昼飯を終えて、遊園地での遊びはいよいよ本番。名称は良く知らんけど、グワングワン前後に揺れる奴とか、上に上がって止まったと思ったら落下する奴とか、とにかく色んなのに乗った。お陰で、俺のHPはもう0に近い。
それでも、なんとか意識を保っていた。しかし、何だろうな、遊園地って。大掛かりな拷問器具がたくさんあるけど、これでワーキャー言ってる奴って本当になんなの?バカなの?まぁ、大和さんが楽しいならそれで良いけど。
それに、この時間ももうすぐ終わりだ。時刻は夕方に差しかかろうとしている。別にカップルというわけではないけど、最後は観覧車かな?なんて思ってると、大和さんが地図を指差した。
「次は、これに行きましょう!」
お化け屋敷だった。
「いや、あんたこの前テレビの心霊番組で、一人でトイレに行けなくなるくらいビビってたじゃないですか」
「お、お金払って滅多に来れない遊園地に来てるんだから!全部回らないと損じゃないですか!」
「損得計算かよ……まぁ良いけど。腰が抜けたとかやめてよ」
「大丈夫です!大和型に抜かりはありません!」
これは死んでも、潜水艦に泣かされて気絶させられて漏らしたなんて言えないな。
俺と大和さんは二人でお化け屋敷へ。中はひんやりとした空気が流れていて、入り口の横に白い着物の女が立っていた。
大和さんの方を見ると、ガクブルで震えていた。
「………大和、無理しないで出ます?」
「大和型に二言はありません!」
「あ、そう………」
まあ、それなら止めないけど。ちなみに、俺も平静を装ってはいるが、内心かなりビビっている。何故なら、何か出るかもしれない、という肝試しと違って、何か出る、と決まっているからだ。人間相手でも、暗闇でいつ来るか分からない状態で驚かされたら、そりゃビビる。
つまり、逆に言えば脅かしに来るタイミングさえわかれば怖くない。
………いや、無理くね?ニュータイプじゃねんだよ。
「行きますよ、提督」
「あの、分かったから手を繋ぐのやめない?大和の握力で握られると、手の骨が粉々になりそう」
お化け屋敷の中に入った。中はやはり暗くて、所々緑色の薄い灯りが順路を表していた。
慎重に中を進むと、早速目の前のガラスが割れてお化けが出て来た。俺はガラスのある場所はお化け地帯だと踏んでいたから余りビビらなかった。俺は、ね?
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎」
隣の大和さんは別な。大声で悲鳴を上げた。キーン、と耳鳴りがする。お化け役の人も、逆に驚いて戸惑ってる。
「イヤァ!イヤァアアア!」
イャンクックみたいな泣き声とともに、何処かに走り去ってしまった。
俺はどうしたら良いのか分からなかったが、お化け屋敷で迷子というのは、よく考えたら新手の拷問になりそうだったので、お化けに会釈してから大和さんの後を追った。
大丈夫、今の大和さんは冷静じゃない。しばらく歩いてれば、
「きゃあああああああああああ!」
ほら聞こえた。俺は声のする方に歩いた。
「うがあああ!」
「すいません今連れが迷子になってるんで後にしてもらえますか」
「え?あ、はい」
申し訳なかったが、こうしないと大和さんを探せない。
しばらく歩き回ってる途中、大和さんの声が聞こえなくなった。もうあの人はゴールに着いたのか?
そう思ったが、ゴールはまだ遠いはずだ。あの人アホだし、ゴールに着いたとは思えない。
「………冷静になったか、あいつ」
俺が近くにいないことを察したんだろう。で、多分俺のことを探し回って迷子になってる。
まぁ、そういう奴の思考パターンは分かる。まず、元の道を引き返そうか迷う。だが、なんだかんだで知り合いが不安になって迎えに行く。順路の反対側を進むわけだが、冷静な状態ではないため、途中で道を間違える。で、お化けも灯りも何も出て来なくなって、完全に一人になって体育座りで座り込む。
なら、俺は順路の灯りのない道をしらみ潰しに通れば良い。そうすれば………、
「ほらいた」
「!」
涙目の大和さんが、俺の方を見上げた。つーか、ここ非常口じゃん。
「て、ていとく……ていとくぅ………‼︎」
「何やってんスか……。ほら、立って下さい」
俺は大和さんに手を差し出した。だが、手を取るどころか抱きつかれた。
「ていとく‼︎」
支え切れなくて、俺は後ろに倒れ込んで尻餅をついた。それでも、大和さんは俺の胸に顔を埋めて号泣していた。
うん、すごい気持ちわかるよ。俺も高校の校外学習で同じ道辿ったから。一人で遊園地の中を回って、迷子になって、結局出られなくて閉園時間になってようやく見つかって、学校のバスには先に帰られて自腹で帰った。まぁ、その経験のおかげで、今俺は冷静でいられるわけだが。
でも、その、何。大和さん。おっぱいがすごい身体にあたって、アレなんだよね。
俺はなんとかすべく、大和さんの肩を掴んで、グイッと押して顔を見た。
「もう行きましょう、大和。このままだと、遊園地にも迷惑が掛かります」
「嫌です!もうこんなところ嫌です!動きたくないです!」
うおお……あの大和さんが子供みたくなっとる……。
「動かないところで、怖いのは変わりませんよ」
「で、でも……!」
「いいですか、お化け屋敷でもなんでも、パニックになるのが一番危険なんです。ゴネても何をしても、立ち止まっていたらゴールには近づかない。それなら、怖い気持ちを必死に押し殺して、一歩でも前に進むしかないんですよ」
高校の時に迷子になったときに、お化け屋敷の人に言われたことをそのまま言った。俺はお化け屋敷の人に何を言われてるんだ。
「だから、立ってください」
「………グスッ……もう離れないでくださいよ」
いや、離れたのお前。とは言わなかった。
「わかってますよ」
で、二人でゴールまで歩いた。
お化け屋敷の外に出て、俺と大和さんはベンチに座っていた。が、未だに大和さんは俺の腕にしがみついている。
「………大和、もう大丈夫でしょ?」
「………グスッ」
しゃくりあげながら首を横に振った。
「…………何か飲み物買って来ようか?」
「………わたしも一緒に行きます」
どんだけビビっとんのや。
大和さんは俺にへばりついたまま、自販機に向かった。
「何飲む?」
「……お茶で」
お茶とリ○ルゴールドを買って、再びベンチに座った。大和さんはお茶を飲んで一息つくと、ようやく落ち着いたのか、俺の手から離れた。
「………もう大丈夫です」
「良かった」
「…………お見苦しい所をお見せしました」
「気にしないで下さい」
「………………」
大和さんは俺の顔をジッと見ると、少し顔を赤らめた。
あ、この展開なんとなく読めたぞ。
「この後どうします?」
い、いえ!でも!何かお礼させて下さい!みたいなやり取りは面倒だったので、話を進めた。
大和さんは「もうこりごり」とでも言わんばかりに言った。
「もうなんか疲れました……。今日はもう、次で最後にしましょう」
「把握。どうする?」
「あ、あそこの……観覧車に乗ってみたいです」
おお、やっぱりそう来たか……。
「りょ。行きましょうか」
俺は大和さんと二人で、観覧車に向かった。
++++
観覧車に乗って、しばらく。段々と上がって来て、遠くの景色が見渡せるようになった。
俺はなんとなく、その景色をスマホに収まると、大和さんが覚悟を決めたように俺に言った。
「提督」
「んっ?」
「この前の返事、今ここでしても良いですか?」
「んっ?」
何の話?
「提督……」
「待って。何のは……」
「大和も、提督が好きです。お付き合い、していただけませんか?」
……………今、なんて?
「…………はっ?」
「二度も、言わせないでください……」
「ごめん待って。話が見えない」
「ですから、この前大和の具合が悪かった時の返事です!」
「返事?俺なんか返事されるようなこと催促してたっけ?」
「提督、仰ったじゃないですか!や、大和のことが好きだって………!」
「………………」
そういえば、言った気がする。ツーか、今冷静に考えればアレ、告白だよな。
そして、それを勘違いして大和さんは今、告白してしまったわけだ。
「…………完全に俺の所為じゃん」
「?」
「ああ。いやなんでもない。こっちの話」
俺は額に手を当てた。うーん……ヤバい、紛らわしい言い方した俺が悪いんだけど……その、こう言うことはちゃんと伝えた方が良いんだろうな………。
「あ、あのッ……大和」
「なんですか?」
「その……その件なんですけど……」
俺は一から説明した。俺に構ってくれる人は大和さんしかあり得ないという話で、大和さんに愛の告白をしたわけではない、と。
すると、大和さんは顔を真っ赤にして、すっごい複雑な表情を浮かべた。あー、これ怒られるよなぁ……怒るだろうなぁ………。
恥をかかせてしまった事の後悔と、怒られることへのワクワク感によって、俺も複雑な表情を浮かべてると、大和さんから声が聞こえた。
「…………んじ」
「はっ?」
「大和は今、告白をしました!提督の返事は⁉︎」
「えっ?」
確かに……。大和さんは今、告白をしたっちゃあ、したのか。
「や、大和への気遣いは無用です!もしアレなら、振っていただいて結構です!返事をして下さい!」
「……………」
俺は、か。どうなんだろうな……。今日や今までのことを振り返ってみた。俺は大和さんのことをどう思ってるのだろうか。
大和さんは美人だし、スタイルも良いし、俺には勿体無いくらいの女性だ。まぁ、俺はそもそも面食いではないから、容姿なんてどうでも良い。
性格も、かなり良い人だろう。だって俺に付き合ってくれてるんだもん。ただ、趣味が良いとは言えないかな。俺に告白して来たし。
俺は大和さんを見て、胸が痛くなったりしたか?いや、した事ないな。ドキッとする事は多々あったけど、そもそも人をあまり好きになった事ないから、胸が痛くなるという感覚がわからない。
別の方向から、検討してみよう。もし、大和さんが他の男と付き合ったらなんてしたら、どう思うだろうか。
「………………」
余り良い気はしないけど、大和さんがその男が好きなら諦め………余り良い気がしないなら、もうそれ俺この人のこと好きなんじゃない?
「…………ふむ。大和さ、」
「は、はいっ」
「俺、大和が他の男と付き合ったら、余り良い気はしないと思うんだけど。これって俺、大和のこと好きなのかな?」
「…………それ、私に聞きます?」
「だよね」
…………大和さんがいないとダメ、他のどの女も代わりにならない、というのも確かだ。
というか、だとしたら、俺は随分前から大和さんの事、好きだったのかもしれないな。けど、今までの人生では、俺は人を好きになることがなかったから、その先入観が気付かせていなかったのかもしれない。
まぁ、何にせよ結論は出た。俺は大和さんに言った。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
そう言うと、大和さんは目を見開いた。そして、真っ赤だった顔をさらに赤らめて、ホッと息をついた。
「………この前の話が勘違いだって言われた時は死んだと思いました…………」
「アレはほんとすいません……」
「他の子に、ああいう事言っちゃダメですからね」
「ダメ、ですか?」
「当たり前です。言っておきますけど、私は結構嫉妬深いですからね」
大和さんは微笑みながらそう言った。これ、大鳳さんとのトラブル、絶対言えないな。
「それより提督」
「何?」
「私達、恋人なんですよね?」
「まぁ、そうなるな」
「恋人になったら?何かすることがあるんじゃないですか?」
「…………え、何。恋人になるのってなんか儀式あるの?魔法陣とか書いた方がいい?」
「違いますっ」
大和さんは、観覧車の椅子に座ったまま、俺を見上げて、若干顎を上げて目を閉じた。
まるで、キスを待っているような顔だ。
「…………マジ?」
「ただでさえ、女の子から告白させたんですから。キスくらいは提督からして下さい」
「………え、何そのルール?男って先制攻撃が当然なの?」
「いいから。………キスを待つの、結構恥ずかしいんですから」
「いや、もう何度も裸見られてるくせに今更恥ずかしがる事は無」
「蹴りますよ?」
「ごめんなさい」
大和さんが再び、キスを待つ顔になったので、俺は覚悟を決めた。
大和さんの口に、俺の口を近付けた。
なんか深夜テンションでいつの間にかゴールしてた。