オリジナルライダー設定集   作:名もなきA・弐

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仮面ライダー■■■■

どうしてこうなったのだろう……。

『この力』を手に入れてから、自分のものと受け入れてしまってからずっと頭から離れない。

戦いなんてしたくない、理想を創ることなんて考えたこともない。まして誰かの命を奪ってまで、誰かの理想を踏み躙ってまで勝ちたくない。

最初はそんなことばかり考えていた。だけど、自分が命の危機に晒された瞬間、当たり前の感情は消える。

まるで元々あった絵を塗り潰すように、異なる絵の具同士を混ぜ合わせるように、自分の中にあった何かが失っていくのを感じた。

 

 

 

 

 

濁った黒い空と、誰も存在しない灰色の建造物。

何処までも無機質な光景が広がる世界の中、張り詰めた攻撃と衝撃音が響く。

 

「……おおおおおおおおおおおっっ!!」

『がぁっ!?ゲボッ!!』

 

緑色のスーツの上に七色の甲冑を纏った戦士が剣を振り下ろす。

視線の先にいる存在に憎悪と嫌悪を宿した一撃を叩き込むと、異形の姿をした『それ』は火花とインクのようなエネルギーを撒き散らしながら大きく仰け反った。

 

『げぇっ!はぁっ、はぁっ……ゴブッ!ぶざげるなっ!素材風情がっ、使い捨での道具如ぎがごのボグによぐもおおおおおおおおっっ!!!』

 

生物を寄せ集めたような造形の怪人は何処か子どもっぽい口調ながらも屈辱と激情の籠った絶叫をあげる。全てを見下し、嘲笑っていたであろう言動に出会ったころの余裕はない。

それが感じたことのなかった痛みと恐怖、最後の最後で自分の思い通りにならなかった憤りが怪人を突き動かしていた。

腹と胴体から濁ったインクを撒き散らしながら、拳を振り下ろそうとする。

当たればただでは済まないだろう。最悪の場合『死』だ。

そう、当たればの話だ。

 

【GOOD IDEA! RAINBOW BASH!!】

 

強力ながらも単純な軌道で放たれた一撃は戦士が身を屈むだけで回避された。

同時に、腰に装備されているバックルを操作し特殊音声を鳴らす。

七色の美しいインクのエネルギーが右脚へと収束する。

そして。

 

「はあああああああああああああっ!」

『ぐっ、ぎっ、ぎぃやあああああああああああああっ!!?』

 

カウンターによる強烈なハイキックが、怪人の身体を打ち砕いた。

蹴り飛ばされた怪人は呼吸すら出来ないほどの衝撃と共に廃墟ビルに叩きつけられる。

そして、全身が濁ったインクへと変わって徐々に溶けていくと潜んでいた『本体』が露わになった。

 

『くそっ、くそっ!また、こんな惨めな姿に……ふざけるなっ!ボクは、ボクは黄金なんだぞっ!?錬金術師どもが作り出した、万能にして完璧の生命体!それが、こんな屑に……!』

 

癇癪を起こしたように叫ぶのは、デフォルメされた錆びた金色の頭蓋骨。まるで小さなぬいぐるみにも見えるそれは声変わりのしていない高い声で何度も叫ぶ。

 

「終わりだ『ドルゴ』。お前のくだらない計画も、お前のくだらない理想も、全て……!!」

『黙れ黙れ黙れ黙れっ!ボクに向かって生意気な口を利くなぁっ!イデア・アルケミカルのために選ばれた素材がこのボクを見下すなあああああああああああっっ!!』

 

それ……黄金錬成によって生み出された生命体であるドルゴは罵声を浴びせる。

その惨めな姿に、戦士の憎悪は既に哀れみへと変わっていた。

 

『イデア・アルケミカル』

 

黄金錬成を参考に編み出された理想の錬金術にして、ドルゴが考案した最も簡単で最も残酷な儀式。

錬金術とは人の心から生成されるインク型エネルギー『カラー』使って物質を錬成する技術のことだ。

108人の錬金術師『仮面ライダー』が戦い、最後まで勝ち残った者に理想を錬成するための錬金術が与えられる……というのが彼らが戦う表向きの理由だった。

しかし、ドルゴは最初から彼らの理想を叶えるつもりはなかった。彼の理想である『自分の黄金の輝きを取り戻す』ためだけに多くの人間が犠牲になり、命を弄ばれたのだ。

理想の錬金術を取り込んだドルゴは怪人の姿となり、戦士と壮絶な戦いを繰り広げた。

だが、それももう終わる。古代より生み出された不完全な黄金はこの殺し合いを持って終わる。

理想の錬金術を行使する権利は、既に戦士の手へと渡ったのだ。

 

『はっ、ははっ。良いよ、好きに叶えたら?だけど、何を願うっ。これまでの使われた素材どもを戻す?それともボクを消す?はたまた蹂躙されたこの世界を元に戻す?ざーんねーん♪』

 

嘲るように、自棄になったドルゴは邪悪な笑いを漏らしながら言葉を続ける。

「だけど」と、目の前の戦士を絶望に叩き落すように叫ぶ。

 

『理想の錬金術は一回限りのものだっ!お前がどれを願ったところで理想が叶うのはたったの一つだけだっ!あっははははははっ!ざまーみろっ、ざまーみろっ!!素材どもへの勝利なんて、最初から存在すらしていないんだよブァァァアアアアアアアアアカッ!!』

 

ドルゴは古来の錬金術師たちの手で生み出された完璧なる黄金。しかし、永劫にも近い歴史は人格を腐らせ、輝きを鈍らせた。

他人の蹴落とし合いでしか喜びを得られず、自分が害されたことでしか怒りを抱けない。完璧に錬成されたが故に欠点を持てず、成長すら出来ない。

そして、人の持つ可能性と善性を学ぶことも出来ない。

 

「確かに、それだけじゃ足りないな。『それ』だけじゃな」

 

戦士がバックルに装填していたカラースプレー型のユニットを外し、理想の錬金術が封入された石を混ぜ合わせる。

 

「108人の生命で理想を錬成するなら、それと同等のものを代わりに使えば良いんだろ」

『はぁっ?』

 

荒唐無稽な言い分に思わず吹き出したドルゴが耳障りな言葉を口にしようとした時だ。

 

「一つ目。イデア・アルケミカルによって引き起こされた悲劇と惨劇、その全てをなかったことにするっ!」

 

宣言と共にドルゴの身体が光ったかと錬成陣が展開。

封じ込められていた膨大なインクが放出された。

 

『がっ、あっ、身体がっ!ああああああああああああああっっ!!!』

 

瞬間、モノクロの世界が色彩を取り戻した。

黒い空は元の青く美しい白い雲が浮かぶ空へと戻り、廃墟の街は元の煌びやかな景色へと塗り替わる。

構成物質を奪われたドルゴは荒い呼吸を吐きながらもほくそ笑む。

理想が叶った。ならばもう目の前の戦士は何も出来ない。

悪意を言葉に乗せて放とうとしたが……。

 

「二つ目!理想の錬金術の素材となった仮面ライダーたち、その中の善良な者と理想のために殉じた者たち全てを元に戻せっ!!」

『はっ!?なっ、ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!?』

 

間髪入れずに放たれた宣言と共に再び錬成陣が展開。

再びドルゴからインクが強引に吐き出されると優しく淡い色となってあらゆる方向へと飛んでいく。

その光景に安堵した息を吐く戦士とは裏腹に、黒く錆びていく黄金が「何故だっ」と思考する。

 

(あり得ないありえないアリエナイッ!理想の錬金術は一つしか使えないっ、こいつは何をしたっ?どうして錬金術が起動したっ!?)

 

混乱した頭で戦士の方を睨む。

見れば、戦士のバックルにあるプレート型アイテム『アルケミーインク』の色が全て喪失している。

そして気づいた。

戦士は108人の魂と同じ価値のある物質……自分が今まで浸かっていたアイテムとユニットを対価に理想の錬金術を行使したのだ。

勝ち残った仮面ライダーの使用するインクなら、確かに理想の錬金術が使えるだろう。

 

『ふ、ふざけるなっ!ボクのっ、ボクの考えた錬金術が、こんなっ、こんなゴミカス風情の屁理屈で…!』

「仮面ライダーアルカル、最後の錬成だ」

 

短く、ドルゴの怨嗟をかき消すように戦士否、虹色の錬金術師『仮面ライダーアルカル』が告げる。

最後に使う対価は、勝利者となり生き残ってしまった『自分自身の存在』。

 

「黄金錬成のドルゴ。人間の善性を嘲笑い、理想を利用し尽くしたお前は存在するに値しない……お前が錬成されたという事実そのものを、この世界と歴史から抹消するっ!!」

『なっ!?』

 

聞き捨てならない理想。

しかし無情にもドルゴの意思とは無関係に錬成陣が展開される。

先ほど以上の眩い光が解き放たれ、凄まじいほどのインクが流れ落ちた。

それは全ての色と混ざり合い、やがて何もない黒へと変わってドルゴへと纏わりつく。

 

『ひっ、ああああああああああっ!やめ、やめてくれっ、アルカル!その理想を止めてくれっ!これが錬成されたらお前も消えるんだぞっ!?意味が分かっているのかっ!やめろやめろやめろおおおおおおっ!?』

 

塗り潰される。

黄金も悪意も存在も、全てが黒く黒く染まっていく。そしてアルカルの身体は反対に白く潰される。

どちらもこの世界から消える……恐怖するドルゴは必死に懇願するも錬成は止まらない。

 

『分かった!もうこんなことはしないっ、これからは君に仕える、雑用でもサンドバックでも奴隷でも何にでもなるっ!だからやめてくれっ!消えたくない消えたくない消えたくない!』

 

命乞いしても止まらない。

ドルゴは既にチャンスを逃した。変わろうとする時間も人間を知ろうとする時間も、充分にあった。

それを捨てたのは、ドルゴ自身だ。

不完全な黄金であろうとした彼が選択した結果に過ぎない。

 

『何でっ、何でだよっ!ボクは完璧で万能の黄金なんだっ、それが、それがこんな素材如きに……人間なんかにっ!何でえええええええええええええっっ!!!』

 

そして、ドルゴの身体は黒へと呑み込まれた。

恐怖と自己愛に満ちた絶叫は、この世界から完全に消し去った。

元通りの世界に染まる光景をアルカルはただじっと見つめている。

気づけば自分の両脚は既に白く塗られている……この世界から完全に消えるのも時間の問題だろう。

怖くない、と言えば噓になる。もう一度『彼ら』に会いたいと今でも思っている。

でも、もう良い。

 

「ああ。世界はやっぱり、こんなにも……」

 

彼が最後に何を言いたかったのか。それはもう誰にも分からない。

普通の日常を愛した青年は、普通の理想を叶えて消えた。

こうして現代の錬金術師たちはいなくなり、こうして血塗られた錬成も葬られた。

 

 

 

 

 

可愛らしい服が汚れるのも気にせず、一人の少女が走っていた。

その様子はただごとではなく、明らかに遅刻などの可愛らしい理由ではない。

必死に足を動かさなければ背後から迫る『何か』に追い詰められてしまうからだ。

しかし。

 

「きゃっ!」

 

無理をして走ったせいで転んでしまった。

カバンに入っていた絵の具セットが散らばってしまい、反射的にそれを拾おうとする。

しかし。

 

『ひゃはっ!随分と余裕だねぇお嬢ちゃん』

「ひっ……!」

 

悲鳴を漏らす少女の眼前には、異形がいた。

全身が赤で統一された身体に猟犬を思わせるような装飾を上半身に纏った怪人で、下半身と左腕には甲殻類や蟹を思わせる鋏を生やした悍ましい存在だ。

それはまるであろうことか意思を持ち、人の言葉を口にするのだ。

自らに怯える少女を笑い、嗜虐的な笑みを浮かべながら異形は鋏を開く。

 

『安心しな、俺は慈悲深いんだ……その華奢な右腕を斬り落としたら解放してやるよぉっ!!』

 

そう怪人が左腕を突き出そうとした瞬間、その身体は吹き飛ばされていた。

「がへっ」と情けない悲鳴をあげて地面を転がる怪人、そして怪人の近くには絵の具パレットを思わせるような装飾が施されたバイクがある。

 

「下がってな」

「えっ、あの……」

 

バイクから降りたその青年は散らばった道具を全て集めてから少女に渡すと、逃げるように促す。

一方の彼女は混乱しながらも、彼に対して何処か既視感を覚えていた。

何処かであったような、懐かしさを感じるような。

「良いから」と優しく背中を押されるまま、少し離れた場所に隠れた少女はその様子を見る。

 

『ガルルル……この俺「カッティング」様の邪魔をして、ただで済むと思うなよっ!』

「そりゃあ、こっちの台詞だ犬蟹擬き」

 

唸る怪人に軽口を叩いた青年は焦ることなく、中央に四角いディスプレイが存在するバックルを腰に装着する。

そして、取り出した赤いプレートを起動してスロットに装填。

軽快な待機音声が鳴り響く中、スタンプ型起動キー『トランスタンプ』を掲げて叫ぶ。

 

「変身!」

【錬成開始!】

 

ディスプレイに押印すると同時に、ディスプレイから赤いインクが解放されると同時に青年の身体を包み込む。

やがて、機械の赤い鎧とスーツが構成されたことで変身が完了した。

 

【MY IDEA! BOOST RED! KAMEN RIDER ALCAL!!】

「さて、世界を塗り替えようか!」

 

緑色の複眼を輝かせながら、仮面ライダーアルカルが地面を蹴った。

 

 

 

 

 

最終回『虹色の錬金術師』→第一話『とある青年の錬金術(アルケミカル)』

 

古い終わり、新たな始まり。

このライダー、錬金術師で、ライダーバトルサバイバー!




今回はアイテムやモチーフよりも、自分がやってみたいと思ったストーリーとなっています。
ライダーバトルを軸とした仮面ライダーは数多くありますが、ライダーバトル後の世界で戦う仮面ライダーというのはないよなと思い、このストーリーを考えました。
ライダーバトルを生き残り、自分の存在が消えた世界で未知の怪人と戦う。そんな物語となっております。イメージとしては平成一期の陰鬱なライダーバトルで勝ち進んだ主人公が、平成二期の作風で怪人と戦うみたいな……分かり辛くて申し訳ないです(汗)

仮面ライダーアルカルの由来は「アルケミスト」と「カラー」を足したものになっています。錬金術をイラスト作成として考えました。モチーフは決まっていません。

新年一発目は短編でしたが、本編の方も書いておりますのでご安心ください。
ではでは。ノシ

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