とある大地の、とある黄昏れた広場。
「魔力パスを……………切、る?」
「…そうだ。それしか無いと思ってな」
すっかり白い髪がほどよく伸びた彼が、僕にそう切り出した。
僕と彼の身長はとても離れていたけど、両者の顔の向きは互いに一切としてブレることはなく。
僕はごく当たり前のように上を向き、彼は下を向く。
ただ、その声色は、互いに揺れていた。
「言わなくても、まぁまだわかってるとは思うが…。
俺とあいつじゃまだどうにも『うまくいかないらしい』。
人知れず存在する、歪をもたらさずに大地に足を運ぶことが、あの星ではできない」
彼の声は自らへの怒りに震えていた。
その震えのままに、かすかにひねり出すように。
「――だから、お前があいつらを。
俺達の故郷に連れてってくれないか」
それはとても寂しく。
とても深い慈愛に満ちた懺悔と共に、その口から吐き出された。
「……………」
「適正はある。お前はもとより因子によって肉を成した身。
俺からの神格の分割調整と、あいつからの加護を施して、何度か鬼械神へと昇華もした」
「そいつを独立させて、お前自身の鋼に完成させる。
そうすれば今なら適宜上は低級神性で、『渡り』にもあいつらを乗せて耐えられるはずだ」
「―――――」
何を言えば良いのか、分からない。
僕の口から声にならない叫びが、ただ無音となって響いていた。
当然、それが聞こえない彼じゃない。
「ねぇ、マスター」
「…ああ」
怖いよ。怖いんだ。
マスターと離れることが。この胸が空っぽになって、虚しさで今にも弾けてしまいそうで。
「…ねぇ、マスター」
「……ああ」
苦しい。苦しいんだ。
死に曝す僕に、救いも愛もとこしえも、決して見えないはずの背中を見せてくれた、君から離れることが。
「――……マスターッ!!!」
「――――――」
共にマスターの子達を、ニャル子とマスターと一緒に愛したけれど、けれど。
僕がいちばん大切なのは、あなたというよすが、なのに。
「僕は――僕はっ!!!!
マスターと別れたくない――わかれたくなんか!」
群れから外れた僕という誰かを、生有るうちに見出してくれた、最初で最後の人。
ただ虚しいだけで終わった僕という灯火に熱を与えてくれた、相棒たる人。
手を差し伸べ、くっつくことが許されないはずのこんな僕を、一度狂うまで抱いてくれた人。
僕はあなたが好きだ。
決して結ばれなくても、ずっと一つでいたかった。
だから――
「わかれたくなんか――ない、のに」
「…ああ」
でも彼は、同じでも違うんだって、気づいてた。
僕にとっての家族で、彼にとっての最愛の人が居る。
彼女には彼が必要で、彼にも彼女が必要だ。
――僕が彼の背中を任される相棒で。
――彼女が彼の横で微笑む平和なのだと。
僕も、マスターの心の分だけ、彼女のことが好きだから。
「だから、あいつらを任せられるのは、お前だけなんだ」
もう一人の僕だから。
最も信頼のおける鏡だから、もう一つの歩みを任せられる。
母なる大地を、二人に見せに行くことが、僕になら出来るんだって。
「…マスターは、そんなことを当たり前のように言うんだね」
「お前以上の適任がいないからな。リンクス」
「また会うために、お前に任せるんだ」
「――っ…!!」
瞳の奥の堰が張り裂けて、視界が滲んだ。
マスターの苦しさ。僕の苦しさ。
ドライを保っていた心の奥がついに耐えられなくなって、僕は涙を流して。
マスターの瞳も濡れていた。
「ます、たぁあああああああああああ――――」
その後、僕はマスターとニャル子の子供達を連れて、今いる星を出て――
「――ク―さ―」
少しだけ乱れた心で、カダスの宙域を渡ろうと試みて
「リ――――ん――」
だから、だから僕は、こんな結果を――
「「リンクスさんっ!!」」
≪!!!!!≫
呼び声で意識を取り戻し――
目覚めたそこは、既にカダスを超えていた。
どこか懐かしい黒い海の感覚が、ゴツゴツとした黒い外殻に触れている。
≪――僕は≫
「ティンダロスの生息域をギリギリ超えてたんだ…目覚めてよかった」
「私達も無事だよ!ひやひやしたぁ…」
僕の躯体に乗せた二人――クロアとできない子がそう話しかけた。
彼らはあのドッグファイトを超えてもだいぶ健在である。
さすがはあの二人の子供というべきか…
≪そうか…良かった≫
「? リンクスさん?」
託されているものの重さと、僕が今までどれほどまでに、荷を彼に受け止めてもらっていたか。
それがちゃんとわかったような気がした。
こればかりは、成し遂げなければいけないことだ。
それが二人との約束であり、同時のこの子達の長年の世話係である、僕の義務だろう。
その大きさを、自分ごとあの場で失いかけて、今幸運で助かって、気づいたのだ。
≪なんでもないさ――さぁ、そのうちもう着くよ≫
再び慣らすように強大な躯体を輝かせ、極光を奔らせて、この宇宙を飛翔する。
もう迷うことはない。
道も、僕の心も、新たな支えと成すべきことも、この胸の中に抱けているのだから。
≪僕達の故郷――僕達の星に≫
本編で相棒を果たし続けたリンクスのアフターでした。
本編~エピローグ間での補足の内容となっております。
ちなみに本編で説明出来なかった補足ですが、鬼械神化したリンクスの容姿がN-WGIX/vとなっている、等の理由について。
不死鳥→黒い鳥 にかけて、また本編での剣技の派生技として、鬼械神のときに光波を振るいます。
本編でも二段QBしたりしてたので気づく人は気づく。