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「あ!流れ星見えますよ!流れ星!
まるで“エニシ”みたいですね!」
声が夜空から聞こえた。
それは回転駆動する
少し前まで水平にバランスを保っていた躯体は、その声色と同じように慌ただしくよろけていた。
「…夜間走行が安定しないって言ってこの時間帯に私を呼んだのはどこの誰なの?
絶対その癖のせいでいつも墜落してるわよ、それ」
「そんなことないです!偶々上を向いていただけですよ!」
拠点の一つである木造家屋から返答した一人の女性はひどくため息をついた。
――ひどく浮ついている。
これが少し前の時分ならば、とても褒められたものではない。
女性が活発的に冒険者業をしていた頃は、この森の生い茂る北の空には、支配的とも言える亜竜の大群でさえ湧くものだった。
暗黒域と呼ばれた荒地脈領域の特に最北地は、かつて未開とも言えた海からの『渡り』である彼らの止まり木だ。
一匹見かけたら三十。
三十見かけたら千。
爪隠さぬもの、これ鏖殺ばすべし。
それが翼竜狩りを生業とした、この地の狙撃手の常識でもあった。
そういった慣習を知っている身からすれば、斜線上の空中で油断するなど、訓練中と言えどあっていいものではない。
女性は普遍的な狙撃を生業としているだけに、高空を飛翔する感覚も分野も分からぬものだがしかし、その考えは変わらない。
「…全く」
無論、時勢が時勢だ。
今この場でわざとらしく怒るほどの物事ではないが、星に目がくらむなど、狙撃手ではなく詩人のやることだと思う。
――【エニシ】。
縁。神たる火矢。因果の光。
誰彼がそう呼び始めたのか。
いや、その時が黄昏<だれかれ>だったからこそ、そう呼ばれて定着したのか。
それはその『彗星』を見た誰にも、当然私にも決してわかりはしない。
その彗星が流れた時を境として、土地の荒廃は止まり、世の野に蔓延る魔物は比較的穏やかとなり、そして暗黒域はその暴走を停止した。
並行四角の如く潰れたこの北の大地の最奥に在する魔霧の渓谷はその全てが崩れ、何もかもが去ったかのような空洞と化した。
その地に座していたと言われる魔王も、それを守護するものたちもまた、なにごともなかったかのように跡形もなく消えていた。
否、あるいはただ言い知れぬ役目を終え、去っていっただけかもしれないが――
この地に残された者たちは、空虚と化した最奥の地を見つめながら、ただただ新たな平穏を認識していた。
その中で。
「……平和ボケって、良いことなのやら悪いことなのか」
やたらと整った造形の獣の耳と尾が生えた空飛ぶ少女を見つめ、魔弾の射手・シノンはそう毒づいた。