宿毛泊地提督の航海日誌 冬イベ編   作:謎のks

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はい、E-3後編です。

もう少々お付き合いください…では、どうぞ。


宿毛泊地提督の航海日誌 冬イベ編 E-3後編

「―はい…何とかなりました…全員無事です。」

 

神通は榛名に夜戦の結果を報告していた。

その姿は正に満身創痍で、一歩間違えれば轟沈寸前だった。

―無理もない、ゼロ距離の雷撃など、普通の艦娘なら及びもしないだろう。

しかし彼女にはそれが最適解だった―提督が許すはずがないと知りながら。

 

「う”っ」

「おっと~、神通あんま無茶しちゃだめだよ?」

 

痛みに倒れそうな神通の体を、北上が支えた。その横で照月が心配そうに尋ねた。

 

「神通さん、ホントに大丈夫ですか?」

「ふふ…ありがと、照月ちゃん。」

「照月、もっとキツめに言ってもいいんだよ~?」

「もう、北上さん!」

 

三人の間には、自然な笑顔が溢れていた。

―そんな三人を尻目に、雪風は望遠鏡を覗き込んでいた。

 

「―!はわわ!?」

 

何かを見つけ、驚きの表情になる雪風。その前には…

 

「「……ヴゥ」」

 

小さく呻きながらも、立ち上がる双子―否、彼女達も立つので精いっぱいだった。

 

彼女たちは、自分たちの疑問をぶつけた。

 

「「…どうして、止めを刺さないの?」」

 

狂気の込められた、低い声でなく、見た目相応の少女らしい声で問いかける。

それに答えたのは、神通だった。

 

「…あなたたちこそ、本気ではなかったのですね?」

「「!!」」

「え、何どゆこと?」

 

北上が質問で返した。さらに神通が続ける。

 

「最初は榛名さんが気付いて、私はそれを連絡として受け取っていました。ですが」

「?」

「…戦っていて、彼女たちは競い合っているだけだと、改めて理解しました。」

 

戦いを通して、彼女たちに殺意はあれど、敵意はないことに気づいた。

そうですよね。と神通の回答に双子は肩の力が抜け―

 

「…負けるつもりもなかったけどね?」

 

黒が返答した。この一言で、この場における一応の決着はついた。

 

「ホント、すごいわあなたたち。」

「うん、本当に……!」

 

白はふと空を見上げると、目を見開き、咄嗟に

 

「危ない!!」

 

ドンッ

 

「!?」

 

 

 

…ーーュゥゥウ、ズンッ!!!!!

 

一瞬で、白の体は、爆炎と轟音に包まれた―。

 

「ーえっ!?」

 

神通達には、何が起きたか分からなかったが、その疑問は直ぐに解った。

 

「―愚カネ、アナタタチ…。」

 

いつからそこにいたのか知り得ないが、黒い衣装に身を包んだ深海凄鬼「離島凄鬼」が揺蕩う水面に立っていた。

 

「あなたは…?」

「…」

 

恐らく、白を襲った爆撃は、彼女によるものだろう。

光を忌み嫌う、殺意よりも深く淀み切った目で神通達を睨みつける。

赤い閃光の灯る眼光は、確かな敵意が込められていた。

 

「―しっかり、しっかりしてぇ!?」

 

黒は、白に駆け寄り体を揺さぶる。しかし白の腕に力は入らず、だらんと垂れ下がったままだった…。

 

「…!」

 

キッと黒は、離島に視線を向ける。

 

「許さない…許さないからぁ!!」

「黙レ、裏切リ者。」

「!?」

 

離島は彼女の怒りを一蹴し、淡々と綴った。

 

「我ラ深海ノ者モ、コノ数年デ格ガ落チタ…中ニハ人間ニ協力スル者マデ現レル始末。」

「…」

「貴様ラモマタ、コノ者タチニ寝返ルツモリダッタノダロウ?」

「そ、そんなことしない!!」

「イイヤ、ソレハ重要デハナイ…問題ハ、貴様ラガ人間ニ感化サレツツアル、トイウコト…。」

「…え?」

「我ラニ”喜”ハ不要。我ラニ”楽”ハ不要。我ラハ”怒ト哀”デ、世界ヲ蹂躙スル。」

 

まるで機械で弾き出されたような言葉は、確かに冷徹であり、残虐だった。

 

「貴様ラハ最早、不要―!」

 

離島より出された合図で、上空を旋回していた艦載機が、双子に向かって接近していた。

 

「!(がばっ)」

 

ドォン!!

 

「あぁ!?」

 

黒は、白に覆い被さるようにして、彼女を守る。

背中に大きな火傷が出来上がる…致命傷だった。

 

「無駄ナ足掻キヲ…!」

 

再び上空に舞い上がり、勢い良く敵艦載機が双子に向かって行く。

 

「!双子ちゃんが!?」

「行ってはだめです!照月ちゃん!」

「で、でもぅ。」

「…心配はいりませんよ”もう到着する頃合い”でしょう。」

「へ?」

 

黒は、悔しさに目を閉じ、諦めの境地に入っていた。…が

 

「――…ぅぅううおおおおおうりゃあああああぁぁぁ!!!」

「!え”っ、提督ぅ!?」

 

照月の目に飛び込んできたのは、艦娘の艤装を付け、水上を一直線に滑走する提督だった。

 

「おりゃああ!!」

 

全速力で海を駆け抜けた提督は、そのまま艤装を脱ぎ捨て、双子を抱きかかえる形で海に潜った!

 

「…ナニ?」

 

間髪おかず、艦載機爆撃が辺り一面に怒号のような音で響き渡った。

 

…辺りが静まり返った、その直後。

 

「…っぷはぁ!」

 

提督は双子を抱えたまま、無事に水面に浮上した。

 

「貴様…」

「いやぁ、危なかったにゃぁ。オマエら大丈夫かよ?」

「は…?」

 

提督は、呆気にとられる黒と白の無事を確認すると、ニカッと笑う。

 

「オマエら榛名や神通をあそこまで追い込んだが?いや、たまるかよぉ、すごいにゃぁ!」

 

抱きかかえたまま、ハグの要領でそのまま双子を抱きしめる提督。

黒は、驚いているのか、理解が追い付いていないのか、固まったままだった。

 

「貴様…ナゼソノ者タチヲ助ケタ?」

「お?何にゃ??」

「理解デキン…ソレラハ貴様ラノ標的ノハズ、ソレヲ…」

「ンなもん、オレの家族やきに決まっちょるわ。」

「!?」

「家族…クク、何ユエソノヨウナ世迷言ヲ」

「ん~?オレがそう思ったき、じゃイカンかよ?」

「……(ポカーン)」

 

黒は、”開いた口が塞がらない”はこういうことかと悟る。

目の前の男は、自分を家族と呼び、あまつさえ男の仲間を傷つけた自分たちを、命がけで助けようとしている。しかも理由が理解不能だった。

…解らない、例え何かの法則があったとしても、何と幼稚で、何と無邪気な回答だろう。

 

「心配せんでえい!大丈夫やき…」

 

男は、根拠のない自信と、何かの覚悟を秘めた眼で自分たちを励ます…。

 

「もう沈めさせん…誰も、オレの目の前で…!」

 

小さく、しかし確かな声で、男は目の前の敵と向かい合っていた。

 

「貴様ゴトキニ何ガデキル…?」

 

離島は、再び艦載機を上空に旋回させる。今度こそ狙いは外さないと言わんばかりに、敵艦載機は宙を舞っていた。

 

「無力ナ人間…死ニゾコナイト共ニ…シズメ!!」

「!提督―」

「ちょっと待つっす」

 

離島の艦載機の周りに、別の艦載機が制止させるように回っていた。

 

「くうさん!」

 

提督が”くうさん”と呼ぶ人物、それは小笠原諸島沖で戦った”あの”空母凄姫だった。

 

「…何ノ用ダ…」

「撤退命令っす、作戦は中止で、今すぐ戻ってこいて。」

「…ナニ?」

「聞こえなかったんすか?それに、あの子達ほっといてももう助からないっすよ?」

「…ダカラ何ダトイウノダ?」

「あんたのやってることは、無駄な徒労ってことっすよ!」

 

離島は”言い切ったな?”と言わんばかりに静かな憎しみを向けた。

 

「フン…島国ノサルヲ止メラレナカッタ部隊ノ分際デ、偉ソウニ…」

「あ”?」

 

くうさんは心外だったのか、離島の前に進み出て、今にも一触即発の雰囲気を作った。

 

「…」

 

少しの間、睨み合いが続いたが、それを断ち切ったのは、以外にも離島だった。

 

「マアイイ…ワタシモ無駄ナコトハシタクナイ。」

 

そういうと、離島は自ら海に沈んでいく…しかし

 

「ダガ、忘レルナ…コノ世界ノ憎シミノ鎖ハ、決シテ断チ切ルコトハデキナイ…。」

 

―そうして、離島が完全にいなくなり、事態は終息を迎えた。

 

 

 

「すまんにゃぁ、くうさん。ありがとぅ。まっこと助かったわ!」

「ま、ウチはウチの用事を済ませただけっすけどね?」

 

二人は、ボートの上で和やかに談笑していた。

このボートは、「提督専用漁船改装快速ボート」で吹雪たちが持ってきてくれた。(運転手は明石)

 

「…で、あんた何しに来たんすか?」

「いやぁ、ちょっと様子見に…」

「様子見はいいんすけど、普通あんな事するっすか?」

 

くうさんは、提督の奇特な行動の真意を追求する。

渦中に飛び込むどころか、下手をうてば死んでいる…提督はもちろん一般人なので、普通に死ぬ状況だった。

 

「…あの子らぁを放っておけんかった、じゃいかんかよ?」

「あの状況、ウチがいなかったら、どうするつもりだったんすか?」

「あ~、それ言わんといてちや、めったにゃぁ。」

 

まいった、という提督だが、その顔に反省の色はなく、やり切った表情と取れた。

 

「オレはアホやき、あれ位しか考えが及ばんかったがよ。」

「フーン、そっすか。」

 

と、ちらりと隣の隅で休んでいる神通を見るくうさん。

 

(…やっぱ似たもん同士なんすかねぇ?)

 

「お、ほうじゃ、くうさん、オマエらの指揮官…?に、伝えちょって。」

「ん?何すか?」

「…今度オレの家族に手ェ出したら、おんしゃお覚えとれよ?…てにゃ。」

 

一瞬、寒気がした。

長い間、敵として戦ってきたが、この男のこういう所が底の知れない。

―何があったか知れないが、この能天気を怒らせるなんて、どんなことだろう…?

 

「…フンッ、了解っす!」

 

まぁ、ウチもどうかと思ったけどね?と、くうさんは不敵に笑みを作りながら、そんなことを考えていた。

 

 

「司令官、ちょっと…」

「ん?」

 

突然提督を呼ぶ、吹雪。どうしたのか?と聞くと…

吹雪は、船の隅に休ませていた双子たちを見やった。

顔にひびが入り、苦しそうに呻っている黒。白の方に至っては、手遅れでないかという位安らかに目を閉じていた。

 

「はぁ、はぁ、ぐっ…」

 

体が重い、鈍い痛みがある。それでいて頭は冴えていた。

あぁ、もうダメだのだな…と、黒は内心感づいていた。

…しかし、彼らの考えは違ったようだ。

 

「なぁ、オマエらどうするがよ?」

「…ぇ……?」

 

提督は、か細く返事をする黒に選択を投げかけた。

 

「オレらぁやったら、オマエらを治せるかもしれん。」

「……!」

 

驚きの提案だった。艦娘と同じように入渠でもさせようというのか?

 

「オレに伝手があるきにゃぁ、そいつらぁに頼んで、何とかしてもらおうって思いよる。」

「そ…」

 

それは話が早い、まだ沈みたくない。

そう言いかけた黒は、離島の最後の一言を思い出した。

 

―憎しみの鎖を、断ち切ることはできない。

 

「ぁ…」

「ん?どした?」

 

この人たちの優しさに甘えてはいけない。

自分達は怪物だ…呪われた存在だから。

――倒されなければならない、「悪」そのものだから…

 

「う…うぅ…」

 

―黒は、涙を浮かべながら、絞り出すように、言った。

 

「わ、わたし、は、ぁ…し、深海、凄、艦で…」

「んなこと気にするなや!」

 

提督は優しさ故の叱咤で、黒を説得する。しかし…

 

黒は、傍らにいた白を抱き寄せ、なおも拒否した。

 

「ごめん、なさい…でも、あなたたち優しい、から。迷惑かけたくない…から。」

「オマエ…」

「それに…私たちは、二人で、ひ、とり、だから…」

「…」

「…この子を、お、いて、いけなぃ…。」

 

 

ハッとする一同…決意は本物だった。

 

 

「ほうかよ」

 

提督は、帽子を深くかぶり、それ以上何も言わなかった。

他のメンバーも同様だった。

 

「……ぅ」

 

黒は、白を抱えたまま、水面に乗り出し、そのまま海に身を投げた。

 

 

 

――ネェ、ホントウニイイノ?

ムリシナイデ、イインダヨ?

…イキタカッタンデショ、イッショニ?

ワタシハ、モウムリダケド

アナタダケデモ、イインダヨ?

ワタシノコトハ、キニシナイデ…ネ?

 

 

 

暖かな光に身を包まれ、少女二人は、水底へ落下していく。

ふと、一人の少女は夢を見ていた。

 

提督の周りで朗らかに笑う艦娘たち。

その中に自分もいる。

笑って、泣いて、怒って、楽しんで。

そんな優しい光の中で、日常を過ごすのだ…。

それは、ああ、それはどんなに素敵だろうか―。

 

暗闇に沈む中、二人の放った光は、一層に輝きを増した。

それは、少女の「願い」であったのか、はたまた「勇気」であるのか…。

誰も知る由もない。が、少女の「再生」は確かに果たされた―。




ー宿毛泊地メモ(part5)

〇離島凄鬼
呼称:離島
特徴:閃光の灯った目・黒い衣装

主要国家を襲っていた深海棲艦部隊の残党の一人。
大本の「姫」が撃沈、消失したことで、深海棲艦群は散り散りになった。
彼女は失墜した深海の「憎しみ」を取り戻すため、行動しているモノの一人。
人間に肩入れする、或いは感化されつつあるモノでも容赦なく始末しようとする。

※エピローグまで、今しばらくお待ちを…。
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