それは、突如として起こった。
建物が崩れ落ちる。
逃げ惑い、人々が泣き喚く。
当たり前だった繰り返される日常、それが築き上げられた文明と共に崩壊していく。
それを起こしたのは大量の兵器でも愉快犯たちの犯行でもない。
一人の『人間』によって引き起こされていた。
「ふんっ」
その男性は、傍から見ても異質だった。
一目で分かる上等な黒いコートを羽織り、壮年だが無機質かつ冷徹な瞳で逃げ惑う全てを見下している。
長身なのも相まって見る者に威圧感を与え、右目付近には奇妙な黒い紋様がモノクルのように刻まれている。
「未来も今も、過去すらも必要はない。ハンドレッドは、その全てを奪うからだ」
淡々と、事実のみを伝えるかのように男が誰に聞かせるでもなくつぶやきを口にする。
『ハンドレッド』……それは世界を破壊し尽くし、支配することを目論む組織。
その全貌は未だ判明していないが、確実に言えることはただ一つ。
彼らは『世界の敵』だということだ。
ハンドレッドの構成員にして、異常なまでの忠誠を誓う彼は手土産として『仮面ライダーのいない世界』に目を付けた。
忌々しい怨敵もいないため、率いる部下も最終兵器も必要ない。
全ては自分の成果で終わる……そう信じていた。
「……むっ?」
しかし、風向きが変わる。
灰色のオーロラ、ハンドレッドも技術として再現しているオーロラカーテンと同質のものだ。
足を止め、それを観察する。
やがて、そこに現れたのは一人の青年だった。
「あー、また『これ』か。昼飯前だってのによー」
溜息と共に彼は男を睨む。
服装は至って一般的、顔立ちも悪くないが注目を浴びるほどでもない……普通の範疇にいるような青年は街の惨状に嫌悪感を滲ませながら問いかける。
「『ストーリーメイカー』……じゃ、なさそうだな。誰だ?」
怯えも困惑もない、純粋な怒りを向ける彼に男は鼻を鳴らして答える。
「俺は偉大なるハンドレッドの一員。そして、貴様らのような無価値な下等生物を一掃する役割を与えられた」
淡々と、しかし瞳の奥にある傲慢を宿した男は「故に」と何処からともなく出現させた道具を取り出す。
それは、禍々しい黄金と赤に染まった奇妙なバックル。
右側にキューブが埋め込まれた金の装飾に逆三角形が刻まれた赤い棺のような物体を腰の前に添えると鮮血の如き赤い帯が腰に巻きつく。
【ElDORADRIVER】
不気味な音声を響かせながら『エルドラドライバー』を装着したハンドレッドの男は次に、懐から一枚のカードを取り出す。
赤黒い八面体が描かれたカードを赤いバックルの上部にスキャンさせる。
【DARK ETHER】
読み込ませた『ダークエーテルカード』をスロットへ装填し、両手を大きく広げる。
そして、今度は両目を覆うようにかざすと自らを変える言葉を短く呟いた。
「変身」
キューブ型のダイヤルを捻れば全身が黒い闇に包まれ、逆三角形と不気味な三つ眼が大きく浮かび上がる。
それが晴れる場所に、一人の怪物が立っていた。
【ギーネ・クリューソス! DORADO……!!】
刺々しい黒い素体に血を全身に浴びたかのようなワインレッドのアーマーに自らの存在を強調するかのような歪曲した黄金の双角。
仮面のような頭部と胸元には金色に光る三つの複眼とコアがあるなど、まるで魔王の如き威圧感を放っている。
「お前も偉大なるハンドレッドが創る理想郷の素材としてやる、ありがたく思え」
ハンドレッドの男が変身した『仮面ライダードラド』が一歩近づく。
その姿を見ても、青年は冷静そのものだった。
それどころか不敵な笑みを見せている。
「何が可笑しい」
「別に?テンプレな四天王最弱の台詞みたいだって、思っただけだよ」
その言葉にドラドの仮面にある男の顔が歪む。
他者に見下されることを誰よりも嫌うからこそ、ドラドは召喚した大鎌を取り出して威圧する。
しかし、それでも青年は怯まない。
「人を嘗めるのも好い加減にしろ……!貴様如きに何が出来るっ」
「出来るさ。だって、俺は……『勇者』って奴だからな」
そう言って取り出したのは、彼と同じバックルのような道具。
中央にある円形のレンズに上部のボタンとトイカメラを連想させる構造に時計塔や城壁をイメージしたようなアンティーク染みた外装の印象的な物だ。
見たこともない代物……しかし、それが玩具でないことにドラドは気づく。
形状は違えど、それは自分が今使っている物と同じ役割を放つものだと。
「まさかっ」
気にすることなく青年はバックルを腰に軽く当てると、両側から白いベルトが伸びて完全に固定。
そして今度は、懐から片手に収まるほどの小さなアイテムを取り出す。
マゼンタの薄い円形フレームに淡い翡翠の透き通ったガラスの奥に特徴的な仮面が描かれた、俯瞰的に見ればカメラレンズを彷彿させる奇妙な形状をしている。
そして、フレームの側面にあるスイッチを押し込んだ。
【SUBS!!】
起動したレンズ『ライドレンズ』をバックルに装填。
すると写真の枠を思わせる白い障壁が前面に展開され、今度はドラドを動揺させる。
そして、戦いの幕を開ける言葉を彼もまた呟いた。
「変身!」
カメラのレンズ部分にあるダイヤルを回転させると同時に青年の身体にスーツが装着されていく。
黒いスーツに西洋の鎧を連想させるエメラルドカラーのアーマー、そして透明感の白く美しい複眼に涙を流したようなマゼンタの回路が刻まれている。
その姿はディケイドともジオウとも違う。出現した片手剣を振るう様はまさしく……。
【NEW RECORD! NEW STORY! KAMEN RIDER SUBS!!】
世界を廻る『
「何だ……何者だっ!貴様はっ!?仮面ライダーなのかっ!?」
情報にない仮面ライダーの存在に、ドラドが目に見えるほどの動揺を見せた。
ハンドレッドは仮面ライダーの変身システムを再現し、使用する。だからこそ、ありとあらゆる仮面ライダーの情報が組織にはある。
しかし、眼前の仮面ライダーをドラドは知らない。
勇者のモチーフはいれど、『勇者を名乗る仮面ライダー』など聞いたことも見たこともない。
そんな彼の叫びなど「知ったことではない」と言わんばかりに、壊れかけた街を護るように立ちはだかった仮面ライダーが地面を蹴る。
「まずはこの街を滅茶苦茶にした分だ」
「ごへっ!?」
顔面に向けて放たれたストレートパンチが炸裂し、文字通りの出鼻を挫かれる。
間髪入れずにメカニカルなデザインの片手剣を振るってドラドの身体を何度も斬り裂く。
「ぐっ、おのれっ!」
負けじとドラドも大鎌を振る。
エネルギーを纏った一撃はまともに受ければ容易く両断し、例え致命傷とまではいかずとも変身を解除させるほどの威力はある。
しかし仮面ライダーは難なく躱し、武器の刀身を使って受け流してしまう。
それに動揺した隙を見逃すことなく、膝蹴りから連鎖した回し蹴りがドラドの意識を刈り取るほどのダメージを与える。
「がぁっ!何故、何故っ、俺が……!」
「お前、自分より弱い奴としか戦っていないだろ」
仮面ライダーの言葉に、ドラドの手が止まる。
気にすることなく、言葉が放たれる。
「変身は相手を恐怖させるためのはったり、この世界を選んだのは仮面ライダーがいないから……無機質な『振り』をしているのは自分の弱みを見せるのが怖いから……そんなところか?」
「……黙れ」
「口では偉そうなことを言っている癖に、実際に戦うことになったら力任せで戦闘センスもない。与えられた地位や借りた力じゃなきゃ相手と話すことも出来ない。お前はただの……」
「黙れ黙れ黙れぇええええええええええええええっ!!」
地面を踏み鳴らし、怒り任せに大鎌を叩きつけたドラドは別のカードを取り出す。
【ELDRAGON】
黄金を纏った黒いドラゴンのカードをスキャンするやバックルに装填し、今度は中央部分の赤いパーツを掴んで勢いよく展開。
『ゴォールデンブレスゥゥッ!!』
出現した巨大な黄金のドラゴンから吐き出される金色の息吹がドラドの全身に降り注ぎ、雄叫びをあげたドラゴンが分離・変形したパーツが新たに装着されていく。
【イース・トン・エオーナ! EL DORADO……!!】
黄金に染まったアーマーに骸骨を牙を剥き出したようなマスク……そして、三つの赤い複眼が対象を睨みつけるように禍々しい光を発している。
黄金の悪魔『仮面ライダーエルド』はダイヤルを捻って能力を発動。
【テウルギア】
「消え失せろぉっ!」
赤黒い波動を発生。
空間を作用する一撃は致命傷を避けたものの、長時間の戦闘は街への被害も甚大だろう。
片手剣で攻撃を防ぎながら距離を取ることに成功した仮面ライダーは、エルドの能力を確信する。
見覚えのあるオカルト的な攻撃は、雰囲気こそ異なれど生命を造り上げる神秘『錬金術』と同質のものだ。
それさえ分かれば、次の一手を考える時間は必要なかった。
「だったら『あんた』が適任だよな」
取り出したのは青空を思わせる水色のフレームが印象的な赤いレンズ。
先ほどとは異なる仮面が描かれたライドレンズの側面にあるスイッチを押して起動。
【CROAD!】
「っ、させるかっ!!」
ドライバーに装填しているレンズを取り外し、起動した『クロードレンズ』を新しく装填。
エルドが阻止するべく攻撃を繰り出そうとするが、同時に出現した赤いミニカーとポップな飛蝗型のキャラクターを象ったエネルギーが妨害する。
そうしている間に、仮面ライダーはトランスギアを回転させた。
【FOCUS UP!】
赤いミニカーと飛蝗のモンスターがピントを合わせるように重なり、それは一つのアーマーとなって仮面ライダーへと装着。
右肩に飛蝗の頭部を思わせるメット型の赤い仮面、同色に染まったシャープながらも車のボディを連想させる腕のアーマーが黄金へ反抗するかのように輝く。
【IGNITION! KAMEN RIDER CROAD!!】
「行くぜっ!」
右肩の仮面にある水色の複眼が光った瞬間、仮面ライダーが強く前へ踏み込んだ。
タイヤの軋みと風を切る音を響かせながら放った飛び蹴りがエルドを怯ませ、間髪入れずに攻撃が続いていく。
エルドラドライバーを操作しようにも強化された脚力によって阻害され、駄目押しとばかりのキックでエルドの荘厳な身体が大きく吹き飛ばされる。
「嘗めるなゴミがぁあああああああああああっ!!」
【アルケミア】
激昂し、起き上がったドラドがバックルのキューブを三回ほど捻る。
すると周囲に巨大な岩石がいくつも錬成され、腕を振るうと同時に凄まじい速度で仮面ライダーを押し潰さんと降り注いでくる。
それに対し、彼はトランスギアを反対へと回す。
【CALL! CROAD!】
レンズから赤い光が放たれ、迫る岩石を防ごうと仮面ライダーが剣を振り上げたと同時に光が質量を持って人の形へと形成される。
そして、斬撃と共に突き出された拳が錬金術で生み出された巨岩が粉砕した。
仮面ライダーの隣にいたのはエルドも知らない『仮面ライダー』。
飛蝗を象った赤いメット型のマスクにゴーグル状の青い複眼、オレンジの矢印が両腕と両脚に刻まれた黒いボディスーツの上にスポーティな赤いアーマーが装着されている。
腰に巻かれたバックルに装填されているアイテムが、この戦士もまた仮面ライダーであることを証明していた。
「この……がっ!?」
未知の戦士、知り得ない能力に困惑するエルドを二人の仮面ライダーが追撃する。
召喚されたライダー『仮面ライダークロード』は脚部に装備されたタイヤと飛蝗の如き脚力で翻弄し、岩石は彼が錬成した小型のサーキットを走る飛蝗型のミニカーが縦横無尽に走り回ることで次々と相殺されていく。
更に召喚者の仮面ライダーが僅かに逸れた意識から生じた隙を狙った一撃がエルドに致命傷を与えた。
「チェッカーフラッグだ」
役目を終えたクロードの姿は消え、仮面ライダーは再びトランスギアを回転させる。
そして、シャッターボタンを押し込んだ。
【BEST ANGLE! CROAD×SUBS CROSS FINISH!!】
複眼が光り、振り上げた足を思い切り下ろす。
瞬間、巨大な道が錬成されると同時にエルドの退路を完全に遮断し、仮面ライダーの右肩にある装飾が点滅する。
赤から黄、そして青……シグナルを終えると同時に仮面ライダーが加速した。
先ほどよりも速く、誰よりも先へと走るように。
「ひっ!?」
その姿に短く悲鳴をあげたエルドが躍起になって攻撃を繰り出す。
テウルギアとアストロロギアといった人知を超えた錬金術を発動するも、仮面ライダーには通じない。
エンジンは既に掛かっている、ゴールは既に見えている、示された矢印の前に障碍があるのなら自分自身で路を作れば良い!
「ウォラアアアアアアアアアアアアーーッ!!」
炸裂するは、強烈な回し蹴り。
赤い炎を宿した一撃は防御すら出来なかったエルドを捉え、鳩尾から満身創痍の身体へとダメージが伝わっていく。
それはやがて全身を引き裂くようない激痛へと変わり。
「ぎぃぃぃやぁああああああああああああああああっ!!?」
悲痛なまでの絶叫と爆散へと変わった。
着地し、基本フォームへと変わった仮面ライダーに対し、変身を解除させられた男が屈辱と恐怖で引き攣った顔で口を開く。
「お、お前……何、者……」
既に人間ではなかったのだろう。
塵へと変わっていく彼に、仮面ライダーは自らの名を告げる。
「『仮面ライダーサブス』……数多の世界にいるであろう『亜種ライダー』の世界を救う者」
サブス、亜種ライダー。
聞いたこともないワードに困惑するハンドレッドの男にライダー……サブスは続ける。
「彼らの物語を知り、共に戦う『勇者』だ」
剣を振るい、堂々と名乗った姿が男の最後に観た光景なった。
消滅したのを確認したサブスは変身を解除し、空を見上げる。
「……どうやって帰るんだよ」
自分が呼ばれた理由も分からず、心の底から困ったように一人呟くのだった。
何処かの深い森の奥。
柔らかな陽の光が注がれる、神秘的な空間に一人の人物がいた。
街の復興を手伝っている青年の姿に満足そうな表情を浮かべながら、その周囲に浮かんでいる紋章を見渡す。
「亜種ライダー……それは数多のIFが分割、混じり合ったことで生まれてしまった歴史。誰も知らない、平成と令和の狭間に生きる戦士の物語」
二つの紋章が大きく動く。
お菓子のパッケージと歯車の紋章は淡い光を放つと粒子へと変換、一つのモニターへと変わっていく。
「これは、開いた箱の中身を知る物語。閉ざされた記憶と幸せだった記憶、それをこじ開けるのは不幸を餌とする怪物兵」
お菓子の壺とバックルが一体化したようなベルトを腰に巻いた仮面ライダーが、宝箱の怪物をモチーフにした怪人と戦う姿が映し出される。
次に動いたのはロケットを模した紋章、縦に置いた本を中心に剣と炎が交差した紋章だ。
「これは、物語の続きを求める物語。銀河に輝く一振りの剣は反転し、堕ちた聖剣と対峙するは宇宙を見上げる十二の天使」
射手座の加護を宿した仮面ライダーは炎を纏いながら物語に魅入られた剣士を打ち上げていく。
自らを矢とした一撃と共に、その先にある結末を恐れずに羽ばたく。
それ以外の紋章も他の紋章と交差し、混じり合うことで物語が映し出される。
「そして、これは救いの物語」
生み落とされた歴史は脆弱だ。
『外』の介入によってあっさりと歪み、そして消滅してしまう。
それを護れるのは、同じ亜種ライダーにして『IFの物語』を一つの歴史へと観測する『勇者』だけ。
「始めよう。勇者・仮面ライダーサブス。今こそ立ち上がる時だ」
これは、誰も知らない勇者の歴史。
・亜種ライダー
平成ライダー及び令和ライダーのIFが交差・分割されることで誕生した戦士の総称。二つの世界観が混ざったようなライダーと怪人の物語が存在する。
例)仮面ライダークロード=仮面ライダードライブ+仮面ライダーガッチャード。名前の由来は『CROSS+ROAD』の造語。
・仮面ライダーサブス
亜種ライダーの歴史を護る勇者。代替わりが起こっており、本編で変身している青年は二代目。亜種ライダーの歴史を記録したライドレンズで変身する。
名前の由来は「亜種」の英語名である「subspecies」から。
・ストーリーメイカー
亜種ライダーの物語を利用して自分たち好みの主人公と物語を勝手に作る犯罪者集団。雑に言ってしまえばタイムジャッカーの亜種。メンバー全員に怪人態が存在し、実在する令和及び平成ライダーのライドレンズを装填することで能力と武器を歪な形で具現化する『カモフラージュアップ』という能力を持つ。変異時の掛け声は「変装(へんそう)」。