魔法戦記ガンダム ~鉄血のウィッチーズ~   作:青の細道

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戦闘描写が難しすぎて冷えピタ張りながら投稿しました。


第八話:アンドロマリウス

ベルツィレ駐屯基地ガレージにて。

淡い蒼穹の光が満ちる。カタパルトに固定された一対のストライカーユニット『メッサーシャルフBf109G-2』を中心に展開される魔方陣。動力源である魔導エンジンはうねりを上げ、ユニットの先端……円錐形のハブからは魔方陣と同じ光を放つプロペラ羽がそれぞれ三枚ずつ発現しており、それが高速で回転することにより推力を生み出す。

 

風圧で巻き上がる埃を気にも止めることなく、周囲の整備兵たちが魔導エンジンにも負けんとばかりに声を上げ、出撃の準備を最終段階まで進め滑走路までカタパルトを誘導していく。

 

「再度確認するが、今から君にはハルティ山麓にあるこの座標に俺を運んで貰うわけだが。付近ではルーッカネン少佐の部隊が未だ戦闘を継続している。安全を期すならば距離を取るべきだろうが一刻を争う、潜伏したネウロイが存在する可能性があるが、できるだけ戦闘は避けてほしい」

 

まぁそもそも俺という荷物で満足に動けないかもしれないが……と自虐的に苦笑する少年――トーマ・イヅルの作戦概要を無言で聞きながら、少女――ニッカ・エドワーディン・カタヤイネンは小さく頷く。

 

「もしもネウロイと遭遇し危険と判断した場合、即刻縄を切る。カタヤイネン曹長は離脱し安全を確保してくれ」

二人を文字通り繋ぐ一本の荒縄を持ち上げ、腰に差していたナイフを手に取りながら緊急時の処置も確認するが、僅かにニッカの表情が影を落とす。

 

彼の物言いでは、ネウロイと遭遇した場合トーマを見捨てでも逃げろというようなものだった。

 

出来るわけがないよ。

 

そう言いたくなる気持ちを押し殺し、代わりに決意の籠った瞳で彼を真っ直ぐ見つめる。

 

「大丈夫、トーマは絶対に私が『守る』からっ」

守る――という言葉にピタリと動きが止まり、少し驚いたという感情を見せた彼は小さく微笑む。笑みを浮かべるトーマに「何が可笑しいのか」と訴えるように目を細めると、その眼差しに気づき「ああ、すまない」と笑みを残しつつ謝罪する。

 

「別に君を馬鹿にしていたわけじゃないんだ。ただ、自分で経てた作戦が現状君頼りという事があまりにも情けなくてな」

 

そう言うともう一度「すまないな」と謝罪する。

 

「さぁ行こうか、カタヤイネン曹長」

 

「……ニパ」

踵を返し、背を向けた彼の右手を掴む。着替えてなおその右手には先程ニッカが渡したハンカチが巻かれていた。洗って返すと言うトーマに対し、ハンカチは上げると特に深い意味もなく答えたニッカ。やや間を空けて「なら有り難く御守りとして受けとるよ」年齢に相応しい少年らしさのある笑顔を見せたトーマ。

ニッカは何故かその笑顔が脳裏に焼き付いていた。今まで何度も彼が笑みを浮かべた場面はあったが、そのどれもが何かを誤魔化すような……遠くを見ているような目をしながら浮かべる笑みが儚げに思えていたからだろうか。その時見せた本心からの笑顔、高鳴る胸の鼓動がどういう感情から出たものなのか、13歳の少女にはまだはっきりとした理由が分からなかった。

 

ただ少なからず――。

 

「私の愛称……ニパって呼んで」

いつまでも姓名と階級を着けた呼び方に不服が生まれる程度には彼を慕っているという感情は確かだった。

 

「……あ、ああ……分かった。『ニパ』」

 

「っ……!」

高鳴る胸が更に跳ね上がり顔が火照るのが触らずとも分かった。父親以外の男性に愛称で呼ばれたのが初めてだからだろうか。

そんな風に考えている彼女とトーマの様子を見ていた小柄で初老の男性が小さく呟く。

 

「……イチャイチャしてねェで早ぅ行かんかい」

 

「滑走路安全確認よし! 発進、どうぞ!!」

進路を確保していた一人の徴兵が声を上げる。ニッカはしっかりと縄が解けないか確認し、背を向けているトーマの腰へ腕を回し抱き締めるような姿勢になる。男性を抱く経験などあるはずもなかったニッカは脈打つ鼓動を誤魔化すように「大丈夫?」とトーマへ声を掛ける。首だけを回し横目にニッカへ視線を向け「大丈夫だ、行ってくれ」と顎と後頭部を覆っていたプロテクターに手を回すとカシャリと音を立て硝子状のようなカバーが降り露出していた顔を覆い隠す。

 

「ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン、出撃します!」

カタパルトの固定器具が解除され、トーマを抱えた少女は空へと飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「押されているぞ! 気を抜くな!!」

大声を張り上げる。戦闘が始まり二時間が経過しようとしていた。長時間の戦闘によりエイニを含む全員の魔法力は枯渇し、もはや限界はすぐそこまで来ていた。

 

通信妨害により無線機での通信が出来なくなると連携も十分に取れず、ただでさえ危機的な状況に追い討ちを掛けてきた。

 

「っくそ……!」

エイニは苦虫を噛む。周囲のウィッチ達へ視界を向ければ皆がみな、息も荒く額には汗が滲んでいた。武器弾薬も残り僅か……戦闘継続も不可能になるのは時間の問題だった。

 

撤退するしかないのか……?

 

撤退という言葉がエイニの脳裏を再び過る。このまま戦えば必ず魔法力が尽き、犠牲者を無駄に出してしまう。

だがしかし通信もできない現時点で自分たちが撤退してしまった場合、誰がネウロイを止めるというのか……救援に向かってきているという地上部隊の到着時間も分からず戦い続けるしかないのだろうか。

 

「隊長っ……これ以上は、もう……!」

部下のウィッチが彼女へと近づき苦悶の表情をしていた。諦めまいと戦う他のウィッチたちの魔法力も限界寸前。スオムスきってのエースであり未来予知を持つエイラですら魔法力の枯渇と疲労により動きが鈍ってしまっていた。

 

もはやここまでか……。

グッと目を瞑り拳を握り絞める。

 

不甲斐ない……。

 

自身の無力さに打ち拉がれる。これまで幾度の戦場を戦い抜き、多くの仲間を慕え上に立つ者として気高くあろうと努力し、尽力してきた。

そんな自分が今、たった一つの判断に悩み苦難している。情けない話だと自分で自分を嘲笑いたくなる。

 

しかしそんな余裕すらない。

 

今が決断の時だ。

 

「撤退だ! 全機撤退しろ!!」

苦渋の決断を下した。引き裂けそうなほど声を張り上げ、全員が顔を顰め彼女の撤退指示を繰り返し伝言していく。

 

今この場で自分たちが撤退するということはネウロイの進行を許すということ。白海側へと向かうネウロイが何を考えてそのような進路を進んできたのかなど理解出来るはずもない。しかし少なからずネウロイという存在は人の大勢いる大陸の都市部へと向かう習性があると推測されており、今回の進出もその性質に準ずるものはずである。

 

あと一度。それが残されたチャンス――。

今すぐ基地へ帰還し早急に補給を終わらせ、進行するネウロイを再度攻撃する。進行速度から推測して本土到着まで二時間と言ったところだろう。

そして撤退し補給を終わらせ往復するまでに一時間弱……補給したとしても体力的に脱落する隊員も出ることだろう。

 

戦力は更に限られる……。

 

状況はまさに最悪だった。

再出撃したところで勝算があるわけではない。地上部隊とも合流できたとしても航空戦力である自分たちは既に疲弊した状態。正直全うな戦力として機能する保障はどこにもなかった。

 

撤退指示が出され、迎撃しながらもウィッチは徐々にネウロイから距離をとっていく。本音を言うのであれば、この場から逃げることを望む者は誰一人として居なかった。祖国を守るために戦い、戦うために培ってきた努力は数知れず。逃げてしまうのならばいっそ玉砕覚悟で突貫すら考えるウィッチすら居た。だがそれは許されない、あってはならない判断だ。命を捨ててまで戦うなど愚の骨頂。エイニの出した最初の命令は「諦めるな」という言葉だった。

 

退くしかない。今はただ屈辱に耐えながらも『生きるため』に退くことしか出来ない。そんな虚しさが全員の心を抉るように傷つける。

 

ネウロイが出現し、多くの大陸が占領され国を追われた他国のウィッチや国民は多く居た。カールスラントやオラーシャ、ガリア……きっと彼らも同じ苦しみを味わい噛み締めていたのだろう。

 

スオムスが占領される――。

 

その可能性が過ったのか、数名の新人ウィッチが涙を流し始める。口ぶちに「嫌だよ……」と嗚咽混じりに呟き始める。

 

肉体的にも、精神的にも……彼女たちは追い込まれていた。

 

「ベルツィレ基地応答せよ! ベルツィレ基地……!」

やはり駄目か、とエイニは舌打ちする。僅かな望みを掛けて通信を試みるがやはり繋がることはなく、耳に掛けたインカムからはノイズだけが聞こえてきていた。

 

「隊長! 攻撃、来ます!」

一人が叫ぶとほぼ同時に、全員へ向けて閃光が襲い来る。未だネウロイの射程圏内だという現実に引き戻され、緊張が走る。

 

その時だった――。

 

雪原に響き渡る轟音。ネウロイがいる方角からやや南東……大地を震わせ撃鉄を鳴らし放たれた一発の砲弾がエイッカたちを追う一匹のネウロイへ直撃し、その体積を大きく抉り取った。

弾丸の衝撃で大きく姿勢を崩し転倒したネウロイへ追い討ちを掛けるように数発の追撃――。蓄積されたダメージに耐えかねたネウロイは意図も容易く崩壊し霧散する。

 

全員が砲撃のあった方角へ視線を向けると、そこには大口径の専用装備である戦車砲にも似た火器を構える数名の陸戦ウィッチの姿が確かに捉えられた。

 

ワッと沸き上がる歓声。夢でも幻でもない――。

 

「遅くなって申し訳ありませんでした!! 地上部隊第三から第五小隊、只今到着しました!」

 

戦場の歯車が加速する――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トーマー! 大丈夫ー!?」

風を切り、時速600km弱――。高度20000フィートを飛ぶ少女、ニッカは腕に抱く少年の安否を確かめる。

彼女はウィッチであり、魔法力によって外気などの環境を気にすること無く飛んでいられる。――が、今彼女が抱えている少年は違う。

魔法力に守られることもなく極寒のスオムスの、その上空を航空機の速度で飛ぶことにより生じる体感温度は地獄のような寒さであるだろう。

 

「だっ……大丈夫だ。こっこれくらい」

大丈夫ではなさそうだとニッカは察した。降りたバイザーにより表情は伺えないが、発している言葉は途切れ途切れでカチカチと歯がぶつかり合う音が微かに聞こえていた。

 

一応防寒のために持ってきた毛布で全身を包んではいるが気休めにもなっていないのは明白である。

 

このままでは目的地に到着するよりも先にトーマが凍え死んでしまうのではないかと高度と速度を下げるべきだと言うニッカに、sれは駄目だと首を横に振るトーマ。このやり取りは既に五回目にあっていた。

どうあっても急ごうとするトーマに、ニッカは未だ聞かされていない謎を問いかける。

 

「あの座標に何があるっていうの?」

トーマを抱き抱え、彼が手に持つ端末機械。スオムス――ハルティ山を拡大した地図の一角に点滅する光。それが何を意味するのかニッカには分からなかった。

 

「……俺が、君たちの住む世界とは別の世界から来たっていうのは最初に話しただろう」

少し間を空け、独り言のように呟き始めた。ニッカは当然一番最初に聞いた彼の話から「えっ、そこから?」と声を漏らしそうになるが何とか喉元で押し込み、小さく頷く。

 

「俺が……恐らくこの世界に来る直前まで戦争をしていたんだ」

モビルアーマーと呼ばれた虐殺兵器との戦争。10年以上その中で戦い続けていた少年の背を抱く腕に、力が籠る。

 

10年の戦争、ただただ戦い続けた10年間。1日の大半をコクピットで過ごし、寝る間も惜しみ戦闘と訓練に明け暮れ娯楽も安寧もなく、ただただ戦い続ける毎日。そうしなければならない、そうあらねば生きていけない。一分一秒でも気を緩めればモビルアーマーはその間に力なき人々を襲う。人類を守護する彼の戦いがどれほど辛く苦しいものだったか……ニッカは計り知れないでいた。

 

友人と遊ぶ時間も、食事を楽しむ一時も、何もかもを戦場のために費やした少年。

 

「『ヤツ』との戦闘の末、俺は大気圏に飲まれ燃え尽きるはずだった」

そこまで勉学に励んでいたわけではないニッカでも大気圏という言葉くらいは知っている。

 

大気圏――正式にはその中でも一番外側の『熱圏』は太陽から発せられる電磁波や磁気圏で加速した電子エネルギーを

吸収し最高で2000℃にも及ぶ超高温へ達する。

 

衝撃やビーム兵器などに対して無類の強度を発揮するが、熱量が限界を超えれば装甲表面に蒸着させたモビルスーツのナノラミネート塗料は溶解し効力を失う。フレームだけであるならば理論上耐え抜くだけの強度は十分であるが熱量に置いてはパイロットが耐えきることが出来ず、文字通り蒸発する。

 

戦闘に勝利したものの体力を失い地球の重力へ引き込まれて、熱圏で燃え尽きる確信と共に意識を手放したトーマだった。

 

だが彼は生きたまま地上に不時着した。――世界という境界線を越えて。

 

「俺は、ずっと隠そうと思っていた」

どこか申し訳無さそうに呟き、視線を遥か下方の山々へ向ける。

 

「この世界に、俺は居てはいけない存在だ。君たちの世界に踏み込んではいけない異物のようなものだ」

トーマは自らの背中……プロテクターに覆われた醜い阿頼耶識システムの象徴であるインプラント端子を思い浮かべる。

モビルスーツを司る者に人為的に移植されたナノマシン。かの世界で行われた非人道的な所業は誰にも教えてはいけない負の遺産。

 

「俺が今からやろうとすることは、いずれ大きな波紋を生むだろう。その中で……無益な血が流れ争いを生むのだとしたら……俺は自分を許すことができない」

 

それでも、と少年は言葉を続ける。

 

「俺は君を……君たちと出会って、何かが変わったような気がしたんだ。今の今まで戦うことしか出来ず、何もかも与えられてきただけだった俺に、初めて自分の……俺の中で生まれた感情が」

ニッカの手に自らの右手を重ねる。寒さを和らがせるほどの熱はなくとも、確かな温もりを通してニッカへと伝わる少年の気持ち。

 

「俺は結局……戦う事しか選べなかった。でも戦う理由は俺が決める」

 

 

『誰か』に強要されたからじゃない……。

 

『誰か』に言われたからじゃない……。

 

『彼』の背を追いかける為じゃない……。

 

「『俺』は……皆を守りたいんだ」

 

『誰か』のために戦う決意――。

 

 

 

 

 

 

 

「ここで下ろしてくれ」

端末を操作していたトーマの言葉を聞き、飛行を止めゆっくりと降下していく。ハルティ山麓の林が生い茂る雪原。……だが目に見えて何かあるわけでもなく、ただただ見慣れた雪景色にニッカは眉を潜める。

 

「何もないよ?」

彼女の言葉に「まぁ二週間も時間が経てば地形も変わるか」と足元をたしか得るように踏みしめ、フラフラと歩き回り地面へ頭部側面を押し当てるトーマ。

 

何してるんだろうこの人……。

まるで不審者を見るニッカの視線に気を止めることもなく、目を閉じ耳を済ませていた彼が「聞こえる……やはりか」と呟きながら一直線に進んでいく。

 

彼には何が聞こえていたのだろうと気になったニッカは真似をするように地面へ耳を当てる。直接触れる雪の冷たさに意識を取られないように集中する。

魔法力により五感が常人よりも研ぎ澄まされたウィッチの聴覚……たしかに聞こえる。

 

自然が発するようなものではない。

 

例を挙げるのであれば航空機や運搬、戦闘車両のエンジン音に近い音。腹の内側にまで響くような音にニッカは目を見開く。

 

もしかして。

 

そこでようやくニッカの中で、バラバラになっていたパズルのピースが形を為成していく。

 

今まで彼が語ってきた言葉。そして彼の境遇……世界を渡った瞬間……彼と遭遇したときの光景――。

 

彼は『一人』でこの世界に来た訳じゃなかった。

 

 

――いい加減『迎えに行って』やらないとな――

 

「『迎えに来たぞ』……相棒」

崩れた雪山から悪魔の形相をした鋼鉄の巨人が顔を見せていた――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たった二週間……されど二週間という短いようで長かった期間――。俺は懐かしさすら感じる空間の中で小さく息を吐いた。開けたまま放置したせいで雪に埋もれていたアンドロマリウスのコクピットブロックを手探りで掘り起こし、やや湿り気のある座席へ腰をおろしている。

 

ああ、指令室の椅子もよかったが……やはり俺にはここが一番居心地が良いようだ。

 

目を閉じ、慣れ親しんだ世界の記憶を呼び起こす。忘れはしない……忘れるわけがない。

 

俺は……コイツに乗っていてこそなんだ。

 

「…………いや」

不意に、普段と違った感触のある右手へ視線を向ける。血が滲み、汚してしまった男の者とは違う華やかさのあるハンカチ。それが一体誰のものであるか……俺の記憶には強く刻まれていた。

 

その名前を――。

 

その愛らしい表情の数々を――。

 

彼女だけじゃない。あの場所で、この世界で出会った人々全員の顔。皆がいる場所を守る。それが今の俺に出来ることだ。

 

俺は戦う。戦うことしかできなくても、戦うことで誰かを救えることが出来るのならば。

 

 

 

座席から突出した阿頼耶識との接続を行う端子へ壊れていない事を祈りながら背中を押し付ける。

 

その瞬間、懐かしい激痛が背中を通して全身に駆け抜けていく。

 

「ぐぅっ!? ぐっ……がぁァ!!」

視界が歪み、胃液が逆流しそうになる。熱した鉄棒を押し当てられるような感覚が背中に広がる。粘液質のものが背中と鼻からドロリと溢れる。

 

「ぅう……ぐぁ……」

あまりの激痛に意識を刈り取られそうになる。だがそんなことしている場合ではない。

 

「放ったらかしにした当て付けか……?」

口角をつり上げ、冗談混じりに呟く。無論そう問い掛けた相手からは返事があるはずがない。

 

「悪かったな相棒、色々あったんだ」

色々な。と操縦桿を握る右手を眺め、今度は大きく呼吸する。

 

「目を覚ませアンドロマリウス! お前の力が必要なんだ!」

初期起動で待機していたアンドロマリウスの操作パネルへ手を翳す。

 

 

 

GUNDAM FRAME Type

 

ASW-G-72

 

ANDROMALIUS

 

SYSTEM ALL GREEN

 

 

 

「システムチェック……クリア、慣性制御……クリア……火器慣性……クリア」

 

操縦桿を軽く引き上げ、フットペダルを踏む。フレームや機器に大きな損傷は見受けられない。ナノラミネートアーマー正常に機能している。残ったら片腕のドラゴンハングに装備された機関砲も残弾数は少なくとも暴発の危険性は無さそうだ。……唯一問題があるとすればメインスラスターのガス残量か。全開で行けばペテルブルグ方面へ片道くらいは余裕があるが……。まぁ何とかなるだろう。

 

「網膜投影開始」

阿頼耶識を通して脳に直接電気信号が流れ、俺の視界がアンドロマリウスのメインカメラとリンクする。

 

全身に積もった雪の塊がボロボロと剥がれ落ちていく。うねりを上げるエイハブ・リアクターの駆動音。視界の隅で小動物たちが慌てふためく姿に申し訳無さを感じる。

 

二週間ぶりの感覚だ……以前だったら1日たりとも欠かさずにいた半身との繋がり……。

 

 

「いくぞアンドロマリウス……暴れさせてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが……『ガンダム・フレーム』……」

目前に立つ巨大な鉄の悪魔を、ニッカは頬に冷や汗を浮かべながら見ていた。

 

頭部には悪魔という概念を象徴するくねりを持つ一対の角。青く輝く双眼は怪しげに光り、目に焼き付いたように残光を残す。

ほぼ全身の正面を白い装甲に覆い、左腕には盾のような鉄塊……それに相反する右腕は僅かに残った剥がれかけの外装。露出した黒い光沢の骨組みは彼女から見て少し頼りなく思える。背には鳥の翼――。その骨格を思わせる一対のパーツ。何かを確かめているのか各所がグネグネと動いている。

 

20mはあろうその巨体。圧巻の一言に尽きた。

今まで見てきたあらゆる機械……兵器……そしてそれを模倣するネウロイ――。

どれをとっても今目の前に立つそれを超える存在をニッカは知らない。悪魔のような形相から恐怖すら感じさせる風貌。だが、そのどこか美しいと思えた。

 

 

 

「ニパ、少し離れていろ」

響くような声が悪魔から放たれる。聞き覚えのある声……聞き間違えるはずがない声が確かに聞こえた。

 

「と、トーマ!? ねぇ本当にトーマなんだよね!? 食べられちゃったとかじゃないよね!?」

そんな突拍子もない問いに「どうしたんだ?」と心配するように訪ねられる。

 

ニッカからすれば、トーマが雪の中にある何かへ入っていき、少ししてその雪山から現れた悪魔の姿。童話のように悪魔に取り付かれてしまったのではないかと不安になっていた。

 

「とにかく、俺は先行してルーッカネン少佐やユーティライネン大尉の救援へ向かう。飛行する際に衝撃が来るはずだ、危ないから離れててくれ」

 

飛ぶ!? その巨体で!?

 

もはや開いた口が塞がらなかった。取り合えずと言われるがままに距離を取る。遠目から見てもその姿ははっきりと見受けられる。

周囲に生える針葉樹よりも高い身長。戦車など一振りで粉砕してしまいそうな手足。

 

ネウロイとは別の意味で恐怖を与えてしまうであろう。

 

アンドロマリウスを見て初めて、彼が自分たちにこの存在を隠していた理由が少しだけ分かったような気がした。

 

何を思って、彼が再びその悪魔を呼び覚ましたのか。

ニッカは答えを聞いていた。

 

 

――皆を守りたい――

 

 

そう言った彼の姿を、あの悪魔と重ねると恐怖心よりも高揚感が沸き上がる。

 

まるで童話に出てくる英雄のようだ。

困った人々を救い、導き悪を討つ正義の味方……アンドロマリウスを駆るトーマを英雄譚のヒーローに見立てたニッカ。

 

グリモワールの第一書『ゴエティア』においてソロモン72柱が一柱……地獄の中で36の軍団を率いる序列72番が悪魔。大いなる伯爵であり『正義を司る』存在――。

 

アンドロマリウスが君臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸戦ウィッチの部隊とようやく合流できたエイニ達は折れそうになった心を奮い立たせ、再びネウロイへと立ち向かった。

形勢は逆転し、空陸双方のウィッチ達は次々と小型ネウロイを撃破し、母艦級である大型ネウロイのコアを露出させることに成功する。

 

「っ……! 今だハッセ!」

 

「うん!」

抵抗するネウロイのビームをラウラが防ぎ、ハンナは一発の弾丸に全神経を集中させる。このチャンスを逃すわけにはいかない――。

 

ドコォンッ!

 

放たれた20mmの対装甲弾頭は真っ直ぐに吸い込まれるようにコアへ着弾し、その赤く輝く八面体を撃ち砕く。断末魔のような鳴き声を一つ上げる、力なく崩れ落ちていく母艦級ネウロイは光を失い、ガラスが砕けるような音と共に消滅した。

 

「やったぞ!」

エイラが歓喜の声を漏らす。彼女だけではない、撃破したハンナもラウラも。エイニや新人のウィッチたち、皆がみな大型ネウロイの撃破に笑顔を取り戻していく。

 

「いいぞ! このまま一気に――」

残りの大型ネウロイ二体へ視線を向けたエイニは違和感を覚え眉を潜める。

 

大型だけでなく、その場に残っていた小型のネウロイが全て動きを止めていた。

 

撃破したわけでもなく活動を停止させたわけでもない。目を凝らせば微かに『震えて』いるのが見てとれた。

 

なんだ……?

 

胸騒ぎがしたエイニは全員へ一時停止の命を出す。彼女たちが何事かと動きを止めたネウロイの様子を伺う。

 

「なんだアイツら、急に止まったゾ」

 

「私たちを誘っているのか?」

エイラが疑問を浮かべ、ラウラが微笑を浮かべながら弾倉を取り換えコッキングレバーを引く。

 

「なんか……『怯えてる』みたい」

ハンナの呟きに、ラウラは「何に?」と小首を傾げる。エイラが余裕の表情で「私たちにじゃないカ?」と答えた。

 

怯えている――。確かにハンナが言ったようにエイニにもネウロイがそう見えた。だが決してその畏怖が自分たちへ向けられている訳ではないことを感じとる。

 

では何に?

 

 

 

 

 

「あれ見て!」

誰かが自分たちよりも遥か上空を指差す。ネウロイを前にして全員の注意がその指し示された方角へ集中した。

 

「あれは……」

 

「流れ星……?」

雲の隙間から見えた『それ』は一筋の光。ゆっくりと、それでいて確実にそれはこちらへと向かってきていた。

 

「全員待避しろ!!」

目を見開き、声を張り上げたエイニの指示に騒然と各自四方へと散開していく。

 

待避する中、エイニは横目で見たそれは耳を劈くような音と共に墜落しネウロイのいた地点へ墜落した。

余程の質量だったのだろうか、衝突した衝撃で数体の小型ネウロイが雪原の一部と一緒に吹き飛び、その余波は陸戦ウィッチやエイニたち航空ウィッチをも襲い掛かる。

余波をシールドで防ぎ何が起きたのか検討も付かないままエイニが……ウィッチたちが目にしたのは悪魔のような巨人だった――。

 

「なんだあれは!?」

最初に驚愕の声を漏らしたのはラウラだった。突如飛来したそれはネウロイを雪原もろとも吹き飛ばし、その巨体を中心に大きなクレーターを作り上げていた。

 

着地した姿勢――しゃがむように膝を折り、左腕の巨大な鉄塊を地面へと突き立てたそれがゆっくりと立ち上がる。グググと金属が擦れる音……熱された空気が噴出しゆらゆらと蒸気を立ち込めさせる。

 

 

なんなんだあれは!?

 

 

エイニは再び疑問の波に襲われる。

 

呆然とする少女たちを他所に、動きを見せたのは白い巨人だった。

ドンと爆薬が炸裂した音にも似た爆音を背中や腰、脹ら脛の裏側にある筒状の穴から吹き出し、それは青い炎となってその巨体を加速させる。

 

突き出した左腕の鉄塊が加速力を乗せて大型ネウロイの脚部をへし折る。一瞬の出来事に困惑し、崩れた姿勢のまま悲鳴を上げるネウロイの上体へと飛び乗った巨人が二度三度と左腕を叩き付ける。余程ダメージが大きいのか、その巨人よりも大きな質量を持つはずの大型ネウロイは藻掻くように欠損した四肢の残り三本をバタつかせ、張り付いた巨人をふるい落とそうとする。

 

しかしその程度では離れんと言わんばかりに細い右腕でネウロイに爪を立て左腕を幾度も突き立てる。

 

回数にして十数回。抵抗虚しく偶然突き立てられた箇所にコアがあったのか、大型ネウロイは呆気なく霧散し崩れ落ちた。

 

その光景をただ見ていた残りの大型ネウロイは大きく咆哮し、全身の火砲をたった一つの敵へと集中させる。

 

無数のビームが放たれる。回避をするでもなく、巨人は左腕の鉄塊を縦のように構えビームに向かって突撃する。

 

 

 

馬鹿な!?

 

 

 

その行動に誰もが目を見開き驚愕する。

ネウロイのビームは戦車や戦艦を容易に貫通し、その熱量をもって大地を焼き払う威力を有している。

 

ウィッチのシールドでもない限り防御は不可能だ。

 

そう確信していた彼女たちは更に驚愕した。

 

「ネウロイのビームを弾いている!?」

接触した部分からビームが抵抗もなく周囲へ飛び散り、巨人へダメージを与えることができていなかった。

 

まるで常識を逸脱した光景に、唖然とする一同。

 

ビームを防がれ、あっさりと接近を許したネウロイが一本の脚を大きく振るい巨人へと大木数本分の脚で踏みつける。

 

だがぶつかる寸前で爆音を上げ、側面へ瞬間的に移動した巨人は片足を軸に全身で回転を加えた左腕の一撃をもって、突き出された前足のもう片方を凪ぎ払う。まるで木炭を割るようにして簡単に砕けた前足。それを完全に消失するよりも先に右手で引き抜き、その鋭利な爪先を持ち主へと突き立てると釘を打ち込むように脚で踏みつけ内部へと押し込ませる。

まったく歯が立たない未知の敵に怒りの咆哮を上げる。ほぼ密着した状態から火砲を斉射する……が、それが巨人を貫くことはなかった。

 

被弾した全ての箇所が先ほどと同様にネウロイのビームを容易く跳ね返した。

 

小型ネウロイが取り付こうと跳ね上がる。だがそれも左腕の一凪ぎで吹き飛ばされ砕け散る。

 

あまりにも一方的な戦いだった。

 

あれほどまで苦戦し、20人以上のウィッチが束になってようやく倒した大型ネウロイを、その巨人はものの数分で撃滅していく。

 

ネウロイの再生能力など知るよしもなく、巨人は肉食獣が獲物の肉を貪るようにその装甲を引き剥がしては叩き潰す。

 

その戦い方には一切の容赦も慈悲もなし、ただ滅ぼすために洗礼された破壊の化身は、ネウロイがコアを砕かれ消滅するまで攻撃を止めることはなかった――。




相変わらずない頭を振り絞って、描写に拘ろうとクドくなる文で、本当に申し訳ない(鬼畜博士並感

本当はアウロラ救出のとこまで一気に書こうと思ったのですが、朝の7時から書き始めて現時刻は午後7時……なぁにがあったんですかねぇ(困惑

アウロラ救出を期待していた人への申し訳無さで一杯です……もう少し……もう少しお待ちくださいm(__)m

そして話は逸れますがニパのヒロイン力がうなぎライジング。
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