ちなみに、今回は忍者ライダーとなります。仮面ライダーシノビやタイクーンとは関係ありませんのでご注意。忍者ライダーはもっと流行るべき。
────忍────
それ即ち、刃の心を秘めた耐える者。
────忍者───
それ即ち、闇夜と共に生きる者。
その古くより彼らは主君のためにと己の技術を持って暗躍を続けてきた。
やがて時代は流れ、世が平和になったことで彼らの存在は歴史や絵物語の中へと消えていった……ように見せかけられた。
人々は知らない。
忍者とは、世の調和を正す存在であったことを。
人々は知らない。
忍が戦うべき本当の敵が何なのかを……。
この公園が、好きだった。
楽し気に遊ぶ子どもたちの声、見た者の心を癒して受け入れてくれるような芝生と木々……昼は人々の憩いの場となる庭園のようなこの場所が本当に好きだった。
『どうして、こんなことに……』
そう嘆いたのは、一人の老人だった。
動きやすい服装に庭師エプロンを掛けた白い髭で顔の下半分を覆った彼は公園の惨状を悲しむことしか出来ない。
老人は、この公園の管理人だった。
庭師をしていた彼は引退後、幼い頃からの遊び場でもあったこの場所でゴミを拾ったり木の剪定や手入れをしていた。
全ては、この場所の思い出を風化させないように……これからも子どもたちの遊び場であって欲しいという純粋な願いから。
『ここは、汚されて良い場所じゃない。綺麗であるべきなんだ、それなのにっ』
彼の目に映っているのは軽薄な数人の男女。
お世辞にも品が良いとは言えない彼らは手持ち花火を使って騒ぎ、缶ジュースやお菓子の袋を地面へと捨てている。
しかし、老人の姿も声も彼らには気づかない。
老人の身体は薄っすらと透けており、僅かな灯りから生まれるであろう影すらもない……それもそのはず、既に老人はこの世に存在しない魂だけの存在だからだ。
『やめろっ、やめてくれっ』
抗議の声も懇願する嘆きも聞こえない。
既に亡くなった者の声は、今を生きる者たちの耳には入らない。
生者と亡者……二つの境界が交わることなど在り得ないと、それが世界のルールだった。
「悲しいことだ」
ふと、目の前にいる男女とは違う声に老人が振り向く。
先ほどまで誰もいなかった自分の後ろに立っていたのは、長身で大柄の男性。
筋骨隆々とした肉体の上には黒い袈裟を羽織り、数珠の代わりに灰色のストールを巻いた装いをした僧のような人物。
しかし、目元を隠すように黒いサングラスを装着した強面のスキンヘッドはまるで裏社会の人間にも見える……そんなちぐはぐな印象を与える。
「今を生きているにも関わらず、そのありがたみを知らずに贅を肥やす……悲しいことだと思わないかな、ご老人?」
サングラスの僧は語りながら、老人に視線を向ける。
自分の姿が見えること、そして透けていない身体から生きている人間だと気づいた。
『お、お坊さん……で良いのかな?彼らに注意をしてやってくれないか、この公園を汚すことをやめるように言ってくれるだけで構わない。どうか、どうかお願いします!』
老人が必死に頭を下げる。
彼は別に追い払って欲しいわけではない、ただこの公園で迷惑行為をしないだけで良いのだ。
その様子にサングラスの僧はしばらく逡巡すると、しばらくして口を開く。
「それならば、あなたが代わりに言えば良い」
『だが、私には……』
「心配はない」
サングラスの僧が取り出したのは、筒状の奇妙な形状をした小さな道具……何かの容器にも写真のフィルムにも見えるそれには、複眼を持つ仮面を身に着けたシオマネキが映っている。
「未練を晴らす力を授けよう」
【FIDDLER CRAB!】
上部のスイッチを押し込み、音声を鳴らした道具『ライドエマキ』をサングラスの僧は老人の身体へと埋め込んだ。
『がっ、あぁっ!?あぁぁぁぁああああああああああっっ!!!』
胸元を抑え、苦しむ老人に変化が起こる。
筒状の道具はまるで巻物を広げるように展開すると、彼の全身に巻き付きながら霊体を変異させていく。
『はぁぁぁぁ……!』
やがて、老人の姿は完全に変貌していた。
布を纏った素体の上に甲殻類を思わせるような黒い装甲を持ち、蟹脚がまるで人間だった老人の名残であるかのように顔の下半分から生えている。
宛らシオマネキを人型にしたような異形だが、右腕に生やした巨大な鋏は植木鋏のように鋭利かつ禍々しい気を放っている。
そして、その気配に気づいた数人の男女が『実体を得た老人の変異する怪人』を見て悲鳴をあげた。
「えっ、うわあああああああああっ!!?」
「な、何よあ…」
『貴様らあああああああああっ!この公園を汚すなあああああああああっ!!』
怒りの声を響かせながら老人の霊が変異した怪人『レヴスト』が巨大な鋏を開閉しながら男女へと襲い掛かる。
その様子を見たサングラスの僧は僅かに笑みを浮かべている。
「行け、『フィドラークラブ・レヴスト』。お前の未練を断ち切ってこい」
そういった彼の腰には酒の醸造道具を思わせるベルトが装着されており、その横に下げてある杯に色がどんどん溜まっていく。
「素晴らしき幸福な夜に、乾杯」
不気味な光を放つ液体の入った杯を手に取り、フィドラークラブの災害を肴に液体を飲んだ。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
サングラスの僧が視線を向ければ、先ほどまで花火を撒き散らしていた若者たちが地面に倒れている。
切り傷や打撲の跡こそあるが、意識ははっきりとしている。
その中心には、肩で息をしているフィドラークラブの姿。
「何を手加減している?」
『いや、私はただ……』
「こいつらに生きている価値はない。お前の公園を壊そうとした度し難い悪党だ……同情する必要な容赦する必要もない」
『……』
「何、命を奪うつもりがないなら腕なり足なり切り落としてしまえ。この公園を守るためだ」
そう囁かれたフィドラークラブはゆっくりとリーダー格らしき少年を見据えると、右腕を鋏を見せつけながら近づいていく。
『この場所は、私が守る。そうだ、私だけだこの場所を』
「来るな、やめてっ。俺たちが悪かったから、だから……」
命乞いの言葉も聞こえない。
現世へと舞い戻った怨霊……レブストに生者の声など響かない。
あるのはたった一つ、自らを縛る未練を晴らすこと。ただそれだけだ。
やがて、フィドラークラブの右腕が少年の足を剪定しようと動かした瞬間だった。
『っ!?』
黒い何かが視界を横切った。
動揺し、一瞬だけ動きを止めると少年の姿が消えている。
「何処にっ」と周囲を見渡す。
そして。
「ここさ」
青年の声が響いた。
サングラスの僧とも、先ほどまでの少年たちとも違う声……慌てて振り向けば、離れた場所に非行少年たちが気を失った状態で寝かされている。
そして、一人の青年が彼らを守るように立っていた。
軍服のような制服と白い手袋に身を包み、端正な顔立ちをした青年の姿を見たサングラスの僧は舌打ちをすると、その場から音もなく消え去る。
それに気づきながらも、青年は被害者の安全と目の前の怨霊を打ち倒すべく思考を切り替えて対峙する。
「そこまでだ。死んでから罪は重ねるものじゃない……ってことでさ、大人しく成仏を受け入れてくれないか?」
『黙れっ!この公園を守るっ、私だけが守れるんだっ!邪魔をするというのなら』
フィドラークラブが右腕の植木鋏を広げる。
威嚇するように激しく開閉する様子に息を吐いた青年は懐からある道具を取り出した。
右側が忍者道具である苦無の持ち手を思わせるようなレバーと、中央に黒いディスプレイが配置された奇妙な形状の道具……それは軽く腰の前に置くことで両側からベルトが伸び、バックルとしての役割を果たす。
「だったら、強制的に成仏させてやる」
【HOPPER!】
次に取り出したのはライトグリーンのライドエマキだ。
日本刀を口に咥えた飛蝗が描かれたホッパーエマキを起動させると、それを中央上部のスロットに装填。和太鼓とギターの妙に軽快な待機音声が響き渡る。
動揺するフィドラークラブにほくそ笑みながら、彼は苦無の持ち手型レバー『ニンポウスターター』を引っ張り、自らを変えるあの言葉を叫ぶ。
「変身っ!」
【霊装体現!】
ライドエマキに秘められた情報を読み取り、跳ね回る飛蝗忍者のアニメーションがディスプレイに映し出されると同時に青年の身体が和を思わせる忍者のような黒いスーツに包まれる。
その上からライトグリーンの軽装甲が音を立てて装着され、変身が完了した。
【風の忍法、風の術!HOPPER NINJA!】
銀色の触覚と赤く光る飛蝗の如きマスク、首元から生やした白いマフラー、和風でこそあるがメカニカルな意匠を持った装甲は忍者というよりは戦士。
ライドエマキを使用しているにも関わらず、自分とはまるで異なる姿に動揺するフィドラークラブは反射的に叫んでいた。
『お前っ、何者だっ!?』
「霊装忍者……またの名を『仮面ライダーエイゲツ』」
自らの名を告げた彼はバックルの左側にあるボタンを押すと、右腕を自身の前にかざす。
【口寄せ忍法、コゲツ抜刀!】
音声と共に出現したのは一振りの小太刀。
メカニカルな造形をしており、柄頭の部分にはライドエマキを装填するスロットがある。
「ふっ!」
専用武器『コゲツ』を逆手に構えたエイゲツはフィドラークラブを見据え、地面を蹴った。
距離が離れているにも関わらず、強化された脚力によって一瞬で距離を詰めるとコゲツによる高速の斬撃が襲う。
『がっ!?こ、このっ!』
不意を打たれたフィドラークラブはすぐさま体勢を立て直し、右腕の鋏による攻撃を仕掛ける。
木の枝どころか人間ですらも両断する切れ味を誇り、まともに受ければただでは済まないだろう。
しかし、それは当たればの話だ。
エイゲツはその鋏を躱し、確実に自身の攻撃を連続して当てていく。
ただ躱しているだけではない。
右腕以外の攻撃は防ぐか捌き、フィドラークラブの鋏にだけ回避をするように専念しているのだ。
やがて、自分の攻撃が当たらずに焦りを覚えたレヴストは次第に冷静さを失っていく。
『ふざけるなああああああああああっ!私の、私の邪魔をおおおおおおおっ!!』
眼光を光らせたフィドラークラブが右腕から刃状の衝撃波を放った。
風を切る音と共に放たれた斬撃にエイゲツは慌てて側転して回避する。
その隙を逃すまいとフィドラークラブが接近する。
「しまっ」
自らの不覚に気が付くも、もう遅い。
その巨大な右腕は、容赦もなくエイゲツの胴体を上下に両断した。
『は、ははははっ!やったぞ、これで……』
邪魔者を排除し、笑う怨霊は真っ二つになったエイゲツを見下ろす。
しかし、次の瞬間には驚愕に染まっていた。
何故なら、その場所には単なる木が転がっていたからだ。
【変わり身忍法!危機一髪!】
『な……ぎゃああああああっ!?』
動揺する間もなく、後ろからの強烈な蹴りを受けたフィドラークラブの身体が吹き飛んだ。
防御姿勢も取れずに地面を転がり、混乱する思考を必死に整理しようと顔を上げる。
「あっぶな……」
そこにいたのは自身が両断したと思っていたエイゲツの姿だ。
マフラーを風で靡かせながらも、仮面の下では僅かに焦りの色が見える。
エイゲツの使用するベルト『エイゲツドライバー』は霊装忍法と科学を混ぜ合わせた退魔道具……古来より、怨霊の類と戦うべく存在する霊装忍者は時代と共に進化を遂げてきた。
そしてエイゲツドライバーには致命傷になり得る攻撃を一回だけ完全無効化する『変わり身の術』が組み込まれており、それが作動したことで命拾いしたのだ。
「さてと、あんたの業を晴らす時だ」
立ち上がろうとするフィドラークラブを睨み、レバーを操作する。
瞬間、エイゲツドライバーから必殺技となる忍法が告げられる。
【超NIN-PO! HOPPER NINJA!!】
ハイテンションな音声と共にドライバーのディスプレイから飛蝗のアニメーションが躍動し、自然エネルギーが飛蝗の形へと構築されていく。
エネルギーは複眼を赤く光らせたエイゲツの両脚にチャージされると、そのまま地面を蹴った。
『くっ!?』
その速度は、まさに電光石火。
極限まで高められた脚力は一瞬でエイゲツの姿を敵から隠し、相手の動揺と混乱を誘う。
そして、それを感じ取ったかのように若き霊装忍者は飛び蹴りの構えでフィドラークラブの前に現れた。
「はぁあああああああああっ!」
その一撃は弾丸の如き勢いのまま加速して怨霊の身体を貫き、少し離れたところで着地する。
風穴を空けられたフィドラークラブはしばらくよろめくも、致命傷となった攻撃にどうすることも出来ず。
『ぎぃぃぃやあああああああああっ!!』
絶叫し、地面へと倒れながら爆散した。
エイゲツは振り返り、先ほどまでいたフィドラークラブ・レヴストの場所まで歩く。
『う、ううっ』
そこには、先ほどまで怪人となって暴れていた老人の霊がいた。
足元にはフィドラークラブのライドエマキが破損した状態で転がっており、それは完全な決着を意味していた。
『私は、私はこの公園を守りたかったんだ。子どもたちが遊んでくれる、この場所を……』
「後のことは俺に任せな。あんたの未練は、俺が晴らすさ」
明るい調子で笑うエイゲツに老人の霊は「ありがとう」と微笑むと、優しい光と共にこの世から旅立っていった。
霊装忍者の使命とは、未練に縛られた霊を解放し本来のあるべき場所へと旅立たせること。
無事に彼が旅立ったのを確認したエイゲツは変身を解除し、バカ騒ぎをしていた連中の応急処置と……ついでにほんの少しだけお灸をすえるべく、次の行動へと移るのだった。
実はフェアリーシリンダーを書いた際、自分の中にある手応えを感じられず、四苦八苦しておりました。
そこで、前々から構想のあった魔法科学ならぬ忍法科学の忍者ライダーに組み込んでみました。てなわけで、ここからアイテムや用語の紹介。
・ライドエマキ
動物のチャクラを科学技術によって封入された絵巻型アイテム。絵柄の特徴としてホビーアイテムのようなデフォルメ化しているのが特徴。
普通の人間が使うには影響はないが、式神や地縛霊などの霊的存在に使用するとレヴスト化してしまう危険性も孕んでいる。
・レヴスト
現世に未練を残した霊が変異した姿。エイゲツの世界では幽霊などは現実世界に影響を及ぼすことはないが、強い未練によって怪人化してしまうことがあり、怪人化した霊は実体を得て暴走してしまう。昔は怨霊と呼んでいたが、現在は外国にも怨霊が確認されたことから共通の用語としてレヴナントあるいはゴースト……二つの造語でレヴストと呼称するようになった。
・霊装忍者
霊術を扱う忍者の総称であり、退魔師とも。エイゲツの世界において、歴史の教科書で語られる忍者とは仮の姿であり、怨霊から人知れず戦っていた霊装忍者こそ本来の忍の姿である。