今回は誰かを楽しませるより自分が楽しむのが最優先だからこんなことになる。(土下座)
「マシュー! 所長! みんなー!」
「おーい! 誰かいませんかー!?」
黒天の下、赤々と燃え盛る町の中で、オレと立香さんは生存者を求めながら彷徨っていた。
あのアラームのあと、急いで管制室に向かった訳だが、到着したときには中の状態は荒れ果て、生存者の確認は難しい状態へと陥っていた。
そんな中、フォウの呼び声でマシュを発見するも、彼女の上にあった瓦礫は俺たちでは動かせず、けれども見捨てることもできずにその場で座り込んでしまった。
そしたらこの現状である。
いや、オレだってなに言ってるかわかんないけどさ、なんかレイシフトが始まっちゃって、気がついたらオレと立香さんの二人でコンビニの前に座り込んでいたんだから。
「誰もいないね」
「どころか、生き物の気配がしない」
不気味な町だ。
こんな町、一人で放り出されたらやっていける気がしない。
……………ん?
「立香さん」
「なに?」
「ホラーは大丈夫?」
「急になに? 一応大丈夫だけど」
「さっきの言葉撤回。生命体はいないけど、ちょっとヤバイのがいる」
「え?」
オレの向いてる方向に振り向く立香さん。
その視線の先には、非日常の存在がいた。
「骨ぇ!?」
「下がって立香さん!!」
スケルトンの数は10体。見たところ動きは鈍いが、その手には真剣や槍が握られていて、こう言う荒事に馴れていない立香さんでは危ないだろうと判断する。
「アルノくん!」
「大丈夫、これでも魔術使いだ。【
スイッチを切り換え、魔術回路を起動させる。
「【気血・甲鋼】!」
皮膚と骨に魔力を通し、鋼の如き硬度を与える。
「【闘血・波濤】!」
筋肉組織へ魔力を流し、筋力を向上させる。
どちらも西木田家に伝わる独自の魔術だ。単純な強化魔術より性能が遥かに上だが、使い続けると心身に支障をきたす危険な術でもある。
「【
ついでに、強化魔術から派生した硬化魔術を構えた槍に施す。
「気を付けてね!」
「もちろん! ぜぇあ!」
踏み込み、近付いたスケルトンの頭蓋へ向けて鋭い刺突を放つ。
放たれた攻撃は狙い違わず、スケルトンの頭蓋を貫く。
が、
「っ!」
「アルノくん!」
「大丈夫!」
流石というか、そこはやはり屍。頭蓋を貫かれたところで致命とはいかず、その手にもった剣を振るう。
「やっぱ砕くしかないか!」
【気血・甲鋼】で硬化された手で刃を受け止めつつ、引き抜いた槍の石突きでスケルトンを砕く。
完全に頭蓋を砕かれたスケルトンはその動きを止めて沈黙する。
「これが……」
確かな手応えを感じ、笑みを浮かべて槍を握り直す。
いくら西木田流が実践向けの流派だとしてもこのご時世、本当にそれが活躍する場面もなく。
「これが、戦いか!」
故に心が昂る。血が脈打ち、体が火照る。
「く、くく………」
「あ、アルノくん?」
ああ、闘争とは何と、
「くくく、はははは!」
何と楽しく高揚するのだ! これが西木田の因果か、性質か。
闘争に身を置き、得物を握り、遠慮する必要のない敵を前にして昂る心。
その高揚に身を任せ、眼前のスケルトンを殲滅する。
「アルノくん………」
呼ばれて、振り向く。
そこには、どこか怯えた様子の立香さんが。
「ひっ…………」
目があった瞬間、彼女は一歩後ずさる。
どうして? どうして彼女はいま、怖がった?
オレはただ、彼女を守ろうとして………
「立香、さん――――っ!?」
その時、オレの視界が一瞬、端でなにかを捉えた。
そこから先はほとんど条件反射だった。
強化された肉体のまま立香さんへと近づき、抱えて横に転がれる。
瞬間、地面が抉れた。
何かが飛来した瞬間、アスファルトの地面が弾け、爆発する。
とっさに彼女に覆い被さり、破片から彼女を守る。
大きな破片が飛び散り背中に当たるが、魔術によって硬化した体は何とかそれに耐える。
「ぐう……っ!」
だが、何故か走る脇腹の激痛。魔術はまだ解けていない。このくらいじゃ怪我なんかしないはずなのに。
「あ、アルノくん! 血が!」
立香さんが悲鳴のような声をあげる。彼女の手はオレの脇腹に添えられていて、真っ赤に染まっている。
「あ……?」
それもそうだろう。
どうやら、レイシフト前の鍛練や先程のテンションに任せた戦闘で、無駄に魔力を消耗してしまっていたらしい。
脇腹から、鉄筋が生えていた。
「がふっ」
「いや、いやぁ!」
貫かれたことによって込み上げてきた血が口からこぼれ、立香さんの服を赤く濡らす。
泣きそうな顔をした彼女は、混乱した様子でオレの頭を抱き止める。
「そんな、いや、ダメよ……ダメ! アルノくん!」
泣きながら、オレの名前を呼ぶ。
「だ、誰か! 誰か来て! 死んじゃう! アルノくんが死んじゃう!」
激痛と失血で朦朧としながらも、何かが飛来した方向を向く。オレの視力ではほとんど見えなかったが、さっきもみたような光が見えた気がした。
「に、げて………また、なにか来る………」
せめて彼女だけでもと、立香さんを押す。
けど、彼女はオレを抱く腕に更に強く力を入れる。
「バカ言わないで! 嫌よ!」
涙を溜めた目でキッと睨まれる。
でも、このままじゃ、二人して………誰か、誰かこの人抱けでも……………
光が放たれたのが見えた。この状態だ。避けられないだろう。
ここまでか――――――
「マスター!」
誰かが、俺たちの前で盾を構えた。見覚えのあるか弱い背中だ。なのに、今はその背がなによりも頼もしく見えた。
「マシュ?」
立香さんがそう言ったのを最後に、オレの意識は途絶えた。