デュッセルドルフの針金師たち   作:kirimonji

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ジプシーの丘

 

 

すばらしい快速列車だった。旅をしてるって感じだ。

 

マメタンもすごく華やいで見えた。ジュネーブ、南仏

 

からスペインへ。日差しが全然違う、やはりとても暖かい。

 

 

 

 

バルセロナは何かつっけんどんな変な町だ。パエリャや

 

トルチリア等の名物料理は今ひとつ。オリーブ味が強烈

 

だからだ。スーパデぺスカード海鮮スープとイカのから揚げ

 

 

 

 

は日本とおんなじ味でとても美味しかった。ガウディの

 

へんてこりんな教会へ行く。馬鹿でかい内部の中央に

 

設計図がデーンとガラス張りの箱の中に置かれていた。

 

 

 

 

一度には見切れないほど大きい。要するに何百年かかけて

 

建設中で今この辺と示してあるようだった。最上部まで登る。

 

直線が全くなくてどこもがまろまろとしていて、おもしろい

 

 

 

 

人だなガウディはと思ってしまう。頂上からあたりを見渡すと

 

中世港町風のバルセロナ、あちこちにぽつぽつとまろまろと

 

してへんてこりんな建物が見えたような気がする。

 

 

 

 

面白きこともなき世を面白く。学ぶ所多きバルセロナで

 

一泊して翌朝歴史の街グラナダへと向かう。・・・やはり、

 

 

 

 

アルハンブラの宮殿はことのほかすばらしかった。かつて

 

イスラムがこの地を制圧した名残の城だ。アラビア紋様の

 

支柱と壁。庭の植え込みはきれいに直線カットされていて

 

 

 

 

不気味なほど人工的であった。出口で日本人らしき人へ

 

声をかけたらアメリカ3世だった。日系でも3世となると

 

全く日本語を解しない。どんどん増えているのだろうなと思う。

 

 

 

 

アルハンブラの宮殿の谷を隔てて向かい側が

 

ソクラモンテの丘だ。ジプシーフラメンコの本場だ。

 

是非見に行こうとマメタンと丘を登った。

 

 

 

 

南向きのなだらかな坂道沿いに、白い漆喰壁の

 

銅食器店がニ三軒おきにずっと坂の頂上まで、

 

数十軒も連なっていた。店と店との間にには、

 

 

 

 

民家がある。大きな木の扉、銅製のガランガラン

 

が付いている。その間の路地か民家の庭先か、

 

おばさんたちが洗濯やらなにやらほんとの井戸端会議だ。

 

 

 

 

小さな子ども達がきゃっきゃきゃっきゃと走り回っている。

 

まさにジプシー風の黒髪と黒い瞳、褐色の量感あふれる

 

たくましい肌。覗き込んでいたらおばさんたちにじろりと

 

 

 

 

にらまれた。おーこわ、すごい迫力だ。一番若そうな、

 

といっても30歳くらいのソフィアローレンみたいな

 

お母さんが両手を腰に当てて仁王立ち。でかい!オサムは

 

 

 

 

思わず見上げてしまった。何か言わなくちゃ。

 

 

 

 

「あー。フラメンコ、フラメンコ。見たい見たいフラメンコ。

 

ビバ、フラメンコ!」

 

 

 

 

と踊る振りをして右手をおでこに当てて眺めるしぐさをした。

 

 

 

 

おばさんたちは大笑い。そのでかいおばさんは笑いながら

 

我々を隣の隣の大きな木の扉戸に導いてくれた。

 

黙って下方に指をさす。

 

 

 

 

『8:PM  OPEN 』

 

 

 

 

と小さく書いてある。あ、なるほど、この中がフラメンコの

 

会場なのか。オサムたちは納得した。夜8時にここへ、OK!

 

といって手を振って別れた。なだらかな坂を下る。

 

 

 

 

ニ三軒おきにある大きな木の扉の中は皆フラメンコの会場

 

なのだ。谷の向こうにアルハンブラの宮殿がすばらしく

 

かっこよく見えた。時を越えて今もそのままだ。

 

 

 

 

夜が来た。まもなく八時だ。2人は坂を上り、

 

昼間とは全く雰囲気の違う怪しいジプシー

 

ムードの会場前に着いた。とても静かだ。

 

 

 

 

木の扉にはランプが灯りほのくらい中、

 

そこだけがボーッと明るい。

 

 

 

 

『確かここだOPEN 8:PMと書いてある』

 

 

 

 

ドアの金具をこつこつと叩く。重そうな木の扉、

 

ギーと音がして、隙間からフラメンコのギターの

 

音が聞こえてきた。

 

 

 

 

『あ、やっぱりここだ。フラメンコだ』

 

 

 

 

中は薄明かり。白い漆喰の壁と天井。

 

銅の食器がいくつも大小取り混ぜて

 

天井からぶら下がっている。

 

 

 

 

入り口からフロアで両壁に沿って、ぐるっと

 

半円形に座れるようになっている。入り口のドアの

 

脇で男の人2人がギターを弾いている。

 

 

 

 

おばさんが一人何かとても悲しげな歌を歌い始めた。

 

すごくジプシー風でいい。意味は分からなくても

 

泣けてくる。つめれば30人ほどは入れる広さだ。

 

 

 

 

二人はお金を払って、とにかく中に入った。

 

『あれっ?』暗くてよく見えなかったが。

 

『お客は?えーっ、俺達2人だけなの?ウッソー』

 

 

 

 

一番奥まった席に勧められるままに座った。依然として

 

おばさんが悲しい歌を歌っている。と、突然、

 

扉が開いてドヤドヤドヤと人々が入ってきた。

 

 

 

 

何かフランス語みたいだ。これがまたお年寄りばかりで

 

20人ほど。いっぺんに満席になってオサムはほっとした。

 

おばさんの歌が止んで、ガイドが何か説明を始めた。

 

 

 

 

ひとしきり説明が終わると皆で拍手した。オサムたちも

 

つられて拍手。そしてついに始まった。よく聞く

 

フラメンコのギターだ。二人掛け合いですごくいい。

 

 

 

 

がらっと曲が変わってさっき聞いていたあの物悲しい曲だ。

 

扉がゆっくりと開いてさっきの歌のおばさんが歌いながら

 

入ってきた。扉を開けておけば谷の向こうにアルハンブラの

 

 

 

 

宮殿のシルエットが美しく浮かび上がる。すばらしい

 

シチュエーションだ。

 

 

 

 

『しかも俺達は特等席だ。マメタンもしっとりと歌声に

 

聞きほれている。よかったなアルハンブラに来れて』

 

 

 

 

曲が変わって再び強烈なフラメンコギターの連奏。

 

早くなったりスローになったり弱くなったり強くなったり。

 

弱くスローになったところで、扉が開いて、かわいい

 

 

 

 

2人の子どもフラメンコが登場した。男の子と女の子。

 

それはそれは可愛いしぐさで一チョ前にカスタネット、

 

フラメンコを踊る。弱から強へ、パタと止まって

 

 

 

 

あごをカクンと上に上げる。また徐々に弱から強へ、

 

すさまじいフラメンコステップでラスト”オレ!”

 

で極めつきだ。大拍手と笑いとで大いに盛り上がった。

 

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