オーズモチーフなので、オーズの二話目を参考にしました。
エヴォルガを撃破してから四時間後……別喫茶店に連行された嶺とヴァンの二人は五人の少女たちに囲まれていた。
理由は実に単純である。
「どういうことか説明して、嶺君」
「うーん。説明かー」
代表して口火を切った眞白が問い詰める。
困ったように笑う嶺は、頼んだクリームソーダをストローで啜りながら思案する。
「えーと、帰り道にボロボロだったヴァンを見つけて、そんで俺にエクトゥスの資格があってー」
「待て待て待て待て。全・然!分からんっ」
「でもこれぐらいしか説明出来ないし……」
「お気持ちは分かりますが……」
ふわっふわした説明に真琴がツッコミを入れるも、当の本人は何処吹く風。
グリムムーンに変身していた少女も苦笑いするが、あまり事情を把握していないと判断する。
ちなみにグリムスリープだった少女は寝ており、日向はむくれている姉を必死に宥めている。
そうなると彼の隣の少年……ヴァンに話を聞く必要がある。
視線を向けられたことで気づいたのだろう。ヴァンは軽く咳払いをすると口を開いた。
「嶺の説明に間違いはありません……僕はヴァン。800年以上前に存在した錬金術師、その記憶と人格を写し出したホムンクルスです」
そして、話が始まった。
『なるほど、これが今の時代でござるか』
ビルとビルの隙間、そこから人ならざる声が聞こえる。
それは道を行き交う人々には聴こえていなかったが、もしも耳にした一般市民が見れば絶句し卒倒するだろう。
隙間には無数の黒いムカデが蠢いており、そこから先ほどの声が聞こえているのだ。
『文化・流行・社会情勢、ウォンセクト殿が望む情報は全て収集はしたでござるが……』
一つの意志を持つ百足たちは考える。
このまま集めた情報を持って帰るのは簡単だ。
しかし、エクトゥスの復活と妙な衣装と不思議な力で戦う少女たち……これを野放しにするのは少しばかり不安が残る。
あの錬金術師が完成させた騎士の力、かつては『魔剣』だけでなく、その頭脳を持って800年以上前に存在した我が国を発展させた彼……ヴァンの発明が『あの程度』で終わるとは思えない。
そしてあの少女たち、ただの人間と侮るには些か早計だ。
そこまで考えたムカデたちは蠢き、まるで何かを形作るように集まっていく。
『……』
一つに集まった無数のムカデ……ムエンへと変貌した彼は周囲を見渡す。
しばらくして『それ』はすぐに見つけた。
「ふぅ……」
缶コーヒーを置いて一息吐いたのは、それなりのスーツを着た男性。
額縁眼鏡と七三分けにしたその姿は、サラリーマンのように見える。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……老後の貯金には全然かな」
人気のない場所で、近くのベンチに腰掛けながら独り言ちる。
男性は、銀行員であり今の時代には珍しく向上心のある人物だ。自分の働く銀行のためにと必死に働いており、上司だけでなく同僚や部下からの評判も良い。
そんな彼が働く理由はただ一つ『老後のため』だ。
まだまだ若い彼だが、「人生何が起こるか分からない」をモットーに仕事に精を出している。
もしかしたら病気が起こるかもしれない、もしかしたら仕事を急にやめることになるかもしれない……。
常に不測の事態を考えていれば、自然とお金が必要になってくる。
「まぁ、でも」
世の中金が全てではない。
だからこそ、そう思っている彼の周りに人が集まってくるのだろう。
辛いこともあるが、仕事も楽しいことに変わりはない。
休憩を切り上げると、職場に戻ろうと立ち上がった時だった。
『金が欲しいでござるか?』
「えっ?」
何処か古臭い、鋭い声が聞こえたのだ。
それは間違いなく自分に向けている。
慌てて辺りを見渡し、やがて背後からの気配に振り向いた時だった。
そこにいたのは一体の黒い怪人……。
ムカデのような鋭い棘のような装飾とマフラーを生やした黒く光る右半身に、左半身は日本の僧を思わせる黒い袈裟のようなローブに錫杖の先端を思わせる金属の輪を十二本通した左半身。
「ば、化け物っ!?」
『その運命、利用させて頂く』
【INSECT…!!】
恐怖で驚く男性に気にすることなくムエン……『
そして、躊躇なく男性へと埋め込んだ。
【Let's Play……!!】
「あああああああああっっ!!?」
苦し気な悲鳴と共に、埋め込まれたダイスが排出されると男性はその場に倒れる。
やがてダイスが淡い光と共にエネルギーを放出しながらエヴォルガへと変わる。
『ヴッ、ヴヴヴヴヴヴヴ』
生まれたのは、耳障りな呻き声をあげる異形。
六本の脚で細長い身体を支えるその姿は昆虫そのものだが、人間の胴体ほどのサイズを持つ『それ』は宿主の願望を叶えるべく確かな足取りで地面を這って動き始める。
気を失っている男性の一瞥した後、すぐに視線を生み出したエヴォルガへと向ける。
『成長するころには、彼奴らも気づくでござろう』
そう呟くと、Bセンチピードは再びその身を無数のムカデへと分離させて姿を消すのだった。
「エヴォルガは、人間の願望と生物の力が入り混じった改造人間です」
その説明に全員が驚く中、お冷を一口飲んで喉を潤したヴァンは続ける。
今から800年以上前の時代では複数の動物の力を宿した敵国の王が蹂躙し、世界の全てを手に入れようとしていたらしい。
その強欲な王に立ち向かうべく、目を付けたのが祖国の労働力でもあった人工生命体だ。
ダイスに宿した動物のエネルギーを解放し、召喚することが出来、今でいうロボットに近い存在であったらしい。
しかし簡単な作業や指令でしか動かない人形では相手にとって取るに足らないことは一目瞭然……それに対してある兵士が行動を起こしたのだ。
「騎士団の一人が、ダイスを自分の身体に埋め込んだんです……その時の光景はよく覚えています」
今でも思い出す。
歪な光と共に、異形へと変わっていく様を……それに対して羨望とも呼べる視線を、彼らが異形へ送っていたこともっ。
彼に続くように騎士団の兵士たちをダイスを埋め込み、その身を改造しようとした。
しかしそんな付け焼刃にデメリットが存在しないわけがない。
ある者は形が崩れて理性を失い、またある者は異形となった半身に身体を食われた。
そして、唯一生き残った兵士や騎士……所謂適合者たちは自らを願望と生物が混じり合うことで進化した存在『エヴォルガ』と名乗り、敵国の王が祖国に侵入することを防ぐことが出来たのだ。
しかし。
「彼らは突如として、国に牙を剥けました……!」
エヴォルガたちは自らの国に刃を突きつけ、全てを支配すべく反逆を起こしたのだ。
ダイスの技術を使い、人間の精神と願望を異形の怪人へと実体化させる術を生み出し、何もかも破壊しようとした。
それに気づいたヴァンはエヴォルガを打倒すべく、エクトゥスドライバーを初めとした様々な武器や道具を製造したのだ。
「我が友……初代エクトゥスが自らを犠牲に、彼らは地下深くまで封印されたことで大勢の民が救われたのです」
だが現在になって封印は解かれ、再びエヴォルガが復活してしまった……。
そこまで言い切った彼は、改めて全員の視線を受け止める。
「でも、エクトゥスも再び蘇りました。だから嶺には…」
「……にしてよっ」
その言葉を、最後まで言うことが出来なかった。
顔を下へ向けていた眞白が、声を発していたのだ。
「好い加減にしてよ!」
突然、眞白が大声を出した。
テーブルを叩き、立ち上がる……幸い人が少なかったのであまり注目を浴びることはなかったのだが、それで何か事態が好転するはずもない。
「シ、シロちゃん……?」
呆然とする嶺に気にすることなく、彼女はエクトゥスドライバーを取り上げる。
「さっきから聞いてたら、君は嶺君のことを何だと思っているのっ!?嶺君は、戦いとは関係ない普通の高校生なんだよ!」
その憤りをぶつける眞白に、一緒にいた真琴や日向たちも驚く。
彼女がここまで怒ったことなど指を数えるほどでしかなかったからだ。それ故に一度怒らせたら怖いというのも、彼女たちはもちろん嶺も知っている。
「嶺君はっ、嶺君は戦えもしない君の道具なんかじゃないっ!危ないことに巻き込まないで!行こう、嶺君っ!!」
「ちょ、ちょっとシロちゃんっ!?」
自分と嶺の代金を出し、眞白はそのまま嶺を連れてカフェから出て行ってしまった。
気まずい空気のまま、真琴が困ったように辺りを見てヴァンに声をかける。
「あの、さ。ごめんな、眞白は……」
「分かっています」
彼の顔は、先ほどとは違い辛く何かに耐えているような表情だ。
膝の上に置いた両手は握り拳を固めている。
「僕のやっていることは、どう言い繕ったところで戦いの押し付けです。無関係な人どころか、僕は恩人とも呼べる人を生と死の戦場に駆り出そうとしている……嶺の大切な人が怒るのも無理はないです」
『分かるっすよ』
頷いたのは、今までぬいぐるみの振りをしていたヴィルコプだ。
無関係な者を巻き込まないために行動を起こそうとした自分、年端も行かない少女を戦いへと導いてしまった悔恨。
ただ見守ることしか出来ない歯痒さ……そんなヴァンの気持ちが分かってしまう。
『ボク、眞白ちゃんたちを探してくるっす』
「わ、私も行く」
同じく代金をテーブルに置き、ヴィルコプと共に日向も眞白たちの後を追うのだった。
少し離れた広場の近くまで嶺の手を引いていたが、彼女の手を離すと両肩を掴んだ。
「どうしたのシロちゃんっ?あんな無理やり話を切るみたいに……」
「どうしたのって、分かっているの嶺君っ!あれは遊びでも何でもない、一歩間違えたら死ぬかもしれないんだよっ!?」
「分かっているよ?だけど…」
「とにかく、あんな危ないことしちゃ駄目だよ!嶺君に何かあったら、私……!」
嶺の言葉を遮り、嶺の両手を強く握る眞白……その表情は真剣そのものだ。
グリムテラーとして戦ったからこそ分かる。
戦いとは辛いものだ……特に、カオス・テラーの戦いは想い出の怨念や負の側面とも呼べる存在を相手していたのだ。
あんな辛い思いを、大切な幼馴染にはしてほしくない。
戦いに巻き込まれて欲しくないのだ。
「だけど俺は……」
少しだけ表情を引き締めた嶺は、眞白の目を見る。
そして口を開こうとした瞬間、轟音が響き渡った。
「え、何っ!?」
眞白が慌てて周囲を見渡す。
今のはどう考えてもおかしい……まるで何かが破壊されたような、そんな音だ。
「何が…」
「姉さんっ!」
『眞白ちゃんっ!』
同時に駆け付けたのは日向とヴィルコプ。
二人を見つけたと同時に、音が響いたのだ。
「あっちか!」
「待って嶺君っ!」
逃げてきた人たちを見て、発生源の検討を付けた嶺が走るのを見た眞白たちも、慌てて追いかけた。
嶺たちが辿り着いたのは街の中でも大きい銀行。
利用客や銀行員たちが外へと逃げ出していく中、嶺と少し遅れて到着した眞白たちも銀行内へと入り込むと、そこで蠢く影を発見する。
その影は異形……エヴォルガだ。
後ろにいる彼らに気にすることなく、そこにある大量の紙幣や通貨を片っ端から食い漁る。
エヴォルガは求める。もっと金をと……。
自分が安心くらいの金を寄越せと、ただひたすらに目の前の金を貪り続ける。
ひたすらに食らう異形の光景に嶺たち戦慄する。
何故なら、目に見えるほどの成長が起きているからだ。
異形が金を口や脚に取り込んでいく度に、その身体が段々と大きくなっていく。
もはや人間並みのサイズへと変貌したその昆虫は、耳障りな金切り声をあげる。
『シュウウウウウウウウッ!』
その姿は、巨大なオトシブミのような黒い異形。
特徴的な頭部と触覚、そして茶色い胴体などはまさに実在する昆虫のオトシブミそのもの……。
しかし、左右合わせて計六足もある筋足には通貨の投入口のような穴が開いており、背中には四角い箱のような瘤が浮き上がっている。
その姿は見方を変えれば昆虫になった貯金箱のようだ。
『ギシャアアアアアアアアアアアアッ!!』
人間以上の大きさを誇るようになった異形『
「日向、ヴィル君っ。嶺君をお願いっ!!グリムリード、セットアップ!」
妹に嶺を任せた眞白はグリムホワイトへと変身を完了させると、ステッキから放った魔力の弾丸でエヴォルガの意識を反らす。
大したダメージはなかったが、意識をこちらへと向けるには充分だ。
振り返ったBアテラビデオが威嚇の唸り声をあげる中、グリムホワイトは荒らされた惨状を見ると視線を鋭くする。
「これ以上、みんなの想いを傷つけさせないっ!リード『毒婦を焼く鉄の靴』っ!」
詠唱と共に彼女の両脚に装着されたブーツに炎が灯る。
そして、勢いのままBアテラビデオに迫るとそのまま強烈な蹴り技を仕掛ける。
「はぁっ!でやっ!!」
その炎は悪しき心だけを焼き、邪悪を払う熱き鉄靴。
二発、三発とキックを浴びせるとエヴォルガの身体が揺らぐ。
どうやら虫をモチーフにしているだけあってか火には弱いらしく、その身体が燃え始める。
「これならっ」とステッキを握り締めたグリムホワイトは追撃を行おうとする。
しかし。
『ギッ、キシャアアアアアアアアア!』
「えっ!?」
突如として纏わりついていた炎が消失した。
否、消失しているのではない。
よく見れば揺らいだ炎が貯金箱の瘤へと吸い込まれていくではないか……。
動揺し一瞬動きを止めてしまった彼女を、目の前の昆虫は見逃さない。
『シャアアアアアアアアアアアッ!!』
「ぐぅっ!?」
Bアテラビデオの口から先ほどの炎が吐き出されたのだ。
砲弾のように吐き出された火球に慌てて障壁を張るも、その勢いのまま吹き飛び壁に叩きつけられる。
『ホワイト!』
「姉さんっ!」
「シロちゃんっ!」
慌てて駆け寄る二人と一匹に「大丈夫」と返す。
邪魔者を排除した気になったエヴォルガはそのまま大量の紙幣や硬貨を背中の瘤へと蓄積していく。
その姿に、グリムホワイトはヴァンの言葉を思い出す。
適合者たちの手で生まれたエヴォルガは人間の持つ願望と既存動物の能力が合わさっている……。
そうなると、あれは貯金が趣味の人間から生み出されたエヴォルガということになる。
だからグリムホワイトの炎が吸収されたのだ。
エネルギーを溜め込み、吐き出す……それがあのエヴォルガの能力だ。
『キシャアアアアアアアア!!』
雄叫びと共に銀行内にある金を食べ終えたBアテラビデオが外へと出る。
慌ててグリムホワイトが追跡すれば、彼女はその光景に絶句した。
『ギシイイイイイイイイイイイッ!!』
Bアテラビデオが隣にあるビルその物に襲い掛かっていたのだ。
札束や金だけでは願望が満たせないのだろう、資産価値のある物体へと狙いを定めたエヴォルガはその巨大な口と脚の投入口を使ってビルに皹を入れ始めている。
「うわぁぁぁんっ!」
そこへ一人の子どもが涙で顔を濡らしながら走ってきた。
慌ててグリムホワイトが駆け寄り、幼い少年に優しく声をかける。
「どうしたのっ?」
「ぐすっ。お父さんとお母さんが、まだ……まだっ」
どうやらこの子の両親はビルの上階で取り残されているらしい。
それを聞いた嶺の行動は早かった。
「嶺君っ!」
「その子をお願いっ!探してくるっ!!」
それだけを言うと、そのままエヴォルガがへばりついている高層ビルの方へと走るのだった。
高層ビルの屋上にて、三十代の夫婦は人生初めての恐怖に直面していた。
顔を覗かせたBアテラビデオの巨体に恐れていた。
その光景に身体を震わせ、互いに抱き合っている。
『ギシャアアアアアアアアアッ!』
「きゃあああ!!」
「うああああ!!」
やがてエヴォルガの巨体が屋上へと完全に辿り着いた。
歓喜の雄叫びを天に向けてあげる異形に二人が悲鳴をあげる。
それと同時に、自分の命運もここまでかと悟ってしまう……そこまでの境地に辿り着いてしまった二人が揃って思い描いたのは。
(神様、お願いしますっ)
(あの子を、あの子だけは助けてあげてくださいっ!)
愛する我が子のことだった。
「危ないっ!」
そこに、聞こえるはずのない少年の声が響いた。
その少年……嶺は途中で拾った消火器をBアテラビデオの脚へと叩きつける。
ダメージはないが意識を向けるには充分、嶺の目的は倒すことではない。
「早く逃げてくださいっ!」
夫婦……あの子どもの両親を逃がすことだ。
しかし恐怖で腰が抜けているのか、それとも目の前の少年を見捨てて逃げることが出来ないか困惑して動くことが出来ない。
そこに、追いかけてきたグリムホワイトと日向が変身したグリムパイレーツが現れる。
「こっちです!早くっ!!」
「すぐに息子さんの元まで行くから捕まっててね、おじさんたちっ!」
二人を担ぎ上げたグリムパイレーツはすぐさま自身の船『夢運ぶ自由の海賊船』を召喚すると、すぐさま屋上から離脱する。
これで目的は達した。後は自分も逃げるだけだ。
しかし。
『ギシャアアアアアアアアアッッ!!!』
「な、うわっ!?」
邪魔をされたことで怒りを露にしたBアテラビデオが暴れ始めたのだ。
地響きにも衝撃でバランスを崩した嶺は放り出されてしまう。
「嶺君っ!」
グリムホワイトが慌てて彼の腕を掴み、必死に支える。
変身している今なら然程負担はないが暴れるエヴォルガにも意識を向けなければならないうえに、彼女には空を飛ぶ魔法を使えないのだ。
「バカッ!どうしてもいつも、こんな無茶ばっかりっ!!どうしてっ、どうして……!」
グリムホワイトは涙を溜める。
何故無茶をするのか、どうして傷つこうとするのか……混乱する頭で必死に嶺の腕を掴む。
そんな悲痛な、張り裂けそうな想いが伝わったのか、彼は意を決したように口を開いた。
「俺は、嫌なんだ……!」
「えっ」
「もう嫌なんだっ!誰かを放っておくのもっ、誰かが泣いているところもっ!これ以上、絶対に見たくないんだっ!!」
切っ掛けは、小さなことだ。
ほんの小さなころの、ちっぽけな事件……それは今も小さな棘となって深く刺さったまま抜けないでいる。
放っておけない。
あの小さな子どもの泣く姿を見て、余計に感じた。
「俺は戦いたいっ。世界を守るとか、そこまでのことは考えられない……それでも、何もしないよりは手の届く範囲でみんなを守りたいっ!」
「っ!」
その言葉に、グリムホワイト……眞白は小さかったころを思い出す。
保育園の子たちと上手く馴染めなかった自分に、声を掛けてくれたのが嶺だった。
いつも自分を助けてくれたのも、家族には言えない辛い時には、いつも一緒にいてくれた。
(ああ、そっか……)
思い出した。
エクトゥスに変身出来るから戦うんじゃない。
きっと、知ってしまったから首を突っ込むことを決めたのだ……このお節介な少年は、そういう人物だ。
変わらない彼のことが嬉しいのか、それとも辛いのか、複雑な笑みを零す。
しかし。
『キシャアアアアアアアアアアアア!!』
屋上へと辿り着いたBアテラビデオが雄叫びをあげた。
その衝撃でビル全体が大きく揺れ動いてしまい、嶺とグリムホワイトは遥か地上へと落下していく。
「嶺君っ!」
「っ!」
その中で、彼女は懐に入れていたエクトゥスドライバーを嶺の腰に当てて装着させると、取り出したモンスダイスを嶺に渡す。
「シロちゃん!?」
「一緒に戦って、エクトゥスッ!」
その言葉に、一瞬だけ驚くもすぐさま思考を切り替えた嶺はモンスダイスの一の目型のスイッチを押し込んだ。
【TYRANNO×WOLF!】
【GABURI! LET'S CALL!】
起動させたティラノウルフダイスをセットし、ドライバーの待機音声を周囲に響かせる。
そして落下しながらも焦ることなく、バックル上部のダイナヘルムを力強く押し込んだ。
「変身っ!」
【SCANNING! TYRANNO×WOLF!】
光と共に変身したエクトゥスはファングセイバーを取り出し、グリムホワイトを強く抱き締めるとその刃をビルへ向ける。
【赤くてFANGなKNIGHT!その名は……TYRANNOLF!!】
「こんのぉっ……止まれええええええええええええええええええええええええっ!!」
ファングセイバーを深く突き刺し、無数の火花を散らしながら速度を落としつつ落下していくエクトゥス。
やがて真下にあった瓦礫を両脚でしっかり踏んでジャンプすると、グリムホワイトを抱き締めながら空中で回転し、何とか地上へと着地した。
「……ぶはぁっ!た、助かったぁっ」
無事に着地出来たことに安堵するエクトゥス。
先ほどまで自分たちがいた屋上を見上げるが……遠慮がちがグリムホワイトの声が耳に入る。
「あのっ、嶺君っ」
「え?……あ、ご、ごめんっ!」
安心していたせいか、エクトゥスは彼女を抱き締めてたことをすっかり忘れ、腕の中で縮こまっている彼女に言われて慌てて離れる。
「う、うんっ。大丈夫……ありがと///」
髪先を弄りながら仄かに顔を赤くしか細い声でお礼の言葉を口にする。
そんな初々しい態度にヴィルコプは保護者の如き暖かい視線を送りそうになるが……。
「……良いなぁ、姉さんっ」
『日向ちゃんっ?』
少し羨ましそうな表情でむくれている彼女たちを見ているグリムパイレーツがいたので、流石に自重することにした。
兎だが、馬に蹴られるようなことはしない。
すると、しばらくしてバイクのエンジン音が響く。
振り向けばエクトゥスの専用バイクに乗ったヴァンがいる。
恐らくオート操作をしているのだろう。血相を変えた様子で彼の元まで走る。
「大丈夫ですか、嶺っ!」
「無問題ってね」
心配した様子を見せる彼を安心させるように、いつもと変わらぬ態度のエクトゥスに安堵する。
そして、グリムホワイトの前に向き直ると、頭を下げたのだ。
「ごめんなさいっ」
「えっ」
「嶺の身内だとは知らず、不躾なことばかり言ってしまい、本当にごめんなさい……!」
「ううん、私の方こそごめんなさいっ」
その謝罪に、グリムホワイトも頭を下げる。
まだ伝えたいことはあったが、互いの蟠りを解消した二人は笑みを見せると屋上で暴れるBアテラビデオを見据える。
「嶺、これを」
ヴァンが渡したのは、くすんだ色のモンスダイス……ブラキオサウルスの絵柄が彫られたそれをエクトゥスは手に取る。
「ブラキオサウルスのダイスです。まだ現存生物がないので、プロトタイプですが武器にセット使えば一部の能力が使えます」
「分かった、ありがとう!」
頷き、ダイノレーサーに跨がるとエンジンを掛ける。
「シロちゃん!」
「うん!」
彼の言わんとしていることが伝わったグリムホワイトは後ろに座る。
これで準備が出来た。
「よっと!」
速度は最初からフルスロットル。
ヴァンが施した魔改造によって生まれたスーパーマシンは崩壊寸前のビルの壁を走り、重力を無視した馬力で直進する。
そして、エヴォルガのいる屋上まで飛び出すと……。
「でやぁっ!!」
豪快に振るったファングセイバーで前足を切り落とした。
金切り声を上げてもがくBアテラビデオを視界に入れつつも、ダイノレーサーから降りたグリムホワイトが詠唱を開始する。
「リード!『眠りへ誘う毒林檎』!」
詠唱と共にステッキから三つ発射されたのは赤く毒々しい球体。
見た目以外は速度も通常と同じ……この魔法の真価は別にある。
『ギ……!?』
「はぁっ!」
その攻撃を身体に受けたBアテラビデオの動きが鈍くなり始めたのだ。
まるで全身が錆び付いたかのように、ぎこちない身体を動かすも、その間にエクトゥスの斬撃が襲い掛かる。
先ほどグリムホワイトが放った魔法は命中した相手の動きや能力など全体的なスペックを低下させるものだ。
『ギッ、ギシッ!キシャアアアアアッ!!』
Bアテラビデオの体勢は揺らぎ、倒れかねない不安定なものになっていく。
更に今立っているのは屋上の際どい部分……脚を踏み外せば、確実に落ちてしまうほどに危うい。
しかし、人間の願望を悪用する怪人に対して、そんな慈悲も容赦も二人にはない。
【FULL SCANNING!】
「「落ちろおおおおおおおおおおおっ!!」」
ヴァンから渡されたプロトダイスをファングセイバーに装填し、ブラキオサウルスの力を宿した力強い一撃と、グリムホワイトの炎の跳び蹴りが炸裂した。
『ギシャアアアアアアアアアアアアッッ!!?』
結果として当然、直撃を受けたBアテラビデオは一歩二歩後退すると、そのまま地上へと落下していった。
ダイノレーサーに乗ったエクトゥスとグリムホワイトも屋上から飛び、その後を追う。
その際、彼女の召喚した小人が作り上げたトランポリンでダメージを受けることなく着地に成功する。
「嶺っ!」
ヴァンの声に頷く。
「行くぞっ!」
『キシャアアアアアアアアアアアッ!』
エクトゥスは起き上がったBアテラビデオに向けてダイノレーサーを再び発進させる。
アクセルを噴かして直進する彼に負けじと、体内から複数のポーンズを生成し、自身も口からエネルギー弾を放って妨害を図る。
しかし、それらはグリムホワイトの魔法と召喚した武装小人たちによって蹴散らされ、エネルギー弾による攻撃もエクトゥスの剣によって防がれる。
「ふっ!」
そして、Bアテラビデオの攻撃を防いでいたエクトゥスたちが機体を傾けて真下へと滑り込んだ。
巨体の真下から腹部をファングセイバーで突き立て、縦一直線の傷と無数の火花を散らせながらファングセイバーの鍔にあるスロットへティラノウルフダイスをセットし、レバーを押し込む。
「ついでにこれもっ!」
【FULL SCANNING! TYRANNOLF!】
「あなたにあげるっ!ファイナルリード!」
スキャナーから電子音声が鳴り響くと共に、ファングセイバーの赤い刀身とグリムホワイトのステッキがより一層、光り輝き始める。
そしてダイノレーサーでエヴォルガの真下を潜り抜けて開けた場所に出ると、Bアテラビデオを見据えながらエクトゥスはファングセイバーを、グリムホワイトはステッキを構える。
【ANCIENT SLASH!!】
「はぁぁぁぁ……せりゃああああああああああああああっ!!」
「『スノウホワイト・プリンセス』ッ!!」
斜め一閃。
ファングセイバーから放たれた赤い斬撃はBアテラビデオの巨体を真っ二つにし、グリムホワイトのファイナルリード……必殺技の魔力の奔流である白い砲弾が大きな風穴を開けた。
『ギギッ!?グッ、ギシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』
強烈な必殺技の直撃を二度も受けたBアテラビデオ・エヴォルガは断末魔の悲鳴を上げながら爆散。宿主の意識を解放して消滅する
完全に撃破したのを確認した二人は、共に笑みを零すとハイタッチをする。
「シロちゃん……ありがと」
エクトゥスの言葉に、グリムホワイトも笑って頷くのだった。