あの日、少年は自身の闇を見た。
「……忘れるものか、許せるものかっ」
廃墟と化した街の中心で、彼はそう零す。
幼い頃に遊んだ思い出の場所で、草木も枯れて果てた地で自身の無力を噛み締める。
止め処ない憎悪が、激情が胸の内に宿っていくのが伝わる。
「許すものか、許してたまるものか!」
尊敬すべき両親がいた、仲の良い友がいた、ああなりたいと思える師匠がいた。
どうしようもない悪人もいた、救いようのない犯罪者もいた……それでも、護りたいと願う人々が街にいた。
蹲り、人も建物も壊れた故郷で遺された思念を、怨念を一心に受け取る。
これは自分の意思だ、自身が招いてしまった惨劇だ。
故に、彼は自らを再定義する。
「俺は……あいつらに、必ず報いをっ」
止め度なく溢れる涙が頬を伝い、その瞳に憎しみが宿り始める。
そうして、復讐者は悲哀と憎悪に満ちた雄叫びを空に向かって……。
それから、数年の時が流れた。
日本の都市『真戯市』は活気に満ち溢れている。
駅や繁華街を中心とした地区と、自然や古い町並みとの調和が取れた地区に分かれており、住みやすい街として海外からの観光客も多い。
そんな下町地区には小さな教会がある。
有名ではないがミサや結婚式に使われることもあり、外観も綺麗なこともあって評判もそこそこ。
その教会を切り盛りするのが『御堂 聖也』という少年だ。
「おはようございます。今日も一日頑張ります」
毎日の日課として誰に聞かせるでもなく挨拶を行い、箒を手に掃除を始める。
齢にして十八歳。銀髪の短い髪に碧眼の瞳は奇異な視線ではなく見る者の警戒を解し、何処か愛らしさの感じる顔立ちと微笑みは何処か安心感を与える。
上下共に動きやすい黒いスーツに白い手袋は、一見すると教会で働いているというよりは執事や使用人をイメージる人が多い。
掃除を終え、一通りの業務を終えて昼時になった聖也が一息吐いて紅茶を飲んでいる頃だ。
「邪魔するぞ」
トレンチコートを羽織った男性が教会へと入って来る。
厳つい顔に大柄な体格、コート越しでも分かるほどの筋骨隆々とした肉体は明らかに一般人にも見えない。
しかし、彼はれっきとしたカタギであり、信じられないかもしれないが職業が刑事だったりする。
「『ジョウ』さん。珍しいですね、こんな時間に……」
「昼飯時だったんでな。様子見がてらってのが半分だ」
「……もう半分は」
「『お前向け』の案件ってところだ」
懐から取り出した資料……一般人には御法度であるはずの捜査資料のコピー。
それを慣れた手つきで受け取った聖也は目を通す。
「……連続して起こる器物の破損、ですか」
「最初は自販機やポスト、次に車やバイク、最近になって銀行の入り口が破壊されていた」
「現金は奪われちゃいないがな」と肩を竦めたように息を吐くジョウに聖也が質問する。
「一般人の被害は?」
「ない……今はまだ、な。けど、犯行が段々と過激になっている。次は建物か人間か、何れにせよ被害が甚大になっていくのは間違いないだろうな」
これはあくまでも勘だ。
しかし、事件を追ってきた彼の経験は決して侮れない。
いくつもの凶悪犯と対峙し、取り押さえてきた直感は切って捨てるものではない。
「分かりました。犯人の目星は……」
「とっくにだ。けど、あくまで疑いの段階だから警察じゃ動けない」
「なら、いつもの通りにですね」
そう微笑んだ彼は奥に進んでいく。
ステンドガラスが鮮やかな光を演出し、信徒用が座るべき横長椅子が並べられていること以外は虫一匹さえ存在しない。
しかし、その奥にあるものは説教壇でも祭壇でもなく、神秘とは程遠い『機械の山』だ。
キーボードと連動したモニター付きコンピューター、その動きを操作し、制御するであろうボタンが並んでいる。
その中央の台に鎮座された黒いデバイスを囲うように魔法陣のような円形の術式が描かれており、様々なケーブルが繋がれている。
それを手に取り、ケーブルから外すと調整を終えていたデバイスが一際大きく輝いた。
「頼んだぞ。この件が終わったら飯でも食いに来い。カミさんや娘もお前に会いたがっていたからな」
「喜んで」
『裏の顔』を知るジョウに得意気に微笑むと、ジョウもまた笑みを零した。
そうして互いの役割を確認を終えた後「それはそうと」と、綺麗になった教会内を見渡すジョウに、聖也は嫌な予感を感じ取った。
「お前も好い加減に『好い人』を見つけたらどうだ?」
「またその話ですか」
うんざりしたように見返す。
聖也は神父や司祭ではなく『牧師』、厳密にいえば聖職者ではないため結婚自体は可能だ。
……とはいえ、こうして父親のように色恋沙汰に首を突っ込むジョウは鬱陶しいと思っている。
「恋ってのは良いもんだぞ。俺が若い頃はなぁ、そりゃあ時間が止まったような感覚を……」
「はいはい」
左手の薬指を光らせながら肩を組んでくる彼の何十回も聞いた話を、ただただ「終わってくれ」と内心で思いながら聞き流すのだった。
太陽が沈み始める夕方の時刻。
ビジネスマン、夜遊びを若者、或いは仕事の都合で働く人々。
特に都市区であれば、例えこの時間帯であろうと出歩く者は多い。
しかし、そこにいる者たちが善良な者……いや、人間だとは限らない。
「どいつもこいつも、俺を馬鹿にしやがって……」
路地裏から恨めし気に人を、街を、世界を睨む人物は何処にでもいる一般人に見える。
しかし、その瞳は黒く淀んでおり、近寄りがたい雰囲気を纏っている。
その男性は、徐に懐から奇妙な道具を取り出す。
それは掌で握れるほどの小さな円柱、結晶体にも見える物体で中央には「FRACTUS」と散らばった欠片で作ったような文字が映し出されている……それは傍から見れば何かのスイッチにも見えた。
【
親指で頂の部分をボタンのように押し込めば、不気味な音声とと共に男性の身体から欠片のような物体がバラバラに飛び出してくる。
それらは幻想的な光景を作りながらも、歪な光を発しながら再び発生源たる彼の元へと収束される。
感情は古来より流れるエネルギー『魔力』となり、放出された魔力は欠片へ変わる。
やがて欠片は鎧となって再構築と融合を経て人の身を捨てた異形となる。
『ひひ、やっぱり、これが一番良いなぁ……!』
両脚と胴体に伸びる白いラインが描かれた素体、その上には赤と黒のまだら模様の爬虫類を模した皮のジャケットと鎧が接合されている。
頭部に埋め込まれた球体は眼の役割を果たしているのか忙しなく動き、鎧には「RUFFIAN」と筆記体の如き刻印が刻まれている。
それは、秘匿されし神秘『魔法』を歪め、科学的に再現した外法によって生まれた禁忌の怪人。
名は『フラクタス』。
魔法とは宗教観や流派、手本や源とする幻獣の魔力によって世界の改変を可能とする統一された秘儀だが、フラクタスは個人の望みから連想される生物や概念を無作為に選出し、強引に組み合わせることによって誕生する。
この姿は男性の鬱屈とする感情によって再現された魔法、固有名を名付けるならば『ラフィアン・フラクタス』と呼ぶべきか。
『壊せるものは粗方ぶっ壊した……んじゃ、次は』
蜥蜴の情報も組み込まれたラフィアンの眼が動く。
視界に留まったのは仕事帰りと思われる若い女性の後ろ姿。
標的は決まった……。
ラフィアンが舌舐めずりと共に、一歩動き出そうとした瞬間。
「そうはさせませんよ」
自分よりも若い、少年の声が響き渡った。
動揺する間もなく、急な視界の反転に困惑する。
地面を転がる感触から自分が蹴り飛ばされたのだと、ようやく理解したラフィアンがすぐさま起き上がる。
そこにいたのは少女と見紛うような容姿をした一人の少年……聖也だ。
しかし、その顔の下半分は黒いマスクで覆われており、素性を隠す他に幻覚の魔術を防ぐための対策も兼ねている。
最も今回のフラクタスには意味はないだろうが、それでも万が一だ。
『何だ、てめぇ……!』
狩りを邪魔されて不満を露にするラフィアンだが、彼の顔を見てすぐに機嫌が戻っていく。
今はとにかく、自分の破壊衝動を満たしたいのだろう……そんな思慮の浅くなっている様子を見て説得は無駄だと即座に判断した聖也は例の黒いデバイスを取り出し、腹部に軽く当てた。
途端に魔力の帯がデバイス『イマージュドライバー』から伸びて彼の腰に固定。
そして、掌に出現させたアイテム『マギアステラ』を二つ起動させた。
【COSMIC!】×【NECROMANCER!】
スイッチを押して起動し、中央のモニターを挟むように配置されたスロットへ水色と緑のマギアステラを装填。
【GOOD COLLABORATION!】
アップテンポの待機音声が鳴り響く中、困惑するラフィアンを牽制するように聖也は握り拳を作った左腕を右斜め上に突き出すように構える。
彼が定義する魔法は秘学(オカルト)と科学(サイエンス)の調和……乏しめ合うのではなく互いの長所を補うための掟破り、その魔法は最後の呪文を唱えることで完成する。
「変身!」
【
短く紡がれた一節と共にドライバーに配置されたアップダウン式のレバーを拳で下ろす。
瞬間、スロットに装填された二つのマギステラは一つの魔法陣となってスポットライトの如く彼を照らし、魔力のスーツと装甲を纏わせる。
「……ふっ!」
そうして魔力の奔流を腕で振り払い、姿を現したのは一人の戦士。
黒く染まったスーツに宇宙の星空を思わせる青い軽鎧と鳥を思わせる装飾品……魂を運ぶ光景をイメージしたかのような風のデザインも取り込まれ、白いマフラーが靡く。
【Space has come! 星々を運ぶ黒魔術師……RIDE ON!!】
小さな嘴をシグナルに添えて、真っ赤な複眼を輝かせて変身が完了した。
その姿に、ラフィアンの警戒心が最大値まで上がる。
変身したからではない、根源的なものに訴えるような気配が「危険だ」と告げているからだ。
『てめぇ、一体っ!?』
「僕は……『俺』は仮面ライダーイマージュ!復讐の時間だぜ!」
本来の一人称へと戻した『仮面ライダーイマージュ』は敵目掛けて一直線に突っ込み、そのまま勢い任せと言わんばかりにラフィアンへ体当たりすると路地裏から飛び出した。
幸い、時間帯的に人通りは全くといって良いほどない、更には保険として人払いの結界を仕掛けてあるため心配はない。
「そらっ!」
『ぐへっ!?』
その動きは風のように速く、鋭い一撃が次々と迫る。
拳や蹴りがラフィアンの身体にめり込み、これまで感じることのなかった痛みが襲ってくる。
まるで魂に叩き込まれるような一撃であったが、それは屈辱による怒りへと変わり、その手から巨大な鋸状の武器が出現する。
それはラフィアンの感情を動力源に刃を回転させる、巨大なチェーンソーのようなものだった。
『嘗めんなぁっ!!』
「くっ」
応戦するべく乱暴に振り回された一撃は単純ながらも破壊力は抜群。
避けることは出来たがかすってしまい、僅かに声を漏らすイマージュ。
動きに支障はないものの相手に武器がある以上、戦闘を長引かせることは得策ではない。
『ぎっひゃひゃひゃひゃ!このままぶっ壊してやるよっ!!』
攻撃が当たって風向きが変わったと感じたのか、ラフィアンは興奮した面持ちでチェーンソー型の武器を滅茶苦茶に振り回す。
これこそ彼が望んだ魔法の形……蜥蜴のような卑屈さと身勝手な怒りの発散方法が顕現されているのだ。
だが、イマージュは正規の魔法師である。
「よっと」
右の掌を軽く握って開くと、その手に一際大きな武装が難なく顕現される。
鳥の頭部は模したロケットの尾から魔力が噴くと同時に、力を抜いたイマージュが凄まじい速度で迫る。
『な、何だそりゃあああああああっ!』
あまりに荒唐無稽な光景にラフィアンが絶叫し、チェーンソーを盾にして防ごうとする。
だが、イマージュは態勢を整えて踏み留まるのと同時にロケット型のグローブに包まれた右腕による強烈なアッパーカットをフラクタスの顎に向かって叩き込んだ。
『ぶっげぇええええええええええっっ!!?』
意識を刈り取るような一撃にラフィアンの身体は宙に飛び、手足をばたつかせながら自由落下する。
やがて地面に叩きつけられたのを確認したイマージュはレバーを再び拳で押し込んだ。
【OVER LIMIT!】
一時的に許容範囲を超えた魔力によって凄まじい勢いで跳躍する。
そして、よろめきながらもラフィアンが起き上がった頃には既にイマージュは準備を終えていた。
【COSMIC × NECROMANCER! CROSS BREAK!!】
急降下で迫るイマージュの蹴り。
凄まじい突風が追い風となり、フラクタスを砕かんと向かってくる。
それは一筋の流れ星の如き幻影を帯びていた。
「はぁああああーーーーーっ!!」
『ひっ!?ぎっ、ぐっぎゃあああああああああああっ!!』
矛盾なく調和の取れた異なる力が、バラバラの怪人を貫く。
打ち貫かれたラフィアン・フラクタスは抵抗も出来ぬまま、悲鳴をあげて爆散。
人体と融合していた魔力の欠片が音を立てて砕け散ると同時に泡を吹いて気絶する男性の傍らに煙を立てているマギステラが転がっていた。
「後は、警察の出番だな」
そう呟いたイマージュは原型を留めているマギステラに鋭い視線を向ける。
そして、何の躊躇もなく足で踏み砕いた。
あの日、少年は星を見た。
空を見上げ、獣になることを受け入れ、人を捨てようとした叫びを少年はあげることが出来なかった。
「……あ」
暗い宙に、小さな光があった。
両親と共に見上げていた、夜の星々が夜を僅かに照らしていた。
綺麗だ……。
黒い感情に、温かいものが灯るのを感じる。
また、涙が溢れた。
優しい思い出が、楽しい記憶が鮮明に映っていく。
同時に、復讐者として全てを捨てることが正しいのかと自問する。
これを単なる過去として消費するべきか、自身を惑わす忌まわしいものとして捨て去るべきなのか……。
「……嫌だ」
不意に、そんな言葉が漏れた。
彼らを忘れるなんて嫌だ、復讐の言い訳にするなんて駄目だ。
「捨てるものか、捨ててたまるものか……!」
その言葉を、何度も繰り返す。
気付けば、その瞳は別の光を宿していた。
彼が復讐者となることに変わりはない。
ただ、復讐の定義が黒く淀んだ憎悪から全てを照らす義憤へと変わった時、少年は立ち上がっていた。
もう、迷いはない。
「
忘れることのないように、まるでお呪いを呟くように彼は自らを定義した。
これは人々を護る、優しい復讐者のお話。
今回は自分がかつて読んでいた二次創作作品を自分なりに再現してみました。記憶の中ではフォーゼの二次創作ライダーだったと記憶しているのですが、うろ覚えだったのであくまでモチーフにしたオリジナルライダーとなっています。
一応のテーマやコンセプトは矛盾。全く関係のないモチーフ同士を併用する時、それは強引に融合するのか、バランスを整えて調和するのか、その在り方が仮面ライダーと怪人を別ける要素となっています。これは復讐者でありながらも人を護ることを優先する主人公の曖昧な立ち位置にもなっています。
ではでは。ノシ