『仮面ライダーアズール』へのリンク
→ https://syosetu.org/novel/168057/
無機質な機械の音が、規則的に鳴り響く。
白い清潔感のある部屋で、そこにあるベッドには一人の老人が眠っている。
いや、眠らされていると表現した方が正しいのかもしれない。
この老人は人々のために研究を続け、家族のためにと働いていた。
だが、ある時を境に彼は意識を失った。
「……爺ちゃん」
少年は、眠ったままの老人の手を握る。
暖かい。まだ、生きている。まだ助かる望みがあるのだ。
「……っ。来たか」
ふと、バイブの鳴った黒いスマートフォンのような機械を取り出し画面を確認する。
瞬間、少年は視線を鋭くした。
「行くか」
ポケットにしまうと、彼は病室を後にする。
組織は、世界を救うだろう。祖父のいた組織は、脅威から人々を護ってくれる。
なら自分は……。
「手の届く範囲で、やれるだけのことをするだけだ」
決意を、そう口にした。
暗い夜、ビルや街頭の灯りだけが照らす町並みを、一人の作業員が歩いていた。
作業帽子を深く被り、軍手を身に着けた両手で段ボールを載せてある台車を動かす。
「……」
やがて、とある場所で彼は動きを止めた。
そこは古びたビル……誰も使われていない廃棄されたビルだ。
予め用意していた移動手段を使い、目的地である部屋へと足を踏み入れる。
その時だった。
「そこまでだぜ」
「っ!?」
突如として声が聞こえた。
慌てて振り向けば、そこにいたのは黒いコートの少年。
まだ声変わりもしていないであろう声色だが、相手を委縮させるには充分なほどの威圧感。
そして、闇夜に隠れるような黒いスーツとコート、しかし顔までは判断することは出来ない。
それが作業員……否、作業員へと扮していた男性が緊張していたからか、それとも少年が放つ『何か』によってなのかは分からなかった。
「誰だ、お前は?」
「『ロビン』……一先ずはそう呼んでくれ。最も、二度と会うこともないだろうけどな」
軽い様子で名乗る彼に男性は警戒を取る。
自分は相手に気づかれないよう動いていたのにも関わらず、目の前の少年は待ち伏せしていた。
しかし、目的までは流石に……。
「あんたの調べは付いている、ここで何をしようとしたのかもな」
「……っ」
男性は少年を睨みつけるも、気にすることなく彼は視線を段ボールへと向ける。
動こうと思えば動ける、しかし少年の異質さが下手に動かしてはいけないと男性の本能が言っているのだ。
「それ……『ガンブライザー』が詰まっているんだろ?しかも普通の奴じゃない」
視線を鋭くした少年が、男性を睨み返す。
「起動した瞬間に人体を破壊する『時限爆弾』のおまけ付き。見た目の割に中々えげつないことをするじゃねぇか……残党さんよ」
そう、男性が運んでいたのは自らが所属していた組織の兵器……しかし、彼は『ある目的』のために改悪を施し、凶器となったそれを大量に運んでいたのだ。
あと一歩のところで……握り拳を固める男性だったが、すぐさま顔を上げた。
「……そこまで分かっているなら、致し方ない」
その瞬間、彼はベルト型の黒い機械……改悪されていない自分用のガンブライザーを腰に当てて装着していた。
伸びたベルトが腹部を固定すると、黒いプレートを取り出す。
【
そのプレート……『マテリアプレート』のスイッチを起動し、奇妙な音声を鳴らす。
そして、ガンブライザーのバックル部分へと装填した。
【ハック・ゼム・オール!ハック・ゼム・オール!】
「我が感情に宿りし願い……大欲のコード!今ここに体現せよ!!」
叫びと共に、装填されたマテリアプレートを更に押し込む。
瞬間、黒いモザイクのようなエネルギーが男性の全身を包み込んで行く。
【Goddamn! マテリアライド!アント・デジブレイン!パラサイトコード、ダウンロード!】
『うおおおおおおおおおっ!!』
雄叫びをあげた男性は、異形の肉体へと変異していた。
丸みのある黒い装甲、と特徴的な鋭い口の形、頭部に生やした触覚は黒蟻を彷彿とさせおり、全体的なシルエットは何処か配達員のような異形。
異形の名は『デジブレイン』
電脳世界……サイバー・ラインに潜む情報生命体であり、人間の感情を餌とする怪人の一体。
この個体は、マテリアプレート内に封入されたデジブレインを人間の感情エネルギーごと取り込み、肉体へと寄生するタイプだ。
『あのお方の理想は、私が作る!それが、それこそが私の信じる手段っ。私だけが生き残ってしまった唯一の道なんだっ!』
「そうやって迷走するあんたを見て、あのお方とやらはどう思っているかな?」
暴走と迷走する『アント・デジブレイン』へと変異した彼に、何処か呆れたような溜め息と共にロビンは懐から『ある物』を取り出した。
それは、スマートフォンに酷似した黒いデバイス……そのディスプレイに映るベルトのアイコンを手袋に覆われた人差し指でタップする。
【ドライバーコール!】
音声と共に、ロビンの腹部に装飾のついた銀色の機械『アプリドライバー』が装着される。
中央でマゼンタカラーのラインとシアンカラーのラインが交叉しており、右側には横向きに差し込むようなスロットが備わっている。
続けて、彼は一枚の赤いプレートを取り出した。
【シン怪盗ピカレスク!】
コールされた音声は、この世界に実在するアプリゲームのタイトル。
コンシューマーゲームのスピンオフとして配信されているこの作品は、異能を得た人間たちが現代社会を舞台に罪なき者たちを食い物にする悪党の心を頂戴する……というストーリーだ。
躊躇いなく、少年はバックルのスロットにマテリアプレートを装填。
【ユー・ガット・メイル!ユー・ガット・メイル!】
繰り返される電子音声、彼の周囲には緑のロングコートと山羊のような黒い角を持つフルフェイスメットを被ったスタイリッシュなデザインのビジョンが現れる。
銀に輝く短剣とリボルバーマグナムを構えるデジブレインとは異なる情報生命体『テクネイバー』を背後に、ロビンはマテリアフォンをドライバーへとかざした。
「変身」
【Alright! マテリアライド!】
短い呟きと共に、新たな電子音声が響く。
すると彼の身体に光の膜が全身を覆い、闇を負わせる漆黒のスーツへなるのと同時に、ロビンフッドを彷彿させる『シーフ・テクネイバー』が分離する。
やがて、緑色のパーツが装着されることで変身が完了した。
【シン怪盗・アプリ!深緑の叛逆者、インストール!】
現れたのは、悪魔を思わせる緑色の装甲を纏った戦士。
頭部の横から左右に伸びる双角に、緑のコートを変身の余波で靡かせる。
紫色に光る丸い複眼が、目の前の標的を捉えた。
『仮面ライダー……まさかホメオスタシスかっ!?』
「違うさ。俺は
自らをそう名乗ったウィリディスは地面を蹴るとアントへと肉薄。
動揺して隙を見せているデジブレインの鳩尾に蹴りを入れると、そのまま掴みかかる。
「ここじゃ危ないな、表出ろっ!」
『ぐおおおおおおおおっっ!!?』
そのまま窓へ向けて蹴り飛ばすと、ガラスの砕ける音と共にアントが空へと投げ出された。
地面を転がるデジブレインとは対照的に、跳躍したウィリディスは華麗に地面へと着地する。
【ウィリディスダガー!】
音声と共に彼の右手に現れたのは銀色に輝くメカニカルな短剣。
それを握り締めると、再び接近しすれ違いざまに斬撃を浴びせる。
『ぐっ、このっ』
「遅いっ!」
カウンターを受けるよりも速く、ダガーによる攻撃が炸裂する。
アントは黒蟻のデータを内包されており、身の丈以上の物体を抱え上げるほどのパワーを秘めている。
要は、当たらなければ問題はないのだが……。
『嘗めるなっ!』
【フィニッシュコード!Goddamn! アント・マテリアルクラック!】
当然、相手もそれを分かっている。
ガンブライザーにセットされたマテリアプレートを再度押し込み、必殺技の音声を鳴らす。
瞬間、アントの両手には毒々しい緑色のエネルギーが零れ出てくる。
垂れ落ちる蟻酸のデータを宿したエネルギーを、目の前のライダーに向けて撒き散らした。
「うわっ!」
プロテクターを溶かすほどの強酸に思わず仰け反って回避する。
その隙を、逃さなかった。
『捕まえたぞっ!』
「やべっ!?」
細腕から想像も出来ないほどの力に捕まってしまった。
どうにかして振り解こうともがくウィリディスだが、アントの怪力の前ではどうすることも出来ない。
それどころか、段々と締め上げる力を強めていく。
『観念するんだな……私の計画を知った以上、子供だろうが容赦はしないっ』
「か、は……!」
やがて、抵抗していたウィリディスの腕が垂れ下がった。
身体も脱力し、全身の力が抜けている。
勝利を確信したアントが、腕を弱める……。
「やっと隙を見せたな」
【ウィリディスマグナム!】
瞬間、電子音声と強烈なマズルフラッシュ、そして両目へのダメージがアントに襲い掛かった。
頭部から煙を吹き、あまりの痛みに手を離したアントが後退する。
『ぐがあああああああっ!?眼、私の眼がああああああっっ』
「げほっ!あー、しんどかった」
咳き込みながらも起き上がったウィリディスが左手に握り締めていたのは、ダガーと同じデザインのリボルバーマグナム。
相手が油断した隙を狙って、『ウィリディスマグナム』によるデータの弾丸で撃ち抜いたのだ。
「さぁ、行くぜ!今度は俺の番だ!!」
叫んだウィリディスが左手のマグナムによる銃撃で牽制しながら、距離を詰めたアントに向かってまずトルネードキックを二発叩き込み、ダガーによる斬撃を繰り出す。
デジブレインとはいえ、人間を素体にしたアントは急所へのダメージがフィードバックされているのだ。両目に残ったダメージが抜けないまま、勢いを載せた回し蹴りで再び地面を転がる羽目になった。
『ぐっ、はっ。わ、私は……!』
「これで閉幕だ!」
【フィニッシュコード!】
弱り切ったアントに向かって走り出したウィリディスはアプリドライバーに装填されたマテリアプレートを押し込み、必殺技発動のコードを認証する。
そして、右腰のホルダーに収まっていたマテリアフォンを抜き取り、ドライバーへとかざした。
【Alright! シン怪盗・マテリアルバースト!】
「ふっ!」
両足にエネルギーを込めたウィリディスは勢いのまま跳躍。
自身を見上げることしか出来ないアントへ狙いを定めると両脚を突き出す。
そして、そのまま急降下を始めた。
「はああああああああああっ!!」
『がっ!?ぐっ、おおおおおおおおおおおおっっ!!?』
強烈なドロップをまともに受けたアント・デジブレインはウィリディスが着地するのと同時に悲鳴をあげて爆散。
やがて、爆心地には倒れた男性が呻きながらも立ち上がろうとしていた。
「わ、私は、私はまだ……!」
「誰もあんた恨んじゃいない、少しは頭を冷やすんだな」
そういってウィリディスは男性に装填されていたマテリアプレートを奪い、ガンブライザーを破壊する。
その瞬間、男性の身体から光のエネルギーが出ると同時に気を失ってしまった。
「この男も外れだったか」
悔しそうに、そう零すウィリディス。
祖父を精神失調症にした真犯人。デジブレインを操る組織の存在。
必ず犯人を見つけてやる……!
改めて決意を固めた彼は、段ボールに収まったガンブライザーたちを処理するべく、廃ビルへと戻っていった。
デジブレイン紹介
アント・デジブレイン
とある組織に所属する幹部の部下だった男性がCytube Dream(アント)のマテリアプレートを黒いベルト『ガンブライザー』に装填して変異したデジブレイン。
身の丈以上の怪力を持ち、重機程度ならば軽々と持ち運べる他、蟻酸を凝縮した爆弾を生成することが出来る。
その名の通り黒蟻のデータが内包されているのだが、何故か配達員のデータも取り込まれている。餌を巣に運んでいる姿から連想したのだろうか?