扉の開いた見えない世界を、お楽しみください。
『ああ……これで今日の狩りは終いだなぁ』
周囲に転がり、辛うじて命に別条のない不良たちを見ながら『その妖怪』は月明かりに照らされる。
ビルを思わせるような灰色のボディに伸び放題になっている艶のない黒い髪に、緑色の不気味な顔の口からは不気味な牙が見える。
『はっ!働いたこともねぇゴミどもが社会人様に歯向かうからこうなるんだよっ!!!』
相手を蔑む言葉と共に、苛立ちを吐き出した妖怪は更なる危害を加えようと足を上げた時だった。
【
ノリの良い、奇妙な歌が響き渡る。
あまりにも場違いなそれは悦に浸っていた怪物の集中力を乱し、不気味な夜を否が応でも騒がしくする。
音の発生源が何処なのか、苛立たし気に周囲を見渡そうと怪物が振り向いた時だった。
「変身」
大きくはない、それでいて夜に響く青年の声が聞こえた。
【BRAZE UP! 燃えるぜ爆走!爆炎暴走GYUGYU-N!!♪】
その後に続く…何かを端的に表したような音声。
同時に怪物の肌を焼くような凄まじいほどの熱気。
そして……足音と共に姿を見せる一人の戦士。
それは人間ではなかった。
オレンジと青を基本カラーとしたその装甲はバイクを模しており、頭部にはバイクのマフラーを模した銀色の装飾がある。
シャッターの下には紫色の複眼が露出しているが、何よりも目を引くのは腹部に装着している物体だ。
リボルバーマグナムとバイクハンドルを模しており、弾倉を模したスロットにはオレンジ色のアイテムが装填されている。
『な、何だお前…』
「お前の夜も、ここまでだ」
突然の来訪者に驚く怪物に、そう返した戦士はエンジン音と共に距離を詰めると怪物を殴り飛ばす。
『うぐえっ!?がっ!!』
不意を突かれた攻撃に吹き飛びそうになる怪物の両肩を掴み、そのまま膝蹴りを鳩尾目掛けて連続で浴びせる。
そのままヤクザキックで蹴り飛ばされた怪物は地面を削りながら数メートルまで転がる。
『…ああああああああああああっっ!!!何なんだよてめぇええええええええええええっっ!!!?』
「うるさいな。俺はファビート……お前の性根ごと焼き潰す戦士『仮面ライダーファビート』だ。これで満足したか?」
戦士…ファビートの言葉に怪物『オトロシ・モノノケ』は苛立ったように頭をかきむしる。
無理もない、無敵に近い身体を手に入れたと思ったら自分と同じ存在に邪魔されたのだから。
『俺はなぁ、俺を裏切った連中に正当な裁きを与えているんだよっ。邪魔するんじゃねぇ!!』
「何が正当な裁きだ。お前が会社を首になったのはパワハラしていたからで、最初に裏切ったのはお前だ」
『何だとぉっ!!?』
「新しい文化や社会に馴染めず、ただただ自分が輝いていたことを正当化して下の連中を支配する……頭の固い中年親父の考えそうなことだな」
鼻で笑うファビートにオトロシ……彼に憑依されている男性は「ふざけんなっ」と地団駄を踏んで不機嫌さを隠そうとしない。
彼は、ある中小企業での社長だった。
社会人としての意識は高く自らの会社のために行動出来る人間ではあるが、部下に対して非常に高圧的に接し、厳しいノルマを強いていた。
少しでも業績が著しくなければ、何度も謝罪する部下の頭を押さえつけ、怒鳴りつけて突飛ばしたりもした。
だが、部下たちはそんな彼を糾弾して裁判にかけた。
部下たちが密かに集めていた証拠品によって、テレビや新聞にも全て取り上げられ全てを失った。
ふざけんな……。
彼は叫んだ。
会社のために行動したのに、何でこんな仕打ちを受けなければならない。
そんなどす黒い、元部下たちへの憎悪がオトロシを呼び出し憑依されたのだ。
『俺は間違ってないっ、俺は悪くないっ、悪いのはあいつらだっ。あいつらのせいで俺はこんな目にあってるんだっ、あいつらが俺に歯向かわなければ……』
「……はぁ。こりゃ重症だな」
『あいつらのせいでアイツラアイツラアイツラアイツラアイツラアイツラアイツラララガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!』
紫色の不気味なオーラを纏いながら、獣のように飛び掛かってくる。
オトロシはその恐ろしい表情で落下しファビートごと押し潰そうとするが、やがてほんの数メートルの距離で止まった。
『あっ、えっ?』
「悪いな。俺はまだ学生でね、あんたの言ってることなんかミリ単位も理解出来ない」
呆然とするオトロシにあっけらかんと言い放ったファビートの右手にいつの間にか武器が握られていた。
赤い柄の部分がバイクハンドル状になっている片手剣を召喚してオトロシの身体を貫いたのだ。
自身に突き刺さっている刀身を必死に引き抜こうと抵抗する怪人に気にすることなく、ハンドルになっている柄を捻ると、蒸気と共に刀身に熱が宿る。
『があああああああああっっ!!?熱い熱い熱いいいいいいいいいいいいいっっ!!!』
燃え上がるオトロシの悲鳴があがる。
ファビートのセットしているモノノケは『オボログルマ』。
乗り物が持つ馬力とスピード、そして鬼火を自在に操る力をファビートドライバーによって制御することで、火炎を操る高速の戦士へと姿を変えるのだ。
「そーら、よっ!!」
そのまま武器『オボロスラッシャー』を振るってオトロシを投げ捨てたファビートは続けて赤熱した斬撃を何度も浴びせてから再び蹴り飛ばす。
再び吹き飛んだオトロシに止めをさすべく、ドライバーにあるハンドルに手を掛ける。
そして、燃え広がる炎を消そうと地面を転がる怪物を見据えながらサイドハンドルを捻った。
【LET'S BEAT!
瞬間、身体は赤熱すると同時に青とオレンジの炎が吹き上がる。
そして助走をつけてから高く跳躍して一回転する。
「だあああああああああああああああああっっ!!!」
『ひっ、あんぎゃああああああああああああああああっっ!!!』
そこから繰り出される急降下キック『ファビートストライク』が、炎を消してようやく起き上がったオトロシ・モノノケのボディを貫いた。
絶叫と共に爆散し、そこには髭を生やしたスーツ姿の中年男性が気絶した状態で倒れている。
しかし、戦闘が終わったにも関わらずファビートは何かを探すように辺りを見渡す。
「……本体は無事か」
破壊されたモノノケのコアが見つからないことから、逃げられたことに舌打ちするも思考を切り替えたファビートは倒れている男性を担ぎ上げ、自身の愛車へと足を進めるのであった。
同時刻。
人気のない不気味な洋館に、一人の青年が供えられたチェアに腰を掛けていた。
髪を腰まで長く伸ばした彼は背後から聞こえてくる足音に振り向くことなく穏やかな様子のまま、相手の報告を待つ。
「……オトロシのコアは回収しておきましたよ。『ソラナキ』さん」
「ご苦労様。『大地』……君は優秀だね」
黒い正装に身を包んだ小柄な少年…大地は上司であるソラナキの言葉に「どういたしまして」と年不相応の言葉で返す。
そして立ち上がって振り返った彼は淡く発光するモノノケのコアを見つめる。
「『ヒトツキ型』の君が憑依した相手は良かったが……まぁ何れは幽霊電車で地獄行きだったんだ。相性が悪かったとして次の相手を探そう」
落ち着いた彼の言葉に反応するように、オトロシのコアは不気味に点滅を繰り返すのであった。
モノノケ
日本の妖怪と同じ妖力を持つ存在。彼らは実態を持たず歯車『モノノケギア』の状態で動いており、物体に憑依して実態を得る『モノツキ』・波長の合った人間に憑依する『ヒトツキ』が存在する。
今回のモノノケ『オトロシ』は人に取り憑くヒトツキタイプであり、パワハラを働いた末に全てを失った中年男性に憑依していた。
撃破の際は、モノノケのコアだけが破壊出来るので問題はない。仮面ライダーの匙加減では憑依した物体や人間ごと撃破することも可能。
共通点として身体の何処かに心臓のような紋章がある。
仮面ライダーファビート 名前の由来はファイヤーとビートの造語。
オボログルマをセットしたファビートドライバーで変身し、オレンジと青を基本カラーとしておりバイクを模しており頭部にはバイクのマフラーを模した銀色の装飾がある。シャッターの下に紫色の複眼が隠れている。
柄の部分がバイクハンドル状になっていてアクセルを捻ると威力を上げる剣「オボロスラッシャー」で相手を追い詰めるだけでなく愛機「マシンヒート」で相手を翻弄したり追跡する。
必殺技は二色の炎を纏ったライダーキック「ファビートブレイク」とギアをセットしたオボロスラッシャーによる赤熱した刀身で相手を切り裂く「オボログルマストライク」
〇ファビートドライバー :青が基本カラーでリボルバーマグナムとバイクハンドルを模しており弾倉を模したスロットにオボログルマギアを縦に装填しハンドルを捻ることで変身する。
マシンヒート :劇中には登場しなかったが鬼火を模したバイクであり基本カラーはメタリックレッド。火炎弾を発射したり、瓦礫を粉砕するなど馬力があるスーパーマシン。