――――――――――
11:45 学舎の園・常盤台中学学生寮 とある一室
「エカテリーナちゃん、ご飯ですわ」
冷蔵庫の中から丸々と太ったネズミの真空パックを取り出して封を切り、尻尾をつまんで持ち上げてから水槽の中に差し入れて落としたとき、テーブルの上に置いておいた携帯電話が鳴った。
「…っ!お父様。…もしもし?」
『久しぶりだな光子。元気にしているか?』
「ええ、恙無く」
『それは良かった。学校はどうだね?』
「充実しておりますわ。その、名前で呼び合える友人もできましたの」
『それは重畳』
「お父様の仰ったとおり、友人は良いものですわね」
『そうだろうそうだろう。その名前で呼び合えるご友人の名前を聞いてもいいかな?』
「シスターのインデックスと、同級生の御坂美琴、後輩の湾内絹保、泡浮万彬の4名ですわ。もっとも後輩のお二人からは光子さんと呼ばれておりますが」
『その4人もそれぞれ仲が良いのかな?』
「インデックスと美琴は仲良しですわね。絹保と万彬も良き友人同士といった感じですわ。グループが違うから何とも言えませんけれども」
『ふむ』
婚后父は言葉を切ると、軽く咳払いをしてから話し始める。
『29日だが、第二十三学区のうちのホテルにインデックスさんと一緒に来れるかい?』
「大丈夫ですけれども、美琴も呼んではいけませんか?」
『ああ、実を言うとその美琴さんの御父君とは旧知の中でね、彼が言うには父親に黙って婚約した美琴さんにサプライズを仕掛けるとのことで、29日にうちのホテルを会場として用意して欲しいという要請があったのだよ。時間が取れそうだから私も赴くことにしたし、どうせなら私からもサプライズを用意させてもらおうかと思ってね。光子とインデックスさんなら美琴さんを驚かすのには最適ではないかと思うのだが』
「具体的にどうするのですか?」
『レストランの一室でお互いの両親を交えての婚約式をやるんじゃないかと思うのだがね、光子たちは旅掛、つまりは美琴さんの御父君のサプライズが終わった後に私とともにクラッカーを打ち鳴らしながら出ていくというのはどうかな?』
「ふふ。美琴の驚く顔が見られそうですわね。美琴と仲の良い方々もお招きした方が良いかしら?」
『人数が多い方がサプライズにはなるだろうね』
「それでしたら美琴のお友達の他に絹保と万彬にも声をかけてみますわ」
『29日の午後1時に呼び出しているから、11時頃にレストランの小宴会場に集まって貰おうかな』
「わかりましたわ」
『では、29日に会えるのを楽しみにしているよ』
――――――――――
19:30 とある高校男子学生寮の一室
「とうま。29日なんだけど、みつこからお誘いがきているから、10時くらいからお出かけしてくるね」
美琴特製の夕食(唐揚げ、出汁巻き卵、豚汁、胡瓜の即席漬け)を平らげた後、インデックスはそうのたまった。
「えーっと、婚后さんだっけ?美琴の同級生の」
「うん、そう。インデックス、スフィンクスは連れていっちゃ駄目よ」
「みつこはでっかい蛇を飼っているんだよね」
「そういうこと。大丈夫だとは思うけれども、念のためね」
「俺たちも29日は出かける予定だったから助かっちゃったな。婚后さんにお礼言っといてくれよ」
「そうね。寮に帰ったら電話するわ」
上条が食器を洗いながら言うと、美琴は食器を拭きながら返事を返す。
「ふたりとも、なんか所帯じみてるんだよ」
「インデックスさん、それはわたくしたちが夫婦っぽく見えるということでしょうか?」
「うん。新婚夫婦みたい」
「ふぇっ!!」///
「はいはい、慌てない慌てない。落としたら食器割れちゃうでしょ」
「なんで当麻はそんなに冷静なのかしら?」
「夫婦っぽく見えるってことはさ、それだけ俺たちの仲がいいってことだろ?別にいいじゃん」
「そう言われてみればそうね」
「とうまの開き直りが凄いんだよ。みこともとうまに追従しちゃうし、これって俗に言うバカップルってやつなのかな?」
ジト目でこちらを見るインデックスに、美琴は何と返していいのかわからずに上条に視線を送り、上条が小さく肩をすくめるのを見て微笑んだ。
――――――――――
20:45 常盤台中学学生寮前
寮を出て、いつもどおり公園のベンチでイチャイチャした後、常盤台中学学生寮まで美琴を送ってくると、エントランスの扉の前で繋いでいた手を放して、名残惜しそうに視線を合わせる二人。
「じゃあ、またな」
「うん。当麻は明日から休みだっけ?」
「いや、明日が終業式。まあ授業はないし、午後からは休みだけど」
「じゃあ当麻の分もお昼ご飯作っといた方がいい?」
「そうしてくれると助かる」
「りょーかい。オムライスでいい?」
「すげえ楽しみ」
「じゃあ、また、明日」
「ああ。おやすみ、美琴」
「おやすみ、当麻」
美琴が見送りながら胸の前で小さく手を振ると、上条が振り返って大きく手を振り返してくれた。
「大好き」
小さくそう呟くと、エントランスの扉を開けて寮へと入る。
「…恋する乙女な御坂もいいものだな」
「ふえっ!?」(もしかして見られていた?)
「おかえり御坂」
「た、ただいま戻りました寮監様」(気のせい…かしら?)
「…大好き、か」ボソ
「ええぇっっ!?」///(聞かれた!?聞かれちゃった)
「私の部屋で紅茶でもどうだ?御坂。少し話を聞かせてくれ」ニコッ
「……わかりました」
美琴はがっくりと肩を落とした。彼女には寮監の招待に応じる以外の選択肢は存在しなかった。
「はあ。不幸だわ」