光次元ゲイムネプテューヌ~聖なる祈りと極光の守護神~   作:EDENCROSS

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光ネプ第75話

《前回までのあらすじ》
エルクの精神世界へやって来たネプテューヌ達。
次なる記憶は聖魔戦役終戦後、アルトスの集落で暮らす彼の記憶だった。


♯ 75 エルクの精神世界④

前回の記憶を観て、次なる階層へと進んだネプテューヌ達。

その層へと足を踏み入れたその時、周囲が暗転して何もない暗闇に包まれた。

それはまるで、エルクの悲しくも辛い過去を現しているようだ。

 

 

ロティ

「急に暗くなったね・・・」

 

ネプテューヌ

「さすがにわたしの持ち前の明るさをもってしても、

 ここだけは照らせないなぁ・・・」

 

ノワール

「何言ってるのよ、あなたは」

 

ケーシャ

「とにかく固まって行動しましょう」

 

プルルート

「ピーシェちゃん、足元に気をつけてね~」

 

ピーシェ

「うん、わかった!」

 

ブラン

「ロム、ラム、あなたたちもね」

 

ロム·ラム

「「はーい」」

 

ベール

「皆さん、始まりますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  ────

                  ────

 

 

バーンズがエルクを引き取ってから10年の月日が流れた。

初めは亡くなった両親を思い出して泣いてばかりいたが、バーンズとマーブルの支えと

長閑なアルトスの集落の環境とそこに住む住民達によって次第に元気になり、

今では笑顔が出る優しい少年に成長した。

 

 

「はっ! せいっ!」

 

「いいぞ、もっと攻めてこい、エルク!」

 

「兄さん、がんばって!」

 

 

集落の外れにある広場に響く木刀と木刀がぶつかる音と、少年と中年の男の野太い声と

それを見守り少年を応援する少女の声があった。

その少年は男に言われるまま木刀を振るい、さらに攻め立てる。

一見力任せの雑な動きに見えるが、相手の次の行動を予測してそれに対応するような

攻め過ぎない絶妙な間合いを保っている。

 

 

「(こいつに剣を教えてから一年も経ってねえってのに、ここまで成長するとはな!)」

 

 

防御姿勢を取り、様子をうかがっていた男も次第に余裕がなくなり、

今度は自分が攻めに入る。

 

 

「(上段の構え・・・腹がガラ空きだ!)」

 

 

その構えによって無防備になった腹部目掛けて、男は突きを繰り出す!

 

 

「はっ!」

 

「なにっ!?」

 

 

しかし、それが来ることを知っていたのか、素早く横に回避して相手の持つ木刀を弾いて、

エルクは自分の持つ木刀の剣先を男の顔ギリギリで寸止めする。

 

 

「・・・はあ、参った、降参だ」

 

「やった!」

 

 

自分の育ての親であると同時に剣の師である養父バーンズから一本取り、

エルクを応援していた少女は両手を上げて歓喜し、

その勢いのままエルクに抱き着いた。

 

 

 

「すごいわ兄さん! 元認可傭兵のお父さんに勝つなんて!」

 

「う、うん、自分でもびっくりしてる。

 まさか父さんから一本取ったなんて・・・」

 

「かー、負けた負けた!

 まさかこんなに早く息子に負かされる日が来るなんてなー!」

 

「父さん・・・」

 

「ってそんな顔すんなよ。 模擬戦っつっても仮にもお前は俺から一本取ったんだぞ?

 だったら胸張れよ」

 

 

と、バーンズは嬉しそうにエルクの背中を軽く叩きながらそう言った。

 

 

「聞くがあの構え、俺を誘ってたのか?」

 

「うん、無防備な所を部分を見せればきっとそこを突いてくるよ思って」

 

「ってことは俺はまんまとお前の作戦に乗っちまったってことか。

 剣だけじゃなく頭まで回るようになったとは、流石俺の息子だな!」

 

「もう、お父さんってば兄さんばかり剣を教えて・・・。

 いつになったらわたしに剣を教えてくれるの?

 兄さんなんてお父さんに勝っちゃったし、かなり差が開いちゃったんだけど」

 

「いいかマーブル、お前は女の子だ。

 ならまず剣術じゃなくて、どこへ出ても恥ずかしくないよう花嫁修行をだな・・・」

 

「お父さん、そういうの男女差別って言うんだよ。

 わたしだってお父さんと兄さんみたいに強くなりたい・・・」

 

「・・・」

 

「何言ってるんだよ、マーブル。

 君は僕が小さい時に泣いてばかりいた僕を励ましてくれたじゃないか」

 

「それはそうかもしれないけど、でもいざって時に兄さんを守れないでしょ?

 確かにここはモンスターの寄りつかない所だけど、

 何が起こるかわからないじゃない」

 

「大丈夫だよ。 君がいてくれるだけで僕は安心するんだから」

 

「に、兄さん・・・///」

 

 

そう言ってエルクは、マーブルの頭を優しく撫でる。

 

 

「・・・ホントお前等って仲良いよな。

 いっそ兄妹って言わずに男女として付き合ったらどうだ?」

 

「え、ええっ!?///」

 

「と、父さん!? 別に僕とマーブルはそんな関係にはなれないよ!

 血は繋がってなくても、僕達は兄妹なんだから! ねえマーブル!?」

 

「~っ!」

 

 

バーンズの発言に驚きながらもそれをはっきり否定するエルクに対して、

マーブルは自分の頬を風船のように膨らませていた。

 

 

「ど、どうしたの、マーブル? そんなにほっぺを膨らませて・・・」

 

「知らない! わたしもう帰る!」

 

 

マーブルは一歩一歩足を踏み締めながら、一人先に集落にある家へ帰っていった。

 

 

「・・・どうしたんだろう、マーブル。 僕、何か悪いこと言ったかな?」

 

「さあな、お前にもまだ学ぶことがあるってことだ、エルク」

 

「学ぶこと? 父さんと教会の神父のルッツさんからは剣術と勉強を教えて貰ってるし、

 ほかに学ぶことなんてあったっけ?」

 

「なあエルク、マーブルのお前に対する接し方、どう思う?」

 

「どうって、普通だと思うけど」

 

「そっか。 じゃあその妹があんなに男にがっつくか?」

 

「がっつくって・・・確かにそういう節もなくもないけど、

 でもそれだけ仲が良いってことなんじゃない?

 さっき父さんもそう言ってたでしょ」

 

「それはそうだが・・・。

 それでも他に思うこともあるんじゃないのか?

 例えばほら、ドキドキしたりとか・・・な?」

 

「エ?」

 

「え?」

 

「・・・えっと、父さんは何が言いたいの?」

 

「何がって、本当に分からないのか?」

 

「分からないって何が?」

 

「・・・いや、なんでもない、さっき話したことは全部忘れてくれ。

 なんつーか、悪かったな」

 

「? いいよ、気にしてないから。

 それじゃあ僕達も帰ろう、父さん」

 

「ああ・・・」

 

 

機嫌を損ねたマーブルを追うように、エルクも家へと帰っていった。

 

 

「・・・あいつ、本当にマーブルの気持ちに気付いてないのか?

 こんなことなら恋愛や女心ってもんを教えておけばよかったな」

 

 

エルクとマーブルも年頃の男女。

傭兵稼業の血生臭い生活とは違い、あ二人には普通の人間として幸せになって欲しいという

想いがあった。

しかしエルクのあまりにも鈍感すぎる発言に、

バーンズは剣よりも先にそっち方面を教えるべきだったと若干後悔しながら

我が家へ帰るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ごちそうさま! 兄さんの作るご飯っておいしいわね!」

 

「ああ、剣だけじゃなくて飯の腕まで上がったみたいだな」

 

「褒めすぎだよ、二人とも。 でもそう言ってくれると嬉しいよ」

 

 

その日の夜、エルクはバーンズとマーブルの三人で夕食を済ませた。

 

 

「やっぱり兄さんがうちに来てくれてよかったわ。

 だってお父さんの作るご飯って味が濃いし、

 お肉だって中までちゃんと焼けてないんだから」

 

「そうは言うけどなマーブル、お前だって大概だろ。

 なんで玉ねぎの皮を剥かずにそのまま鍋に入れんだよ。

 料理以前の問題だろ」

 

「わ、わたしはいいのよ! まだまだ勉強中なんだから!」

 

「あんな調子じゃ100年経っても無理だな」

 

「な、なんだとーっ!?」

 

「まあまあ二人とも・・・」

 

 

集落の外れにある木造の家。

三人で住むには広いとは言えないが、その中で養父と義妹がかわいい言い争いをしている。

昔自分が幼少の頃モンスターの襲撃に遭う前にも、

こうして同じように父と母と食卓を囲んで笑っていた時の光景を覚えていた。

 

 

「・・・」

 

「ん? どうしたエルク、ぼーっとして」

 

「ああ、いや、なんでもないよ。

 ただ昔もこんなことあったなって」

 

「それって、兄さんが小さかった時のこと?」

 

「うん。 でも僕ならもう大丈夫だよ。

 今は父さんもマーブルもいるからね」

 

「兄さん・・・」

 

 

寂しいと言えば嘘になる。

たとえ幼少の頃とはいえそれが記憶として鮮明に覚えているからだ。

 

 

「こんな話をしてごめん・・・」

 

「気にすんなよ、お前の気持ちは知ってる。

 そんな気持ちになるのだって仕方ねえよ」

 

「父さん・・・」

 

「なあエルク、そういえば明日は待ちに待った【神剣祭】だな」

 

「うん、いよいよだ」

 

「【神剣祭】? なにそれ」

 

「そういえばマーブルには言ってなかったな。

 【神剣祭】ってのは数100年に一度神剣神威の持ち主を決める神聖な儀式のことだ。

 で、今回はエルクがそれに選ばれたんだよ」

 

「そう。 でもなんでわたしに言ってくれなかったの?

 わたしも参加したかったのに・・・」

 

「【神剣祭】に参加できるのは男だけなんだ。

 だからお前に言わなかったんだよ」

 

「なによそれ!」

 

「仕方ねえだろ? そういう決まりなんだからよ」

 

「・・・なんか納得いかないわ。っていうかそもそも神威ってなんなの?」

 

「そういえば、僕も詳しく知らないんだよね。 父さんは知ってるの?」

 

「ああ、といっても昔それに書かれて本を読んだだけなんだがな」

 

「それにはなんて書かれてたの?」

 

「神威はホーリィクリスタルの一部を用いて創られた神剣だ。

 その形状は持ち主の特性によって形を変え、

 元となったそれと同じ闇を払う力を持ってるらしい。

 で、ホーリィクリスタルっていうのは大昔からある聖なる結晶で、

 この世に闇が現れた時、それの宿主として選ばれた人間は強大な力と引き換えに

 それと戦い続ける宿命を背負うみたいだな」

 

「つまり強い力が手に入るけど、ずっと戦わなきゃいけないってこと?

 それってなんだからかわいそうよね・・・」

 

「・・・そうだな。 でも誰かがそうしなきゃ世界は終わっちまう。

 それも仕方ねえことなんだよ、マーブル」

 

「そういえば父さんはユリウス様に会ったことがあるんだよね?

 今頃何してるんだろ? やっぱりまだどこかで戦ってるのかな?」

 

「どうだろうな。 あの戦いが終わる時にゴールドハート様も一緒にいて

 元凶である闇の女王(オプスキュリア)を封印したって言ってたし、

 それにその眷属の邪力(タナトス)モンスターやそれによって造られた闇人(シェイド)

 が現れたっていう報告もないらしいから、もう休まれてるんじゃねえか?」

 

「僕もそう思うよ。 だって、ずっと戦ってたんでしょ?

 僕達が生まれるずっと昔から」

 

「ああ、そうだな。 なんせそんなに昔っから戦ってたみたいだから」

 

「なんだか気の遠くなるような話ね。

 わたしだったらそんな何百何千年も戦えないかも」

 

「そんなに長く戦われたユリウス様には、それ相応の意思と覚悟があったんだろうな」

 

「なんか憧れちゃうな、同じ男として」

 

「だな。 俺も憧れたもんだ」

 

「ユリウス様に会ったのって、お父さんが出稼ぎに行ってた時のこと?」

 

「ああ、あれからもう10年か・・・時が経つのは早いもんだな。

 エルクなんて最初はこんなに小さかったのにな」

 

「もうそんなに経つんだね。 確かにあの時は小さくてかわいかったよね!

 それが今じゃわたしより大きくなってるなんて、なんかくやしい・・・」

 

「そりゃあ、男と女じゃ体の作りが違うからな。

 女のおまえより男のエルクの方が大きくなるのは当然だろ」

 

「むっ、そういうお父さんだって昔は筋肉質でカッコよかったのに、

 今じゃぶよぶよ腹のおじさんじゃん」

 

「そうなんだよ、俺も昔は腹も割れてて周りの女達も放ってなかったが

 今じゃご覧の通り───ってうるせえよ!」

 

「「ははははっ」」

 

 

小さな家の小さな食卓で笑い合うエルク達。

彼にとって今の家族が本当の家族だと思い、

この幸せがずっと続けばいいとここからそう願っていた。

 

 

「あ、そういえば【神剣祭】ってどこで行われるの?」

 

「正確には【神剣の儀】だが、場所はこの集落の裏山にある遺跡で行われる。

 教会の神父のルッツから神託を受けたお前がそこで神威を抜くことができたら、

 その継承者になるってわけだ」

 

「継承者か・・・なんかカッコいいわね。

 がんばってね、兄さん!」

 

「うん、ありがとうマーブル。

 でももし僕がその神威の継承者になったらどうなるの?

 そうしたら僕も闇の女王(オプスキュリア)ってのと戦わなきゃいけなくなるの?」

 

「安心しな。 仮にそうなったとしても何か変わるわけじゃねえし、

 お前が戦うこともねえよ。

 それは10年前ユリウス様と四女神様が封印してくださったから、

 そういう称号が与えられるってだけだろ。

 ルッツの話じゃ遺跡にある神威は本物だが力を失ってる状態らしいからな」

 

「そっか、よかったぁ・・・。

 兄さんが選ばれて戦うってことになったら、わたし嫌よ。

 兄さんにそんなことしてほしくない・・・」

 

「マーブル・・・」

 

「・・・まあ確かに、それは俺もイヤだな。

 そう考えるとゾッとするぜ」

 

「でも、さっきの父さんの話を聞いて安心したよ。

 僕ももう家族を失うのは嫌だから・・・」

 

「・・・そうだな。 俺もあんな思いはごめんだ。

 さーて飯も食ったことだし、今日はもう休もうぜ。

 なんてたって明日は我らがエルク様のめでたい【神剣祭】の日だからな!」

 

「うん、そうだね。

 それじゃあ兄さん、お休みなさい」

 

「エルク、分かってるとは思うが───」

 

「うん、僕も今日は早めに休むよ。 お休み父さん、マーブル」

 

 

二人が部屋へ戻った後、片付けを済ませたエルクも部屋へ戻った。

明日はいよいよ【神剣祭】の日。

ここへ来てから今まで神威について話を聞かされ、

いつか自分もそれを使ってみたいという想いから【神剣祭】に参加し、

他の集落の若者達から選ばれたエルクにとって、最大の名誉であり喜びである。

 

 

「(まさか僕が選ばれるなんて思わなかったけど、

 けどそうなったからな祝福してくれた集落の皆や父さんとマーブルのためにも

 がんばろう!)」

 

 

そう強く思いながら、エルクはいつもより早く眠りにつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、朝早く起きたエルクは、バーンズと稽古をした同じ場所で、剣の素振りをしていた。

そして今日は集落の男達のみならずエルク本人も待ちに待った【神剣祭】の日である。

それは集落の裏山にある古くから存在する聖光遺跡と呼ばれる場所に祀られている

神剣の持ち主を決めるアルトスの集落に伝わるもので、

教会の神父から神託を受けた男がその遺跡へ赴き、

神剣に触れてそれを輝かせた者が継承者となる。

今回はエルクが選ばれた。

 

 

「今日は【神剣祭】の日。 アルトスの人達が待ちに待っためでたい日だ。

 ・・・なんだか緊張してきたな」

 

「大丈夫だ、お前なら。

 なんてたってあの伝説の神剣がお前を選んだんだぞ?

 もっと胸を張れってんだ」

 

「・・・うん、ありがとう、父さん───って父さん!? いつからそこに!?」

 

「今さっき来たばかりだ。

 真面目なお前のことだ、余計なこと考えて気負ってると思って来てみれば案の定だ」

 

「うっ、ごめん・・・」

 

「謝る必要ねえよ、お前がこの日をどれだけ待ってたか知ってるからな。

 俺を含めた集落の奴等もそうなんだからな」

 

「やっぱり父さんにはお見通しか・・・」

 

「まあな。 伊達にお前と10年前過ごしてねえからな。

 自分のことのように分かるぞ」

 

「敵わないな、父さんには」

 

「お前は賢い奴だ。 それでいて自分よりも他人を優先する。

 誰に似たんだかな」

 

「それは・・・」

 

「ああ、分かってる。 たぶんお前の本当の両親だろうな。

 けどなエルク、それでも俺はお前を本当の息子だと思ってる。

 お前は本当にいい子だ。 こんなに人のことを思える優しい子に育って、

 俺は嬉しいぞ。 きっとお前の両親も天国で喜んでるだろうな」

 

「父さん・・・」

 

「お前の生き方や性格を変えろなんて言うつもりはねえ。

 神剣の選ばれあの日からその持ち主として恥ずかしくないよう剣の腕を磨いてきんだ。

 努力は人を裏切らないって言うしな。 なあ、マーブル?」

 

「そうよ、兄さん。 兄さんならきっと大丈夫!

 わたしもお父さんと兄さんががんばってるとこを見てきたんだから」

 

「・・・ありがとう、二人とも。

 二人の期待に応えるためにもがんばらなきゃね」

 

「おう、その意気だ!」

 

「わたしとお父さんは参加者できないから遺跡には行けないけど、

 ここで兄さんの帰りを待ってるわ」

 

「うん、それじゃあ行ってきます!」

 

 

バーンズとマーブルの後押しを受けたエルクは、

駆け足で集落の裏山にある聖光遺跡へと向かうのであった。

 

 

「ねえお父さん、兄さん大丈夫よね・・・?」

 

「大丈夫に決まってんだろ。 昨日の話を気にしてんのか?」

 

「うん・・・。 それに選ばれた人は戦い続ける宿命を背負うって。

 もしそれが本当なら兄さんは・・・」

 

「マーブル・・・」

 

 

バーンズは不安がっているマーブルの頭に手を置く。

 

 

「大丈夫だマーブル、仮にそうなったとしても俺がエルクを、お前を守ってやる。

 やっと普通の生活ができるようになったんだ、

 もう二度とエルクにあんな思いはさせねえよ」

 

「でも・・・」

 

「もちろんお前の気持ちは分かる。 俺だって正直不安だ。

 守ると言った手前、もしエルクが神威を手にした後それを持ってどこかで遠い所へ

 行っちまうんじゃねえかってな」

 

「お父さん・・・」

 

「でもまあ、あいつは強い子だ。 そんな寄り道なんてせずに真っ直ぐ帰ってくるだろ。

 だから俺達は黙ってエルクの帰りを待とうぜ、マーブル!」

 

「・・・うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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                  ━ 聖光遺跡 ━

 

 

集落の入り口の門で、住民達からの声援を受けたエルクは、

そのまま指定された聖光遺跡へと向かい、そこへ到着して遺跡へと入った。

アルトスの集落の裏山にある遺跡、それは聖魔戦役戦役が始まる前の

さらに昔の文明から存在していた遺跡で、元々は神降ろしの儀式を行う場所であった。

神降ろしといっても実際にそれを呼び出すのではなく、

信仰を集める目的であり、当時の人々から神に対するそれがここへと集められ

その存在を信じていた。

その歴史を証明するかのように遺跡にはその様子が描かれた壁画があり、

それには人々が祈りを捧げて武器を取って神を現していると思われる人物と共に

邪悪な者達と戦う絵があった。

 

 

「ここが父さんとルッツさんの言ってた聖光遺跡か・・・。

 来るのは初めてだけど、あちこち足場が脆くなってるから、気を付けて進もう」

 

 

【神剣の儀】を受ける前に怪我をしてしまっては元も子もない。

壁画に描かれた絵を見て足元に注意しながら、エルクは遺跡の最奥へと向かう。

そして遺跡最奥部に着いたエルクの前には、大きな扉があった。

 

 

「大きな扉だな・・・ひょっとしてこの先に神剣が?」

 

「ええ、その通りですよ、エルク君」

 

「あ、ルッツさん」

 

 

エルクの前には現れたのは、物腰の柔らかい白いローブを纏った教会の神父ルッツだった。

エルクがバーンズの養子として集落に来たときから彼に他の子供達と共に

勉強と教養を教えていた恩師である。

 

 

「やはり神託を受けただけあって、そういった力の波動を感じるのですね」

 

「はい、何て言うかこの扉の向こうから呼ばれてる気がするんです。

 神剣はこの先にあるってことですか?」

 

「ええ。 しかし君が選ばれた時、集落の皆さんとても驚かれていましたよ」

 

「はは、そうみたいですね。 正直自分が選ばれるなんて。

 父さんとマーブルも驚いてましたよ」

 

「ふふ、そのようですね。

 しかし私はある意味これもなにかの因果だと思っています。

 そう、運命的ななにかを」

 

「運命的、ですか?」

 

「エルク君は神剣の儀がどういったものなのか知っていますか?」

 

「えっと、集落に昔から代々伝わる伝統的なもの、でしたっけ?」

 

「ええ、前に教会でそう教えました。

 しかしそれだけではありません。

 神剣自らが己の所有者を選ぶのです。

 全ては来る次の戦いに備えて・・・」

 

「次なる戦い? それって・・・」

 

「いえ、なんでもありません、時間を取らせてしまいましたね。

 さあ、神威が君を待っています。 

 私と共に参りましょう、エルク君」

 

「はいっ!」

 

 

眼前の大きな扉の前にある台座の形に手を置くと、

それが光出して開いて祭壇のある広場に出た。

そこを見下すようにある祭壇に光輝く一振りの剣が祀られていた。

エルクはそれが発する光を目指して階段を上がって目の前に着くと、

祀られている神剣がまるでエルクとの出会いに喜ぶかのように

さらに光を発して輝き出した。

 

 

「うっ、眩しい・・!」

 

「ふふ、君を心待にしてようですね」

 

「ルッツさん、僕はどうすれば?」

 

「祭壇に祀られている神剣に触れるのです。

 大丈夫、なにも恐れるはありません」

 

 

今もなお輝き続けている神威に触れると、

それが宙に浮いてそっとエルクの前に舞い降りた。

 

 

「・・・」

 

 

エルクはその神々しいほどの美しさに見惚れ、それを手に取って剣を抜くと

柄、鍔、そして刀身には黄金のラインがあり、それも仄かに光を発していた。

 

 

「これが・・・アルトスに伝わる神剣神威、ですか・・・。

 こうして実物を見るのは私も初めてです」

 

「そういえば、アルトスには光の民っていう言い伝えもあるんでしたっけ?」

 

「はい。 我々アルトスの住民は皆その子孫ということになります。

 そして神剣祭はその中から選ばれるのです」

 

「でも、僕は父さんの養子ってことでここに来たんですけど、

 なんで僕がそれに選ばれたんですか?」

 

「・・・これは後でわかったことなんですが、

 エルク君の実のご両親はこの集落の人間だったようです。

 だから今回の神剣の儀に選ばれたのでしょう」

 

「父さんと母さんが、アルトスの人だったなんて知らなかった・・・」

 

「貴方のご両親のことはバーンズさんから聞いています。

 本当に残念です・・・」

 

「ありがとうございます、ルッツさん。

 でも僕には父さんとマーブルや集落の皆がいるから、もう大丈夫です」

 

「・・・そうですか、気を遣わせてしまいましたね」

 

「いえ。 それと、他にも言い伝えがあったような・・・」

 

「闇がゲイムギョウ界を覆う時、神剣を携えし光の者が現れ、再び闇を滅さん、と」

 

「なら、その神剣っていうのは神威のことなんでしょうか?」

 

「恐らくそうでしょう。

 そして闇というのは10年前、守護神様と女神様が封印した闇の女王(オプスキュリア)

 それが使役する邪力(タナトス)のことでしょう」

 

「それじゃあ、光の者っていうのは僕のことになるんでしょうか?」

 

「・・・神剣を携えし光の者。

 言い伝え通りならエルク君がそうだということになりますね」

 

「でも、仮にそうならこの神剣の儀は一体・・・」

 

「それは───っ!?」

 

 

ルッツがエルクの問いに答えようとしたその時、

突然爆発音のような大きな衝撃と轟音が鳴り響いた!

 

 

「な、なんだっ!? 地震っ!?」

 

「いえ、そうではありません。

 この気配、今のは集落の方角・・・!

 もうここを嗅ぎ付けたのか!」

 

「ルッツさん・・・?」

 

「エルク君、私は集落の様子を見てきます。

 君はこの場を離れないように」

 

「そ、それなら僕も行きます! そこには父さんとマーブルがいるから!」

 

「駄目です、君はここにいなさい!」

 

「で、でも・・・!」

 

「大丈夫です、またここに戻ってきます。

 だから君はここで待っていてください」

 

 

ルッツは両手をエルクの肩に置き、必死にそう言い聞かせる。

その時の彼の表情はまるで何かを覚悟したかのようだった。

常に物腰柔らかく誰にでも丁寧に接するルッツだが、

他者にこんな表情を見せる彼のそれがどういう意味をしているのか、

それを理解したエルクはルッツの指示に従うことにした。

 

 

「では、行ってきます」

 

 

そして、その場を後にしたルッツは、早々に集落へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それからどれくらいの時間が経っただろうか。

勉強や教養をだけでなく、時にはバーンズと共に武術を教えてくれたルッツの事だけでなく

集落にいる住民達とバーンズとマーブルが心配だ。

このまま待つように言われたが、そう思ったエルクは手に持った神威を握り締め、

遺跡を出た。

 

 

「なっ───!」

 

 

皆の事が心配になり外に出てみると、集落が炎の海と化し、

地獄絵図のような光景が広がっていた。

それは裏山からもはっきり見渡せ、それを目の当たりにしたエルクは動揺し、

急いで裏山を下った。

そこに整備されている道を通らず、ただひたすら真っ直ぐ道なき獣道を下ったため、

時に躓いて転倒し、木の枝に服と体を引っ掻けて切り傷だらけのボロボロになりながらも

集落に着いたが時すでに遅し、入り口にあった皆で作った石のアーチも崩れ去り、

あの長閑で平和だったアルトスの集落の面影は姿形もなかった。

 

 

「そ、そんな・・・! とにかく皆を探そう、どこかに避難してるかもしれない!」

 

 

そんな状況の中、エルクは炎を掻い潜りながら住民達を探す。

こんな有り様で人が生きていられるわけがない、

もしかしたら皆は養父のバーンズは、そして義妹のマーブルは、

という考えがエルクの脳裏をよぎる。

しかし、それでも生きているはずだ、

無事でいるはずだという希望は消えることはなかった。

 

 

「はあ、はあ・・・ここは教会・・・かな?」

 

 

黒く焼け落ちた建物。

普通ならそれを教会だと思えないが、それに飾られたわずか残っていたガラス細工の

装飾を見てエルクはこれは教会だと判別できた。

周囲を見渡すと教会だけでなく、他の家や建物も全て焼かれており、

もはやその原型を留めてなかった。

 

 

「これじゃあ、ルッツさんはもう・・・」

 

「誰か・・・そこにいるんですカ・・・?」

 

「っ!?」

 

 

その時、教会だったその場所の裏から聞き覚えのある声がした。

なぜか若干ノイズのような音が混ざったような声だったが、

間違いなくルッツの声だった。

この集落に来てまだ間もない幼かった頃、字の読み書きといった勉強や教養だけでなく、

ゲイムギョウ界や集落について教わったら恩師が生きていた。

エルクは急いで裏に回ってそこへ向かった。 だが───。

 

 

「う、うわああああっ!」

 

 

そこにはまるでムカデのような黒く大きなモンスターが蠢いていた。

こちらに気付いて襲い掛かって来る様子はなさそうだが、

ルッツの声が聞こえたので恐る恐る声を掛けてみた。

 

 

「ル、ルッツさん・・・ですか?」

 

「その声ハ・・・エルク君デスか?」

 

「っ!?」

 

 

こちらの問いに答えるように、そのモンスターからルッツの声が聞こえた。

頭部に彼の顔がアザのように浮かんでおり、なぜかは分からないが融合しているようだ。

そのためかノイズが酷くなり、声も聞き取りにくくなっている。

 

 

「見苦しイ所ヲ見せてしまいマシたね・・・。

 急いでこコヘト戻ったらすでニこの状況デ、皆を探してイタらこの有り様デス・・・」

 

「ルッツさん・・・どうして!」

 

「・・・どうやら邪力(タナトス)ニ侵蝕サレテ醜い化け物になってしまったヨウデス」

 

「な、なにか、なにか元に戻す方法はないんですか!」

 

「残念デスガ、それは無理でショウ。

 邪力(タナトス)が私ノ精神ヲ喰らってイルノガ分かリマす。

 もう手遅れデショウ・・・」

 

「そんな・・・こんなことって・・・!」

 

「エルク君、君に最後のお願いがあります。

 君の持つソノ神威で、私を───斬リナサイ!」

 

「っ!? な、なに言ってるんですか!

 そんなことをしたらルッツさんが!」

 

「先程も言っタヨウに、私ハモウ手遅れです。

 ナラバセメテその神威デ私の自我ガアル内ニ・・・!」

 

「で、でも・・・!」

 

「君にトテモ辛い事を言っテイルノハ重々承知です。

 デスが私も自分を押サエ込んデイラレルノモ・・・限界デス・・・!

 さあ、早く! デナイト私ガ君ヲ・・・ギ、アガガガッ!」

 

「っ!? ルッツさん!」

 

「私ヲ・・・斬リナ・・・ウグ、ウオオォォッ!」

 

「うわあああああっ!」

 

 

自分に迫り来る黒いムカデの異形と化したルッツに恐怖し、

エルクはその場から逃げ出す!

ついさっきまで普通に会話していた人物が化け物となって襲い掛かってくれば

誰でも恐怖する。 エルクのその行動に無理もなかった。

 

 

「はあ、はあ・・・ルッツさん、なんで・・・うっ!」

 

 

恩師が異形化した現実を受け止められず、それを突き付けられたエルクは、

吐き気を催した。

集落は炎と黒い霧に覆われ、異形と悲鳴が響くこの世の終わりのような地獄が、

エルクをさらなる絶望へと追いやる。

しかしそれでもエルクは二人の家族が生きていることを信じて立ち上がり、

バーンズとマーブルを探すため再び歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い異形の化け物に見つからないよう、岩や建物の残骸に隠れながらアルトスの集落の中、

その外れにある家に向かって進むと、見慣れた民家に辿り着いた。

三人で住むには少し小さな木造の家。

見間違うはずのない先程ま自分とバーンズとマーブルの三人で住んでいた家だ。

奇跡的に形が残っており、エルクは急いで家の中へと入った。

 

 

「・・・」

 

 

家の中はいつのもような賑やかさはなく、不気味なほどに静寂に包まれていた。

いつどんな時でもうるさいくらいに騒がしく、賑やかで楽しいかった家も、

今となっては空き家と成り果てていた。

 

 

「父さん、マーブル! 僕だ、エルクだ! 居たら返事をしてくれ!」

 

 

今の集落の状況で、二人が生きている可能性は低いだろう。

それでもエルクはバーンズとマーブルを呼ぶように声を上げる。

 

 

「エル・・・ク? そこにいるのはエルクか・・・?」

 

「っ!? 父さんっ!!」

 

 

家の奥からかすかに聞こえてきたバーンズの声。

だがそれは普段の力強い声と比べて明らかに弱々しく、

そんな声を聞いたエルクは父のもとへと向かった。

 

 

「あ、ああ・・・!」

 

 

しかし、そこにいたのは邪力(タナトス)に侵蝕され、

体の半分以上が黒い異形と化したバーンズだった。

先程のルッツまでにないにしろ、彼と同じく異形化しするのはもはや時間の問題だった。

 

 

「と、父さんっ!」

 

「はは・・・カッコ悪いとこ見せちまったな。

 出来ればお前にこんな姿見せたくなかったんだがな・・・」

 

「大丈夫なの、父さん・・・?」

 

「大丈夫だって言いたいが、流石にこれはヤバそうだ・・・。

 マーブルを庇いながら戦ったらこのザマだ。

 へっ・・・我ながら情けねえ・・・」

 

「それじゃあ、マーブルは?」

 

「ああ、あの子なら無事だ。

 邪力(タナトス)に侵されてない人間だ。

 だが俺はもうダメみたいだ・・・。

 見て分かると思うが、この黒いアザみたいなのが全身を回ったが最後、

 俺はあの黒い化け物になって見境なく襲っちまう」

 

「そんな・・・ルッツさんだけじゃなくて、父さんまで・・・!」

 

「・・・そうか、あいつもか・・・」

 

「さっきまで皆で笑い合って暮らしてたのに、こんなことって・・・!」

 

「エルク・・・頼みがある。 マーブルを連れてここから逃げろ・・・。

 せめてお前達だけでも・・・!

 そして・・・その神威で俺を斬れ!」

 

「なっ・・・! 何を言って!」

 

「いいかエルク、よく聞け。

 今まで話したがお前の持つその神威はただの剣じゃねえ。

 それは邪力(タナトス)を払う力を持った神剣とも言われる聖剣だ。

 その力があればこの呪いを消すことが出来るはずだ」

 

「でも、そんなことをしたら父さんが!」

 

「ああ、分かってる。 でも俺も化け物になってお前を襲いたくねえ。

 そうなっちまうのがたまらなく怖いんだ。

 だからせめて、俺が人間であるうちに頼む。

 俺を人間として死なせてくれ、エルク・・・!」

 

「そんなの嫌だ! どうして僕が、どうして僕を育ててくれた父さんを殺さなきゃいけないの!

 僕にはできないよそんなこと!」

 

「(その様子じゃあ、ルッツにも同じように介錯を頼まれたんだな・・・)」

 

 

先の聖魔戦役で実の親を亡くし、それから自分を養子として引き取りここまで育ててくれた

義理の父にして恩人であるバーンズを手に掛けるなど、エルクに出来るはずがなかった。

しかし、そんなことは育ての親であるバーンズ自身がよく理解している。

自分には勿体ないくらい心優しい少年に育ち、

自分を本当の父のように慕ってくれるエルクにこんな残酷な頼みをするのを。

だが邪力(タナトス)に侵蝕れ異形化して息子を襲うような事をしたくはない。

故にバーンズは───。

 

 

「エルクっ!」

 

「っ!!」

 

「お前は優しい子だ、そんなお前に介錯を頼むなんて残酷だってことは分かってる。

 でもそれが出来るのはお前しかいねえし、マーブルを守れんのもお前だけだ。

 分かるな?」

 

「・・・うんっ・・・!」

 

「お前は俺の誇りだ。

 戦うことしか能がなかったこんな俺を父と呼んでくれて嬉しかった。

 そしてお前達と一緒に過ごした日々も幸せだった・・・!」

 

「父・・・さん・・・!」

 

「最後まで見守るつもりが、こんな不甲斐ない父親でごめんな。

 どうかマーブルのことを頼んだぜ、エルク。

 俺の───自慢の息子よ!」

 

「・・・っ!」

 

 

バーンズはエルクに激を飛ばし、そしてエルクはバーンズの覚悟を知り、

神威を抜刀する。

 

 

「父さん、僕も幸せだったよ。

 貴方の息子にしてくれて、今まで本当にありがとう・・・!」

 

「ああ・・・!」

 

 

バーンズは抜刀した神威の刃を見て臆することなく、

エルクの感謝の言葉を優しく微笑みながら聞く。

そしてエルクは神威を振り下ろし、その一太刀がバーンズを斬り裂き、

その場に力なく倒れた。

 

 

「父さんっ!」

 

 

エルクはバーンズを胸に抱く。

 

 

「これで・・・これでいいんだ、エルク・・・。

 本当ならもっと・・・大きくなったお前達を見たかった・・・。

 最後の最後に・・・こんな辛い事をやらせちまって・・・ごめんな・・・。

 俺のかわりにマーブル・・・を・・・」

 

 

エルクに手を伸ばし、それを取ろうとした時、

まるで黒い霧が散るようにバーンズの姿はは跡形もなく消え去った・・・。

 

 

「父さん・・・! うわあああぁぁぁああっ!」

 

 

エルクはその場に踞り、大粒の涙を流して泣き崩れた。

自分を育ててくれた恩人を手に掛けたという残酷な現実の中で・・・。

 

 

「くっ・・・!」

 

 

しかし、エルクは涙を拭い、父バーンズの最後の言葉であるマーブルを連れて行くため、

気を失っている彼女を抱えて家を出た。

 

 

「父さん、マーブルは任せて。 どうか安らかに・・・!」

 

 

家を出てすぐ火の手が回っり、かつて一緒に過ごした焼け落ちた我が家を後にし、

エルクはそう祈った。

本当なら父の死を悲しみ泣きたい、墓をたてて供養したいという気持ちでいっぱいだが、

今は父の言葉とマーブルを守るため、押し寄せてくるそれらの感情を押し殺しながら、

一歩一歩と集落の入り口を目指す。

 

 

「グオオォォォッ!」

 

「っ!?」

 

 

その道中、唸り声と共に別の黒の異形の化け物が現れた。

そのムカデのような外見から、先程遭遇したルッツだった。

 

 

「オオォォォ・・・!」

 

「ルッツさん、もう自我がないんですね・・・。

 ごめんなさい・・・僕のせいで・・・」

 

 

唸り声を上げながら、マーブルを抱いたエルクに襲い掛かる異形化したルッツ。

エルクはそんな彼を見て、一度マーブルを地面に降ろし、

神威を抜刀して斬り裂いた。

 

 

「エル・・・ク・・・君・・・!」

 

「くっ・・・うぅ・・・っ!」

 

 

自分とマーブルを守るためとはいえ、

また一人共に集落で過ごした恩人を手に掛けてしまった。

言い様のない悲しみと罪悪感の中、エルクは再びマーブルを抱えて歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらく歩き続け、集落の広場に着いた。

ここまでそう遠い道のりではなかったが、異形と化した住民達の襲撃に遭い、

その度にエルクは彼等を斬り伏せた。

もうこうするしか助ける手段がなかった、どうしようもなかったとはいえ、

それでもバーンズに引き取られて育てられながら多くの住民達と絆を深め、

家族同然に過ごした彼等を殺したことに変わりはない。

数時間前まで笑い合っていた皆を手に掛けたという現実が、

エルクの心に容赦なく重くのし掛かる。

 

 

「オオォォォ・・・!」

 

「アア・・・アァ・・・!」

 

「ギ・・・ギギィ!」

 

 

しかし、現実はさらに追い討ちを掛けるように、

そこもすでに黒の異形達の棲み家となっており、

逃げ道などどこにもなかった。

 

 

「そ、そんな・・・!」

 

 

逃げ道などなくても自分には神威がある。

これでマーブルを守ればいい。

だがそれは迫り来る異形と化したこの集落で共に生きた住民達を斬ることと同義だった。

そしてそれからどれほどの時間が経っただろうか。

気が付けば周囲には異形達の死体の山で埋め尽くされていた。

中には完全に異形化していない個体もおり、

少し前まで仲良く話をしていた顔見知りもいた。

そんな彼等が最後の力をF振り絞って出した言葉が───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」だった。

自分を斬ったエルクを恨むのではなく、救ってくれてありがとう、

楽にしてくれてありがとう、という感謝の言葉だった。

 

 

「お・・・お兄ちゃん・・・」

 

「っ! ま、マーブル! 今助けるからな!」

 

「熱いよ・・・苦しいよ・・・助けて・・・お兄ちゃん・・・」

 

普段の女性らしい口調ではなく、幼少の少女のような弱々しい口調で

エルクに助けを求めるようにマーブルは手を伸ばす。 しかし・・・。

 

 

「・・・」

 

 

その伸ばした手はエルクに届くことなく力尽き、そのまま地面に落ちる。

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁッ!!!」

 

 

エルクは動かなくなったマーブルを抱き寄せて叫んだ。 いや絶叫した。

さらに多くの仲間を手に掛け、マーブルを助けられなかったことに。

そして異形の死体から溢れ出た邪力(タナトス)が蠢き、

それと火の海と化したこの状況下で絶望しない者などいない。

神威を手にしたばかりのエルクをそうさせるのは十分かつ残酷なものだった。

 

 

「なにが・・・なにが神威だ! なにが神剣だ!

 こんな力があっても、誰も救えない!」

 

 

エルクはそう憤り、そのまま神威を地面に勢いよく叩き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・マーブル、僕・・・もう疲れたよ・・・」

 

 

バーンズもルッツも集落で共に過ごした者達も全て自分が殺した。

ここに残っているのは自分と動かなくなったマーブルだけ。

そんなマーブルも黒く染まり始めいつあの異形になるか分からず、

自分の手は家族を殺して汚れきってる。

このままではマーブルまで手を掛けてしまうことになる。

そんなことをするくらいなら、このまま君と一緒に・・・。

エルクは眠っているように気を失っているマーブルの寄り添い、

自分も眠るように目を閉じた。

 

 

『このままではいかん! せめてこの少年だけでも───!』

 

 

この時、神威を通してホーリィクリスタルに宿るユリウスが、

自分の持つ全ての力を使い、エルクを一万年後のゲイムギョウ界へ飛ばし、

そしてネプテューヌとネプギアに保護されるところで場面が途切れた。

 

 

ユリウス

「・・・以上が、エルクの過去の全容だ」

 

ノワール

「何よこれ・・・! こんなのってあんまりだわ!」

 

ロム

「おにいちゃん、かわいそう・・・(うるうる)」

 

シーシャ

「ああ、これはあまりにも残酷すぎる!」

 

ケーシャ

「妹を守るためとはいえ、同じ集落で過ごした人達を手にかけることになるなんて・・・!」

 

ネプギア

「お兄ちゃん・・・!」

 

ユリウス

「そしてこの時、エルクは精神的に大きな傷を負い、それが崩壊しかけていた」

 

海男

「それはつまり、精神崩壊ということかい」

 

ユリウス

「そうだ。 大勢の住民を、養父を手に掛けたことによって、

 エルクはそうなりかけていた。

 

ブラン

「無理もないわ。 家族を殺して平然としていられる人間なんていないわ」

 

エスーシャ

「加えて、集落にいた住民達は邪力(タナトス)に侵されて黒い化け物にされ、

 彼等も手に掛けたというなら尚更だ」

 

ロティ

「ブラン様、エスーシャ、そんな言い方・・・!」

 

ネプテューヌ

「わたし知らなかった、エルくんにこんなにも辛い過去があったなんて・・・」

 

コンパ

「ねぷねぷ・・・」

 

ネプテューヌ

「エルくんのこと、なんでも知ってる気でいた。

 でも本当はなにも分かってなくて勝手に一人でそう思い込んでた・・・!」

 

アイエフ

「ネプ子、それはあんただけじゃないわ。

 私もここにいる皆もエルクの過去のことなんて知らなかったわ。

 でも、それでも受け止めて受け入れる覚悟でいる。

 あんたもそうでしょ?」

 

 

ネプテューヌ

「・・・うん」

 

アイエフ

「だったら、顔を上げてエルクのもとへ行きましょ。

 彼だって私達のこと待ってるはずよ」

 

コンパ

「あいちゃんの言う通りです。

 一緒にエルクさんを迎えに行くですよ、ねぷねぷ」

 

ネプテューヌ

「あいちゃん、コンパ・・・うん、そうだね!

 わたしとしたことが落ち込んでたね!

 よーし、このままエルくんのとこまでゴーだよ!」

 

プルルート·ピーシェ

「「おーっ!」」

 

ネプギア

「アイエフさん、コンパさん、ありがとうございます。

 すごいですね、お二人は」

 

アイエフ

「まあ、伊達にネプ子と付き合いは長くないからね。

 これくらいは当然よ。 ねえ、コンパ」

 

コンパ

「はいです。 ねぷねぷが元気になってよかったです!」

 

アイエフ

「といっても、ネプ子の気持ち、私にも分かるわ。

 ユリウスも言ってたけど、まさかエルクにあんな残酷な過去があったなんてね・・・」

 

ロティ

「そうだね。 師匠のとこまで辿り着けたとしても、師匠大丈夫かな・・・?」

 

イーシャ

「私も心配ですが、エルクさんなら大丈夫だと思います。

 だって彼は強い心を持った強くて優しい人ですから」

 

アイエフ

「私もイーシャと同じ気持ちよ。

 何だったらビンタしてでも叩き起こしてやろうかしら?」

 

コンパ

「あいちゃん、厳しいです・・・」

 

アイエフ

「なんて、冗談よ冗談」

 

ロティ

「・・・なんていうか、親友っていいよね。

 あたしも憧れちゃうな、そんな関係に」

 

 

改めてエルクの辛い過去を知り、誰よりも一番近くにいた想い人の事を

何も理解できていなかった事に自責したネプテューヌをアイエフとコンパという

二人の親友が彼女を励ますやり取りを見たロティは、そう思った。

自分にはエルクという師がいるが、それでも憧れや羨ましいと思う時もある。

エルクに好意を寄せているのら尚更である。

 

 

ピーシェ

「ぷるると、ねぷてぬ、あっちでなにか光ってるよ?」

 

プルルート

「本当だ~、なんだろ~」

 

ネプテューヌ(大)

「ねえユーくん、あれって・・・」

 

ユリウス

「ああ、あの光の先にエルクがいる。

 そしてそこがエルクの精神世界の最奥になる」

 

ロティ

「あの先に師匠が・・・」

 

ネプギア

「でも、今はお兄ちゃんは眠ってる状態なんですよね?」

 

ユリウス

「正確には心に蓋をしている状態だ。

 あの時誰も守れず救えず助けられなかった無理力な自分を責めるようにな」

 

ユニ

「そんな! でもそれは・・・」

 

ユリウス

「斬られた者達からそうするように懇願されそうする他なかったとしても、

 それでも自分が大切な人達を手に掛けたことは事実。

 それ故に彼の精神的ダメージは大きく、自身を否定している状態なのだ」

 

ブラン

「クロノスに記憶を呼び起こされたことで、

 それが一気にエルクの心に重くのし掛かったってことね」

 

ビーシャ

「エルクにこんな辛い過去があったなんて・・・。

 わたしだったら絶対耐えられないよ・・・」

 

 

エルクの壮絶すぎる過去を観て、その場にいる全員が絶句する。

彼の過去がどんなものだったとしても、それを受け止める覚悟だった。

しかしそれは、自分達の思っていた以上に残酷なものであったため、

一同はしばらく沈黙した。

 

 

エスーシャ

「だがひとつ、分からないことがある。

 エルクが一万年前の過去の人間だということは分かったが、

 どうやって私達のいる今のこの時代にやって来たんだ?」

 

 

そんな重い空気を破ったの、エスーシャの質問だった。

 

 

ネプギア

「そうですね。 過去の人が現代にやって来たなんて話、聞いたことありませんし・・・」

 

クロワール

「どうなんだ、ユリウスの旦那?」

 

 

エスーシャに続き、クロワールがユリウスに問う。

 

 

ユリウス

「・・・それは、私がホーリィクリスタルにそう祈ったからだ。

 いや、正確には自身に残されていた全ての力を使ってエルクを一万年後の

 この時代に飛ばしたのだ」

 

ブラン

「本当にそんなことが可能なの?

 それが出来るからこうしてあなたとエルクがいるんだろうけど・・・」

 

ユリウス

「ああ、私自身の極光の守護神としての魔力と、

 ホーリィクリスタルに蓄えられた全ての力を使えば可能だ。

 しかし、それは同時に賭けでもあった」

 

イストワール

「賭け、とは?」

 

ユリウス

「仮にその未来にエルクを飛ばしても、

 本当にその世界が平和な世界となっているのかどうか、私には分からなかった。

 もしかすると当時よりも混沌とした時代になっているのかもしれん、と」

 

ユニ

「けど、なんで一万年後なんですか?

 お兄ちゃんを助けるためだって言うなら、十年後でもいいと思うんですけど」

 

ロティ

「確かにね。 わざわざそん遠い未来に飛ばさなくても・・・」

 

ユリウス

「・・・私も迷った。

 しかし一度漏れだした邪力(タナトス)を再び浄化し荒廃した世界を戻すには、

 それほど時間が必要だと判断し、そうした。

 身勝手な話だが、眠りにつく前に私の力の一部を預けたエリス・・・四女神が

 そうしてくれると信じてな」

 

ネプテューヌ

「ユーくん・・・」

 

ビーシャ

「な、なんだか話が壮大すぎてついていけない・・・」

 

ピーシェ

「ぴぃも、むずかしい話わかんない」

 

プルルート

「でも~、エルくんが辛い過去を持ってるっていうのは分かったよ~・・・」

 

ネプテューヌ

「そういえば、あのマーブルっていう子はどうなったの?」

 

ユリウス

「・・・彼女は邪力(タナトス)の侵蝕が進んでいて手の施しようがなかった。

 一度それに侵され異形化した者は二度と元には戻らない。

 いや、あるいはホーリィクリスタルの力を使えば可能性はあったかもしれん」

 

イストワール

「ではなぜ、エルクさんを助けたのですか?」

 

ユリウス

「家族と仲間を手に掛けて精神が崩壊しかけていたエルクと、

 邪力(タナトス)に侵され最早手遅れなマーブルの二人のどちらを助けるかを、

 私はそれらの命を天秤にかけ、その結果エルクを選んだ。

 つまり私はエルクを助けるために、彼の大切な義妹であるマーブルを見捨てたのだ。

 いや、それ以前に私が役目を放棄せず、

 エリス達と共にいればこのようなことも起きなかったはずだ。

 全ては私の心の弱さが招いた事だ。

 そのせいでエルクには辛い思いをさせ、その挙げ句妹と離ればなれにさせてしまった。

 助けるためとはいえ、私は・・・エルクに取り返しのつかない事をしたのだ・・・!」

 

うずめ

「け、けどよ、それはえるっちを助けるためにやったことだろ?

 そんなに自分を責めんなよ、ゆりっち」

 

ネプテューヌ

「そ、そうだよ! きちんと全部話したらエルくんも分かってくれるよ!」

 

ユリウス

「・・・ありがとう、うずめ、ネプテューヌ。

 さあ、先へ進もう。 この先にエルクがいるはずだ」

 

 

この先にエルクがいる。

ネプテューヌ一行は彼のいる精神世界の最奥部へと進むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんとか今年中に投稿間に合いました!
NGSのリテム追加の大型アプデをプレイしていたら時間を忘れていました・・・。
では皆様、よいお年を!!




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