「終わったのか?」
遠くから聞こえていた喧騒が聞こえなくなった。教室には俺以外いないし、とりあえずDクラスの様子を見てくるか。
「おとっと」
立ち上がると少しふらついた。ほんの少ししか眠れなかったからそこまでは回復していないがさっきよりはだいぶ良くなった。これなら大丈夫そうだな。
ゆっくりとした足取りで新校舎の端にあるDクラスに向かう。
「薬持ってくれば良かったな」
持ってきていればもう少しはまともな状態になれただろうし。でも一時的のものでしかないが。
そんなことを考えている間にDクラスに着いた。雄二の声もするしここで間違いないようだ。
「終わっているみたいだな」
俺が扉を開けて声を出すと全員の視線が俺に向けられている。
その視線もなぜか冷たい。俺がなんかしたのか?
「あれ? なんかタイミング悪かったか?」
「和也……空気読んでよ」
明久の言葉に全員が頷く。
「あ、悪い……」
とりあえず引っ込んでおくしかなさそうだ。
「えーと、それで条件だが」
仕切り直して雄二が話を戻した。
「俺が指示を出したらあれを動かなくしてもらいたい」
そういって雄二は窓の外に設置された室外機を指した。
この室外機はDクラスの物ではない。あれはスペースの関係でここを間借りしている隣のBクラスのものだ。
「Bクラスの室外機か」
「設備を壊すんだから、当然教師にある程度睨まれると思うが、そう悪い取引でもないだろ?」
話がいまいちわからないがおそらく次の戦争で必要なことなのだろう。いくらなんでも設備は壊すという作戦立てるのはどうかと思うが。
「それはこちらとしては願ってもいない提案だが、なぜそんなことを?」
「次のBクラス戦の作戦で必要なんでな」
「そうか。ありがたくその提案を呑ませてもらう」
「詳しいことは後日話す。今日はもう行っていいぞ」
「ああ。Aクラスに勝てるように願ってるよ」
「ははっ、無理すんなよ。どうせ勝ってこないと思ってるだろ」
「いや、そうでもない」
「根拠は?」
「……ない。ただそんな気がしただけだ」
ちらっと俺のことを見たような気がするが、気のせいか?
「そうか。それじゃ、教室に戻るぞ」
こうして、FクラスVSDクラスはFクラスの勝利に終わった。
来た意味なかったな。それに中途半端過ぎて話が全くわからないし、条件ってなんのだ?
Dクラス戦の戦後対談が終わって教室に戻った。
☆ ☆ ☆
「今日はこれで解散だが、ミーティングをしたメンバーは残ってくれ。それ以外は、帰ってゆっくり休んでくれ。解散っ」
雄二がクラス全員に連絡事項を伝え解散になった。
でも、なんで俺たちは残るんだ?
「雄二、なんで僕らは残るのさ?」
明久が雄二に詰め寄る。俺はもともと残って雄二からさっきの話を聞こうと思っていたから問題ないけど。
「和也についてのことだ」
何故か明久の言葉に返ってきたのは俺についてだった。
「俺か?」
「そうだ。詳しく話してもらおうと思ってな」
俺の方を向いてそう雄二は言った。
詳しく話してもらうって、俺が何かしたのか。全く覚えがないけど、もしかしてさっきの邪魔した事か?
「何のことだ?」
「さっき、島田から聞いた。数学の点数のことだ」
「あれはウチもびっくりしたわ」
「ああ、あれね……」
なるほど、数学の点数のことか。説明し辛いんだよな……。
「さっき優衣ちゃんが言ってた」
「Aクラスレベルのって話ね」
愛莉と優子さんも何かあるらしい。一体優衣は何を言ったんだ?
これは普通に説明すればいいのか。それとも『あれ』の事を説明しないとだめなのか?
「えーと……」
「何を隠しておるのじゃ?」
「…………あの強さは異常」
「数学が得意なだけなんだが……」
秀吉の言葉に少し迷ったが、やっぱりこう言うしかなかった。嘘は言ってないから問題ないとはいえ追求されるのは間違いないだろう。それにこれだけじゃあの点数は説明しきれない。
「試験時間25分で428点なんてありえないだろ」
『えっ』
雄二の言葉にあの場にいなかった3人――明久、愛莉、優子さん――が驚きの声を上げる。
まあ、俺もあそこまで出来るとは思ってなかったし。
「それって本当なの」
「本当よ。この目で見たんだから」
「さすが兄さんです」
「優衣ちゃんは知ってたの?」
「得意科目であることは知っていましたが、でもここまで高いとは思っていませんでした」
「知っているのは妹さんだけだったのね」
優衣は俺の得意科目から苦手科目まで大体は把握しているからな。
「じゃが、いくら得意でもこの点数は無理じゃろ」
こう言われるのは予想していた。秀吉が言うように普通じゃ無理だと思う。実際今の俺には無理だ。
これは信じてもらえるかわからないが話すしかないか……。
「『リミッター』を外しただけだ」
『リミッター?』
全員が口をそろえてそう言った。
まあ、いきなりそんなことを言われてもわかるわけがないよな。
「脳の稼働速度を速めるんだ。使い過ぎると体壊すからって優衣に止められているけどな」
ただしこの『リミッター』は外すと通常より状況把握、計算速度など高速になるが副作用も大きい。1時間以上この状態で頭を使い続けると意識を失い2日は起きなくなる。今回は25分程度だったから頭痛で済んだわけだ。それでも相当酷いものだけど。
しかも本気を出したと判断されると外れてしまうのだ。この判断基準がわからないためいつも適当に受けているのだ。今回はそれを使って外した。
もう言わなくてもわかると思うけど、これが俺の可笑しな体質の正体だ。
「…………だから決着を急いだのか」
「そういうことだ。ついでに言うと、さっきまで寝てた」
雄二達が来るのがもう少し遅かったら倒れていたかもしれない。
「休むって言っていたのはそういうことだったか。召喚獣扱って疲れたからだと思っていたが」
「そもそも疲れるほど召喚獣を動かしてないからな」
「数学が得意なのはわかったが、他の教科はどうなんだ?」
雄二がさらに聞いてくる。これは一応信じてもらえたととっても良さそうだな。
「言わなきゃだめか?」
まるで俺が隠しているように聞こえるかもしれないが別に隠しているつもりはない。今まで真面目に受けてないせいで自分でもわからないというのが本音なのだ。数学はもちろん物理と化学あたりならそれなりに取れるだろうが、他の科目が全くわからない。
「言わないなら優衣から聞くだけだが?」
優衣に聞いても各科目の具体的な点数が出てこないと思う。
「わかったよ。でもどうせ明日のテストの結果でわかるだろ」
「そうだな。それじゃ、帰るか」
自分で把握するためにもギリギリのところでやってみよう。
でもそれが俺の実力と言えるかはわからない。この『リミッター』は自動で外れる場合、段階的に外れるのだ。だから完全に外れずに受けることは不可能なのだ。
「そうだね」
「そういえば、今朝聞きそびれたのだけど」
優子さんは、そういって俺と優衣の方に向く。
「どうしたのですか、木下さん」
「秀吉と紛らわしいから優子でいいわ。ほかの人もそう呼んで。2人はどうしてFクラスに?」
そのことか。明久達には言ったけど、他の人には言ってなかったからな。
「俺は風邪をひいたから」
「アタシと同じ理由だったのね。それで妹さんは?」
「私も優衣でいいですよ。私は兄さんの看病をしていたからです。うちは両親が仕事で家にいないので、心配で兄さんを1人にできなかったのです」
優衣の言うことは建前に近いような気がするが、事実だから仕方ないか。俺としては受けてほしかったんだけど。
「そういうことだったのね」
「話は済んだか?」
「ええ」
「そうだ。私もお兄ちゃんがいるし、みんな名前で呼び合わない?」
「そうだね」
「それは名案じゃな」
「それはいいが、そろそろ帰らないとまずいんじゃないか? そろそろ下校時刻だし」
全員して時計を見る。
「確かにそうね」
「それじゃ、帰ろうか」
あっ……雄二にDクラスでの話、聞けなかった……。