ブタオが、紅魔館の使用人となり幾日の月日が流れていた。
初めこそ、オタオタと頼りのないブタオであったが、咲夜の指導もあって、今では一人で仕事を任されるようになっていた。
使用人として働くにあたり、ブタオは咲夜以外の使用人たち。つまり、妖精メイドやホブゴブリンと言った者たちとも交流を深めていく。
彼らの、ブタオに対する感情についてだが、思いのほかに好評であった。
妖精メイドは、妖精と言う概念的な存在から、人間の価値観等理解できるはずも無く、ブタオの性格や容姿について、まったくの抵抗が無かった。
ホブゴブリンもそれは同様であり、彼が来てからメイド長やフランドールが大人しくなった様な気がして、尊敬の念すら覚えている。
ブタオは、彼らの後輩にあたるわけだが、先述のとおり尊敬されている為に、『ブタオ様』と呼ばれていた。
尤も、尊敬から来る“様付け”ではなく、あくまでごっこ遊びのネタの範疇ではあるが。
『――ブタオ様ぁ。おはようございますぅ』
『おはようございます。ブタオ様』
『ブタオ様。今日も一日よろしくお願いします』
「ぶひぃ。おはようでござる! 今日もよろしくでござる!」
すれ違う妖精メイドやゴブリン達にあいさつされるブタオ。
その中で、何匹かの妖精たちがブタオの周りに集まりだす。
『ねぇ、ブタオ様。またお腹触らせて~』
『あたしもあたしも』
『わたしもぉ~』
「ぶひぃ。良いでござるぞッ! どこからでもかかってくるでござる!」
『やったぁ!』
『次私! 私もねッ』
『ねえ見て見てッ! 手が背中まで届かない! すっごく太っい』
『すっごーい、ブタオ様、ものすごいデブ~』
何と言うか、相撲部屋にやってきた子供にモテはやされる力士の様な扱いである。
キャッキャと抱きつかれたりしているわけだが、ブタオも膝元しかない妖精に欲情するわけも無く、可愛い小動物がじゃれてきている様な感覚であった。
とはいえ、今までの人生で、こんなにもモテた事など在りはしない。今が、人生で最大のモテ期に違いない。
そして、そんな風にじゃれていると必ず現れるのが彼女である。
「こら貴方達ッ! 何をしているの。仕事場に戻りなさい」
『わーッ。咲夜様だぁ』
『仕事に戻れー』
『キャー』
みんな一同にブタオに手を振って、自分たちの仕事場へと散っていく。
ブタオも、笑顔で手を振り返す。
そして、咲夜はそんな緩み切ったブタオに活を入れるように、ブタオの腹をつねった。
「なに緩んだ顔になってるの。貴方も仕事に戻りなさい」
「ぶひぃ。すまんでござる……」
御叱りを受けたわけだが、そこまでブタオは気にしても無かった。
咲夜も本気で怒ってるわけでもなく、年相応の笑顔で叱責していたからだ。
そして、この行いは、ここ数日の間で格式美とも言えるように繰り返して行われていた。
もはや、みんな分かっててやっているのである。
みんな笑顔で業務に励む。ブタオが来てから、使用人たちの間で笑顔が広がった。
そして、そんな楽しそうに仕事をしているブタオ達を遠目で眺めている視線が一つ。
「あいつ、今日も忙しそうね……」
紅魔館の主、レミリア・スカーレットである。
実につまらなそうな顔で、壁の影からブタオ達を覗いている。
ここ数日、ブタオと全く会話をしていない。
勿論、あいさつ程度の言葉は交わすが、ゆっくりとお茶を交えながらの談話と言うのを全くしていないのである。
何かあるたびに、咲夜や美鈴やフランがブタオを連れて行ってしまう。
まだ話してない物語が、他にもたくさんあるのに。
お話してあげるって約束したのに。
しかも最近、ブタオの周りに人が増えた様な気がする。
咲夜は、仕事の関係上仕方がないとして、美鈴もフランも、隙を見てはブタオと一緒に楽しくお茶をしている。
ここ最近では、妖精メイドやホブゴブリン達もみんなブタオに夢中になっていて、イチャイチャと抱きついたりしている。
妖精たちにとっては、単なるスキンシップの意味合いが強いのだろうが、なにか不愉快なものがある。
レミリアは、この言い様のないモンモンとした感情を抱いたまま、その場を後にした。
◆
レミリアが、なんとなく館内を歩いていると、中庭で美鈴とブタオが、楽しく談笑している姿が見える。
おそらくは、庭園の手入れについて話しているのだろう。
それにしてもどうだ?
あの美鈴の浮ついた顔は。
ほんのりと顔を赤め、照れ隠ししている事がバレバレである。
アレではまるで恋する乙女ではないか。
「――ッ」
なんでだろうか? 酷く胸が痛む。美鈴と楽しそうに談笑しているブタオを見てると心が痛くなる。
ブタオは、良く言えば愛想の良い男ではあるが、悪く言えば八方美人だ。
その尊敬の念を。その笑顔を。誰に構わずにまき散らす。
そういう性格だと言うのは知っている。それがブタオの性根である事も理解できる。
なのに、とても心がざわつく。落ち着かないのだ。
ブタオの性根を知っていると言うのに“その笑顔を私以外の人に向けないでほしい”と思っている。
一人、悶々と後ろめたい気分になっているレミリアではあったが、そんな事をしているうちにブタオと美鈴の話しも終わった様である。ブタオは、美鈴に手を振って別れる所であった。
「あ――ッ」
特に何か用事があったわけではない。
しかし、声をかけずに居られなかった。
いや、声をかけたかった。そして声を返してほしかった。
「ブタ――」
しかし、無情にもレミリアの声は――
「おじ様~ッ。ブタオのおじ様あぁッ!」
「おっとッ。フラン殿」
横から割りこんできた無邪気な妹の声によってかき消された。
「おじ様、お仕事は終わった?」
「はいでござる。たった今終わったばかりでござるぞ」
あろう事か、フランは無邪気にブタオの腕に抱きつき、子供らしい笑顔でブタオになつき――。ブタオも自分にも見せた事のない笑顔でフランに接している。
「やったッ。ねぇおじ様。私の部屋でお茶しようよ。私、おじ様の現代のお話、また聞きたいな。『らいとのべる』だっけ? 続きを聞かせてよ」
それが、堪らなく切なくて――。
「ぶひひ。フラン殿もすきモノでござるなぁ。良いでござるぞ。吾輩の脳内ハードディスクが火を吹くでござるッ!」
胸の内を締め付ける。
ズキンズキンと。強く締め付ける。
「よく分かんないけど、決まりねッ! それじゃいこ♪」
ブタオは、フランに引っ張られながら、その場から遠ざかっていく。
「あ。待――」
レミリアは、手を伸ばし、ブタオを呼びとめようとするが――。
彼女は、フランと目が合った。
フランがこちらを振り向いたのだ。でも、彼女は一言も何も言わず――。
余裕のある悪魔の様な笑顔で。ただこちらを見ていた。
それが、とても恐ろしく。
彼女は、それ以上何も言えなかった。
フランの表情は変わらず、まるで勝利者の様に、ブタオと去っていく。
レミリアは、ただただ惨めな気分になっていた。
◆
今日も、レミリアは影からブタオを覗いていた。
今日は、咲夜と一緒になって仕事をしている。
初めこそ、オロオロしていて頼りがいのない男だったのに、今では咲夜にも頼られる存在になっている。
咲夜も初めこそ、嫌悪していたと言うのに、今では随分と心を開いた様で――。
年相応の少女の様に、異性を意識しながらブタオと接している。
咲夜とブタオが楽しそうに話している光景を見てまた――。
ズキンと心が痛む。
(ああ、ブタオがあんなに楽しく……。咲夜も。いやだ……。わ、私も、私を見て欲しい……)
私もあの場所へ行きたい。
咲夜のいるあの場所へ。
そうすれば、ブタオの笑顔は、自分に向けられる事になる。あの尊敬の籠った眼差しが自分だけのものに――。
ズキンズキンと。
胸の痛みは、強まっていく。
もう見ているだけなんて嫌だ。
レミリアは、手を伸ばし、ブタオに近付こうとするが――
「な~にしてるのぉ? お姉ぇさま♡」
「――ッ」
何の気配も無く、フランが後ろから肩に手を回してきたのだ。
レミリアは、振り向けなかった。
フランの不気味ながらも平淡な声色に、背筋が凍りついたのもある。
しかし、それ以上に今の顔を見られたくなかった。
ブタオへの恋慕に近い感情に咲夜への嫉妬。そしてフランへの後ろめたさに加え、自分の気持ちも分からずにいて――。
もうグチャグチャなのだ。自分がどんな顔をしているかも分からない。
フランは、耳元で囁くようにレミリアに呟いた。
「ねぇお姉さま? お姉さまは今、誰を見てたのかな~?」
「だ、誰って……」
「もしかして、ブタオおじ様かな? 随分と熱っぽい視線を送ってたけどさ」
「ち、違……。い、いえ、そうよ。あ、あいつが、きちんと仕事出来てるかどうか、その……。か、確認してたの。一応、私、あいつの雇い主だから……」
「――ふ~ん」
フランの表情は分からない。
しかし、その声色から、彼女は笑っている様な気がした。
「――ねぇお姉さま? 私さ、知ってるんだよ? 昨日、お姉さま、ブタオおじ様の事をずっと見てたよね?」
「そ、そんな事……」
「私と目が合ったのに?」
「あ、あそこに居たのは……ただの偶然で……」
「偶然ね~。――ねぇお姉さま?」
「な、何よ……」
「――いいんだよ? ブタオおじ様のこと好きになって」
「ッ!?」
耳元で囁かれるフランの甘い言葉と吐息。
レミリアの全身に、電流が流れる様な衝撃が走る。
「な、なななッなに言ってんの!? わわわッ私が、あいつを好きになんか……ひぅッ」
とっさに否定の言葉を紡ぐが、それ以上言葉が続かなかった。
フランが、温かな吐息をレミリアの首元へ送ったからだ。レミリアの全身に鳥肌が立つ。
「ちょ、フラン!? な、何するの! や、やめ……ひゃんッ」
フランの左手が、肩の上から胸部にかけて――。
そして残った右手は、スカートの中へと侵入する。
抵抗しようにも上手く力が入らない。フランを振りほどけない。
涙目で訴えかけるレミリアを無視し、フランは彼女の体を弄りながら、熱のこもった声で小さく呟きだした。
「――お姉さま。ブタオの血ってさ、凄く美味しいんだよ?」
「え? な、なに……?」
「想像してみてお姉さま。権力をカサにブタオに命令し、その首を差し出させるの。ブタオは純情だからきっと、顔を真っ赤に染めながら涙目で命令に服従すると思う」
「ふ、フラン……ひゃうッ」
「そして無理やりベッドへ押し倒し、その身をブタオに預ける……。小さい体だもんね、きっと全身でブタオを感じる事が出来ると思うよ?」
「――ッ」
「そして、ブタオの白い肌を堪能し、這いずる様に口元を彼の首元へ……」
「はぁ……はぁ……お、お願い……もう……や、やめ……」
言葉とは裏腹に、レミリアの脳内では、フランの言葉通りのシチュエーションが鮮明に映し出されていた。
「――ブタオの強烈なオスの匂いに酔いしれながら、彼の白くて柔らかな首筋にその牙を……突きッ立てる」
「ッ――!?」
「プツッと血管を突き破る様は、まるで処女を破瓜させるかのような快感よねぇ?――ん?」
ブルブルとレミリアは震えていた。
しかし、その表情は恍惚としたものであり――。
そんな表情をした実の姉を見て、フランもテンションが上がってきた。
優しく、囁くように。吐息を敏感なところへ送りながら、言葉で責めたてる。陰部に添えている手はただのオマケだ。
あくまでもメインはイマジネーション。
想像だけで果てさせる。
「ねぇ? もしかしてイった? イっちゃったの? 言葉だけで? 想像だけで? く……くひひ、お姉さまったらいやらしいんだぁ?」
「はぁッはぁッ……ち、ちが……んッ!」
実の姉ながら、なんて強情でプライドが高いものか。
トロトロの顔で、説得力のかけらも無いが、心だけは一線だけを保っているのだろう。
しかし――
だからこそ効く魔法の言葉がある。一線を越えさせる魔法の言葉。一種の免罪符。
「――でもさ、“仕方ないよね”“しょうがないよね”」
「ふえ……?」
「美味しい血を飲みたいと思うのは、吸血鬼の本能だもんね? だからさ、お姉さまは『悪くないんだよ』」
仕方がない。
しょうがない。
悪くない。
どんな罪悪も吹き飛ばす免罪符の言葉。
フランは、攻め立てる。悪くないんだと。仕方のないことなんだと。
「お姉さまは“悪くない”。“悪くない”“悪くない”。“しょうがない”んだよ。吸血鬼なんだから。お姉さまが、ブタオの事を好きになっても――ちっとも『悪くない』」
ブタオを愛していると公言しているフランからの言葉。
その当事者から、悪くないと言われたレミリアの胸中は計り知れない。
実妹の想い人を好きになるなんて、あまりにも不誠実な事ではないか。
フランへの義理立てが、レミリアの理性を保っていたのに。
そのフランから、悪くないなんて言われたらもう……。
「ふ、フランは……」
「ん?」
震える声で、レミリアは尋ねる。
「フランは、それで良いの? その……わ、私が彼を好きになったら……」
レミリアの問いに、フランは笑って答える。
「繰り返して言うけど、それは『仕方がない』ことなの。だから私も『仕方がない』って妥協する。――お姉さまが、それでも不義にこだわるのなら、もういいわ」
「あ……」
フランは、陰部に添えていた手を引っ込め、レミリアから体を放した。
ようやく、言葉攻めと快楽攻めから解放されたレミリアであったが、どこか惜しい様に声を漏らした。
「お姉さま。今夜、私はブタオの血を飲むよ」
「――え」
「さっき口にしたシチュエーションで吸血してみるのも一興ね。ブタオと快楽の底へと一緒に堕ちて……。想像するだけで興奮してくる」
「あ、ふ、フラン……その……」
レミリアの弱々しい呼び止めに、フランはまるで意を返さない。
吐き捨てるかのようにレミリアに告げる。
「それじゃね、お姉さま。今夜私はブタオと一つになる。義理だとか、くっだらない倫理を大事にして一生喪女っててね」
ヒラヒラと手を振りながら去っていくフランを、レミリアはただ黙って見てるしかなかった。
◆
その夜――。
ブタオは、フランに呼び出されていた。用件は知らされてなかったが、夜に自室に来てほしいとの事であった。
何の用事だろうかと思いながら、ブタオは――
(それにしても、深夜に女の子の部屋に行くなんて、ドキドキしてしまうでござる。ぶひひ。なんだか、やらしい事を考えてしまうでござるな)
なんて、ものすごく気持ちの悪い事を考えていた。
とはいえ、ブタオは真の大和男子であり、YESロリータNOタッチを信条とする紳士である。雇い主のたった一人の家族でもあるし、フランの様な少女に不逞を起こすつもりなど毛ほども思ってない。
それにしても、一体何の用か?
フランの呼び出しについて、考えながら紅魔館の廊下を歩いて行く。
そして、ふと窓に視線を移すと、夜空には見事な月が浮かんでいるのが見えた。
「いやはや。幻想郷の月夜は、まさに幻想的な美しさでござるな。あんなに大きく輝いてる月は初めて視るでござる。――にしても、あの月……妙に赤みかかっている様な」
まぁ何かの影響でそう見えるだけなのだろう、とブタオは特に気にしていなかった。
そんな事よりも、フランとの約束である。
歩を進めるブタオではあったが――
彼の前に、レミリア・スカーレットは立っていた。
「おお、レミリア殿、奇遇でござるな」
「……」
「?」
ブタオの言葉に、彼女は一切の反応を見せなかった。ただこちらをじっと見て――。
その目は猛禽類を彷彿させる鋭いものになっている事を、ブタオは気付かなかった。
「ちょっと来て」
レミリアが、ブタオの手を掴み、引っ張っていく。
「れ、レミリア殿? あの、吾輩、今フラン殿に呼ばれていて――」
「いいから来るッ! この紅魔館で一番偉いのは私なのッ! 私はフランよりも偉いんだからッ!」
「ぶひぃ!」
フランの名前を出した途端、今まで見せた事のない凄身を発し、ブタオを強く叱りつける。小心者のブタオが、そんな凄身のある声に逆らえるはずも無く、レミリアにそのまま連れて行かれてしまった。
「ここは……」
着いたのは、レミリアの私室である。
一体、どうしてしまったのかと混乱しているブタオではあったが、彼をさらに混乱させる一言をレミリアは言った。
「――ブタオ。着ている服を脱ぎなさい」
「ぶひ!?」
突然の訳も分からぬ言葉にうろたえるブタオではあったが、レミリアの活がまた入る。
「早く脱ぐッ!」
「ぶ、ぶひぃッ! わ、分かったでござる。分かったでござるから、怒鳴らないで欲しいでござるよぉ……ブヒン」
半べそをかきながら、ブタオは言われたとおりに衣服を脱ぎだす。
ボロンと、ブタオのだらしのないお腹が露わになる。
少女の前で裸体を晒す事を恥ずかしがっているのか、ブタオは乳房を隠す様に腕をまわしていた。
そんな、乙女の様なブタオの仕草に、レミリアの理性にひびが入る。
百キロ近い体重差をものともせず、レミリアはブタオをベッドへ押し倒した。
捕食者を前にする子羊の様に、ブタオは震えていた。
レミリアは、そんなブタオを見て舌を舐めずり、彼にまたがる様にブタオの上に乗った。
ブタオの強烈なオスの匂いに酔いしれる。
しっとりと汗をかいているブタオの裸体は、艶めかしく光沢を帯びて美しさすら見せる。
ゴクリとレミリアは生唾を飲み込み、乳房を隠しているブタオの腕を掴み取って、ブタオの裸体を露わにした。
先ほどよりも顔がブタオの体に近くなる。ブタオの強烈な匂いに、意識すら飛びそうだ。
「ふふふ。ブタオ……可愛いわよ、ブタオ」
「れ、レミリア殿? こ、こんな戯れはやめて欲しいでござる。吾輩、誰にも言わないでござるよ? 誰にも言わないから、もう……」
涙目で弱々しく訴えかけるブタオを前に、レミリアの残っていた理性は、たちどころにリミッターを振り切り――。
ブタオの耳元で囁くように言った。
「駄目♡ 貴方は、これから私に血を吸われるの。て言うか、もう無理。我慢できない……」
這いずる様に、レミリアはブタオの首元へと口元を移し――。
彼の白い軟肌にその牙を――突きたてた。
「――ッ!」
「ぶひいいいぃんッ!」
プツッと血管を突き破るこの瞬間が、一番たまらない。
あまりの快感に、気を抜くと一瞬で果てそうなほどの快楽である。
「ぶ、ぶひ……ぶひん……い、痛いでござる……」
興奮のあまり、かなり強めに突き破ったようだ。
ブタオの顔が苦痛に歪む。
しかし、それは返ってレミリアの嗜虐心を刺激したようで、彼女は所構わずにブタオの血をすする。
「ぶッ ぶヒンッ! ぶひぃッ ぶひッ」
痛みと同時に感じる快楽に、ブタオの体は痙攣していた。
レミリアは、そんなブタオを見て、悦に入りながら、己も快楽の底へと堕ちていく。
(ブタオの血……これがブタオの血。す、凄いッ。こんな濃厚で、トロトロで――。全身にブタオの命が流れる。私は今、ブタオと一つになってる……気持ちい……凄く気持ちイィよ!)
いつの間にかレミリアの衣服もはだけていた。
自身の体をブタオに擦りつける。まるで獣のマーキングだ。
ブタオはすでに果てていた。
それでもレミリアは止めない。止まらない。一瞬でも長く、ブタオを感じていたい。ブタオと一つになっていたい。
彼女の内にある望みは、ただそれだけであった。
◆
一体、どれだけの時間が経ったのか――。
レミリアもまた、ブタオの上で果てた。
「はぁはぁ……」
体が弛緩し、レミリアはブタオにもたれかかる様に倒れる。
レミリアは、乱れた息を整えながら、全身でブタオを感じ、余韻に浸っていた。
しばらくの静寂。
落ち着いてきたのか、レミリアは体を起こし、ブタオの横に寄り添った。
ブタオの小さな寝息。子供の様に無垢な寝顔に、レミリアは例えようのない感情を抱いていた。
「ブタオ……」
聞こえるはずのないレミリアの呟き。
「貴方は本当に何者なの? どうしてこんなに私を狂わすの……?」
それは、ブタオに向けた言葉なのか。
あるいは自分に向けたモノなのか。
レミリア自身分からない。
答えのない問い。そして――余りにも詮なき疑問だ。
「もう……いいや。こんなにも気持良いんだもの。貴方が何者であろうと構わない……。もう離れられない」
レミリアは、ブタオの体を抱きしめ、その顔に軽いキスをした。
ただそれだけの行為に、レミリアは何か温かなものが心に来る気がした。
とても心地よくて手放したくない感覚。
今まで味わったことのない気持ち。
レミリアは解する。この気持ちが何なのかを。
「これが、人を好きになるって事なのね……」
人を好きになると言う気持ち。
恋。
単語上の意味しか知らぬ言葉であったが、ようやく理解できた。知識の中じゃない心の中での理解である。
「ブタオ。貴方が好き……大好き。絶対に離さない。絶対に……」
レミリアは、ブタオに寄り添い、朝が来るまでブタオをその身で感じ取っていた。
紅魔館の大図書館。
そこで一人の少女が、水晶玉を覗きこんでいる。
「レミィ……。貴女も堕ちてしまったのね」
ギリギリと歯ぎしりをしながら、彼女は義憤に駆られていた。
「紅魔館は、私が守る――」
何やってんだ、俺……(一回目)
何やってんだ、俺……(二回目)
やべぇよ・・・やべぇよ・・・