翌日、プールの日になった。俺は鎮守府の外で大和を待っていた。
…………暑い。暇なんだけど。てか、大和遅くね?10分過ぎてるよ。別に気にしないけど。
「お、お待たせ致しました!提督」
あ、来た。
「どうも」
「申し訳ありません、お待たせして」
「いや、全然。ちょっとサウナの中にいた気分になってただけ」
「うっ………」
「や、責めてるわけじゃないんで。車で良い?」
「えー、歩いて行きましょうよ」
「え、いやだってこの炎天下の中を?」
「良いじゃないですか、デートは長い方がいいでしょ?」
「いや、まぁそれはそうだけど………」
仕方ない。俺は大和に手を差し出した。大和は微笑みながらその手を取って歩き出した。
「………提督も随分と慣れましたね」
「まぁ、もう四ヶ月だからね」
「いつの間にか、仕事中でも『大和』なんて呼び捨てするようになって」
「大和くらいは、呼び捨てでも良いかなって思っただけだから」
「それは、大和は気を許されてると取って、よろしいでしょうか?」
「端的に言えば」
「…………提督って照れたり恥ずかしがったりしないんですか?」
「いや、するよ。ただ、少し前まで自分の事を存在自体が生き恥を晒してる奴だと思ってたから、今更照れたりしたところでって感じの考え方が根まで埋まってて」
「………なんでそんなに自分を落とすんですか」
「プライドを捨てれば悔しい思いしなくて済むし、この世の人間全員が自分より上と思えば、そのプライドを捨てられるでしょ?マイナス思考の自己防衛だよ。………まぁ、大和と付き合ってから、その考えは止めようとしてるけど」
「…………なんでですか?」
「そりゃ、俺の事を好きになった大和に失礼だからでしょ」
「………………」
「あ、今照れた?」
「うるさいですっ」
「可愛い」
「うるさいっ!」
顔赤くして、大和はプンプンと怒った。ああもう、そういう幼い仕草が可愛いんだよ。
「えいっ」
「ひゃうっ⁉︎」
脇腹を突くと、ビクッと腰を横に振った。
「て、提督!」
「ひゃうっ⁉︎だってー」
「お、怒りますよ⁉︎」
「大和って脇弱いんだよなー」
「ひゃっ!ちょっ……突かな……ひゃんっ⁉︎」
「脇の下っ」
「キャンッ……!こ、このっ……良い加減になさい⁉︎」
「顎が痛い⁉︎」
アッパーカットを喰らいました。
「まったく……その小学生みたいな癖はなんとかならないんですか?」
「かまちょなんだよ。仕方ないじゃん」
「ガキ」
「人生を楽しむコツは童心を忘れない事って銀さんも言ってましたよ」
「漫画の受け売りを自分の事のように言わないでください」
そんな話をしながら駅に到着した。電車に乗って、
移動すること数分、どこかの駅で降りて改札を通った。
「んー……電車ってやっぱりあまり慣れないわね……」
「そう?まぁ、俺も好きじゃないかな。電車の中で喧しい学生とか嬲り殺したくなるし」
「いや、それは流石にありませんけど……相変わらず闇が深いですね………」
うるせぇ。ただ、俺は騒がしいのが嫌いなだけだ。
「でも、プールとか学生たくさんいるんじゃないですか?」
「いや、少なくとも都会の学生……というより、大学生や高校生のリア充共は、小学生の時に何度も行った所為で、プールには何となく『子供っぽい』っていう先入観があるんだよ。だから、奴らは少し遠出して海に行きたがるんだ。よって、プールには子供か子連れの親しかいない」
「どこまで深読みしてるんですか……」
「まぁ、本当にそうか知らんけど」
「完全に被害妄想ですね……」
うるせぇ。悪かったなこの野郎。なんだかんだでプールに到着した。
お金を払って、更衣室に向かった。大和は少し恥ずかしそうにしていた。多分、鎮守府以外で服を脱ぐ機会なんてなかったから、少し緊張しているのだろう。
まぁ、そのくらいは周りの人が服脱いでれば自分も恥ずかしいとは思わなくなるだろうから大丈夫だろうな。ホント、集団心理ってすごいわ。
更衣室で海パンを履いて、ゴーグルとぺしゃんこの浮き輪とビーチボールとその他諸々の道具を持って出た。予想通りというかなんと言うか、大和はまだ来ていない。
「……………」
暇だったので、浮き輪を膨らませ始めた。パンパンに浮き輪を膨らませた後、今度はビーチボールを膨らませる。
…………まだ来ないの?さっきから通る人が俺の事をジロジロ見ててなんか嫌なんだけど。
そんな事を思いながら女子更衣室を見ると、大和が女子更衣室の入り口から、俺の事を見ていた。
「……………何をやってんだあいつは」
どうしよう。どうするべきなんだろう。声かける?いや、でも女子更衣室に何かしようとすると、その時点で監視員に見つかって逮捕される気が………(超偏見)。
「……………」
どうしよう。大和はなんかずっとこっち見てるし。あ、もしかして照れてるのかな。そんな今更だろ、もうおっぱいもま○こも見てるのに。おっぱいもま○こも見てるのに挿れてないって異常だな。
そんな事を思ってると、後ろから「あの……」と声を掛けられた。
「?」
「お一人ですか?」
知らない女性二人が声をかけて来た。あ、やばい。提督、ピンチ。ていうか、ビーチボール持ってて一人なわけねーだろ。
「え、いや………」
「良かったら、私達と泳ぎませんか?」
「え、あ………え?」
え、何これ。逆ナン?それとも新手のハニートラップ?ま、待て。落ち着け。何にせよ断らないと。いや、でも相手を不快にさせないように断らないといけないし………な、なんて言えば………。
「あ、もしかして緊張してる?」
「大丈夫だよー、お兄さんイケメンだし、良い体してるし」
良い体してるってなんだよ。モデルのスカウトなの?っていうか、何一つ大丈夫な根拠になってないしそれ。
って、違う。いいから断れよ俺。いや、だから断り方を考えてるんだってば。
「いや………その……あ、アレなんで」
「? アレって何?」
「え、いや……あ、アレルヤ・ハプディズム的な?」
「ぷっ、何それー」
「面白い人ですねー。お話は泳ぎながらしませんか?」
あれ?なんかもう一緒に泳ぐ事確定してない?ああ、やばい誰か助けて………。
断る方法を必死に模索してると、後ろからカツカツと歩いて来た誰かが、俺の腕を引っ張って女の人達の横を通り過ぎた。うおお、腕がおっぱいに当たってる!水着越しのほとんど生乳とも言える柔らかさが!
「っ⁉︎」
「ち、ちょっと!何よあんた⁉︎」
「その人は私達が………!」
そう後ろから声が聞こえ、俺の腕を掴んでる本人はピタッと足を止めた。
そして、怒りを隠すこともなく女性達を睨み付けて言った。
「この人は私の彼氏です‼︎」
大和だった。そのまま俺の事を引き摺る形でプールサイドまで歩いた。
「いやー、助かったよ大和。死ぬかと思った」
「私は殺そうかと思いました」
えっ、怖っ。
「なんでさっさと断らないんですか⁉︎私がいるのわかってて‼︎」
「………あ、そゆことか……。いや、悪い。なんて断れば良いか分からなくて」
「彼女がいるのでって言えば良いでしょ⁉︎」
「…………ああ、それがあったか。彼女いた経験ないから分からなかった」
「コミュニケーションが苦手なのは知っていますから、少しは許容しようと思っていましたが……にしてもぼんやりし過ぎでしょう!あれを見ていた私の身にも、なって下さいよ…………」
「……………」
確かに、大和がナンパされてたら、俺ならそいつの事を一時間くらい縄で縛って流れるプールに放り込んでたかもしれない。
「…………すみません」
「いえ、断ろうとしてたのは分かってましたから、良いんですけど………」
「でもアレですか?嫉妬してくれてたんですか?」
「っ!…………そ、そうですよ!悪いですか⁉︎」
「いや、悪くないよ。ホント、ごめん」
「い、良いです。お昼奢りで許してあげます」
まぁ、お昼くらいなら良いか……。人がいるところでは、流石にたくさん食べたりしないだろうし。
「じゃ、俺たちの場所作りましょうか」
俺はブルーシートを広げ始めた。その俺の肩を、大和はツンツンと突いた。なんだよ、まだなんかあんのかよ、と思って振り返ると、大和はさっきまでとは違い、恥ずかしそうに顔を赤らめて俺を見ていた。
「…………て、提督」
「はい?」
「何か、言うことは?」
「…………パッドなくてもやっぱ大きいですね、とか?」
「…………やっぱり殺しますか……」
「ええっ⁉︎え、えっと……エロい体してるね、とか?」
「…………次、次変なこと言ったら帰ります」
「えっ……えっと…………」
な、なんだよ……なんて言えば………!あ、分かった。
「水着姿も綺麗ですね………とか?」
「………………そうやって予想の斜め上を行くんですから(小声)」
大和は顔を赤らめて斜め下を見た。何を言ったのかイマイチ聞こえなかったが、許されたみたいだ。
俺はブルーシートを広げると、真ん中にパラソルを置き、パラソルから半径3メートルの円を描くように、赤外線式電撃バリケードを置いた。
「大和さん、これ着けて」
「なんですか?これ」
「腕輪。これ着けないでこの円の中に入ったら感電死しますから。これで荷物番は完璧です」
「……………は?」
「じゃ、遊びに行きましょうか」
「待ちなさい!荷物番にこんな危険な罠を仕掛ける人がいますか⁉︎」
「…………やっぱダメか」
「せめてブルーシートの範囲にしなさい!」
と、いうわけで、ブルーシートの範囲に絞った。
俺は早速、目の前の流れるプールの中に入ろうとすると、大和に腕を掴まれた。
「待ちなさい」
「? 何?」
「準備運動が済んでいません。ちゃんと身体を伸ばさないと怪我をします」
「………………」
このクソ真面目………。
言ってることは間違ってないので、ここでゴネるわけにもいかない。
軽く体を伸ばしてから、俺は水の中に飛び込んだ。飛び込んだ、と言っても思いっきりジャンプしたわけではなく、ゆっくり足から入るのが面倒だったので、ドボンッと足から落ちる感じに入った。
大和の方を振り返ると、水の中に入る経験なんてほとんどなかったからか、しゃがんで、手を水につけた。ジャブジャブと水を触ると、今度は足で水に触れた。「ひゃっ」と小さい悲鳴を上げた後に、今度は逆の足をゆっくりと水面に伸ばした。
……………焦れってぇ。俺は水中に潜って、気付かれないように大和の足元に移動した。そして、足が着水した直後、
「ぼばえ、ぼぶにぶばれべびる?(訳:お前、僕に釣られてみる?)」
と、言って足を掴んで引き摺り込んだ。
「ひゃぁアァああアッ⁉︎」
悲鳴を上げて水の中に落ちる大和。その間に俺は水面から顔を出した。
しばらく沈んだあと、プハァッと大和は顔を出して、水を払うと俺を睨んだ。
「てぇいぃとぉくぅ〜‼︎」
「ムシャクシャしてやった。後悔はしていない」
「覚悟しなさい!」
「お、やべっ」
「待ちなさーい‼︎」
流れるプールの中で、鬼ごっこが始まった。