ハイスクールD×D 〜モンスターなハンターと過負荷の物語〜 作:深道兎心
ある日のオカルト研究部
部室に重い沈黙が落ちていた。
リアス・グレモリーはソファに座り、深く息を吐く。
「優香ちゃんに……神器が目覚めたなんてね」
窓際に立つ渚は、腕を組んだまま外を見ていた。表情は硬い。
「今朝、本人から聞いた。……正直、俺はあまり良い予感がしてない」
そのとき、小さな声が割って入った。
「渚先輩……その、神器の名前は……わかったんですか?」
子猫が遠慮がちに尋ねる。渚はわずかに視線を落とし、静かに答えた。
「――死霊使いの大鎌《ネクロマンサーデスサイズ》だ」
その瞬間、部室の扉が勢いよく開いた。
「ナギ~! 連れてきたよ~!」
骸が軽い調子で声を上げる。その後ろから、少し緊張した様子の優香が顔を出した。
「お、お邪魔します……あっ――お兄ちゃん!」
優香は一瞬で緊張を忘れ、渚のもとへ駆け寄る。次の瞬間、迷いなくその膝に座った。
「お兄ちゃんのお膝♡」
渚は言葉を失った。だが表情だけは緩み、無言で優香の頭を撫で続ける。
(――可愛すぎる……お兄ちゃんのお膝はユーの特等席だ……)
骸はその様子を見て、心の中で呆れ半分、微笑み半分で思う。
(ナギ……相変わらずのシスコンだな……)
やがて骸は咳払いを一つした。
「コホン。それで、部長?」
リアスが顔を上げる。
「何かしら、クロ?」
骸は少しだけ真剣な顔になった。
「ユーちゃんの神器について知っているサーヴァントがいるんですけど……呼んでもいいですか?」
リアスは一瞬だけ驚いたが、すぐに頷いた。
「ええ、助かるわ。お願い」
骸は目を閉じ、右手を掲げる。床に黒い魔法陣が浮かび上がり、冷たい風が部室を満たした。
闇が渦巻き、その中心から現れたのは――
死の気配そのものを纏う老人。
山の翁(キング・ハサン)。
リアスは息を呑み、子猫やアーシアは無意識に身構えた。
山の翁は優香を一瞥し、静かに告げる。
「その娘の神器……“死霊使いの大鎌”。それは単なる武器ではない。生と死の狭間を裁く“審判の刃”だ」
優香は渚の服をぎゅっと掴んだ。
「わ、私の……力……?」
山の翁は小さく頷く。
「心が揺らげば暴走する。だが、正しく在れば万象を断つ刃となるだろう」
リアスは優香に視線を向け、やさしく問いかけた。
「優香ちゃん……あなたが目覚めたときのこと、話してくれる?」
優香は少し俯き、やがて小さく口を開いた。
「……夢の中で、私にそっくりな人に会ったの」
部屋の空気が静まる。
「真っ黒な大鎌を持ってて……とても悲しそうな目をしてた。
それで……『あなたの力を貸して』って言われたの」
リアスはそっと続けた。
「その人の名前は?」
優香は一拍置いて答えた。
「――ユークリッド・ヘルサイズ」
その名に、山の翁がわずかに反応した。
「……やはり、か」
そのとき――扉をノックする音が響いた。
入ってきたのはソーナ・シトリー。そしてその背後には、ゼノヴィアとイリナが立っていた。
イリナは渚たちを見ると、少しだけ気まずそうに微笑んだ。
「久しぶり、渚、イッセー、骸」
渚は無言のまま視線を逸らす。
ゼノヴィアはまっすぐリアスを見た。
「単刀直入に言う。教会から聖剣が奪われた」
部室がざわめく。
「奪われたのは――天閃、夢幻、透明の三振りのエクスカリバー。犯人はグリゴリ幹部、コカビエルだ」
さらにゼノヴィアは続けた。
「破壊の聖剣は私が、擬態の聖剣はイリナが持っている。そして――祝福の聖剣は、優香の中に封印されている可能性が高い」
その言葉に、渚の表情が凍りついた。
「……ふざけるな」
ゼノヴィアは一歩踏み出す。
「渚、結月夫妻の――」
「黙れ」
渚の声は冷たかった。
「両親を見殺しにした教会と、俺は協力しない」
イリナが何か言おうとしたが、渚はそれを遮った。
「お悔やみなんて聞きたくない」
優香は不安そうに渚の袖を握る。渚は何も言わず、ただ優香の頭に手を置いた。
ゼノヴィアとイリナは深く頭を下げ、部室を出て行った。
廊下に出ると、そこにはアーシアが立っていた。ゼノヴィアは一瞬で剣を抜く。
「堕天使に与する者――!」
振り下ろされる刃。しかしそれは、渚の太刀に阻まれた。
鋭い金属音とともに、破壊の聖剣に小さな亀裂が走る。
イリナが慌ててゼノヴィアを止めた。
「もういい、行こう……」
二人はそのまま学園を去った。
部室へ戻る途中、渚は扉に手をかけたまま振り返る。
「木場」
木場は静かに彼を見る。
「復讐なんて、誰も望んでない」
木場は何か言おうとしたが、渚はすでに優香を抱いて歩き出していた。
優香はリアスに向かって深く一礼し、渚の後を追う。黒歌とアーシアも静かに続いた。
雨が降り出した路地裏で、木場は一人立っていた。胸の奥で渦巻く怒りと悲しみが消えない。
そのとき――上空から聖剣の気配。
木場は反射的に魔剣を生み出し、落ちてきた刃を受け止めた。フードの男が顔を近づけ、囁く。
「俺は渚の協力者だ。近いうちに大戦が起きる」
男はそのまま消えた。木場はただ雨の中に取り残された。
夕暮れに染まりつつあった駒王学園の校庭に、唐突に空間が裂けた。
黒い渦が生まれ、そこから一人の堕天使――コカビエルがゆっくりと降り立つ。地面に足をつけた瞬間、重圧のような魔力が校庭全体を覆った。
結界が張られるよりも早く、リアス・グレモリーとその眷属が即座に臨戦態勢を取る。
コカビエルは校舎を見渡し、薄く笑った。
「始めようか。――過去の三大勢力の大戦の、続きだ」
その言葉に、空気が一気に張り詰める。
そしてコカビエルの隣に、一人の男が立っていた。
白衣をまとった男――バルパー・ガリレイ。
優香はその姿を見た瞬間、目を見開いた。
「……どうして……あなたがそっちにいるの……?」
震える声。
優香は両手を胸の前で握りしめ、必死に問いかけた。
バルパーは冷たく微笑む。
「すべては、私の研究のためだ」
その言葉に、優香は一瞬息を止める。
さらにバルパーは淡々と告げた。
「――そして、結月夫妻を殺したのは私だ」
その瞬間、優香の身体から力が抜けた。
膝が震え、視界が歪む。
渚が咄嗟に彼女を支える。
「……嘘……でしょ……?」
優香は震える声で呟くしかなかった。
コカビエルはその様子を面白そうに見下ろしながら、バルパーに向き直る。
「奪った聖剣はすべてお前に渡す。合成しろ」
校庭の中央に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
コカビエルはその魔法陣を指し示し、冷酷に告げた。
「この陣は――駒王町を丸ごと消し飛ばす威力を持つ」
直後、地面が割れ、闇の中から三体の巨大な魔獣が現れた。
ケルベロス三体。
咆哮が校庭に響き渡る。
リアスは即座に叫んだ。
「全員、迎撃!」
グレモリー眷属が一斉に動き、コカビエルとケルベロスへ攻撃を開始する。
同時に、ソーナ・シトリーは眷属と共に学園全体へ結界を展開し、被害を外へ出さないよう封じ込めた。
激しい戦闘が数分続く。
その最中――ゼノヴィアとイリナ、そして木場が戦場へ到着し、戦線に加わった。
聖剣の光と悪魔の魔力が交錯し、校庭は戦場と化す。
さらに数分後――
コカビエルは突然、手を上げた。
「やめだ」
ケルベロスも動きを止め、地面に伏せる。
静寂が訪れる。
コカビエルは空を仰ぎ、重い声で語り始めた。
「貴様ら教会が隠してきた真実を教えてやろう」
ゼノヴィア、イリナ、アーシアが固唾を飲む。
そして――
「過去の三大勢力の大戦で、神はすでに死んでいる」
その言葉が落ちた瞬間、教会組の三人は絶句した。
ゼノヴィアは膝をつき、聖剣を支えに崩れ落ちる。
イリナは震え、アーシアは両手で胸を押さえて涙を流した。
その隙を見逃さず、コカビエルは右手に巨大な光を集め――
ゼノヴィアへ向けて、巨大な光の槍を投げ放った。
だが、その槍は彼女には届かなかった。
赤黒い粒子が爆発的に広がり、黒い装甲を纏った影が空から降り立つ。
神器――黒き蒼天使《エクシアダークマターMarkⅡ》。
TRANS-AM NT-D EXAMが発動し、赤い光が戦場を染める。
渚は巨大なGNバスターソードを振るい、光の槍を正面から弾き飛ばした。
轟音。衝撃波。
地面が揺れる。
そして渚は静かに神器を解除し、ゼノヴィアの前に立った。
「神が死んだとしても――お前らは生きてるだろ」
その背中に、ゼノヴィアは息を呑む。
コカビエルは歯を食いしばった。
「伝説の英雄――“ハンター”め……!」
彼は再びケルベロスへ命じる。
「行け!」
三体が一斉に渚へ向かう。
だが渚は即座に別の神器を展開した。
怪物の狩人――ゴアシリーズ。
圧倒的な威圧が広がり、ケルベロスは恐怖で縮こまる。
渚は静かに魔力を流し込み、三体を落ち着かせ、事実上の眷属として従わせた。
コカビエルは怒りに震え、隣のフードの男に叫ぶ。
「合成聖剣であの男を斬れ!」
しかし――フードの男の刃は渚ではなく、コカビエルを斬った。
骸が驚愕する。
フードが外れ、現れたのはフリード・セルゼン。
骸は渚に詰め寄った。
「なんでフリードがいるの!?」
渚は静かに答える。
「堕天使を倒した後、協力関係を結んだ。今は味方だ」
コカビエルは怒り狂って渚へ突進する。
渚は太刀《スティール・オブ・ロウ》を一度納刀――
そして一瞬で抜刀。
鋭い居合がコカビエルを斬り裂いた。
その姿を見て、ゼノヴィアの胸が大きく高鳴る。
――彼女は、その瞬間に渚に惹かれていた。
一方、木場はバルパーに詰め寄る。
「なぜ……仲間を殺した……!」
バルパーは無言で“因子の結晶”を投げ捨てた。
その中には、かつての仲間たちの魂が宿っていた。
彼らの声が木場の心に響く。
木場は涙を流し、憎悪から解放される。
そして決意する。
「僕は――仲間のために剣となる」
その瞬間、彼の神器が禁手化。
**双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)**が顕現した。
優香はネクロマンサーデスサイズを覚醒させ、黒い鎖でバルパーを拘束。
木場の一撃が、バルパーに決着をつけた。
その直後――空が裂け、白い翼が現れる。
白龍皇が降臨し、瀕死のコカビエルを回収する。
イッセーが叫ぶ。
「お前は誰だ!」
白龍皇は静かな女性の声で答えた。
「あなたの――ライバルよ」
その時、白龍皇の神器に宿るアルビオンが震え始める。
『怖い……帰りたい……早く帰りたい……!』
白龍皇は戸惑いながら問う。
「なぜそんなに震えているの?」
アルビオンは恐怖に満ちた声で告げた。
『そこにいる――もう一人の英雄、悪平等な人外《ノットイコール》……に俺は一瞬で倒されたんだ……!』
全員の視線が骸へ向く。
骸は苦笑し、渚は肩をすくめた。
二人は顔を見合わせ、ただ笑うしかなかった。
白龍皇はコカビエルを抱え、空へと消えていく。
雨が静かに降り始めた。
戦いは終わった――だが、誰もが知っていた。
これはまだ序章に過ぎない、と。