灰と執行者のグリムガル 作:黒鍵って最強じゃね?
早朝、北の門前にハルヒロ達は集まっていた。本来ならすぐにでもゴブリンを狩りに行くのだが、昨夜マナトに北の門前で待つように言われたので、従ったのだ。
集まってからすぐに、ランタは騒ぎ始めた。ジッとしていられないのだろうか。ハルヒロは力づくで黙らせたくなるが、ランタを宥めているモグゾーに免じて許すことにする。
「うーん、遅いなぁ」
マナトの独り言が聞こえる。誰か待っているのだろう。恐らく俺達がここにいることに関係しているんだろう。
「既に来ているが?」
「うわひゃあっ!」
突然背後から声がしたことに驚いて変な声を出してしまった。恥ずかしい。ランタの奴なんか爆笑してやがる。
てか今の声、聞き覚えがある。
「遅いぞアンリ」
「お前達が来るよりも早く俺はここにいたが?」
マジか。全然気付けなかった。師匠と同じ位気配隠すのが上手い。ていうか、待ち合わせていたのってアンリだったのかよ。
「どうしてコイツがここにいるんだよ!?」
相変わらずバカランタはうるさい。言ってることとは裏腹に足が少し震えてる。まぁ、レンジとのアレを見ればな・・・。
アンリは不思議そうにランタを見ている。状況を理解したのか、ため息までついてる。
「あまりにもお前達が不憫だったからな。マナトに頼まれて、少し戦闘を教えることにした」
これはありがたい事なのか?アンリは俺達と同期で、まだグリムガルに来てそんなに経ってないのに、酒場で噂になるほど有名だ。
その噂の一つに、一度見た技術を取り入れるっていう、ギルドに喧嘩を売るような噂を耳にしたことがある。
その話だけでも、アンリの実力が俺達より、下手すれば俺たちよりも古参の義勇兵よりも上となるだろう。
「余計なお世話なんだよ!このランタ様にそんな———ッ!?」
ランタのバカがアンリに掴みかかろうとする。
次の瞬間、音が置き去りにされた。
「どうした?口の割にはこの程度か?」
ランタの首元にアンリの手刀が添えられている。確かに俺はアンリを見ていた。だけど俺がアンリのことを認識できたのは動き出した時までだ。ランタに手刀を添えた所を見ることが出来なかった。
単純だけど、速い。
ランタが地面にへたり込む。
大分怖かったんだろう。俺もあんなことされたら立っていられなくなる。
「分かるか?これは『暗黒騎士』が使う〝射出系〟だ」
噂は本当らしい。マナトやシホルから聞いた話じゃ、アンリは『魔法使い』ギルドに入ってるけど、今使ったのはランタも使う〝射出系〟だ。しかもランタ以上に速い。
それに加えて音もなかった。恐らく『盗賊』の技術だろう。
ユメなんて「ほぇ〜」って言ってる。
「ここまで、とはいかなくても最低限までは上達してもらうぞ」
アンリの目は・・・本気だった。
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世界が回る。いや、回ってるのは俺か。
アンリが来てから俺達は広い森の中に移動した。ゴブリンがいたけど、アンリが苦もなく倒してた。
始まった訓練はアンリ対俺達。
アンリは素手で俺達は普段使ってる武器。幾ら何でも無茶だと思ったが、俺達は一方的にやられていた。
今だって背後から斬り掛かろうとしたら、すぐに投げ飛ばされた。ランタの〝射出系〟は同じ〝射出系〟で避けられる、それも方向転換までしてくる〝射出系〟で通じない。
ユメの弓は当たらず、布が巻かれた鉈で攻めるも、足を引っ掛けられて転ばされる。
モグゾーの〝どうも斬り〟———〝憤怒の一撃〟も軽くよけられてモグゾーの大剣を手から落とす。
シホルの魔法も完全に死角からだったのに、瞬時に避けた。
やっぱり今の俺たちと比べると、明らかに強い。それを強く感じる。素人目だけど分かる。アンリの動きには死角がない。常に死角に対応出来るように動いてるって感じがする。
「はっ!」
マナトが棒でアンリに攻める。アンリはどれも上体を逸らしたりなどスレスレで避け続ける。
マナトの攻撃の最中、アンリがマナトへ向けて右腕を伸ばす。マナトの棒は地面に着いている。これは明らかな隙だろう。
「〝射出系〟おおおお!」
マナトに手が届く寸前、ランタが高速でアンリに剣を突き刺そうとする。布も巻いていない、手加減なしの一撃。だがやはりアンリには届かず空を切る。
ランタを対処したアンリが突如後ろ回し蹴りで何かを蹴り潰す。その何かはユメが射った矢。偶然か、ユメの矢はランタが攻撃する丁度いいタイミングで放たれていた。
矢は全て蹴り落とされ、砕かれて地面に落ちる。
アンリに向かって走り込んでいるモグゾーの姿が見える。こうしてはいられない。俺も何かしなければ。
音を消しながらアンリに近づく。少しバレてもいいから、なるべく速く、速く、いつも以上に速く動く。
「どうもおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
モグゾーの雄叫び。振りかぶられた大剣を、アンリはやはり余裕の表情で避ける。
あぁ、そういえばアンリは知らなかったな。
アイツは、うるさいしウザイしバカだしそしてなにより———
「〝射出系〟おおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
ランタは、諦めが悪い。
ランタの〝射出系〟からの突き。〝射出系〟の速度は他の『暗黒騎士』よりも遅い。それに加えて剣もまだ上手くない。だけど、ランタは持ち前の馬鹿みたいな体力で、動き続ける。
それは『暗黒騎士』の特性の動き続けるという、戦闘法に、合っているもの。
「どうもおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」
更に後ろからモグゾーの〝どうも斬り〟。アンリはモグゾーの剣を避けるだけで、転ばせたりはしなかった。前後からの突きと大剣。横には俺やマナトがいる。
アンリは———
「少しは良くなったな。まぁ、及第点だがいいだろう」
笑っていた。笑うと言っていいのかわからないけど、普段無表情なアンリからしてみれば、アレは笑っている。
ランタの突きを体をずらして避けて、右手で頭を掴む。背後から来るモグゾーの大剣を、避けづに逆にモグゾーの方へと〝射出系〟を使い、移動する。ランタは引き摺られる。
左手の掌をモグゾーの腹部へと当てる。ただ当てるだけじゃない。何かした。でも分からない。
次の瞬間、モグゾーが大剣を落として腹部を抑えながら、前のめりに倒れ込んだ。
「ぶばァっ!」
用済みになったのか、アンリは持っていたランタをモグゾーの隣に投げる。潰れたような声が聞こえるが、ランタの事だから大丈夫だろう。
「次は?」
アンリがこっちを見る。ヤベェ、足が竦む。膝が笑いそうだ。
持っている短剣を握る。俺の短剣も布で巻かれていない。刺されば下手したら死ぬ。だけどそんなこと言っていられない。俺達がやっているのは訓練じゃなくて、
「フッ!」
命のやり取りなんだから。
正面戦闘は苦手だけど、やるしかない。短剣を逆手に持って襲う。狙いはアンリの右の脇腹。
「ヒュッ」
アンリは右手で短剣を弾く。アンリの奴、刃が怖くないのかよ。少なくとも俺にはできない。
無理矢理体勢を立て直して今度は肩を狙おうとするが、アンリの拳が迫ってる。
「うおっ!?」
必死になってアンリの腕に絡みつく。ギルドにいた時に見たものを見様見真似でやってみたけど、運が良かったのか案外出来た。
「これは予想外だな」
アンリの目が少し丸くなってる。アンリは当たるか避けるかだと思っていたんだと思うけど、俺が腕に絡みついたのが意外だったらしい。偶然出来ただけなんだけど。
「うぅ・・・っ!」
飛び付いた勢いを利用して体を捻る。上半身を回し、腰に最大の力を込める。足も外れないようにしっかりと押し付ける。
「え・・・?ガバァッ!」
背中に衝撃。突然過ぎてマトモに声が出なかった。何が起こったか、頭で理解出来ない。
アンリはしゃがんでいる。アンリは組まれている片腕を地面に押し付けるような体勢になっている。
そうか。
アンリは俺が体を回していると同時に、掴まれた腕を自分の腕ごと叩きつけたのか。それも俺が思いっきり痛がるほどに。勿論アンリも無事じゃないと思うけど、顔は痛がっている様を見せていない。
視界がくらむ。背中と一緒に後頭部も少しだけ打ったらしい。クソォ。アレは行けると思ったのによぉ。やっぱり、アンリは別格に・・・強い・・・。
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ハルヒロが倒れたのを確認するとアンリは自分の右手、ハルヒロの短剣を弾いた場所を見る。そこにはうっすらと引っ掻き傷のようなものが付けられてあった。
(あの程度の武器で傷?それに最後の絡み技。偶然としては出来すぎている)
アンリは自分の力量も、相手の力量も間違わないで判断できる。実力の伴っている義勇兵は大体が同じことが出来る。
アンリの手は戦闘になると何故か『鋼のように固くなる』。それもそこらの武器なら軽く弾き返せる位には。使い手が変われば、武器の価値も変わる。ハルヒロの武器ではアンリの手を傷つけるどころか、逆に武器を折られるのが関の山の筈だった。
だが実際にはアンリの手に引っ掻き傷とはいえ、それなりの傷を付けた。
そして最後の腕への絡み付き。
アレはアンリの意識を完全についたものだった。人の反応しにくい場所から仕掛け、人の意識の波長の沈む時に的確に攻めている。そして絡み付きの強さ。本来ならハルヒロを腕ごと叩きつけないで解けただろう。だがアンリは絡まれた瞬間、解けないことを理解したため、苦肉の策で叩きつけた。
(グリムガルに来る前に何かやっていたか・・・それとも天性の才能か・・・)
ハルヒロは確実に最強の盗賊になれる。過大評価でも、過小評価でもない、アンリの素の気持ちだった。他の者達にも才能がある。まだ開花していない遅咲きの花だが、彼らには間違いなく才能がある。
シホルの後方支援のタイミング、マナトの精神的支柱、ランタの無尽蔵の体力、モグゾーの戦闘勘。どれをとってもまだ未熟だが、突出している才能。
一流の義勇兵は全てに特化しているのではなく、一芸を極めている者。彼ら全員にはもれなくそれが備わっている。それだけでアンリは高揚してしまう。楽しみだ、彼らを強くしたい。このオルタナで、世界で通用するところまで。
「ククッ、それは俺らしくないな」
無意識に感じたことを自嘲する。その時一瞬、アンリの黒い瞳に光が宿ったように見えた。