第19話 夢
夜中。俺は、自室にいた。一人でぼんやりと布団の上で座ってると、コンコンとノックの音がした。
「あーい」
返事をすると、大和さんが入って来た。寝間着の着物を着て。酒に酔ってるのか、少し顔が赤い。
「どうしました?」
「いえ、その……本日、お付き合いすることに……なりましたよね?」
「え?あ、はい」
大和さんは俺の横に座った。え、ちょっ……何?近くない?
「………恋人同士になったら、する事……ありますよね?」
「あ?あー……デートとか?」
「その後です」
「そのあと?家まで送るとか?いやでも同じ建物に住んでるし」
「例えば、デートをした後に少し疲れちゃったとしましょう」
「早く帰って寝たいよね、さっさと」
「そしたら、そこにホテルがあるじゃないですか」
「え?この辺、ホテルなんてあったっけ?」
「そこで、二人して入って、好きな部屋を選びます」
「ホテルの部屋なんてどこも一緒でしょ」
「部屋を選んで入室してー……そうですね、一緒にお風呂入りましょう」
「いやいや、そんな事したら休めないでしょ。超疲れそう。主に精神的に」
「そのまま、私があなたの背中をお流しします」
「いやいやいや。自分の体は自分で洗うから。あまり人にベタベタ触られるのは」
「そのために、私の胸にボディーソープを垂らします」
「好きじゃな……はっ?」
「それでは、行きましょうか」
「え?」
大和さんは俺の腕を引っ張って立ち上がった。立ち上がった拍子に、着物が全て脱げ落ちた。
「ちょっ、大和さぁん⁉︎」
「さ、行きましょうか」
大和さんは俺の腕を引っ張った。
「待て待て待て待て待って!タンマタンマタンマ!お前飲んでるだろ⁉︎ちょっ、」
「今夜は、寝かせませんよ♪」
大和さんがそう言って、俺を風呂場に連れ込もうとした直後、
「………とく、提督!」
目を覚ました。どうやら、夢だったようだ。
誰だか分からないが、俺を起こしてくれたようだ。
「おはようございます、提督」
大和さんだった。
「ひぃっ⁉︎」
俺は思わず後退りした。
「ど、どうか致しましたか?提督」
「い、いやっ……」
だ、大丈夫だよね……?襲って来たりしないよね?
「お、おはようございます……大和、さん……?」
「提督?具合が悪いんですか?」
大丈夫、大和さんはあんなクソビッチじゃないだろ。そもそも、今は酔ってないし着物も着てない。ダイジョウブ。
「いえ、大丈夫です……」
「もう朝ですよ。いつまで寝てるんですか?」
「すんません……。昨日の夜、中々眠れなくて」
「? なんで、ですか?」
「大和さんとお付き合いしたと思うと眠れなくて」
「て、提督……!そんな、やめて下さい」
照れたように、頬をぽりぽりと掻く大和さん。
「じゃ、起きますか」
立ち上がって、伸びをするとシャワーを浴びに行った。
軽くシャワーを浴びると、着替えて自室に戻った。すると、ちゃぶ台が出てて、その上に料理が用意されていた。
「おっ?」
「あっ、あのっ……僭越ながら、朝食をご用意させていただきました」
………マジでか。俺が、女性の手料理を……?
「良いの?」
「はい」
過去に散々、リア充爆死しろとか思って来たけど、いざ自分がリア充になると、すごくあれな。たまらんな。
食卓に並んでるのは、なめこ味噌汁焼き魚白米サラダ納豆と、まぁオーソドックスなメニューだった。
ちゃぶ台の前に座って、「いただきます」と手を合わせた。大和さんはそわそわしながら俺を見ていた。
まず、俺は納豆を混ぜると醤油を入れて白米にぶちまけた。
「おおっ、美味っ」
や、マジ納豆食えない奴ってなんなんだろうな。見た目ネバネバしてて寄生虫の卵みたいとか思うかもしんないけど、外見ならスクランブルエッグのがヤバくね。あれは最早、スライムの死骸なまである。
続いて、サラダをかっ込んだ。俺は小学生の頃からベジタリアンだったので、野菜は好きな方だ。
「これ、トマト甘いですね」
一人で食べてるわけじゃないのを思い出し、大和さんに声をかけると、ツーンとした表情でそっぽを向いていた。
「? 大和、さん?」
「なんでサバから食べてくれないんですか?」
「え?いや、俺は白米から食べる人で」
「ご飯も納豆もサラダも全部、素材そのものの味じゃないですか!焼き魚とかお味噌汁とかの感想を聞かせて下さいよ!」
ふむ、確かに。俺は味噌汁を一口飲んだ。
「……………」
大和さんがすごい見て来る。なんか、ここで美味いって言ったら面白くないよね。
「俺、味噌汁は薄味のが好きなんですよね。あと、ネギは長ネギ派。あとわかめも必須だと思うんですよ。あまりキャベツが入ってるのは……」
そこまで言って言葉を切って、大和さんを見た。目を輝かせてメモしていた。
「………あの、大和さん?」
「なんですか?続きは?」
「なんでメモしてるの?」
「今、褒められるより、提督の好みを知る方が大事ですから」
「……………」
俺は両手で顔を覆って目を逸らした。煽ろうとしたらカウンターを喰ってしまった……。
すると、大和さんが俺の横に寄り添って頭を撫でて来た。
「もしかして、今照れました?」
「ーっ!」
「提督も可愛いところあるんですねー。顔真っ赤にしちゃってー」
う、うぜぇ……。つーか、照れてないし。
俺は何となく悔しかったので、胸に手刀を打ち込んだ。
「黙れパッ……」
パッド!と、言おうとしたら、もにゅっと変な感触がした。大和さんの胸が柔らかいのだ。装甲を付けてるはずなのに。
ワナワナ、と言った感じで顔を真っ赤にして、怒りのあまり小刻みに震えてる大和さんに恐る恐る聞いた。
「あっ……あの、胸部装甲兼オッパイマシマシパッドは?」
「………取りました。提督が、いつもいつもからかって来るので」
「………通りでいつもより小さいと思っ」
そこで、ガンッとゲンコツを喰らった。
「ごめんなさい」
「はい」
大和さん怖いなぁ。まぁ、怖いから怒らせて構ってもらうのが楽しいんだけど。
「それで、提督」
大和さんがご飯を食べながら言った。
「なんですか?」
「折り入って、ご相談があるのですが」
「何?」
「わ、私達、その……お付き合いしてるじゃないですか」
「うん」
「だから……せめて、勤務外の時は、私のことを呼び捨てで、タメ口でお話ししてくれませんか?」
「えっ」
「なんか……他人行儀で、嫌なんです」
そういうもんか?まぁ、俺は別に構わないけど。
「分かったよ、大和」
「では、改めてよろしくお願いしますね」
大和さんは、笑顔で微笑んだ。
++++
伸びをしながら、俺はポストの中を覗いた。今日の書類を見た。
「うげぇ……面倒臭ぇなぁ……」
俺はため息をついて、書類をパラパラと見た。書類を脇に抱えると、続いて一般郵送の宅配物を見た。
その中に、白い封筒が入っていた。
「?」
差出人『謎のお艦』。なんだこれ、どこの鳳翔さんだ?
中を開けてみると、居酒屋鳳翔の貸切券が入っていた。あの人、隠し事下手過ぎでしょ………。
しかし、居酒屋か……そういえば、大和さんと飲んだ事なんて無かったなぁ。
「今度、誘ってみるか」
執務室に戻った。