風都……そこは常に風が吹くエコの街。
良い風も吹けば、悪い風も誘い込んでしまう。
ビルが溶け、人が死ぬ……この街では、それがありふれた出来事になってしまう。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!』
薄暗い裏路地、常人なら決して近づかないであろうその場所で悲劇が起こっていた。
荒い息を繰り返しながら、獣の呼吸をする一体の異形がいた。
薄暗く、肝心の姿こそ見えなかったが屈強な腕を身体の下にある物体に向かって振り下ろす度に、生々しい音と骨の砕ける音が聞こえる。
馬乗りにされている人物に向かって殴り続けていたが完全に動かなくなったのを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。
『終わった。やっと、終わった』
加工されたような声色でそう呟いた異形は、覚束ない足取りで裏路地から去っていく。
異形の名はドーパント……それは超人。
未知のエネルギーの『地球の記憶』を封じ込めたUSB型のアイテム『ガイアメモリ』を人体に挿し込むことで人間を超越した者の総称。
適合者に引かれた魔性の小箱は、人体を相応しい形に地球の記憶をドーピングさせることで変貌させる。
超人と言えば聞こえは良いが、その実態は異形や怪物と呼ぶに相応しい。正に悪魔の力だ。
しかし、その代償はあまりにも大きい。
強大過ぎるその力には例外なく内包された毒素に精神を蝕まれ、やがて本当の怪物へと身を堕としてしまう。
それは法外なドラッグのように、危険な魅力を放つそれは自身や周囲に悲劇をもたらし、手放すことなど決して出来ない。
ジャズの音楽が流れる落ち着いた雰囲気の喫茶店『白銀』にて、そこに三人の可愛らしい少女がいた。
店のマスターらしき女性は少女たちの様子を察してか内密な話をするのにぴったりな席へと案内し、サービスとしてコーヒーを用意する。
「ありがとうございます」と会釈した腰まで伸ばした茶髪の可愛らしい少女『桜井望』は砂糖とミルクを入れたコーヒーを一口飲む。
(……結構、良いお店だな)
そんなことを思いながら、待ち人を待つ。
その内の一人は灰色の長い髪を二つの三つ編みにした『三角千歌』は仕切りにスマートフォンで時間を確認している一方、最後の一人であるピンク色の髪をツインテールにした少女『繭宮つむぎ』はリラックスした様子で白い紙にデザインをスケッチしている。
彼女たちはアイドルグループ『カルミナ』
元々彼女たちはとあるゲームで結成されたギルドだったのだが、望の発案によってそのままリアルグループへと昇格された奇跡のユニットである。
そんな彼女たちがこの喫茶店にいるのには理由がある。
しばらくは各々に時間を潰していたが、客が入店していたことを告げる音が鳴り、思わず視線を向けた。が、すぐに首を傾げた。
そこにいたのは長い茶髪のロングヘアーをサイドポニーしフード付きのグリーンのパーカーにチェック柄のミニスカートといった服装をしており、その下には黒いニーソックスを履いている美少女だ。
その少女は望たちのいるところまで歩いて近づくと、声を発した。
「『カルミナ』ってアイドルグループは、あんたたち?」
「う、うん」
やや不愛想さが残るクールな顔立ちの同年代の少女に対して望が答える。
すると彼女は少しだけ表情を緩める。
「まっ。混乱するのも分かるけど、まずは自己紹介ね」
近くの席から適当に椅子を持ってきて腰を掛けると、マスターにコーヒーとケーキを注文して改めて名乗る。
「私は『左瀬奈』……兄さん『左刹那』とは双子の妹で鳴海探偵事務所に所属する探偵よ」
「左さんの、妹」
そう名乗る彼女に対して千歌はオウム返しする。
刹那に妹がいるというのは聞いてはいたが、双子で…しかもこんな美少女とは聞いていなかった。
まぁ、肉親からしたら滅多なことがない限り妹を可愛いとは言わないだろうが。
「兄さんが仕事で忙しいってことだからね。代わりに私が、情けない連中の代わりにハードボイルドに解決しに来てやったってことよ」
やたら自信の籠った態度に望は思わず苦笑いするが、逆に言えば頼りがいのある姿にある程度の緊張感が解けてきた。
望たちも自己紹介をし、互いに握手を終えて良好なコンタクトを取ることも出来た。
「……泥棒猫の臭いがする」
「えっ?」
物騒な言葉が聞こえたが恐らく気のせいだろう、多分。
瀬奈に促され、望たちは依頼を話し始める。
概要としては自分たちにつき纏うストーカーをどうにかしてほしいという内容だ。
ただのストーカーなら警察に相談出来るが、どうにも嫌な予感がするのだ。
最近では連続殺人未遂事件が起こっているのもあり、警察官でもあり友人でもある刹那に相談していたのだ。
内容を聞いた瀬奈は「ふむ」と納得したように頷いて口を開いた。
「了解。なら、この依頼は引き受けたわ」
「本当に!?」
「こういう時のために探偵がいるのよ。ま、任せときなさいって」
「ありがとう!」と笑顔で瀬奈の手を握ると、彼女はすぐにカルミナの三人を帰宅させる。
幸い、帰りはマネージャーとプロデューサーが送迎してくれるため問題はない。
瀬奈もコーヒーを飲み終えてケーキを食べ終えると代金を払ってそのまま外を出る。
そしてすぐにスマホで兄である刹那に電話をかける。
『……そうか。悪かったな、急に借り出して』
「良いわよ、どう考えても普通の警察じゃ無理そうだし」
『だろうな。だからこそ俺たちも動ける』
その言葉に瀬奈が笑みを浮かべる……可愛らしい顔立ちの彼女とは思えないほどの獰猛な笑みだ。
つまり、瀬奈のスイッチが入ったことも同義だ。
『とにかく、俺は別方向で捜査を進める……が、その前に』
「本棚に…でしょ?」
双子同士だからこそ、だろうか。
互いに以心伝心するかのように、瀬奈は瞳を閉じて本棚へと入り込んだ。
時刻も既に夕方……薄暗くなった人気のない場所を一人の少女が歩いていた。
明るい茶髪が歩く度に靡くその様子は知る人なら分かるだろう、望だ。
誰にも気づかれないよう、足早に歩くその様子を追跡する人物がいた。
ミリタリー風のジャケットにあるフードで顔を隠したその人間は、距離を詰めつつ気配を殺す。
やがてその人物の眼が獣のような鋭い視線へと変わった。
暗い炎のような獰猛な光を宿し、地面を蹴って無防備な背中目掛けて襲い掛かった。
しかし。
「ふっ!」
「っ!?」
振り向きざまに放たれたカウンターキックを頭部に命中させて、地面へと倒す。
動揺するも、追撃と言わんばかりに放たれたサッカーボールキックを躱すと、その人物は身体に染み付いたファイティングスタイルを構える。
互いに踏み込もうとした時だった。
「動くなっ!!」
力強い声に、その人物は思わず身をすくませた。
そこにいたのは黒いブレザー・ネクタイに黒いズボンを履いた少年……中性的ながらも端正な顔立ちをしており、ハネ毛の黒髪には黒いソフト帽を被っており、ブレザーの下のシャツがある。
瀬奈の双子の兄である左刹那だ。
後ろからは望たちカルミナが現れ、その人物はようやく自分が罠にはまったのだと理解する。
「警察だ。新谷音鳴……殺人未遂及び超常違法物所持法の疑いで逮捕する!!」
警察手帳を突きつける刹那から鋭い視線を向けられている人物…新谷がフードを外して素顔を見せる。
風貌は黒髪で特徴のない顔立ちの、何処か平凡な大学生でカルミナのメンバーも驚きを隠せない。
一方の彼も何食わぬ様子で刹那と視線を合わせる。
「な、何ですか一体……僕が何をしたって言うんですか?」
「お前が起こしたドーパントによる連続殺人未遂事件……思えば始まりの時点で俺たちは見逃していた」
そう言って刹那は相手の視線を自ら向けるよう捜査結果を話す。
「最初の事件は、某大学のサークルたちが被害者になった傷害事件……その中にはお前をいじめていたメンバーがいた。けど、この事件とお前が繋がらなかったのは『事故で右手が使えなくなっていた』からだ」
新谷の高校時代、いじめられていた同級生から身を守るべくキックボクシング部に入り、逆に立ち向かうことが出来た。
大学に入ってからも続けていたが事故で右手が砕けてキックボクサーとして再起不能になってしまったのだ。
恐らく、そこでガイアメモリを手に入れたのだろう。
「そこで実験がてら、そいつがいたサークルを見つけて襲撃した……けど変身した直後でも右手は使えなかったからキックだけで相手を再起不能にした……違うか?」
「……」
「その右手も、メモリの影響だな?大方『相手を倒すごとに身体が治る』……てところか」
確かに最初の事件はこれで繋がった。次はそれ以降の被害者の共通点だがこれも刹那はすぐに分かった。
被害者たちの間には面識も何もなかった……表向きはだ。
「被害者たち全員が、『レジェンドオブアストルム』の上位プレイヤーたちだった。こう考えたんじゃないか?『強い相手を倒せばもっと強くなれる』ってな。今のご時世、身元を特定することは訳ないからな」
「あ……!!」
そこで望が思い出す。
最近のアストルムでは良いゲームプレイをするプレイヤーやギルドにはランキングが載る機能が搭載されており、もちろん非公開することも可能だが、望たちは自分たちのグループの宣伝も兼ねて公開していたのだ。
「……なるほど。確かに僕には動機もありますね?最初の事件に関してはまぁしょうがないです。だけど、残りの事件に関しては証拠なんて…」
余裕の態度を崩さない新谷に対して、刹那はイヤホンマイクのようなデバイスを投げ捨てる。
それはVRを用いた小型ネットワークデバイス『mimi』……それを見た彼は血相を変えてすぐにそれを踏んで壊すも、刹那は表情を崩さない。
「それは俺が使ってた昔の奴。本物ならとっくに鑑識とサイバー犯罪対策課が調べているだろうさ」
「お前っ……!」
「証拠がmimiのデータ内に入っていて助かったぜ」
口元に笑みを見せる刹那に対して、新谷が恨みがましい視線をぶつける。
しかし、そこで疑問に思ったのは千歌だ。
「で、でもどうやって手に入れたのですか?」
そもそも話を聞いた限りでは、新谷は容疑の圏内に入ってすらいないし今までの刹那が導き出したことで警察全体の結論ではない。
だからこそ新谷もmimiを自宅である寮の部屋に保管していたのだろう。
それが何故、警察官である彼が所持しているのか。
「私があんたの部屋に入って押収したの」
変装用のウィッグを外しながら、瀬奈が当たり前のように答える。
カルミナのメンバーは彼女の方に視線を向けるも気にせず話す。
「警察ってさ、捜査令状とか差し押さえとか面倒でしょー?そんなの一々待ってたらキリないから私が潜入したのよ。裏口からこっそりね」
得意気な様子で喋るグレーゾーンな彼女に刹那は苦笑いする。
これが彼らの捜査スタイル。
足で事件現場や関係者を調べて事実と事実を繋ぎ合わせることが左刹那で、地球の本棚と父親譲りの直感で調査するのが左瀬奈の戦闘スタイルだ。
やがて彼は、表情を引き締めると再度宣言する。
「観念しろ新谷!」
「……ゴングがっ」
「っ?」
「ゴングが、鳴ったんだ。これを使ったら、試合の始まるあの音が聞こえたんだ。だから、だから僕はあいつらを倒したんだ」
眼が据わっており、明らかに正気ではない様子の新谷に対して刹那が内心舌打ちをする。
恐らく、ガイアメモリで変身した時点でマイナスな感情が毒素によって増加したのだろう。
完膚なきまでに倒す……それが悪い方向になってしまった結果だ。
「倒したら、砕けた拳が治っていったんだ。きっと、僕が相手を倒したから強くなっていくんだと分かった……もっともっと戦ったら、僕は……っ!!」
瞬間、新谷の目つきが変わった。
歪んだ色を放つ瞳で刹那を見据えると、ズボンのポケットから何かの動物の頭部を模した紫色のクリアカラーのメモリを取り出す。
「『アルカナメモリ』……!!やめろっ、新谷っ!」
「ゴングが鳴った、だから!だからぁっ!!」
【JACKAL!】
アルカナメモリ……『ジャッカルメモリ』のボタンを押して起動した彼は砕けて動けなくなっているはずの右拳に出現した生体コネクタに向かって挿入する。
それが吸い込まれるように体内に入っていくと、その姿を異形『ジャッカル・ドーパント』へと変えた。
アルカナメモリ……最近になって新たに蔓延るようになった新型ガイアメモリの通称だ。大アルカナの記憶と地球の記憶を同時に取り込むことで高い適合者へと引き合う性質を高めたそれは、使用者を超能力『ハイドープ』へと瞬時に覚醒させることを可能としている。
『ジャッカルの記憶』を宿した名前の通り、薄い金色もしくは黄褐色にも見える体色に背と尾には黒い毛のような装飾がある正にジャッカルの怪人。
長い耳を動かしながら『ジャッカル・ドーパント』はファイティングスタイルを取る。
『試合開始。お前に勝って、僕は更に強くなるぅっ!!』
そう叫んだジャッカルは凄まじい脚力で刹那との距離を一瞬で詰めると、そのまま剛腕を振るう。
恐らく今までの被害者も最初の一撃を受け、倒れたところを馬乗りになって殴られ続けたのだろう。
しかし。
「ふっ!」
『なっ!?』
それを読んでいたかのようにバックステップで躱すと、お返しとばかりにカウンターキックを叩き込む。
超人であるドーパントにとって人間の攻撃など取るに足らない……それを受け止めてから殴り飛ばしてやろうとジャッカルが身構えた時だった。
『がぁっ!?』
本日二度目の衝撃が走る。
刹那の蹴りはジャッカルに強烈なダメージを与えるほどの威力を秘めていたのだ。
動揺するドーパントを蹴り飛ばして無理やり距離を開けると、その隣に瀬奈が並び立った。
「……兄さん」
「分かってる」
妹の言葉に短く返してから取り出したのは、左右に赤い横向きのスロットが二つあるバックル……それを刹那は腰の前へ軽く押し付ける。
バックル『ツヴァイドライバー』から銀色のベルトが飛び出し、彼の腰に巻きつくと同時に、瀬奈からもツヴァイドライバーが腰に召喚される。
そして、彼らは懐から薄い緑色の端子をしたUSBメモリ…『地球の記憶』を宿すとされる道具『アルカナメモリ』を取り出した。
刹那のメモリは全体的に紫色をしており、道化師の靴のような意匠の「J」の文字が刻まれている。
それに対して瀬奈のメモリは全体的に緑色をしており、ローマ数字で「ⅩⅤ」と風とバッタの意匠をした「D」の文字のメモリだった。
『まさか…!!』
それを見たドーパントは明らかな動揺を見せる。
構わず瀬奈と刹那はそれぞれのガイアメモリのプッシュスイッチを押す。
【DEVIL!】
【JOKER!】
渋い男性の声をした電子音声が鳴り響く。
瀬奈が起動したのは大アルカナ『悪魔の記憶』を宿した『デビルメモリ』と、『切り札の記憶』を宿したジョーカーメモリの起動が確認される。
音声が鳴り終わると彼らはメモリを構え、同時に叫んだ。
「「変身っ!」」
瀬奈は右側のスロットにデビルメモリを挿入し、刹那のドライバーに自分の意識ごと転送され、同時に瀬奈の身体は昏倒する。
刹那は右側のスロットに現れたメモリを押し込み、左側のスロットへジョーカーメモリを挿し込むと交差させた両手でバックルの中央部にある白いスイッチを押した。
【DEVIL! / JOKER! BATTLE START!!】
再び電子音声が鳴り、球体状のディスプレイが輝くと同時に風を思わせるような爽快な曲と切り札の軽快な音楽が辺りに鳴り響いた。
その風に思わず望たちは顔を覆って隠す。
そして、刹那の身体を緑色と黒い色の粒子が渦を巻きながら彼の身体を纏う。
現れたのは左右非対称の戦士……。
中央のプラチナカラーのライン『セントラルパーテーション』を境に左半身『アームズサイド』はジョーカーメモリのようにパープルカラー、右半身『アビリティサイド』はバッタやイナゴの足を思わせるようなスプリングが右腕と脚部に搭載された緑色のボディになっている。
更に右側の首に巻いた赤いスカーフが軽やかに夜風に舞っている。
額にはV字型のホーンが形成され、大きく紅い複眼が緑と紫に映えて輝いていた。
「『俺(私)たちは…仮面ライダーツヴァイ……』」
刹那と、もう一人の相棒である瀬奈の声でそう応えると悪魔の切り札『仮面ライダーツヴァイ』は左手首をスナップさせるとダイブへと指さす。
「『さぁ、お前の罪を数えろ!』」
脈々と受け継がれてきた、悪党どもに投げ掛ける『あの言葉』をはっきりと宣言し、一直線にダイブへと走ってから跳び蹴りを仕掛ける。
先制攻撃を受けたジャッカルは、すぐさまボクシングの構えを取ると、カウンターパンチによる反撃を行うが、突き出した腕を絡め捕られたことでバランスを崩してしまう。
「そらっ!」
『なっ、がっ!?』
まるで水のような流れる動きから繰り出されるジークンドーで培った打撃が顔面へと命中。
そのまま肘打ち、三段蹴りと鮮やかな動きでジャッカルにダメージを与える。
更に攻撃は終わらない。
【FIFTEEN! DEVIL!!】
「オラッ!」
『ぐっ!?』
バックル中央のスイッチを再度押し込んだ瞬間、緑色の旋風を纏ったツヴァイの蹴りがジャッカルの鳩尾に命中していた。
ツヴァイドライバーはセットしてあるアルカナメモリの力を『技』という形で一時的に発動することが出来る。
今ツヴァイが発動しているのはデビルメモリによる風で纏った攻撃だ。
そのままスイッチを二回押してアームズサイドの技を発動すると、ジョーカーによる強化されたドラゴンキックがジャッカルの顔面に直撃した。
だが、すぐにドーパントは体勢を立て直すと素早いジャブで相手を牽制しながら強烈なハイキックを繰り出そうとする。
「うぉっと!?そっちがボクシングならこっちも載ってやるよ」
そう呟いてから取り出したのはオレンジのクリアカラーのアルカナメモリ。
それには「Ⅷ」というローマ数字が刻まれ、火山を模した「S」というイニシャルがある。
【STRENGTH!】
大アルカナ『力』の記憶を宿したアルカナメモリをセットし、中央のスイッチを押してメモリの力を再び開放する。
【STERNGTH! / JOKER!】
音声と共に現れたのは火山を思わせるような右肩のシンボルがある右半身がオレンジ色の戦士。
「ウォラッ!!」
『ぐへぇっ!?』
近距離でのパワーファイトに特化したストレングスジョーカーへとメモリチェンジし、溶岩と同等の熱を秘めた右の拳でジャッカルを殴り飛ばす。
デビルメモリやムーンメモリではパワーが低く、パワーとスピードを兼ね備えたジャッカルメモリに勝つことは難しい。
打点が高く相手に最も接近することが出来るストレングスジョーカーがこの場では最適解なのだ。
頭を振って正気を取り戻したジャッカルはすぐさまボクシングスタイルへと移行すると、スピードの乗ったストレートパンチとハイキックを繰り出す。
しかし、その攻撃を軽快なスウェイで回避すると脇腹に強烈なブローを叩き込む。
呻き声と共に身体を屈んで怯むジャッカルの隙を逃すことなく連続して殴りつける。そして炎を纏った右ストレートをその身体に浴びせると、ドーパントは地面を転がる結果となる。
『がはぁっ!』
「……たく、こんな形でボクシングする羽目になるとはなっ」
『愚痴なら後にしなさいよ、兄さん』
動きを完全に見切ったツヴァイのぼやきに、アビリティサイドの瀬奈が窘める。
そんな余裕を思わせる態度が癇に障ったのだろう。
『ぐっ、あぁっ!!舐めるなあああああああああああああああっっ!!!』
動物系メモリの毒素に染まった影響なのか、口調を荒らげながらツヴァイに向かって球体状のエネルギー弾を投げ飛ばす。
だが、ストレングスメモリを宿した右腕がそれを粉砕した。
ストレングスメモリは『火山の記憶』を宿したボルケーノメモリが覚醒したもの……強烈な熱と炎を宿したツヴァイにとっては毛ほどにも痛くはない。
呆然とするジャッカルに対して、ツヴァイは青と白銀の二つのメモリを取り出す。
唯一のアイデンティティだったボクシングを捨てたドーパントに完全な止めを刺すために相応しいメモリだ。
青いメモリは「ⅩⅧ」のローマ数字と、雲と満月で「M」を象った『ムーンメモリ』。白銀は「ⅩⅦ」の数字と流星で「S」の意匠がある『スターメモリ』
アルカナメモリをスイッチを押して起動した。
「さぁ、いくぜ!」
【MOON!】
【STAR!】
左右のスロットをセットし、バックル中央のスイッチを押して変身する。
【MOON! / STAR! BATTLE START!!】
そこに現れたのは白い雲のような装飾がある夜を思わせるような青いボディカラーに、流れ星を思わせるような星の装飾がある狙撃手を思わせるような白銀のボディ。
「ボクシングを捨てるなら、こっちも容赦なしで行かせてもらうぜ!」
『があああああああああああああっっ!!!』
ツヴァイのセリフに気にすることなく、獣のような叫びと共に素早い獰猛な動きで突っ込んで来るジャッカルに焦ることなく、左側の太ももにあるホルスターから専用リボルバー銃『スターブラスター』を構えてトリガーを引いた。
発射された弾丸は青い軌跡を一直線に描きながらジャッカルに迫るも、獣の本能を駆使して難なく躱す。
だが……。
『あぐっ!あああああああああああああっっっ!!?』
いきなり背中からの強い衝撃にジャッカルが前のめりに倒れる。
『あぐっ!な、何がっ!?』
背中から煙を上げながらも、起き上がったドーパントは後ろを向くが何もない。
仲間か誰かが狙撃したのかと思ったがツヴァイ以外に誰かがいる気配もない。
「種明かしをしてやるよっ!!」
混乱するジャッカルに対して得意気な様子を見せるツヴァイがスターブラスターの弾倉を回して弾丸を補充すると、トリガーを連続で弾いた。
すると、ドーパントに向かってスターブラスターから放たれた銃弾は意思を持つかのように軌道を曲げ、不規則な動きで相手を狙ってくる。
『あぎゃあああああああああああっっ!!!』
四方八方から迫る銃撃にジャッカルが火花を散らしながら再び地面へと倒れる。
もはや起き上がる体力も、抵抗する力も残っていないだろう。
『兄さん!メモリブレイク、行くよ!』
瀬奈の言葉に「了解」と短く返したツヴァイはスターブラスターの弾倉部分にセット。そしてそれを回転させると同時に電子音声が鳴り響いた。
【STAR! MAXIMUM DRIVE!!】
必殺技を告げる音声が響くと、狙いを外さぬよう両手で銃を構えドーパントを狙う。
「これで決まりだ」
そう宣言したツヴァイはスターブラスターを両手で構えると、ドライバーにセットされた二つのアルカナメモリの力が銃口へとチャージされる。
「『スタードリームバスター!!』」
左右の呼吸を合わせるように、技名を叫ぶとスターブラスターのトリガーを引いた。
瞬間、ビームのような白銀と青の弾丸が散弾のように何十発も発射される。
『ひ、ひぃっ!!?』
流星のような凄まじい速度で迫る必殺の弾丸にジャッカルが恐怖する。
ようやく立ち上がると、ジャッカルの脚力を活かしてこの場から逃走しようとするも時すでに遅し。
『ぐっ、ぐおああああああああああああっっ!!!』
全ての弾丸が直撃したことでジャッカル・ドーパントは凄まじい音と共に爆散。
爆心地には衰弱した様子の新谷が倒れており、砕けたアルカナメモリを拾おうと必死に手を伸ばそうとする。
「あっ、あぁ……ゴングの、音がっ」
「いいや。これで試合終了さ」
煙が晴れたと同時に、メモリが弾けると今度こそ意識を失って地へと伏せるのだった。
そうして、連続殺人未遂とカルミナストーカー事件は幕を閉じた。
保護していたカルミナも解放され、問題なくアイドルとしての仕事も出来るようになっている。
「ありがとうね、瀬奈ちゃん」
「まぁ。ひ、左さんはともかく、瀬奈さんのおかげで助かりました」
「本当にありがとうございます」
ロケに向かう前に挨拶がしたいということで望・つむぎ・千歌の三人が瀬奈に向かってお礼の言葉と共に頭を下げていた。
無事に犯人である新谷も逮捕されたことで彼女たちを守ることが出来た、報酬よりも一番大事ものを手に入れることが出来たのだ。
「……てあれ?刹那君は」
「あれ?」
そう、お礼を言いたいのは彼女だけではない。
自分たちの話を聞いて事件捜査に踏み込んでくれた刹那には感謝してもしきれないのだ。
未だ自分たちを友達扱いしている彼に、アイドルとしてのすごさを知らしめたいというのも本音だったが。
しかし肝心の刹那の姿が見えない。
片割れの妹が周囲を見渡し始めた時だった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」
刹那の興奮気味な悲鳴に思わず視線を向ける。
見れば壁に貼り付けてあるポスターに釘付けになっており、先ほどまで見せていたクールな表情とは違う。
その理由は。
「やっべえ……うづきんにちゃんみおにしぶりんのライブだとぉっ!!何で俺が仕事の時に限って……行きたいっ!すっごい行きたいっ!ブースター付きタイムマシンで直行してサインと握手してえええええええええっっ!!!」
ネジの外れた様子に望たちは苦笑いするしかない。
何を隠そう、左刹那はドルオタなのである……『アイドル全員推しメン』とまで言い切るほどの残念。
それだけならまだ良いのだが捜査中にアイドルグッズを発見しようものなら経費で買おうとしたり、「デュフ」と気持ち悪い声で笑いだすぐらいの残念さである。
ちなみにカルミナは友達のためアイドルにはカウントされないらしい。
「どうする?チケットは経費で何とかなるとして肝心なのは仕事中にどうやって行くかだ?仮病を使うか、いやそれだと……」
ポスターにかじりつて独り言を早口でよどみなく呟くみっともない姿に瀬奈が眉間を引くつかせると、助走をつけ……。
「この、左家の恥知らずがああああああああああああああっっ!!!」
「ぎゃあああああああああああああっっ!!?」
痴態を晒した刹那にエルボーを叩き込むと、そのまま卍固めを決めて制裁行うのだった。
彼らの名は、仮面ライダーツヴァイ。
街の涙を拭う。新たな二色のハンカチ……。
アメリカ・ニューヨーク空港にて……。
そこには、一人の人物がいた。
丈の長い青い修道服を着た長身の男性で端正な顔立ちからして日本人だろう。
茶髪を緩いオールバックにした彼はポケットから緑色のアルカナメモリを取り出した。
「待ってろ日本。主人公である俺が戻ってきた」
彼の正体は……?
簡単な用語集
左刹那 :
仮面ライダーツヴァイの左側で主人公。クールながらも熱い心で風都に蔓延る悪と戦う。ハイドープとして『身体能力の強化』が扱える。
どうしようもないドルオタ。
左瀬奈 :
仮面ライダーツヴァイの右側で主人公。基本的に大雑把な性格だが、優しい心の持ち主。幼少の頃の臨死体験の影響で『地球の本棚』にアクセス出来る。
どうしようもないゲーマーでブラコン。
アルカナメモリ :
風都に流通しだしたT3ガイアメモリの総称でT2ガイアメモリと同じ外観を持つ。進化する特性を持ち、完全に覚醒するとⅠ~ⅩⅩまでの大アルカナへと名前を変える。