第13話 仲が良いほど喧嘩なんてしないから。意見噛み合ってないだけだから
大体、一ヶ月が過ぎた。
事の発端は、俺が出撃の指揮を執っている時の事だった。
ボスまであと一枠、そこで大和さんが大鳳さんを庇って大破した。
当たりどころが悪く、一撃で轟沈寸前のダメージを受けた。俺はすぐに撤退命令を出したのだが、大和さんは反抗した。今の海域は一ヶ月以上も掛けて、(ダラダラと一日出撃一回ずつとは言え)攻略しようとしている海域だった。
それが、ようやくボスまであと一歩の所まで来たのだ。だから、大和さんは反抗したのだろう。
『提督!行かせてください‼︎』
『撤退して下さい』
『一ヶ月の苦労を(ダラダラと一日一回出撃とは言え)台無しにするつもりですか⁉︎』
『撤退して下さい』
『進撃させてください!』
『誰でも良いから、そのアホを殴って気絶させてでも良いから連れて帰ってきて下さい』
いつになく緊迫したやり取りの末、艦隊は帰投した。
うちのモットーは作戦報告は旗艦がやり、小破以上の艦は速やかに入渠、旗艦が小破した場合は他の艦が代わりに報告をする事だ。
それを、旗艦であり秘書艦である大和さんは全く無視して、執務室に来た。俺の前の机にダンッと両手を叩きつけ、すごい剣幕で怒鳴って来た。
『提督!何故、撤退命令を出したのですか⁉︎あのまま行けば、ようやくボスを叩けるというのに‼︎』
『大和さんが大破していたからです。そんなの聞くまでもないでしょう。良いから入渠して来てください』
『でも、ようやく……!ようやくあそこまで来たのに……‼︎』
『自分のコンディションも把握出来ない奴に、戦う資格はない』
はいここ、少しかっこいいこと言いました。
『ッ! それでしたら、多少の犠牲の覚悟もない方に、司令を下す資格はありません‼︎』
自分の所為で撤退したのが相当悔しかったのか、いつもは大和さんからは考えられない暴言が飛んできた。
が、俺も相当頭に来ていたのだろう。頭に血が上り、大和さんの胸ぐらに掴みかかった。
『テメッ……‼︎』
『ッ⁉︎』
大和さんは反射的に体を後ろに逸らした。
が、俺の手の中には何かを掴んだ感触がある。見ると、なんかおっぱいの形をした物が手の中にあった。
大和さんのオッパイが剥き出しになっていた。
『……………えっ、これパッド?』
直後、ビンタが飛んできた。
++++
「と、いうわけで、アレ以来、大和さんが会ってくれないんですが………」
俺は間宮さんのお茶屋さんで、心配なので入渠中の大和さんに面会をお願いして何度も断られていることを、涙目で武蔵さんに相談した。
「………お、おう。まぁ、アレはどちらにとっても事件だったからな」
「…………どうしよう。困った」
「仕事が終わらないのか?それなら」
「いや、仕事は問題ないんですよ。元々、一人でしたし」
「お、おう……。どんまい、大和」
「ですが、問題はチョッカイの方なんです」
「すまん、何を言ってるのかまるで分からん」
「俺は誰かに構ってもらえないと死んでしまう生き物なんです」
「大丈夫か、本当に」
割とマジで心配してるような顔で武蔵さんが聞いてきた。
「というか、本当にお前は何してるんだかなぁ……。言ってることは正しかったのに、なんであそこでドジを踏むんだ」
「や、本当ですよね。正直、俺もあそこまで真剣な空気が張り詰められた中でハートキャッチ○リキュアする事になるとは思わなかったです」
「ハートキャッチというかハートブレイクだけどな。後、あれ一応パッドじゃなくて九一式徹甲乳だからな」
「胸に詰めてる時点で立派なパッドだよね」
「それは言うな……」
武蔵さんは呆れたようにため息をついた。
「はぁ……にしても凹むなぁ。大和さんにあんな言われ方するなんて……」
「いつもはもっと酷いこと言われてるじゃないか」
「いやぁ、いつもは冗談でしょ?あんなガチな感じで言われたのはさすがに………」
「………………」
「え?じ、冗談だよね?俺の事、バカとかアホとか思ってないよね?俺、それなりに優秀なはずなんだけど……」
「まぁ、気にするな」
「否定してくださいよ⁉︎」
まじか、俺あの人にマジでバカとか思われてたのか。
「今、大和さんどうしてるんですか?」
「さぁな。多分、入渠ドッグで漫画でも読んでるんじゃないか?」
「あの人は………」
………そういえば、監獄学園いつ返してくれるんですかね………。もう一ヶ月も返ってきてないんだけど。
「漫画オタクみたいにはなってませんよね?」
「ああ。ほとんど私が無理矢理読ませている。少しでも元気出すようにな」
「………元気ないんですか?」
「ああ。いつも落ち込んでいるよ」
ふむ、そんなに気に病むことがあったのか?
「なんで?」
「それは自分で考えろ」
「………やっぱ、手を出したのが問題だったんかなぁ」
暴力を振るおうとして、セクハラ振るっちゃうんだもんなぁ。そもそも、なんで手なんか出そうとしたんだよ俺は………。本当、何やってんだか。
「というか、珍しいな。提督が手を出すなんて」
「まぁ、俺もそう思います自分では温厚なタイプだと思ってましたから」
「指令を出す資格がない、と言われたのがそんなに頭に来たのか?」
「いや、それは本当の事です。そもそも、コミュ障が司令官という時点でどうかしてますから。………ただ、その、何………」
少し照れ臭かったが、俺は呟いた。
「大和さんであれ誰であれ、誰か一人でも轟沈するリスクを『多少』とは言って欲しくなかったですね」
「………………」
武蔵さんは目を閉じて、しばらく黙った後に言った。
「仕事に手がつかないなら、後で私が代わりをしよう。とりあえず、わたしは大和の様子を見て来るから、お前はそれまで仕事していろ」
「今日の分は終わりましたよ?」
「……………」
武蔵さんは何故か呆れ顔で部屋を出て行った。
さて、それまでの間、ゲームでもしてるか。
++++
一時間後くらい。武蔵さんが部屋に戻って来た。
「ふむ、では構ってやろう。さぁ、何をする?」
「いや、そういう風に構えられるのは違うんですよね……」
「む?ど、どういう意味だ?」
俺は立ち上がって説明を始めた。
「なんていうか……『構ってあげるからおいで?』じゃダメなんですよ。もっと、こう……嫌がりそうな子にチョッカイ出して怒られるのが好きなわけでして……」
「なんだそれは……」
「例えばこんな感じ」
俺は武蔵さんからメガネを奪い取った。
直後、何度か瞬きをした後に、みるみるうちに顔が真っ赤になる武蔵さん。
「な、なっなな、何をする返せバカ者ー!」
「さらばじゃ」
「んなっ………⁉︎」
メガネを頭にかけて俺は走って執務室を出た。その後を追いかけてくる武蔵さん。
「か、返せ!返せー!」
俺は無視して、曲がり角を右へ曲がった。その直前に、思いっきりバカにしたような笑みを浮かべてやると、武蔵さんの表情が変わった。
「きっ、貴様ぁ……‼︎もう許さんぞ‼︎」
怒鳴ると、武蔵さんは加速した。
俺も慌てて加速したが、艦娘に速度で勝てるはずもなかった。
「そこだ!」
「うおっ⁉︎」
追い付かれて拳を振るわれ、慌てて回避した。壁に大きな穴が空いた。
「ま、マジ………?」
リアクションしながら、距離を置いて離れる。その後ろから武蔵さんは追いかけて来た。
「遅い、遅いぞ提督‼︎」
「速さだけが鬼ごっこの勝敗を決めるとは限らないんだなぁ‼︎」
「何っ⁉︎」
武蔵さんの蹴りをしゃがみ、スライディングで股下を潜ると、窓から外の木に飛び移り、降りて逃げた。ちなみに、パンツは相変わらずのピンクだった。
「なっ……⁉︎に、逃がさん‼︎」
武蔵さんも同じように追ってきたが、地上での鬼ごっこの練度は俺の方が上だ。
俺は非常用の梯子を使い、再び屋上に登ろうとした。この梯子は屋上のネジを外せば簡単に外せるため、武蔵さんが登ってきたところでアウトである。
これで勝つる……!そう確信した直後、手元と足元がガクンッと、揺れた。
下を見ると、武蔵さんが梯子を握って持ち上げていた。
「んなぁっ⁉︎」
「逃さんと言ったぁ‼︎」
梯子を思いっきりぶん回し、俺は鎮守府の別の建物に突っ込んだ。ドリフターズのコントのように頭から壁に突き刺さり、身動きが取れない。
その俺を、後ろから武蔵さんが引き抜いて、一階の庭に降りると俺に言った。
「メガネを返せ」
「は、はい…………」
俺は武蔵さんにメガネを差し出した。この人、加減を知らないみたいでした………。
だが、俺もただでは引き下がらない。武蔵さんがメガネを掛けている間に、俺はこっそりと逃げ出した。
「ふぅ、手間をかけさせやが……ん?こ、これ度がない⁉︎あ、あの野郎………‼︎」
武蔵さんの怒声を浴びながら、2ndステージ開始。
俺は建物の中に入ると、二階に上がって男子トイレに入った。この男子トイレは俺しか男がいないのに、どういうわけか個室が四つある。そのうちの一つを俺は改造した。
水道代が勿体無いので、一箇所は水を溜めて、便器型脱出用滑り台となっている。
その中に俺は飛び込み、滑った。確か、ゴールは真下の一階だったはずだ。
武蔵さんは男子トイレの中には入れない。よって、今頃は俺が出て来るまで、トイレの前を張っているはずだ。
さて、逃げ切った。俺は滑り台から出た。が、落下地点真下はお湯のなかだった。
「…………えっ?」
そ、そういえばこの滑り台作ったのは着任したての頃で、入渠ドック増設したのはつい二ヶ月前くらいだったっけ……?
前まではただの一室だったのが、入渠ドックの一部になっていた。
「あがばっ⁉︎」
ドッボーン☆とお湯の中に落ちて、俺は半分溺れながら水面から顔を出した。
「あーもうっ、最悪……パンツまで濡れるわ、鼻にお湯入るわ……。つーか、これ人体に影響ないんだろうな……」
自業自得の癖にブツブツ呟いてると、「提督……?」と聞きなれた声がした。
そっちを見ると、大和さんが入渠しながら、信じられないものを見る目で俺を見ていた。
「………………」
「………………」
________________おおう、もう……。
俺は額に手を当てた。なんで、なんでこうなるんだよ……いっつもいっつもさぁ……おかしいでしょ。誰の陰謀だよマジで。もし、神様なんてものがいたら、俺はそいつの顔面を全力でぶん殴ってるな。ていうか、俺が死んだらまず神様殴る。
「チッ」
思わず舌打ちすると、俺は入渠ドックから上がり、気まずい思いをしたくないので、なるべく大和さんに目を合わせないように、脱衣所に行くと、屋根裏から自室に逃げた。