俺と馬鹿と召喚獣   作:友狩

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第3話

「俺たちFクラスはAクラスに『試召戦争』を仕掛けようと思う」

 雄二はそう言ったが――

「勝てるわけがない」

「これ以上設備が下がるのは嫌だ」

「優衣さんさえいれば何でもいい」

 やっぱりFクラスなだけはある、全くやる気がない。

 てか、最後のどさくさに紛れて何言っているんだ。優衣の方をみるが、全く反応していない。完全に無反応。普通の人なら何らかの反応をするはずなんだが、これは聞こえてすらいないということだろうか? かわいそうに……。

 でもまあ、最後の奴以外の言うことはわかる。

 ここ文月学園の試験には上限というものがない。そう、満点というものがないのだ。

 1時間という制限時間の中で無制限の問題を解けるだけ解くことが出来る。能力次第でいくらでも点数を伸ばすことが出来る。

 そしてこの『試召戦争』で一番重要になるのがこのテストの点数なのだが、AクラスとFクラスでは文字通り桁が違う。

「いや、勝てる。絶対に勝たせてみせる」

 その圧倒的戦力差がありながら雄二はそう宣言した。

「なにを馬鹿なことを」

「無理に決まってるだろ」

「何を根拠にそんなこと言ってんだ」

 否定的な意見が教室に響き渡る。

 確かに普通に考えたら無理だと思う。でもこのクラスにはイレギュラーな要素が結構あるのだ。要するに普通じゃない。

「根拠ならある。今からそれを説明してやる」

 そう言って雄二は愛莉の前で不審行動をしているやつに声をかけた。

 ある意味この状況でそんなことをするのは尊敬できる。俺は絶対にやらないが。

「おい、康太。愛莉のスカートを覗いてないで前に来い」

「…………!!!(ぶんぶん)」

「きゃっ」

 愛莉がスカートの裾を押さえて後ずさる。

 愛莉、いくらあいつの気配が薄いからと言ってその前に気付くだろ……。それによりによって愛莉相手にやるとはあとでシスコン兄にボコられても知らないぞ。

「土屋康太。こいつがあの有名な、寡黙なる性識者、ムッツリーニだ」

「…………!!!(ぶんぶん)」

 そのことは置いておいて、この土屋康太という名前はあまり皆に知られていない。だが、渾名であるムッツリーニというのはとてつもなく有名だ、悪い意味で。

「ムッツリーニだと……?」

「こいつがそうだというのか」

「見ろ、あそこまでしていたというのにいまだに認めようとしていないぞ」

「ああ。確かにムッツリの名に恥じない姿だ……」

 このようにほとんどが知っている。とは言ってもどうしてこのタイミングで紹介したのかはわからないんだけど。

「青山優衣と木下優子に関しては説明するまでもないだろう」

 この2人は常に学年トップ10に入っているからな。最後の学年末の成績が次席と確か7位だったか。この2人に勝てるのは、科目にもよるだろうけど5人だけということになる。

「私たちですか?」

「そうだ。うちの主戦力だ。期待している」

 はっきり言って他がほとんど相手にならないくらいの戦力だ。1番のイレギュラーだろう。優衣に至ってはほとんどチートだろうし。

「そうだ。俺たちにはこの2人がいる」

「確かに、この2人はAクラスに引けを取らない」

「この2人がいれば何もいらない」

 お前ら優衣にはさっき気づいてなかっただろ……。

 それと最後の奴は何を言ってるんだ。さっきの完全無反応に気づかなかったのか?

「更に2人には及ばないが吉井愛莉もいる。愛莉は英語だけではあるがAクラス上位並みだ」

『おお~』

 愛莉は全体的にみるとBクラスレベルだが、英語と英語Wの2教科は300点を超えている。その分他が少し低いがこのクラスの平均よりは高いはずだ。

「当然、俺も全力を尽くす」

「そういえば坂本って、小学生の頃は神童って呼ばれてなかったか?」

「そうなのか?」

「それじゃあ、Aクラスレベルの奴が3人もいるってことだよな」

 いけるんじゃないか、そんな雰囲気が教室内に満ちていた。

 確かに雄二は昔神童と言われていたらしいが、今はほとんど勉強してないせいでAクラスレベルではないぞ。言ったらせっかく上がってきた士気が下がるから言わないでおくけど。

「それに、吉井明久だっている」

 

……シン――

 

 明久の名前が出た瞬間教室が静まり返った。

 俺がわざわざ気を遣ったというのに無駄なことを言いやがった。

 雄二は何考えてるんだ。ここで明久の名前を出す理由はないだろ。

「ちょっと雄二! なんで僕の名前を出すのさ! 全くそんな必要はないよね!」

 明久もそう思ったらしい。わざわざ立ち上がって抗議している。

「吉井明久って誰だ?」

「聞いたことないぞ」

 おいおい、さっき自己紹介したばかりだし、それに全員で叫んでただろ、『ダーリーン』って。あれはその場のノリだったのか?

 それとは別にあいつは有名なはずなんだけど、このクラスの人は知らないのか。

「そうか。知らないなら教えてやる。こいつの肩書きは『観察処分者』だ」

 あ、わざわざ言うのか。

 観察処分者とは学園生活で問題のある生徒に与えられる処分の名称だ。

 この称号、一応開校当初からあるらしいのだが、明久が初めてらしい。

「それってバカの代名詞じゃなかったか?」

「ち、違うよっ! ちょっとお茶目な――」

「その通りだ」

「肯定するな、雄二! 和也も頷くな!」

 いつのまにか頷いていたらしい、明久が半眼で俺をにらんでいた。

「だがな、こいつの召喚獣の操作は学年1だ」

「そうなのか?」

「それなら、点数なんてあまり関係ないんじゃないか」

「そうだよな」

 雄二のフォローで教室内が関心ムードになる。

 操作に慣れているというのは、教師の雑用を手伝うために他の生徒とは比べようがないほど召喚獣を使っているためだ。その手伝いのために物に触れるたりすることができるのだが、召喚獣がダメージを受けるとその何割かが召喚者にもフィードバックする。疲労も同様だ。

 要するに攻撃を受けると受けた場所に痛みが走るし、動き回れば他の人より疲れるということだ。

 メリットがあるとすれば他の人より扱えるようになることだけど、そのためだけになりたいとは思わない。デメリットの方が多いから……。

「とりあえず、俺たちの力の証明として、Dクラスを落とそうと思う」

『おうっ』

「ならば全員ペンをとれ! 出陣の準備だ!」

『おおーー!!』

 さすが雄二、あれだけやる気のなかったクラスをここまで盛り上げるとは。

 ここで俺が出てこないのは普通レベルで紹介するほどではないからだと思う。雄二達には言ってないが数学、物理、化学あたりなら『普通』に受けてもそれなりに取れるはずだ。

「まず、明久! Dクラスへの宣戦布告の使者になってもらう」

「下位勢力の使者ってたいてい酷い目に遭うよね?」

 雄二の言葉に明久は嫌そうな顔をしながら文句言う。

 明久に言うことにはちゃんと理由がある。試召戦争のルールに上位のクラスは、下位のクラスに宣戦布告されたら拒否することができないというのがある。だから自分たちには全くメリットがないから掴み掛ってきてもおかしくはない。

「大丈夫だ。愛莉と一緒に行けば問題ないだろ?」

 女子が隣にいて掴み掛ってくるやつはいないだろう、たぶん。

「そうだね。女子がいれば大丈夫だよね。愛莉、行こう」

「うん」

「頼んだぞ、2人とも」

 明久も同じ結論になったらしい。愛莉を連れて扉に向かって歩き出した。

 そういえば開戦時間がいつか決めてなくないか?

「ちょっと待った」

 教室の扉に手をかけた明久達に待ったをかけた。

「なんだ、和也?」

「開戦時刻はいつにするんだ?」

「今日の午後の予定だが?」

「そうか」

 それなら少しは勉強できそうだな――って2人はいつその話をしたんだ? その話をしているのを見た覚えがないぞ。

「どうしたの、和也?」

「いや、俺たち今点数がないからな。今すぐじゃなくてよかった」

「確かにそうだね。それじゃ、行ってくるよ」

 

             ☆  ☆  ☆

 

「ただいま♪」

 待つこと10分程度。何故か愛莉だけが帰ってきた。

 まさかDクラスの奴、愛莉だけ先に帰らせて明久に掴み掛ってるんじゃ……。

「明久君はどうしたのですか?」

「お兄ちゃんならお手洗いに行くって」

 あいつはなんてタイミングでトイレに行きやがるんだ。俺の心配を返せ……。

「今からミーティング始めるぞ」

 そんな中雄二がそう言った。

「どこでやるんだ?」

「屋上だ。さっき話したメンバーと秀吉、和也、それと島田は来てくれ」

『了解』

 まあこのメンバーが妥当だな。去年からの知り合いプラスで木下さん。おそらくうちの主戦力だろう。

 教室を出て、途中で明久と合流して屋上に向かう。

 そして合流するなり明久がムッツリーニと話し始めた。ちらっとしか見なかったけど、どう考えてもさっきのムッツリーニの行動を尋問しているようにしか見えない。肩組んでるし……。見様によってはBでLな感じに見られるかもしれない。

 明久が首を絞め始めたら止めようと思いながら校内を歩いていると、先頭の雄二が屋上に通じる扉を開けて外に出た。

 それに続いて俺達も外に出る。

「明久。宣戦布告はしてきたな?」

 雄二がフェンスの前にある段差に腰を下ろす。それを合図に各々腰を下ろした。

「さっき話した通りに今日の午後に開戦予定と告げてきたよ」

「それじゃ、先にお昼ご飯ってことね?」

 島田さんのその一言に明久と愛莉がぴくっと肩を揺らした。

「2人ともどうかしたのか?」

「な、なんでもないよ?」

 そういえば今朝は遅刻ギリギリだったな。

 愛莉の寝坊なわけがないし、明久が寝坊したのだろう。そして愛莉は料理ができない。

 この2つから導き出されるのは―――

「弁当、作れなかったんだな」

「………はい」

 俺の言葉に小さく頷く明久。

「でも、別にお昼抜きでも大丈夫だよ」

「これから戦争なのよ。いつもなら大丈夫かもしれないけど今日はダメよ」

「2人とも戦争が始まれば試験を受けることになるのです。空腹では集中できませんよ?」

「うっ……そう言われると……」

「えっと確か、The mill stands that wants water.だっけ?」

「どうして英語の方が出てくるのじゃ……」

 明久は木下さんと優衣に叱られてしょげて、愛莉はまあ、うん。意味はあっているけど日本人なんだから『腹が減っては戦ができぬ』を出すべきじゃないか?

「とりあえず明久と愛莉は昼休みになったら購買で何か買って食べてくれ」

 雄二がそういうと2人とも頷いた。

「さて、話を試召戦争に戻そう」

「雄二よ。1つ気になっておったのじゃが、どうしてDクラスなのじゃ?」

「それ、僕も思った」

「確かにそうね。段階を踏むならEクラスだし、勝負に出るならAクラスよね」

 他の人たちも疑問に思っていたらしい。

 確かに木下さんの言う通りEクラスから順番に攻めるかいきなりAクラスに挑むかの2つだ。

「色々と理由はあるんだが、とりあえずEクラスを攻めない理由は簡単だ。戦うまでもない相手だからな」

「え? でも、僕らよりクラスは上だよ?」

「ま、振り分け試験の時点では確かに向こうの方が強いかもしれないな。けど、実際のところは違う。ここにいる面子を見ろ」

「えーっと……」

 雄二に言われるがままこの場にいるメンバーを見回し始める明久。

「美少女が4人、馬鹿と妹と和也、それにムッツリがいるね」

「ちょっと待て、明久! なんで俺だけ名前なんだ!」

『えっ、そこ!?』

「兄さん、突っ込むところはそこじゃないですよ」

 思わず言ってしまっただけなのに、まさかの総突っ込み。

 というか後半の3人はわかるとして、雄二が馬鹿で秀吉が美少女ってことなのか?

「ま、要するにだ」

 咳払いをして雄二が説明を再開する。馬鹿呼びされたのはスルー? 本人が気にしてないならいいんだけど。

「木下姉と優衣に問題がない今、正面からやりあってもEクラスには簡単に勝てる」

 確かに下手したら2人だけで勝利できるかもしれない。2人にはそれくらいの戦闘力があると思う。

「それでしたら、Dクラスには正面からぶつかると勝てないのですか?」

「ああ。確実に勝てるとは言えないな」

 五分五分と言ったところだ、と雄二。

「それなら、いきなりAクラスじゃだめなの?」

 確かに愛莉の言う通りAクラスにいきなり挑むのはありだとは思う。でも今の状況だと確実に勝つことは出来ない。

 そこは元神童の雄二のことだ、何か考えているはずだ。

「初陣だからな」

「士気を上げるためってところか?」

「そういうことだ。それに、打倒Aクラスの作戦に必要なプロセスだしな」

「ちなみにそれはどんな作戦?」

「それはその時になったら説明する。それじゃ、Dクラス戦の作戦を説明しよう」

 春風が吹く中、俺達は勝利のための作戦に耳を傾けた。

 

 

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