妙にテンションが上がって1万字をオーバーしましたw
それでもアテナさんに遭遇しない不思議……
とりあえず本編をどうぞです!
女神様が見てる‐1
東京都港区麻布、その中でも東京タワーと芝公園に程近いこの区画には、妙なことに寺社が寄り集まって存在している。
その中、一本の小路がある。
少々入り組んだその路地の奥にこそ鎮座しているのが、我らが七雄神社が誇る境内まで200段はあろうかという大階段である。
そこを苦労して登れば、やっと七雄神社の境内である。
ここは都内にしては珍しく緑が多く、なかなかの眺めといえるだろう。
さて、今回はそんな七雄神社の本殿の裏にある立派な日本家屋の中、我らが誇る才媛万里谷祐理の居室の前よりお届けさせていただこう。
現在、彼女はお勤めのために制服から巫女服へとお着替え中である。
私こと乾燐音は学校が終わるなり一目散に帰宅し、彼女より一足早く着替えを済ませていたので今は手持ち無沙汰である。
それはもちろん久しぶりのこの時を愉しむためであり、決して真面目ちゃんだからとかそんなことはないのだ。
学校の友達に見た目と比べてすごい真面目だね、と笑顔で言われて胸に刺さったのは秘密である。解せない。
さて、彼女の身支度についてだが、魔術を行使してしまえば彼女は目ざとく発見してくるだろう。
しかしだ、アナクロな方法によって覗き見するだけならば彼女は気づくことができないのだ。
幸い私にはわらしがいる。気配隠蔽に抜かりはない! まぁ、わらしがいなくても裕理ごときにバレるような隠業はしないが。
術を使わなくては隠業できないような凡俗と比べてもらっては困るな……風呂を、着替えを覗くためだけに鍛え上げられたこの隠蔽の技術!
古の忍者と比べても見劣りしないだろう……
実際、知り合いの自称忍者に見せてやったら地に伏して自身の未熟を悟っていたからな。
はっ、執念に勝るものはないのだ! 身の程を知れ!
ととと、取り乱した。
これより私は桃源郷を垣間見るのだ……
さて、期待通りに御開帳!
襖を少しだけ音が鳴らないようにずらして彼女を見てみれば、ちょうどいい事に彼女は制服を脱ぎ終わり長襦袢を羽織ろうかというところだった。
もう少し意味のない思考を繰り広げていたら、この光景を見逃すところだったぜ危ない危ない……
彼女は鏡台に向かいながら長襦袢の腰のところで紐を結び、白衣を羽織り腰帯を巻きそして緋袴を履きました。
その動きときたら……自然なのに艶かしいあたりが彼女の素養を物語っていますなぁ。
ああ、興奮しすぎて口調が定まらない、いつもどおりか。
さて、一通り着替えが終わった彼女は次にその綺麗な亜麻色の髪を梳り始めた。
彼女自身はその髪の色を好いてはいないようだが、私は彼女がその類いのことを口に出す度に美しい美しいと褒めてあげている。
その時の彼女の照れ顔ときたら……言われたあとに照れ隠しとばかりに怒ったふりをするあたりと合わせて非常に高ポイントですな。
そして髪を梳っている彼女だが、その様はとても絵になっている。
確かに黒髪ではないけれどその所作は優雅で、大和撫子という言葉を体現しているかのようだ。さすが華族の末裔。
そのまま彼女を覗き見もとい観察していると、ふと彼女が動きを止めた。
どうやら髪を梳いていた櫛が唐突に欠けたらしい。
「……不吉だわ。何か良くないことでも起きなければいいけど」
彼女はそこに凶兆を感じたようだ。
櫛が折れるというのは古来より報せとして一般化されるほどにはメジャーだからな。
それを応用した虫の知らせの類いの術式は五万とある。
その上だ、彼女はそこになんとなく凶兆を見出したけどなのかもしれないが、私からすると正直寒気を感じ得ない。
おかしいな、最近はまだ
しばらくぶりに日本に帰ってきて平穏を楽しもうかと思った矢先のこれなのだ。
これだからカンピオーネという体質はほとほと嫌になる。全くだ。
そんな風にいつもどおりに取り留めなく考え事をしていたところ、彼女の身支度は思いがけず終了することになったようだ。
何故なら鏡の中の彼女とばっちり目が合ってしまったからね。
やばい、まさかこんなテンプレな事態に陥るとは……彼女は二次元のヒロインか? それとも私がギャルゲ主人公なのか、疑問は尽きない。
私に着替えを逐次見られていたことに気づいた彼女は、その端正な顔を真っ赤に染め、ぞっとするほど凄絶な笑顔を浮かべ、後ろに夜叉のごとき気迫を纏い始める。詰んだ。
私にはわかる……今の私は傍から見ると、それこそ顔面からサーッと血の気が引いた、というやつなのだろう。顔面蒼白とも言う!
「燐音! 貴女という人は帰ってきてそうそう覗きとは! 貴女という人は1年間も旅に出ていたというのに全く成長していないのですか!? 前に貴女がオルペウスと闘った時も言いましたが、私は今回も貴方のことを心配していたのですよ! 書き置きだけを残して放浪の旅に出るだなんて……それで帰ってきてみればまた覗き……そこに正座なさい! 今日こそはその性根、根本から叩き直してみせます! 今まではこのくらい言えば貴女もわかってくれるかと思っていた節がありましたが……もう過度な期待を抱くのはやめます。さぁ! 貴女を真っ当な人間に変えて差し上げます!」
「ふ、ふふふ、ここで捕まってたまるか! 三十六計逃げるに如かず!」
「あ、お待ちなさい! 逃げるなんて卑怯ですよ! 走るんじゃありません! お待ちなさいったら!」
「待てと言われて待つ奴がいるか! 追いつけるものなら追いついてみるがいい! まぁ裕理には無理だろうがな! あ、こんにちは!今日もいい天気ですね!」
母屋から走って飛び出し拝殿へと向かう。そして、その途中ですれ違った神職の人たちと挨拶を交わす。彼らも慣れたもので苦笑しながら挨拶を返してくれる。
私が彼らより立場が上ということもあるが、そんなことより元気な子供としてこちらを見ているのだろう。
それでいい、年上に畏まられるなんて背中が痒くなって仕方がないからなぁ。
そして拝殿にゴールイン! が、そのまま通り抜けて境内へと足を踏み入れる。
境内に不審な気配を感じたのだ。いつもの七雄神社にはいない気配、厄介事を持ち込んでくる気配。果たしてそこには冴えない顔をしたスーツ姿の男がいた」
「相変わらず辛辣ですね、燐音さん。今日は少しお話させていただきたいのですが」
途中から敢えて口に出してやったのに苦笑だけで済ますとはつまらない男だ。
苦笑しながらも道化じみた雰囲気を醸し出すこの男こそ、正史編纂委員会所属のジャパニーズNINJA、甘粕冬馬である。
私に鼻であしらわれるレベルの隠業の使い手とはいえ、日本ではトップクラスの忍びだし、現に今も境内に敷き詰められた玉砂利を踏んで全く音を立てていない。
私のレベルが高すぎるだけで彼は普通に一流のエージェントなのだ。
さて、そんな正史編纂委員会の犬がここに何の用だろうか。
ここには武蔵野の媛巫女たる祐理と私くらいしか彼らのお目当てはいないと思うのだが。
「で? 今回の用は?」
「はは、それが我が国に未曾有の災厄となるかもしれない火種がありまして、少々手を焼いているのです。そこで、媛巫女のお力を貸していただこうかなぁと思い、不躾にもお邪魔したのですが……」
「祐理を呼ぶほどの懸案事項? それかなりヤバイよね」
「はい。彼女ほど霊視の呪力に長けた方は稀ですからね。ま、それ以外にも二つ理由がありますし、今回は貴女にも用があるのですよ燐音さん」
日本古来の呪術を継承する呪術師たちがいる。
裕理や私もその一人……ということになっている。
武蔵野――つまり関東一帯を霊的に守護する一団に所属して、若いながらも媛と呼ばれる巫女として責務を果たす。
こう聞くと大層なものに聞こえるが、平常時はそこら辺にいる巫女さんとやってることは大差ない。
だが今回のようなことがあると正史編纂委員会から協力を要請されたりする。
正直面倒ではあるが、祐理を呼ぶほどとなれば最低でもやばすぎる魔道書が見つかったか、神獣の類いの出現が予見されたかとかのレベルだ。
カンピオーネが存在していないことになっている日本では、そりゃ大事になるようなものばかりだ。
「貴女方には武蔵野の媛巫女として、我ら正史編纂委員会に協力する義務がある。おわかりですよね? この際、疑問は横に置いて、話を聞いていただけますか」
「はぁ……聞くしかないんでしょ? で、私たちに何をしろと?」
「とある日本の少年がいます。彼と会って、その正体を見極めていただきたい。草薙護堂といいましてね、正真正銘のカンピオーネではないかと疑惑のある人物なのです」
「え、カンピオーネ!?」
「カンピオーネですって!?」
私の耳がおかしくなっていなければ、それは私たち人外を呼称する名だったと記憶しているのだが。
思いがけない単語を聞かされてさしもの私も動揺した。
しかし、この程度で動揺を表に出しているようでは器が知れる……隠し通して見せよう!
そんなことより祐理、驚く前に息を整えよう。母屋から境内まで走っただけでなんでそんなに息が上がってるのさ。もう少し運動しようよ……
さて、カンピオーネと聞いて彼女はかの東欧の老魔王を思い出しているのだろう。
私はカンピオーネではあるけれど、一般人のように振舞っているから、第一印象はあっちの方がインパクトがあっただろうから。
「万里谷祐理さん、無礼ではありますが自己紹介はお話のあとでお願いします。さて、貴女方を選んだ理由のひとつがおわかりですね? 貴女方には幼い頃、デヤンスタール・ヴォバンと遭遇した経験がおありだ。カンピオーネの鑑定もたやすいはずです」
「…………ええ。カンピオーネとはつまり、日本で言う荒ぶる鬼神の顕現、忌むべき羅刹王の化身です。でも、信じられません。ただの人間が『王』となるためには、神を殺める必要があるのですよ? ――そんな奇跡を起こせる人間が、この世界にまだいたなんて!」
もう5年も前になるのか。私と祐理がであった時の記憶。
私たちは東欧の小国で老カンピオーネと出会ったのである。
デヤンスタール・ヴォバン。
その名を聞くだけで欧州の魔術師は竦み上がり、魔除けの祈りを唱えるそうだ。
あの暗闇の中でも爛爛と輝くエメラルドの瞳は、同じカンピオーネである私ですら屈服せしめるほどの圧力を放っていた。
彼の権能の中には、バロールに由来するその瞳から、怪光線を発して人を塩にするものがあるという。
それを聞いて、祐理は一層彼のことがトラウマになっているのではないだろうか。
まぁ、そんなことは置いておいて。
話の続きを聞こうじゃないか。
「同感です。だから私たちも草薙護堂が本物だとは信じてこなかった。いや、信じたくなかった。しかし、さまざまな状況証拠が積み重なりまして、そうも言えなくなってきたのです」
彼は肩を竦める。一つ一つの所作をここまで胡散臭く演出するのも立派な才能だ。
敢えてそういうキャラ付けをしているのに苦労人ポジに収まるのは、彼がお人好しすぎるのかはたまた運命なのか。
「グリニッジの賢人議会によれば、草薙護堂は今年の3月、南イタリアのサルデーニャ島でペルシャの軍神ウルスラグナを倒し、王の資格を得たそうです。その後もイタリアを4度訪れて…………」
「まさか、あのコロッセ…………」
あー、聞くのも面倒くさいー。
ウルスラグナといえば、インド神話のインドラと同一視される勝利の神だ。
万に一つも敗北はないという求敗の軍神。
そんな神を打ち倒した人間……それも草薙護堂だと?
私はそんな珍しい名前を持った人間は、この世で一人しか知らないのだが、まさか他にも同姓同名の人物がいるというのだろうか。
ああ、予想できた。
彼の言っていた2つ目の理由ってこれか。
なるほど、そりゃあ私たちに頼みに来るのがベストになるわけだ。
なにせ、彼は私たちの
「…………テンプル騎士、エリカ・ブランデッリ。しかも、帰国した彼は曰くありげな神具まで携帯していたそうで……」
「神具――」
いつの間にやら話が進んでいた。
なるほどカンピオーネが生まれただけなら日本に災厄が、とは言わないか。
裕理も引っかかってるみたいだし、これはまじもんの神具を持ち込んでくれたのかな、うちの後輩君は。
「甘粕さん、草薙護堂について詳しく教えてくれる? あ、資料があればそれでいいけど」
「これをお渡ししておきましょう。まぁ、ざっと説明すると呪術や魔術には素人。武術もこれまた素人。出身も怪しいところは全くなく、本来ならば神と闘うなんて万が一にもなさそうな御仁なのですが……」
彼から手渡された資料を眺めてみる。
草薙護堂に関する調査報告書。
彼の個人情報が一通り記されている。
魔術結社にかかればプライバシーなどあったものではないのだ。
とりあえず流し読みした感じで大体は把握した。
権能については推測が混じっているようだが、そこは仕方ない。本人ですら把握できていないことだってザラにあるのだから。
そんなことより気になるのはこれだ。野球の日本代表にも選ばれ関東では屈指の4番打者! 怪我で引退したそうではあるが、それほどの選手ならここぞという逆境なんかには強いだろう。
神との戦闘で大逆転ホームランを放ってもおかしくはないのかもしれない。
そして資料をめくると写真がこぼれ落ちそうになる。
慌ててキャッチすると、まぁなんてことでしょう。
そこにはラテン系の気の強そうな別嬪さんが。
彼女が今代の
カンピオーネになってそうそう愛人を作るなんて、護堂君も風上に置けないじゃないか。
ぜひ私もそれにあやかりたいところだが……祐理はいつになったら私に靡いてくれるのかなぁ。まぁ、気長に待つとしよう。
「祐理ここら辺読んでみ。さて、甘粕さん、私の記憶が確かならば草薙護堂って男はうちの学校の同級生だったはずなんだけど……もしかしてそれが2つ目の理由?」
「おや、驚きましたね。そのとおりです。こちらは完全に偶然だったのですがね――」
そこで得意げに話し出すあたりが小物臭を倍増させている……彼の未来に幸あれ。
横で魔王の権力で愛人を囲うなんて言語道断と憤慨している祐理さんもいることだし、今日のところの話はこんなところにしておいて欲しいなぁ。ここで切り上げてもらえれば覗きの件はうやむやにできそうだし……
まぁ、しばらくはこの奇妙な縁を楽しもうとしますか。
日本にカンピオーネが生まれたと言うなら、厄介ごとは全部押し付けられるしね!
◆◆◆◆◆
彼が――草薙護堂があの大階段を息を弾ませながら登りきった。
あれを登って息を切らさないとはさすがだ、こやつやりおる。
ちなみに彼は祐理が昨日電話でここに呼び寄せた。
私はめんどくs……関わりが全くなかったから遠慮しておいた。
裕理は彼の妹と同じ部活だそうだから、その伝手を使ってもらったのだ。
そして今、私の目には彼がカンピオーネであることが間違いなく映る。
祐理も同じように彼がカンピオーネであることを確信したことだろう。
まぁ霊視もくそもないよねぇ、あんだけ呪力垂れ流してれば。
「よくいらして下さいました。草薙護堂様――。カンピオーネである御身をお呼び立てした無礼、お許しくださいませ」
彼女と2人揃って頭を垂れる。
後輩ではあるけれどバレないように細心の注意を払わなくては、カンピオーネの直感というやつは馬鹿にならないのだ。
「万里谷祐理と申します」
「乾燐音と申します」
「昨日はいきなり電話をおかけして、失礼いたしました」
彼は祐理に見蕩れているようだ。
そうだろうそうだろう。うちの祐理はとんでもない別嬪さんだからな。
見蕩れるのはわかるが……口を開けたままこっちを見ているというのは少し間抜けだな。
そろそろ惚けてないで話を進めたいところではあるし。
「ごほん」
「あ、ああ、君たちも魔術師たちの仲間でいいんだよな? ほら、ヨーロッパにいるみたいな。日本の連中と合うのは初めてだ」
「はい。……十把一絡げに括られたくはないのですが、その認識に大きな誤りはありません。私どもは武蔵野を守護する巫女として、この社でお勤めをしております。ささやかですが、呪術の心得もございます」
彼は辺りを見回している。
東京都民にとっては確かに物珍しい場所ではあるかもしれない。
「……ええと、ここにいるのは万里谷さんと乾さんだけ? 誰か、他の人はいないの?」
?
私たちだけじゃ頼りなく見えただろうか?
ヨーロッパの方では魔術結社のボスと出会ったりもしていたようだし、それっぽいおっさんがいないと安心できないのだろうか?
「はい。今は私どもしかおりません。ですから、御身の逆鱗に触れるような失態がありましても、罪は私どもだけのものとなります。どうぞ、お怒りは我らは身にのみ下されるよう、ご寛恕を請いとうございます――」
「あの、万里谷さん? 今変なこと言わなかった?」
「荒ぶる魔王たる御身のお怒りは、私どもごときを殺めたところで収まるものではないと承知の上で申し上げます。何卒、関わりなき無辜の民を戯れに踏みつぶすような真似は、お慎みくださいませ。慈悲とともに寛容を示すお振る舞いは、王者の人徳にごさいます。全ての咎はどうか私どもにのみ帰するものとご容赦ください」
「ツッコミどころがありすぎて困るんだけど、まず一つ。俺が君たちをどうするって言うんだよ? 俺はネロでも董卓でも織田信長でもないぞ。誰が殺したりするか!」
「……それはつまり、命を奪うわけでは飽き足らないという意味なのでしょうか?」
……ちょ、やめてよ祐理。何真面目な顔で頓珍漢なこと言ってんのさ。
彼のここまでの態度を見れば、無害であることなんて一目瞭然。
いつもは聡明なくせにここぞというところで察しが悪いんだから……
彼もめっちゃ戸惑ってるじゃないか。
「じゃなくて。いいか、俺はごく真っ当な文明人で、荒っぽいことは嫌いなんだ。その辺りを少し理解して欲しいんだけど」
「…………はい。もう覚悟は決めております。私をお嬲りあそばすというのであれば……」
「裕理、ストップ。裕理もわかってるんじゃないの? この人優しそうだよ? 多少の無礼で襲いかかってくるなんてことはないと思うな」
「な、燐音! おやめなさい! 草薙王申し訳ありません。この非礼に対するお怒りは私どものみに……」
「全然わかってないじゃないか! 俺に拷問の趣味は無いし、殺人だってする気はない! そうだ、君たちはどうして俺がカンピオーネだと断言できるんだ?」
「草薙王、タメ口で喋っていいですか? そろそろ堅苦しい言葉に飽きちゃって……」
「もう! 燐音! 貴女は平時からもう少ししゃっきりなさい! 日頃からそんなだからあんなふしだらになるのです。第一王の御前ですよ。いかに優しい王といえど例を失するなど以ての外です!」
「あー、いいよ、万里谷の話し方はなんかむず痒くてさ。2人とも俺と同じ1年生なんだろ? ダメ口でいいよ、俺もそうするからさ」
「申し訳ございません。私の口の利きように至らぬところがあったのですね。失礼をいたしました。……ところで、2人の言っているタメ口とは何のことでしょう?」
……え、マジ?
護堂君も固まっちゃってるじゃないか。
まさかそこまで一般常識がないとは思ってなかったよ祐理……今日だけでここまで残念さをアピールするとは……さすがだね。
「敬語は無しってことだよ、祐理。それなら私は護堂君って呼ばせてもらってもいいかな? 私ダブってるから一応2人より年上なんだよねぇ。あ、裕理も護堂君のことは呼び捨てにすれば?」
「そんな!? 困ります。身分だって違いますし、男性を呼び捨てにだなんて……」
やばい、鼻血出そう。
恥じらう祐理の可愛いこと可愛いこと……
護堂君は私と祐理の対応の差に驚いてるように見えるけど、裕理がお姫様にでも見えたのかな? 旧家のご令嬢的な。
それとも私のダブってる宣言にびっくりしたのかな?
正確にはダブったというより日本にいなかったんだけど。
「身分って、いつの時代の言葉だよ。俺はそんな大した奴じゃないぞ。……まぁ、慣れてないなら無理しなくていいけど、せめて、もう少し気楽に話してくれ。乾さんくらいフレンドリーで構わないから。あと、様とか王とか付けて呼ぶのもなしで頼む」
「はぁ……。努力いたします、その、草薙――さん」
「私のことは燐音って呼んでー、苗字で呼ばれるの好きじゃないの。それにしても護堂君は優しいし一般人っぽくていいねぇ。それに比べて他の魔王様方のぶっ飛びようと言ったら……」
「こほん、では、草薙……さんにお願いがあります。あなたがローマから持ち帰ったという神具をお見せいただけませんか?」
お、このタイミングで切り出すのか。
相手には情報を渡さずこっちだけ情報を得る……
祐理もそういう細かいテクニックがわかるようになってきたのかなぁ。
十中八九天然で忘れてるだけだとは思うけど。
「それは全然構わないんだけど、なんで万里谷はあのメダルのことを知ってるんだ?」
「護堂君は自分のことを全然わかってないんだねー。カンピオーネかもしれない君がヨーロッパに行くんだよ? 日本の関係者だって心配して監視の1つや2つ付けたくもなるって」
「心配って……何を心配して監視なんかつけてたんだよ!」
「実際、神具なんて厄介なものを日本に持ち帰ってきてるし、現地でもコロッセオを半壊させたんでしょ? さすが魔王様だよねぇ、平和主義者でもそんくらいはするってあたりが私たちと一線を画してるよ。これで心配するなって方が無理だと思うけど?」
「……監視って、どこの誰が送り込んでるんだ?」
「そりゃあ、正史編纂委員会だね。知らない?」
彼もさすがに聞き覚えがあるはずなんだけど……必死に思い出そうとしているようだ。
彼の愛人たるエリカ・ブランデッリ嬢が告げないはずがないから、単に忘れていただけなんだろう。
「正史編纂委員会……政府直属の組織だっけ。名前だけなら聞いたことあるな」
「彼らは日本の呪術師らを統制し、情報操作をする秘密組織です。文部科学省や国会図書館、ほかにも宮内庁や神社庁、警視庁から識者を招いて構成されます。私たちのような呪力を持つ巫女や神職には、彼らに協力する義務が課せられるのです」
魔術、呪術、神々――怪力乱神の数々。
それら全てが日本では史実として残らないようになっている。
社会の平穏を守るための正史を紡ぐ場所。
『正史編纂』委員会なのだ。
「今回、護堂君を呼んだのは、護堂君がカンピオーネかどうか見極めろって正史編纂委員会に言われたから。そして君の持って帰ってきた神具の検分」
それを聞いて、彼はハッとしたあとすぐに決意を固めたかのようにバッグからそれを取り出した。
黒曜石に蛇髪の女の描かれた古のメダル。
それを見た瞬間、祐理に霊視が降りたようだ。
私も自分の知識からそれがなんなのかを推測する。
恐らくあれにまつわる神はすでに顕現しているのだろう。
呪力の波動が持ち主を呼び込んでいる。
その上であの意匠。あれは多分ゴルゴネイオンだ。古代よりゴルゴーン三姉妹を象り、かのゼウスやアテナも身につけていたと言われる魔除けのお守り。
あれが神具だというのなら、それこそゴルゴーン三姉妹かアテナあたりが出てきているのだろう。極一握りの可能性で、メデューサを退治したペルセウスが逆説的に出てくるなんてこともありうるが、そっちについては想像したくない。『鋼』は苦手だ。
「やっぱり危ない物なのか、これ?」
「おそらくは。古い、ひどく古い神格にまつわる聖印です。蛇神、オロチの印……いえ、もっと根源的な、母なる大地とめぐる螺旋の刻印――」
彼は一瞬黙り込んだ私たちに不安を隠せないようだ。
それに比べて祐理の霊視の正確さ、そして冷静さ。やばいものであることはわかりきってるのによくそこまで安心していられるものだ。やっぱり私が隣にいるおかげかな?かな、かな?
「これは、只の直感ですが、このメダルは北アフリカで出土した物かもしれません。エジプト、アルジェリア……その辺りのことが何となく思い浮かびます」
「思い浮かぶ? これはゴルゴネイオンって言うらしいけど……ところで、万里谷はさっきから何を根拠に話してるんだ? これについて詳しいのか?」
「いいえ。私は欧州やアフリカの神格についてはほとんど存じ上げません。ただ霊視と霊感を頼りに、漠然と感じたことを口にしただけです」
彼は頻りに感心しているようだ。
確かに祐理の霊視は凄まじいからな。
幽世にいないのにこのレベルで霊視ができるのなんて世界でも祐理だけのはずだ。
「護堂君、ひとつだけ質問いいかな? これは明らかに『まつろわぬ神』の神具。祐理の霊視と合わせた私の見解から行くと、これは多分アテナの三位一体の一欠片じゃないかと思うんだ。アテナはそもそもエジプトからヨーロッパの辺り一帯を収めていた大地母神だったものがまつろわされた結果生まれた神格だからね。母であるメティスと、縁が深かったメデューサと同一視され、三位一体の女神として崇められているし。さて、それで……カンピオーネである君がこれの危険性について気づかないなんてことは……ないよね?」
「へー、すごい考察だなぁ。まぁ確かに神様絡みのヤバイものだってはわかってたんだけど……」
「貴方はこの東京に禍つ神を呼び寄せるおつもりなのですか!? 地元住民の安全を、何だとお思いですか!」
青天の霹靂。
いきなり横入りされて危うく飛び上がるところだったよ。
ここから私の見せ場かなぁ、と思ってたんだけどなぁ。
あーあ、スイッチ入っちゃった。
護堂君もそんないい加減な判断しなければいいのにねぇ。
「そ、それは俺も…………」
「じゃないかな? ……で、要らぬ危険…………大いなる力には、大いなる…………」
「愛人!? だ、誰の…………」
「おとぼけになられ…………」
「万里谷、これは…………」
「ガセネタの意味は………」
「意のままに…………」
「まぁ、草薙さん…………」
あー、世界は平和だねぇ。
傍から見たら痴話喧嘩に見えるあたりが憎たらしい……
祐理は私のものだぞー、渡さないんだからなー。
それはさておき、それにしても珍しいお客さんだ。
まさか本人にご登場願えるとは思ってもみなかった。
「ねぇ、エリカ・ブランデッリ嬢」
「……あら、耳聡いのかしら? 私、ほとんど足音を立てていなかったはずなんだけれど」
「このくらい嗜みですよ、ふふふ」
「そう、まぁいいわ。それで、そっちの娘。私の護堂をいじめるのは、いいかげんにしてもらえるかしら。いい? 草薙護堂を愛するのも、苛むのも、オモチャにするのも、この『
いやー、まさに千客万来? 彼らの持つオーラは、まさに一般人と比べれば1000倍じゃ足りないところだから、いい表現ではなかろうか。
私の平和を脅かすものまで招いてるあたりは減点対象だけど……護堂君が何とかしてくれるでしょ。
さて、彼女も護堂君とじゃれ付き始めたし、祐理はそれに対してまた憤慨してる。
私は暫く空でも眺めて時間を潰そうかな。
あれに関わるのはめんどくさい……
第一、あの女全てわかった上でやってやがるからなぁ、可愛げの欠片もないよ。
あー、雲が流れてくー、蒼い空だァ。
「――アテナ、です。草薙さんが遭遇し、日本に到来したという女神の御名は、おそらくアテナのはずです。燐音の予想が当たっていたということですか、信じられません……」
あれ? いつの間にそこまで話が進んだの?
いかがだったでしょうか
とりあえずいつもどおり、感想評価批評批判質問疑問指摘、荒らし以外の全てを歓迎しております
祐理さんの漢字に誤字が多過ぎる……誤字見つけたらご一報くださいね
なるべく自分で気づいて修正してはいるんですが……
祐里とか裕理とか裕里は間違いですからね?
それではそれでは