カンピオーネ~天下一の傾奇者~   作:カラミナト

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六話

現在、帝の住まう内裏は南北朝時代つまりは14世紀の半ば頃から北朝側の代理として定着し、明徳3年(1392年)の南北朝の合一以降はそこが正式に皇居となって今に至る。

この場所は元は平安の世に内裏が火災で焼失するなどといった臨時の際に設けられた里内裏の一つである土御門東洞院殿の地であった。

 

この地に移された内裏はしかし応仁の乱の際の戦火に公家の屋敷のある上京ごと燃やされてしまっており、現在ある内裏はその後の復興によって再び建設されたものである。

 

このように、帝の住まう都は大和の都から京の都へ。京の都においても平安京の内裏から里内裏である土御門東洞院殿跡地へところころと変わっていっており、最近でも戦火に焼かれた内裏は様相を変えて生まれ変わった。

元々帝の日常の住まいとして建てられていた清涼殿から独立して新たに御常御殿という帝の日常の住まいが建てられた。つまり、帝の寝所が西方にあった清涼殿から東方にある御常御殿へと移されたわけで、同じく剣璽の間もそこの安置されていた八尺瓊勾玉と一緒に御常御殿の剣璽の間へと移されたのである。

 

この国の天孫の系譜に連なる王である帝の住まう内裏は現在、スサノオが篠を通して言ったことと、つい先ほどこの京へと戻ってきた篠の情報により天竺の呪術師の狙いが八尺瓊勾玉であり、さらにそれが奪われるとこの京の都にほど近い大和にてまつろわぬ神が顕現しかねないということにより、非常に厳重なそれもいくらラークシャサの精鋭の部下だろうと十人足らずで突破する音など不可能な強力な結界が張られている。

 

この結界はスサノオから篠を通して話を聞かされたひと月ほど前の長期間の間にしっかりと練られた結界である。さらに、つい最近だが一流の呪術師たちによる強化もされているのだ。

更に、もしこの結界を乗り越えたのだとしても日ノ本中のというよりこの国の中心地にいる帝に仕える一流の呪術師たちが勢ぞろいして警備を行っている。

今のこの内裏に最近盛況で知られる三好軍に何万もの兵で攻められようともこの内裏に入ることさえままならず、それに加え防御することもできずに一流の呪術師たちの呪術によって軍は蹂躙されるであろう。

 

しかし、彼らは、天竺の呪術師たちは最悪の場合一国家の宮廷に忍び込むことを考えて準備がなされていたのだ。

つまり、今の日ノ本の国の完全防御というこの状況は望むところであった。

 

されど、真っ向から向かっていくのではない。

忍び込むのだ。

結界を破ってしまえば気付かれるであろう。

ならば、気付かれぬように最短距離で向かってしまえばいい。

 

彼らはラークシャサより四人それぞれにかの王の権能で作り出された魔具を渡されていたのだ。

 

その名も”闇の外套”。

その名の通り闇色の外套である。

何とも簡単な名前、そしてなんとも単純な色と様相の外套ではあるが、その効果は極度に隠密専門の魔具なのだ。

その効果は単純にそれを着た者を闇に同化させる、というものだ。

 

極端に言ってしまえばその者を人という物質から闇という非物質的な存在へと変換させる神の権能と言えるものだ。

とはいえ、外套に付与されたラークシャサのわずかな呪力と人の身という限度のある呪力では、その外套の周囲を闇と化す程度でしかも短時間での使用しかできないし、使用後の疲労感は並のものではない。

それに、その身を闇と化すことは出来るということから日の出ている昼間では隠密になど使用できる代物ではない。

 

しかし、それでも夜間にその身を外套でグルリと巻けば周囲からその者は一切見えなくなる。さらに、闇であるため対物の結界障壁は効きはしないし、対呪術の結界障壁であってもこの技は呪術というよりは権能であって多少の抵抗はあれども障壁にはなりえない。

これだけの能力があり、目的地を調べてさえいれば短時間で目標を達成することが出来るだろう。

 

作戦は執行する者が二人で結界突破後は一気に清涼殿へと向かい神具を奪取し、対呪術の結界が破られたと相手が気付く前に内裏から離脱する。

 

これで、今回の神具奪取作戦は成功したも同然だった。

 

されど、念には念をと考え残りのサルマンを含めた二人は今回の作戦において捜索の任に当たっていたバラモン教徒の二人と共に残ることとなった。

もしも清涼殿含め西側から八尺瓊勾玉は見つからなかったら赤色、帝の寝屋すらも見つからなかったら白色の狼煙を上げるように言ってる。

 

もし赤なら二人は撤退し、残りの四人も即時撤退。そして、白の狼煙が上がったら一人がサルマンではないもう一人が帝の寝屋を捜索し、神具を奪取する。

 

これならば、短時間のみの行動という制限でもどうにか全員戻れるだろう。

 

しかし、”闇の外套”の持つ全員が捜索に当たらないのには理由がある。

 

今回の神具奪取の作戦には不安な点が多くある。

主に、一つが異国でこの作戦を行うこと。

これは、いくらラークシャサより権能で生み出された魔具を持っていようとも不安に思うなというのには無理があった。

 

そしてもう一つがここにいるバラモン教徒の二人だ。

今回の神具奪還の作戦が執行されようとしたのもラークシャサが熱狂的なごく一部のバラモン教徒の村に降りた神託の噂を聞き、神具の収集が趣味であるかの王がその噂に興味を持ったことに始まる。

それによって、神託を受けたそのバラモン教徒にとってこの国へと渡るための船を手に入れることはできたがその国へと向かう理由は彼らが信奉する神に八尺瓊勾玉を納め奉ることであって決して自分勝手なラークシャサに神具を届けるためではないのだ。

それを理解して態々彼らに神具を捜索する役を与えることで緩衝材として、そして、ラークシャサは態々権能まで使って自身の部下たちを強化したのだろう。

 

しかし、個人の強化をしてくださるよりも人数を増やして欲しかったと、サルマンは思う。

 

何か内裏にて不測の事態が起こった際にこちらのバラモン教の狂信者二人に対する防御能力が薄くなってしまうのだ。

 

しかし、事態はサルマンの願う通りにはいかない。

 

天竺の呪術師たちの隊長格ともいえるサルマンは平安の時代から内裏内部のその様相が変わっていないことは調べがついていた。故に、帝の住まう御殿は清涼殿であったし、そこに剣璽の間があり八尺瓊勾玉があるはずだった。

しかし、西の方にある清涼殿には帝の寝屋は存在せず、つまり剣璽の間もそこにある八尺瓊勾玉もありはしなかった。

 

計画が狂った。

ここ清涼殿に帝の寝屋はあるはずだったのだ。しかし、見つけられない。

 

二人は手分けをして隠密に長けた“闇の外套”を存分に活用して内裏西の建物群を調べあげる。

 

しかし、帝の寝屋と八尺瓊勾玉もそこにはなかった。

 

時間切れだ。

二人は白色の狼煙を上げて先程から騒がしくなってきた内裏内から急いで離脱することとなった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

ラークシャサの部下のうちの二人が内裏内での八尺瓊勾玉の捜索を始めて随分と経った。

 

もしかしたら不測の事態が起こったのかもしれない。内裏内は結界を突破されたことに気が付いたのか随分と騒がしい。

 

ラークシャサの部下である今回の件を任されたサルマンは随分と用心深い。神託を受けし我らバラモン教徒が八尺瓊勾玉を奪い、それをもってかの神のもとへと向かうにはラークシャサのもとへと神具を届けるために来たかの王の部下四人を相手に老師と二人で神具を奪う必要がある。

 

しかし、サルマンは我らを見張るために二人を残しあとの二人で内裏内での神具の捜索を行うという案を出した。

 

普通ならば一国の宮廷に忍び込んでその国の秘宝ともいえるものを奪い取ろうというのだ、念には念を入れて四人全員で一緒に捜索に当たった方がいいだろう。

それでもサルマンはこの国でも一流の呪術師連中相手に神具事態を見つけ奪い取ることよりも仲間割れによってラークシャサに神具を届けられなくなるという心配をした。

 

既に八尺瓊勾玉の所在にあたりを付けている以上はラークシャサの権能によって強化された彼らにとってこの国の王の秘宝を奪い取ることなど造作もないと予想したのだろう。

 

これにはやられた。

このままでは計算高いサルマンたちの手に八尺瓊勾玉が渡り我らの望みを叶えることはできないだろう。

もしも、この国の呪術師たちの攻勢が強かった場合に八尺瓊勾玉の奪取が出来なくなった時のことも考えている。

 

しかし、サルマンは帝の寝屋の場所が違っていることを知らなかった。

 

内裏の方に白い煙が立ち上った。

緊急時のための灯りの照らされた内裏内に分かりやすく白い狼煙が。

 

白い狼煙の意味は、

帝の寝屋も八尺瓊勾玉さえも西方にはなかった。

そう言う意味だ。

 

「ど、どういうことだ。帝の寝屋は内裏西方の清涼殿ではなかったのか!」

 

サルマンが叫ぶ。

今回の神具奪取の作戦は失敗か。それとも、

 

「・・・仕方ない。

急いで内裏東方の特に警備の堅い屋敷に行って帝の寝屋を探し出せ。出来ると思えば神具を取ってきてすぐにここへ戻ってこい。

それが出来ないならば今日は退散する。

取り敢えずは帝の寝屋だけでも探り出せ。」

 

サルマンは残る自身の部下にそう言った。

言われた部下はすぐに”闇の外套”を纏ってこちらからは見えなくなった。

 

・・・これは、我らに与えられた最大の機会だ。

もしも、これで新たに神具の捜索に向かった彼が神具を奪取しここまで戻ってきたならばそれは我らにとって最高の機会となる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

サルマンの部下が簡素な桐箱をもってサルマンとバラモン教狂信者である老師ラシャーンとアシシュの元へと戻ってくる。

どうやら神具の奪取に成功したようだ。

 

随分と速かったのは内裏内に何者かが侵入したことが分かったためにすぐさま帝の寝屋である御常御殿へと一流の呪術師が集まり帝の警護を行っていたためだ。

そのため、サルマンの部下は人の移動とその警護する人数からすぐに帝の寝屋を探り当てた。

後は集まった彼ら一流の呪術師連中の目を盗んで御常御殿へと入ることだが、これはラークシャサの権能で作り出された”闇の外套”によってなんなく成功した。

この警護に回った呪術師の中に神殺しの権能でさえも見透かす眼を持つものと、強力な第六感を持つものが存在しえなかったからだ。

 

故に、その後も簡単だった。

遂にはただならぬ存在感を放つもしかし簡素な桐箱に収められていた神具”八尺瓊勾玉”を発見した。

近くには帝と思われる他のものとは異なる衣装を身に着けた壮年の男性が控えていたが、”闇の外套”に身を包む天竺の呪術師を見つけること能わずみすみす桐箱ごと八尺瓊勾玉を奪われたのだ。

 

「それが神具”八尺瓊勾玉”か。よくやった。」

 

ラークシャサの求める神具を手に入れたというのにサルマンの表情は硬かった。

サルマンの素直に喜べる状況になかったからだ。

 

最初に神具の捜索に当たっていた二人はいまだに戻ってはいない。

それに、サルマンの消費呪力は一切ないものの現在ここにいるのは八尺瓊勾玉を狙うバラモン教の通常状態の二人とサルマンと消耗したサルマンの部下の四人のみだった。

 

老師とアシシュが動き出したと同時にサルマンはサンスクリット語による護身の術をサルマンとその部下二人を覆うように老師とアシシュの間に守護障壁を出現させた。

そのすぐ後に、その障壁はカン、カンという鈍い音を立てる。

老師の投げた小型の投擲武器チャクラムがサルマンの守護障壁に当たった音だ。

 

サルマンがバラモン教徒二人に振り向き言葉を発そうとした時、肉を貫く嫌な音を聞き自身の部下の方を振り向くと心臓を一突きで貫かれたサルマンの部下がそこにいた。

 

「なっ!」

 

サルマンはいつの間にか隣まで来てあっという間に自身の部下を心臓の一突きで仕留めた右手にジャマダハルをはめたアシシュを警戒してすぐさまアシシュとの間にも守護障壁を張る。

 

しかし、アシシュはサルマンの部下が死んだことで転がり落ちた八尺瓊勾玉の入った桐箱を中身をしっかりと確認して、それを持ってその場を離れ老師の元へと戻った。

 

サルマンは失敗した。

遠距離からの攻撃を仕掛けてくる老師に対してサルマンが警戒しているうちに近接戦の得意なアシシュがすでに”闇の外套”を使用して弱っていたサルマンの部下を一息で殺して彼が持っていた八尺瓊勾玉を、二人が欲していた神具を奪い取ったのだ。

これで一対二。

数の不利がある。

しかし、

 

「やはり、隙を見せれば神具を奪いに来たか。しかし、こちらにはラークシャサより賜りし”闇の外套”がある。数の不利のみでは俺には敵うまい。」

 

サルマンには彼らの持たない魔具を持っている時点で一歩リードしているのだ。

故にこそサルマンは部下に再度の神具の捜索を許した。

本当ならば最初の神具捜索に当たった二人が呪力がないとしてもいたならば大丈夫だろうと考えていた。

数の利と力の利。二つをもってして事に当たれば大丈夫だと考えていただけに現在一人のみで対処しなければならないのは少しきついがそれでも自身には力の利があるとサルマンは考えていた。

 

「アシシュよ、行け。」

 

アシシュが反論しようとするも老師はアシシュが反論するを良しとはしなかった。

 

「お主も分かっていよう。ワシにはあれがあることを。」

 

それを聞いたアシシュは頷き、動き出した。

 

”闇の外套”を纏ったサルマンはアシシュを逃がすまいとしてその身を闇に同化して素早く後ろを取ろうとした。

限定的とはいえ闇と化したサルマンを止めることなど老師にはできようはずもなかった。

 

しかし、サルマンは次の瞬間に強烈な痛みを感じる。

それに怯み、更にこの”闇の外套”を透過してサルマンの身にダメージを負わせたということ自体に非常に大きな驚きを隠せないでいた。

痛みの衝撃を受けた元である老師のほうを見れば先程まで持っていなかったはずの強力な神力を放つ金色に輝くヴァジュラを持っていた。

 

「なるほど。そんなものを隠し持っていたとは。

・・・これはそう簡単にはいきそうにないな。」

 

老師は神具を持っていた。

それもこの”闇の外套”を透過してサルマン自身にダメージを与えるほどの神具を。

恐らくは大地母神系統の”闇”の権能が天空の征服神に連なる雷系統の神具におし負けたためであろう。

これはサルマンにとっては非常に不利だ。

 

しかし、不利なのは老師も同じだ。

先程の一撃の身でヴァジュラを持つ左手が焼かれている。

神具はやはり人の手に負えるものでゃないのだ。

 

それでも、やはりサルマンが不利なのは変わらないであろう。

後は、サルマンに分がある戦闘経験のみで勝負するしかない。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

天竺の呪術師とこの国の神宝”八尺瓊勾玉”、そしてまつろわぬ神の関わるこの一件に慶次は関わることが出来なかった。

 

理由は簡単。

見知らぬ庶民が内裏内に入ること能わず。

 

桔梗の言っていた通り慶次はそのただの庶民であるという理由で内裏での警護を任されることはなかった。

 

慶次と篠が京の都に着いてから翌日の今日、今回の件を担当する京の都の呪術に関しての中心である清秋院、沙耶宮、九法塚、連城の四家と、今回は皇室の神宝“八尺瓊勾玉”が関わって来るということで今代の関白である近衛前嗣公も加わっての対談が行われた。

 

近衛篠が前田慶次を伴って京へと帰って来てから天竺の呪術師たちが“八尺瓊勾玉”を狙っているということが知れたのである。

さらに、此度の御老公のまつろわぬ神の話と天竺の呪術師たちに関わりがあるということもあって一度話をする必要があったのだ。

 

それ故そこには、政治的兼ね合いもあったために篠の兄でもある前嗣公も話に加わったのである。

 

さて、そこでは新たに一流の呪術師を加えて内裏内にて帝の警護と“八尺瓊勾玉”の守護を強化する必要があるという話となった。

 

そこで、その話し合いに参加していた篠は半家だが一流の呪術師である前田桔梗の養子である前田慶次に内裏内での警護を出来るようにして欲しいということになった。

篠に伴って控えていた前田利保は慶次の強さをそして、前田家の養子であることを証明した。

 

それに加えて篠は慶次が御老公が目をかけるほどの実力者であることを伝えた。

 

しかし、それでも出自の明らかでない慶次を内裏い入れることは敵わなかった。

 

この身分制度の明らかな時代、公家は前田家の養子であろうとも帝に仕えると証明したわけでもない無位無冠の慶次をいくら御老公が認めた有力な呪術師とは言え内裏に入れることは許されなかったのだ。

 

しかし、それほどの実力者であるというのならばと内裏の外での警護とならばとそれは許されたのだが。

 

慶次が篠から内裏に入ることを許されなかったと聞いた慶次は日も暮れた今、警護をするでもなく先行きを知るために京の前田邸にいた。

 

内裏に入れなかった慶次はしかし、この状況を望んでいたのかもしれない。

 

慶次自身が積極的に天竺の呪術師たちを邪魔する事となればそれでこの件は片付いたであろう。

しかし、慶次が深く関われなくなった今、慶次は先がわからなくなった。

 

ムガル帝国から来た呪術師たちは八尺瓊勾玉を奪えるだろうか。奪ったとして仲間割れは起きないだろうか。全ての始まりであるまつろわぬ神は顕現するだろうか。

 

慶次は興味のあること面白いことを求め続ける快楽主義者だ。

それも人の営みによって産み出されたものは非常に興味深いものであることを知っている。

 

今回のこともそうだ。

 

天竺の呪術師たちが、日ノ本の呪術師たちが、まつろわぬ神が産み出す結果を楽しみにしている。

 

天竺の呪術師たちが“八尺瓊勾玉”を得られなくてもそれでいい。まつろわぬ神が顕現することになってもそれでいい。

 

慶次自身が関わらなければいいのだ。

その結果を知れたならば、その結果としてまつろわぬ神が顕現してもその代償として喜んで民の代表としてまつろわぬ神と対峙しよう。

 

慶次が布団に横になって寝ていた時、急に慶次が目を覚ました。

それと同時に耳をすませば大雨が降っているのが分かる。

まるで滝が上から降ってくるかのようなものすごい水量の雨で叩きつけられることで屋根のある上からの音が凄まじい。

 

それと同時にこの部屋の近くの廊下からバタバタと大きな足音を立ててやってくるものがいる。

その者はすぐに慶次の寝ていた部屋の襖を開けて入ってきた。

あけ放たれた廊下には篠が千早も着た巫女装束に腰に佩かれた天叢雲剣という完全武装でそこに立っていた。

慶次が内裏に入れないということなり、彼女は不測の事態に備えて羅刹王である慶次の近くにいることを選んだのだ。

 

「慶次殿。異国の呪術師が内裏に侵入し、更には呪術師の警備を搔い潜って八尺瓊勾玉でさえも奪われました!」

 

いつもの篠らしくなく彼女は非常に困った顔をしていた。

 

なるほど。彼らは厳重な警備を掻い潜って神具を奪取せしめたか。

 

「先に内裏に侵入した二人は既に消耗している状態で捕えました。そして、今八尺瓊勾玉を持った者が一人大和へ向かっていると。」

 

そうか。そのまま異国へと帰らなかったとなると仲間割れが起きて神託を受けた者たちが神具を奪い取ったか。

面白くなってきた。

 

それに、

 

「それに、大和の方角にまつろわぬ神が顕現しました!」

 

そう。さっきから慶次の身はそのまつろわぬ神の権顕現によって心は高ぶり、目も冴えて、今調子がいいのがその身で感じ取ることが出来る。

 

「場所は?」

 

「向かってくる神具の存在をまつろわぬ神が・・・え?」

 

篠はようやく気付いた。

慶次は笑っていた。

まるで無垢な少年が今から開ける宝箱の中身を想像する時のように。

 

「だからまつろわぬ神が顕現した場所は何処だと聞いている。すでに分かっているのではないか?」

 

恐らくはこの状況を望んでいたのだ。

まつろわぬ神が顕現するというこの状況を。

だからこの件に積極的に関わろうとして、警護などには消極的だったのだ。

 

「・・・慶次殿は、最初からこの状況を望んで。」

 

だから聞いた。慶次の、羅刹王を知るために

 

「いや、俺は彼らが行きつく結果を知りたかったのだ。その結果が俺にとって最も面白い結果となったというだけだ。」

 

その時篠は羅刹王という存在を知った。

確かに神を殺しただけの存在ではない。元から神を殺すだけの要素はあったのだ。

 

彼は、人並み外れた尋常でないほどに大きな好奇心の塊であった。

 

「それで、場所は?」

 

「・・・橿原の都の東、宇太水分神社です。」

 

慶次は篠を伴ってすぐさま馬に乗って京の都より南、大和へと向かった。

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