さながら雷撃を思わせる槍が、光輪と激突した。
衝撃は大気を震わせたが、一瞬のできごとでしかない。槍は弾かれ、地に落ちていく。
光輪はバルバロッサを縦に引き裂いた。
二つに分かれた肉体は屋根の上を三度ほど跳ねた後、地面へと落下していく。
それを見届けたラーマはようやく緊張を解いた。
屋根へ着地すると、低速の回転となった剣が彼の手元にまで戻ってきた。
それは魔王ラーヴァナを倒すために、生まれた時からラーマが身につけていた『不滅の刃』だ。
元々は魔性の存在に対して絶大な威力を誇る矢だ。それを無理やり剣に改造したため、投擲武器としての側面が強く残ったのだろう。
――まずは一騎か。
決して楽な戦いではなかった。判断を誤れば、この勝利は得られなかった。間違いなく強敵だった。けれど、今回の闘争は楽しいと感じられた。闘いやすい相手だったことが原因かもしれない。
この先の闘いはもっと苦しくなるはずだ。単純な戦闘のみならず、策謀や罠といった搦め手もあるだろう。
この勝利に酔いしれず、気を引き締め直さねばならない。
そう決心した直後だ。
背筋が凍りついた。
不思議なことに、気配はない。
視界や音は? どれも正常だ。殺意は? 感じられない。
危険はない。脅威となる者が存在しない。
にも関わらず、ラーマはこの胸のざわめきを拭えない。嫌な予感がする。
――来る。
ラーマは咄嗟に右方向へ飛んだ。気のせいであれば、それでよし。無意味な行動であったとしても、恥じることはない。自らの直感を信じた。
己が居た位置を見遣る。するとそこには、一本の槍が空を切っていた。
そう。フリードリヒ・バルバロッサが、槍を突いていたのだ。
混乱する頭が状況を理解しようとするよりも早く、体が動いた。
相手に向けて剣を一閃。されど、刃は虚しく空を裂いた。
「やはり、難しいか」
抑揚のない声は後ろから届いた。バルバロッサはラーマの後方に移動していたのだ。感情のない瞳でこちらを見ていた。
ラーマは振り返り、構える。冷たい汗が伝うのを感じ取った。
距離は五メートルほどだろう。互いの武器が届く位置だ。
沈黙が続いた。空気が張り詰める。
「悪いが目的は済んだ。さらばだ、コサラの王よ」
それだけを言い残して、バルバロッサは去っていった。
あまりにもあっさりと引いてしまった。そのことに、ラーマは呆気に取られていた。
すでに気配がない。探したところで無駄だとラーマは感じた。
いくつもの疑問だけが残った。
最後の背後からの一撃。これは明らかに質が違う。幾合も剣と槍を重ねたがゆえに、はっきりとわかった。まるで別人だ。
正面突破を好む、威風堂々とした男。
隙あらば背後からでも襲う、影のような男。
姿は同じでも、果たして本当に同じ人物なのか?
そして何よりも、バルバロッサが復活したことだ。彼は、たしかに両断されたはずだ。サーヴァントといえど、修復が困難なほどに。一体どういうカラクリがあるのか? なにか見落とした点はないのか?
情報が少ない。足りない。いくら考えても、疑問は増え続けるばかりだった。
ふと、魔力消費が激しかったことに思い至った。魔力はマスターから提供されているため、使い過ぎれば命を削りかねない。心配になったラーマはマスターの元へと駆ける。
ついでに、勢い余って家まで両断したことを、どのように説明するか。謝罪の方法も含めて、ラーマは考えを巡らせていた。