Fate/ture L   作:麻婆ピザ

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キャスター 夢見

 同じ顔が並んでいた。

 場所は、どこだかわからない。広くて暗い場所だ。ただ、目の前にたくさんの男がいる、ということだけはわかった。

 浅黒い肌の端整な顔立ちをした男。まっくろな髪は腰まで届くほど長く、引き締まった体をしていた。上半身は裸だ。ゆったりとしたズボンを履いている。目を瞑っており、ピクリとも動かない。寝ているよう、というよりは死んでいるように見えた。彼らは規則正しく横一列でズラリと立ち並んでいる。まるで、商品をよく見せるために陳列しているかのようだ。

 同じ顔の男たちを見定めるように『私』の視界は揺れ動いていた。やがて一番手前の男に『私』の視線は集中し出した。ジッと顔を見つめる。そういえば、どこかで見たような気がする顔つきだった。

 ふいに、『私』の視界から手が伸びてきた。自分の右手が相手の肩に触れているようだ。『私』にはそんな意識はこれっぽっちもないというのに。

 囁き声が聞こえてきた。うまく聞き取れないが、歌っているかのような響きに少し心地よさを覚えた。そして、右手が柔らかな光を放ち始めた。光は相手の体に伝わっていき、徐々に全身へと行き渡る。囁き声が途絶えると同時に発光も収まった。

 男の目がゆっくりと開かれ、唇が動いた。何か言葉を交わしているようだ。確実に日本語ではない。おそらく、英語でもない。少なくとも、『私』には聞き覚えの無い言語だ。どんなことを話しているのかは分からないまま、男は納得したように頷いた。なんの迷いもなく、スタスタと歩き去っていった。その後ろ姿をひとしきり眺めてから、『私』は真逆の方向に歩き出した。部屋を出て、廊下や階段を進んでいく。しばらくして、寝室と思われる部屋へと辿り着いた。

 部屋の片隅に鏡がある。足はそこに向かう。鏡に顔が映り込んだ。

 『私』はギョッとした。鏡の中にいる人物が、さきほどまで見ていた男たちと同じ顔の男だったからだ。

 感情の見えない、虚ろな表情をしている。疲れ切っているような顔だ。彼の口がゆっくりと動いた。何かを喋っている。しかし、やっぱり言葉の意味はわからない。

 ほどなくして、唐突に彼は口を閉じた。うなだれて、目を閉じた。音も途絶えた。

 『私』は、ようやく気付いた。これは過去の記憶なのだと。

 当然のことながら『私』、七次澪の記憶ではない。

 名前も知らない、あの人。教えてくれさえしない人。まだ出会ったばかりの、人懐っこくて私をコッソリ馬鹿にする、あの人の記憶だ。

 常にニコニコ。笑顔とおしゃべりの絶えない、キャスターの記憶だ。

 

 

 ※

 

 

 むくり、と澪は上半身を起こした。

 不意な覚醒だった。だが、まだ頭は起きていない。

 変わった夢を見ていた気がする。しかしながら、内容をイマイチ思い出せない。なんとなく、悲しい内容だった気がした。

 澪は寝ぼけたまま、ボーッとしている。

 ガチャリ、と部屋のドアが開いた。キャスターが中へと入ってくる。

「おや、起きたんだね。おはよう。よく眠れたかな?」

「うん、おはよー……」

 キャスターは綺麗に畳まれた制服を澪の脇に置いた。

「ミオ、今日も学校なのだろう? 制服はここだよ」

「うん」

「そうそう、朝食を作っておいたからね。冷めないうちに食べると良い」

「うん、ありがとー……」

 澪はパジャマから制服へ、のそのそと着替え始める。

 上着を脱いでワイシャツを着た。そしてスカートを手にした時、ガバッと立ち上がる。キャスターは背中を見せて立っていた。

「ちょっと、キャスター! 勝手に私の部屋へ入らないでよ!」

「ワンテンポもツーテンポも遅いね、ミオ。でも大丈夫。君が見られたくないものは見てないから。ほら、目も瞑っているよ」

「そういう問題じゃないのー!」

 澪はキャスターの背中を押して部屋から追い出した。

 バタン、と勢いよくドアを閉めた澪は、軽いため息を吐いた。

 スタスタとベッドの方へと歩いて行く。

「そういえば、ミオにちょっと聞きたいことがあったんだ」

 ドア越しから声が聞こえた。あえて実体化して声に出しているのは、霊体化して傍にいないことを暗に示すためだ。彼女の信頼を得るためだろう。当の本人はそんなことに全く気付いていないようだったが。

「聞きたいこと?」

「君が寝ている間に、ちょっと調べものをしたんだ」

「調べもの?」

「この街には変わった事件があったみたいだね? 数年ほど前に起こった事件。未解決の事件。それも、猟奇的な事件だ」

 澪のスカートをはく手がピタリと止まった。

 彼女の表情から、珍しく色が消えた。

「あー……たぶん、わかったかも」

「知っているのかい?」

「それってアレでしょ? 若い男女のカップルだけが狙われたっていう……迷宮入り事件」

「そうそう、それだ。どれも惨い事件だったと記録されてる。その事件を私なりに追っていたら、ちょっとしたことに気付いてね。当時のことを覚えているのならば、澪からも少し聞いてみたいと思ったんだ」

「うーん、そうだなぁ……」

 澪は腕を組んで少しばかり記憶の中を探った。

 迷宮入りした事件そのものに対して、思い起こすものは特になかった。

 だが――

「あのね、関係あるかどうかは、わからないんだけどさ……」

「どんな些細なことでもいいよ。気にせず話して欲しい」

「……その、最後の迷宮入り事件って呼ばれるのが起きてからしばらくしてね、私の両親が行方不明になっちゃったんだ。関連性があるかは結局わからなくってさ。両親もまだ、見つかってないんだ。まぁ、若い男女のカップルじゃないし、たぶん関係ないよね。あははは……」

 澪は元気なく笑った。

 代わりに、キャスターから笑みが消え失せた。彼は鋭い眼差しで宙空を見つめていた。

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