べるクレスのダンジョン無双單   作:慧春

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邂逅

 

 

 オラリオのとある広場の噴水の近く――そこには、腰を掛ける巨漢の男が居た。

 男は、強面というには余りにもゴツすぎる顔で落胆の溜め息を吐き出しながら、途方にくれる――

 

 道行くヒューマンや亜人(デミヒューマン)達は、その逞し過ぎる2M (メドル)を優に越える巨体と精悍過ぎる巌の如き顔つきをした少年(・・・・・)を二度見していた。

 なお、彼の無意識に放つ『英雄的なオーラ』を多少なりとも感じ取った冒険者達は、彼を恐れるようにそそくさと立ち去っていく。

 

 

 彼は『ベル・クラネル』――他の多くの冒険者を志す者達と同様に冒険とロマンを求めてオラリオへとやって来た14才の未熟で繊細な年頃の青少年であった。

 

 

 

「まいったな………まさか、ファミリアに登録しなければダンジョンに入れないとは予想外だ………」

 

 困り果てたかのようなその呟きは、オラリオの空気に溶け込むように消えていった――彼の諦念の籠った声はどこか悲しげであった。  

 それというのも、彼は既に20を越えるファミリアを回ったが、どこのファミリアからも受け入れてもらえなかったからである。

 

 

 オラリオには様々な神々が居着いており、当然ながらその主神達の意向によってそれぞれのファミリアの特色も変わってくる。

 その種類は大変多岐にわたり、ダンジョンに潜り、探求しながら攻略していく探索系のファミリアから、物の売買を取り扱う商業系に、何かを作ることを主眼においた制作系ファミリアまで――あらゆるファミリアがここ、オラリオには存在しているのだ。

 

 その中でもベルが選んだのは当然ながら、ダンジョンに潜ること、或いはモンスターと戦うことを専門とする探索系のファミリアだ。 

 しかし、ベルはギルドで所在の教えてもらった探索系ファミリアの本拠地(ホーム)を回り、入団を希望するも断られ続けている。

 

 

 オラリオに夢を抱きながら来た田舎者に対しての対応としては普通だ。

 何故ならば、探索系のファミリアは常に戦力を求めている――それを考えるならば、田舎から来た極普通の農民が魔物が大量にはこびるダンジョンで戦力になりうる可能性は低い。

 ファミリアとしても、組織に入れるのであれば、ずぶの素人を一から鍛えるよりも戦闘の経験か、或いは稀有な才能や技能を持った者を入れた方がいいに決まっている。

 

 そんな訳で、田舎で農民(ついでにモンスターを相手に無双)をしていたベルがファミリアの入団を断られることは別におかしくない……と、自分に対応した相手の言い分を素直に信じているベルは思っているようだが、実は彼の場合は少し事情が異なっていたりする。

 

 彼は――そう、怪し過ぎる(・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

 

 想像してみよう――ある日突然に、そこらの冒険者よりも遥かにヤバイ『凄味』と『剣呑なオーラ』を放つ、2M (メドル)越えの巨体を持った『自称ヒューマン』が訪ねて来て『仲間にしてくれ』と――少なくとも、彼の回ったファミリアにそれを懐に入れるだけの胆力を――いや、鋼の精神と包容力を併せ持つ人物は居なかった。

 

 というか、種族ヒューマンという、それ事態が信じられておらず、そのゴツいガタイから、ドワーフの突然変異か、厳ついなりをした精霊の一種であろうと向こう側に受け取られていた。

 そりゃあ、まぁ、ヒューマンはこの世界で最も人口が多いのだ。そんな彼らにベルが『貴方と同じ種族です』と言っても信じないものが大半である。

 

 

 それほど彼の風貌は人間離れしているのだが、その事を本人は余り認知していない。

 

 もし、対応したのが下界の者達ではなく、そのファミリアの主神が直接ベルに対応したのならば、娯楽を求める神の中には、ベルを面白がって、或いは不憫に思って、またまた彼のその圧倒的な『力』に惚れ込んで入団を認めてくれたかもしれない――しかし、運の無いことにベルが訪れたファミリアはその全てが主神が不在か、或いは手の放せない用事を抱えていたので、対応は門番か、留守を預かる者に任されていた。

 

 

 そんな訳で現在、ベルは困り果てていた――

 

(いっそ、急行突破でダンジョンに――)

 

「そこのデカイおじさん!! もしかして、何か困っていないかい?」

 

 現状が手詰まり過ぎて、不穏な考えを頭に過らせるベルに、子供のような女神の声が聞こえた――

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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