『召喚大会』があることは知っているだろう」
召喚大会。一応説明しておくと召喚獣を使ったトーナメント制のタッグマッチだ。全く興味がなかったからこのぐらいしか俺は事前情報を持っていない。
「ええ、知っています」
「それなら話が早いさね。そこの決勝であんたたちに戦ってもらいたいのさ」
「決勝で……どうしてですか?」
「優勝賞品があるのは知っているだろう。正賞には賞状とトロフィー、『白金の腕輪』、副賞には如月ハイランド プレオープンプレミアムペアチケットが用意してある」
ペアチケット、だと! もしかしなくてもあいつが出てくるじゃないか!
あのときやたらと念を押してきたのはこの大会で優勝すれば確実に手に入ることを知っていたからか。
「そうみたいですね」
「この副賞のペアチケットなんだが、ちょっと良からぬ噂を聞いてね。出来れば回収したいのさ」
しかもいわくつきだと! これはヤバいな。そんなもので一緒に行くことになれば何が起きるかわからない。何があっても翔子が優勝することだけは阻止しなければ!
いや1回落ち着こう。この程度のことで冷静さを欠いてはダメだ。
「回収ですか。それなら賞品として出さないというのは…………なるほど、そういうことですか」
「ちょっ、和也。今の一瞬で何を察したの!?」
「あんたは察しが悪いね。教頭が勝手に進めたとはいえ、文月学園として如月グループと行った正式な契約さ。今更覆すわけにはいかないんだよ」
そういえば噂で、『学園長は召喚システムの開発で手一杯で、経営に関しては教頭に一任している』なんてことを聞いたが、本当のようだな。
「契約する前に気付いてくださいよ。学園長なんだから」
「教頭が勝手にそんなことを決めるとは思っていなかったのさ。学園としての契約はアタシの所に持ってくるように言っておいたんだけどね」
なるほど、完全に一任していたわけではないのか。
「それに白金の腕輪と深紅の腕輪の開発で手一杯だったんだよ」
深紅の腕輪? 優勝賞品は白金の腕輪だと言っていたがどういうことだ?
「それで気が付くのが遅れてしまったと?」
「そういうことさね」
「それでその良からぬ噂っていうのはなんですか?」
「つまらない話さね。如月グループは如月ハイランドに1つのジンクスを作ろうとしているのさ。『ここを訪れたカップルは幸せになれる』っていうジンクスをね」
「それのどこが悪い噂なんです? 良い話じゃないですか」
「そのジンクスを作るために、プレミアムチケットを使ってやってきたカップルを結婚までコーディネートするつもりらしい。多少強引な手段を用いてもね」
「なんだと!」
思わず大声を上げた。
やばいやばいやばいやばい。非常にまずい状況だ。行ったら結婚。行かなくても約束を破ったから結婚。どちらに転んでも人生の墓場まっしぐらじゃないか。
「ど、どうしたのさ、雄二。そんなに慌てて」
「慌てるに決まってるだろ、明久! 今学園長が言ったのは『プレオープンプレミアムペアチケットでやってきたカップルを如月グループの力で強引に結婚させる』ってことだぞ!?」
「う、うん。言い直さなくてもわかってるけど」
「そのカップルを出す候補が、我が文月学園ってわけさ」
「くそっ。うちの学校はなぜか美人揃いだし、試験召喚システムという話題性もたっぷりだからな。学生から結婚までいけばジンクスとしては申し分もないし、如月グループが目をつけるのも当然ってことか!」
「雄二……」
俺がそう捲し立てると何かに気がついたのか、和也が半眼で俺を見てきた。
「大方、霧島さんにチケットが手に入ったら一緒に行くといったんだろう? そして約束を破ったら結婚か? なるほどどちらに転んでも同じだ。慌てるのもわかる」
「なぜそこまで完璧にわかるんだ?」
和也に完璧に言い当てられ、一気に冷静になることができた。
もしかしてこれがこいつの言う『リミッター』を外した状態なのか。隠し事など不可能じゃないか?
「ま、そんなわけで、本人の意思を無視してうちの可愛い生徒の将来を決定しようって計画が気に入らないのさ」
本当に可愛いと思っているのかは疑問だが。
「つまり交換条件というのは?」
「『召喚大会の賞品』と交換さ」
学園長の言葉に俺は引っかかりを覚えた。どうしてチケットとの交換とは言わないのか、と。これではもう片方にも―――
「わかりました。この話、その条件で受けます」
俺の考えをよそに、和也はあっさりと了承しやがった。
ぶっ飛ばしてやろうと思ったが、和也の目を見てやめた。こいつには学園長がどうしてこんなことを言ってくるのかがすでにわかっているようだった。
「引き受けるにあったって1つ提案があります」
「なんだい?」
「対戦表が決まりましたら、戦う教科を決めさせてもらえませんか?」
「そのくらいならいいさね」
和也の提案にあっさり頷く学園長。確かに科目指定さえできれば俺や明久でも勝ち抜けるはずだ。そしてこれに頷いたということは、俺たち以外の人にはこのことを頼んでいないことになる。
「ありがとうございます。もう1つ聞いておきたいのですが、大会では総合科目に含まれていない科目を使用しても問題ありませんか?」
「問題ないさね」
「そうですか、それなら大丈夫ですね……」
そう言うのと同時に和也は糸が切れたように倒れた。
「兄さんっ!!」
それとほぼ同時に優衣が学園長室に入ってきた。まるで和也が倒れることが予知できたかのような登場だった。さすがは兄がいれば何でもいいという妹だ。どこかにセンサーでもついているのだろうか?
☆ ☆ ☆
そしてそのまま和也は保健室に運び込まれ、今に至る。
学園長室に入った時、和也の雰囲気が変わったからもしかしたら、和也が言う『リミッター』とやらを外したのではと思い、優衣に聞くと。
「兄さんが気を失っているのでおそらく」
曖昧ではあるが肯定した。
「その『リミッター』っていうのはどうすると外れるのかわかるか?」
「兄さんが言うには、『ある程度』以上本気になると自動で外れるらしいです」
ある程度、か。Aクラス戦の時に言っていたな、これがあるから適当に受けていると。
和也本人もどの程度までが外れないのかわかっていないのだろう。ということは全力を出し切れていないということになるのか。それであの点数、全力ならどうなるんだ?
「優衣ちゃん。これ聞いていいのかわからないけど、どうして和也はそんな体質になったの?」
今度は明久が優衣に質問した。
確かに明久の言う通りこの体質は普通じゃない。さっき話から推測すると後天的なものだ。
「兄さんがこうなったのは、小学4年の夏休みです」
小学4年、前に聞いたことがあった。それは確か『彼女』があの時言っていた―――
なぜか話数が減ってしまい第20話なのですがようやく新規の話が投稿できました。
これからも不定期ではありますが更新していきます。
それでは。