貸し切り券を持って、私と提督は居酒屋鳳翔に向かった。お店の中に入ると、中はいつもと机の数が違った。四人がけの机が一つ、真ん中に置かれていて、他の机は見当たらない。隅っこには布団が畳んで置かれていて、なんか少し広い1LDKみたいだった。
…………ていうか、布団があるって事は、一泊しろって言われてる?あと、布団が一枚しかないって事は………。
わ、私と提督でナニをしろと⁉︎
真っ赤になる顔を必死で抑えてると、提督は「腹減ったー」と呑気な声で席に座った。少しは緊張しなさいよ!
「大和さん、座らないんですか?」
「大和さん?」
「………大和、座らないの?」
「今行きます」
私は提督のお向かいに座った。
「何食べる?」
「提督の好きなもので」
「………いや、俺お店で注文できないんです……」
そういえば、コミュ障だったわねこの人………。
「分かりましたよ……。すみませーん、唐揚げとお刺身の盛り合わせと軟骨揚げ野菜炒めネギチヂミビール二本たこ焼き!」
「はぁーい」
鳳翔さんはいるんだ……。と、思ったら30秒くらいで料理が運ばれて来た。
「早っ⁉︎」
提督がリアクションする間も無く、料理とビールは机の上に並べられた。
鳳翔さんは最後にポケットから鍵を取り出して机の上に置いた。
「ごめんなさい、提督。私、これから用があるので失礼しますね。お店の鍵、お願いします」
「え、あ、はっ、はい……」
「では、失礼しますね」
鳳翔さんは裏口に消えていった。その後ろ姿を見ながら、提督が「経営者も大変だなぁ」とか呟いてたけど、別に経営者だからというわけじゃないと思う。最後に、私にウィンクして来たし。
「………じゃ、飲もうか。大和」
何も知らない提督は呑気にビールのジョッキを手に持った。私もため息をつきながら、ジョッキを持った。
「「乾杯」」
ジョッキを軽くぶつけて、グイッとビールを飲んだ。私はジョッキを置くと、お箸を持って唐揚げに手をつけた。あーん、と自分の口に持っていこうとすると、提督がその唐揚げをパクッと食べた。
「ふえっ⁉︎」
「んーっ……おいひぃ」
なっ……何その顔………⁉︎可愛い………。ていうか、顔赤くない?なんでそんな赤いんですか。
「おい、大和ぉ」
「な、なんですか?」
「お前、なんでそんな背ぇデッカいわけ……?」
「はっ……?」
「お前と二人きりで並んでると!俺の方が小さいから、弟みたいに思われんの!」
「え、お、弟?誰かに言われたことあるんですか……?」
「ないよ!言ってくれる友達なんていないし!」
「ご、ごめんなさい……」
よ、酔ってる………。ていうか、ビール一口で?嘘でしょ?
「え、じゃあ何を気にして……」
「だって弟じゃん!どう見ても!小鳥遊家みたいになってんじゃん‼︎」
「た、たかなし……?」
「大和さん‼︎」
「は、はい……」
「………慰めろよ」
「よ、よしよし……」
「子供扱いするな‼︎」
嫌だこの人面倒臭い。提督が不機嫌そうに料理を摘んでいたので、私はお望み通り慰めた。
「で、でも、提督には私がいるじゃないですか」
「……………」
「だ、だから落ち込まないで下さいよ………」
「大和」
「な、なんでしょう」
「隣に来て」
「は、はぁ」
言われるがまま、私は椅子を持って隣に座った。直後、私の胸に顔を埋めて来る提督。
「大和ぉ〜……」
「きゃっ⁉︎にゃっ……なっ、何をっ………⁉︎」
「俺、もうダメかもしれん……」
「な、なんですか今度は急に………」
提督を抱き抱えながら頭を撫でた。
「いや、特にダメである要因はないけど」
クッ、この人は………‼︎
「よくよく考えたらさ、俺ってダメダメである要因なんてないんだよなぁ」
今度は自慢話ですか。提督は料理をまた摘みながらブツブツと呟いた。
「事務作業実技成績優秀、仕事も速くて顔だけならジャニーズに若干劣るくらいのイケメン」
この人、自分をそんな風に思ってたんだ………。
「それで大和さんみたいな彼女がいるとか……え、何この完璧超人」
「自分で言わないでください」
ていうか、性格が残念だし。まぁ、そんな人を好きになった私の言える台詞じゃないけど。
「でもなぁ……ほら、俺って性格がアレじゃん?」
「自覚はあったんですか……」
「いくら完璧でも、中身がダメじゃ、生きてる価値なんてないよなぁ………」
そこまで言わないでも………。
「周りに頼れとか言われても仕方ないじゃん!大体のことは一人で出来ちゃうんだからさ!」
あれ?自慢?
「結果出してんのに周りから避けられるってどういう事だよ!………まぁ、俺も周り避けてたけど」
「ま、まぁ……落ち着いて下さい。それでも、私がいるじゃないですか」
「けっ、雷かお前は」
…………ダメよ、大和。イラっとしては。相手は大きな子供、ある意味弟だと思えば然程腹も立たない。
「大和」
「は、はい」
「なんでもなーい」
あ、今のは少し可愛い。ムカつくけど。
私も料理を摘みながら、ビールをグイッと煽った。提督がボンヤリとした表情で私を見ていた。
「な、なんですか?」
「………大和ってさ、可愛くて美人だよね」
「ふぁっ⁉︎」
「外見は全然可愛くないし、むしろ美人なのに、中身はクッソ可愛くて美人じゃないよね」
「な、なんですか急に⁉︎」
「いや、ポンコツな所もあって……こう、ギャップがすごいなって」
「わ、私はポンコツなんかじゃありません!」
「しかも制服エロいし」
「エロッ……⁉︎」
「仕事してる時、たまにノースリーブの脇の下の辺りから横オッパイ見えてたんですよね。エロいなぁ、と思って」
なっ………この男は………!恥ずかしさのあまり、私の身体はプルプルと小刻みに震えていた。ていうかもう無理、私は部屋の隅にある布団をチラ見すると、ビールを一気に流し込んで、椅子を倒して立ち上がった。
「………提督」
「何?」
「不公平です」
「何が?」
「なんで前々から思っていたけど、私だけこんなに恥ずかしい思いしなくちゃいけないんですか⁉︎」
「あー、前におっぱい見たりスカート覗いたり色々あったからねー。まぁ、運が悪かったんじゃない?」
「運だろうとなんだろうと不公平です!」
「そんな事俺に言われても……」
「野球拳です」
「はっ?」
「それで公平に提督の身ぐるみを剥がして私が勝ちます‼︎」
「おおー、良いねぇ。その代わり、負けた方は勝った人の言う事を一つ聞くのな」
「上等ですよ‼︎」
私は拳を引き、提督も手首を回しながら構えた。
「「野球、するなら♪こういう具合に(以下略)」」
〜5分後〜
提督→靴すら脱いでない。
大和→身ぐるみ剥がれた。
「……………ッ‼︎」
「はい、俺の勝ちね」
死にたい………まさか、ストレート負けするなんて……。
「じゃ、俺の言う事聞いてもらおっかな〜」
提督はふらふらした足取りで、私の前に立った。で、私の顎を摘むと、くいっと自分の方を向かせた。
「さっきからさぁ……部屋の布団をかなり気にしてるみたいだけど、どうしたの?」
「ッ……!そ、それは……!」
「もしかして、あそこで俺と何かしたいとか思っちゃってる………?」
「ち、違います!」
「へぇ?それは、どうだかね?」
提督の手が、そーっと私の身体に伸びて行く。私は何故か抵抗できなかった。力でも身体能力でも私の方が勝っているはずなのに、身体を動かそうと思えなかった。
目をキュッとつむって、思わず覚悟しそうになった時、提督の体が私の方に倒れこんで来た。
「きゃっ⁉︎」
「…………」
「て、提督………?」
「zzz…………」
………寝やがった……。とにかく、提督にお酒を飲ませちゃいけないことがわかった。