僕と私と彼女と雪と   作:烏天狗

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第1話

 輪廻転生というものを知っているだろうか。簡単に言えば生まれ変わり、と言えばわかりやすいだろう。死んでもう一度、この世に生まれてくるのだ。

 とは言っても、誰もが自分は以前、違う人物だった。などという記憶は普通、持ち合わせていない。少なくても俺の周りで聞いたことはない。前世の記憶があるなどと言えば、冗談ととらえられるか、痛いと思われるか、それともいい病院を紹介すると言われるかもしれない。人は自分が経験していないことは簡単にも信じられないものだから。

 つまり、裏を返せば経験したことはそれなりに信じることができるのだと思う。今の俺の状況がまさにそうだ。

 

「あーあーうー」

 

 まるで赤ん坊のような声が聞こえる。うん、元気の良い赤ん坊の声だ。どこにいるんだろうか。

 

「うーうーうーうー」

 

 声はすれど姿は見えないとは面妖な。しかし、視界がぼやけて定まらないな。夜更かしして本を読んでたせいで更に目が悪くなったかな。

 

「あーうー」

「はいはい。どうしたんですか?」

 

 急に世界が移動する。力強い、温かい何かに抱きかかえられる。俺を抱きかかえるだと。

 

「んーおむつは大丈夫みたい。ミルクは飲んだばっかりだし……」

「うーうーうーうー」

 

 上下にゆすられる。温かさと相まって心地よい。不思議と安心する。

 

「さぁさ、良い子はたくさんおねんねしないとね」

 

 良い子とはさきほどから聞こえている赤ん坊のことだろうか。それにしても眠い。すごく眠い。まるで徹夜明けみたいに眠い。安心感と満足感、幸福感。いろいろなものに包まれてとても起きていられない。

 

「おやすみ、アオバ」

 

 

 

 さて、とぼけても仕方ないし、現実逃避しても仕方ない

 どうやら僕は生まれ変わったらしい。といっても前世で死んだ記憶はない。前世の記憶、というのもなんとなくそれと思われるものがあるからそう思っているに過ぎない。

 春川青葉。それが今生での僕の名前だ。実に春らしい名前だろう。前世での名前は、いまいち思い出せない。佐藤だったか、斎藤だったか、それも田中だったか。苗字がこんな具合であるからして名前についても似たようなものだ。まぁ、前世の名前なんて必要になることはないだろうから問題ない。

 今、住んでいるのは北海道。前世で好きだった漫画や小説みたいに異世界へ転生、なんてことに憧れないでもなかったが平凡にまた日本に生まれることができてよかった。他の国々を見下すわけじゃないが、少なくても飢えなくて、命の危険を感じることもない国。素晴らしきかな、わが祖国よ。

 母親の名前は春川葵。シングルマザーで看護師として市内の病院に勤務している。一人息子の僕を本当に大切にしてくれている。夜勤の時、留守番させるときはすごく申し訳なさそうな顔をする。父親は知らない。少なくても今の意識が覚醒したとき、赤ん坊の時から見たことはない。母親、母さんに聞いたことがあるにはあるが、お父さんは遠くに行ってしまってもう帰ってこないという。死別なのか、男女の問題で別れたのかは今はわからない。母さんも今は理解できないと思ってあいまいに答えてくれたんだと思う。

 生活は裕福ではないが、不自由するほどじゃない。というか僕に不自由を感じさせないように母さんは頑張っているらしい。僕には疲れた顔なんてほとんど見せないけど、仕事から帰ってきてテーブルで寝ていることもあった。前世では親にあまり孝行することはできなかったからこの人生では母さんに親孝行したい。子供のころは早く大きくなりたいと思っていたが、本当にそう思う。

 生まれてからなにか特別なことが起きるんじゃないかと少しだけわくわくしていたが、特になにも起きることなく僕は11歳、小学5年生になっていた。

 

「行ってきます」

「行ってらっしゃい。今日は夜勤だからなにかあったら病院に電話してね?」

「わかったー」

 

 いつもの会話をして家を出る。母さんは僕を送り出したとは家のことを片付けて夜勤前にひと眠りするんだろう。家に帰るころには出勤しているはずだ。

 車が通れる程度に除雪された道を歩く。所々に集められた雪が小山になっていて、絶好の遊び場に見えるが、危ないので近寄らないようにと学校でも家でも口酸っぱく言われている。

 

「やーよ、学校行くぞー」

 呼び鈴を鳴らしつつ、声をかける。

 

「あーい、ちょっち待って」

 

 中から気だるげな声が聞こえ、少し待つと弥生が出てきた。

 

「お待たせ、眠い」

「お前なぁ、髪くらい梳かしてきなよ。ぼさぼさじゃん」

 

 弥生の髪をてぐしで整えてやる。目を細めてされるがままにしている弥生。感覚としては猫を撫でている感じである。

 

「あおがやってくれるから」

「自分でやれっての。ほら、いくぞ」

「ん」

 

 歩き出すと弥生が手をつないでくる。いつものことなので気にせずにそのまま歩く。ちゃかされたりしたこともあったが毎日やっているとなれるものだ。

 

「また夜更かししたのか?」

「本が面白いのがいけない」

「授業中は寝るなよ」

「んーがんばる」

 

 まったく頑張る気を感じられない返事だ。まぁ、これもいつものことなので気にしてはいけない。

 

「今日は寄ってくの?」

「月曜日だからなぁ、そういう約束だし」

「むー、学校くらい1人でも行けるよー」

「じゃあ、明日からやよのことは迎えに行かなくていいか」

「……いじわる」

 

 弥生は次に行くところがあまり気に入らないらしい。それでも僕が手を引いているのでおとなしくついてくる。弥生の家から10分ほど、僕の家からなら15分かかるところに目的の家はある。

 

「かよー来たよ」

 

 少し前から呼び鈴の調子が悪くなっているので鳴らしてからドアも叩く。

 

「おはよう、青葉。弥生。¥」

「おはよ、加代」

「……おはよ」

 

 僕たちの数少ない友達、雛月加代がいつもの通りの仏頂面で迎えてくれた。

 

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