白き主と黄金の剣閃 アフターデイズ   作:八つ手

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 「――星…か。

 宮藤の奴に限らんが、近頃のガキどもは随分とロマンチストも一層多くなったな」

 

 ライターの音が鳴り響くと、煙がなびいた先の窓から見つめる星空が一瞬の曇りに満ちた。

 自分で話題を振っておいて自分で話題の種を遮るとは、なんて意地の悪いやつだろうか。

 

 「顔に意見が出てるんだが。

 そんなに俺が気に食わないのか?」

 「終わったハシからわざとらしくなにか言って吸うのをやめろって言ってんのよこの中年」

 

 私はシーツが入れ替えられ、透き通る白さを取り戻したベッドに寝そべりながら、日々鍛えられ固くなった筋骨隆々の背中を見上げ、そう呟く。

 こればかりは女には持てないものだ。

 世の中、見てくれを鍛えるような職業のパワーウーマンも居るには居るのだろうが、そういった筋肉は『そういった用途』のものだ。

 少なくとも自分とは無縁の産物であり、全身のバランスも悪い。

 とてもとは言わないが、望んで手に入れられる男性のような筋肉は女性にはつかない。

 だからこそ憧れる…というよりは、この男が煙草を吸う瞬間が気に食わないので、こちらに目の保養を移しているだけとも言える。

 

 「ばっかお前、今これやらないでどうするっていうんだ」

 「だから嫌いだって言ってんのよ荒船、何度言っても分からないの?」

 

 たった今全裸でベッドに座りながら煙草を吸っている男の名は荒船哲次。

 以前の私の仕事仲間であり、戦いの師であった男であり、今はこうしてだらだらとセックスフレンドの状態が続いている。

 

 彼はこの北大陸でも中央大陸の詳細に詳しい生粋のレンジャーであり、未だに引く手あまたな技能指南者である。

 彼の生存方策と対策戦闘のメソッドは横に広く奥が深い。

 かくいう私も、かつて彼に世話になったといえるだろう。

 

 以前、私と彼に後二人でPTを組み、この北大陸で中心的に狩りを行っていた。

 私と荒船、それから『白狼』リースに、『怯える森』の桐原。

 PT間の連携も仲も決して悪くはなかったが、数年前、隻腕たる『深淵歩き』との戦いを境に、このPTは解散へと繋がった。

 この戦いでリハビリを余儀なくされる負傷を負った私に桐原…まぁあいつは出身村に帰ったので毎年とりあえずお歳暮を届けているのだが…

 に、老いた大樹のように枯れ果てた大男をまるで看取るように森林の奥へと消え、以降行方の知れぬリース。

 

 私のリハビリに日々日々付き合ってくれたのは彼だったが、それが一段落ついた頃に、私は唐突に彼に襲いかかった。

 “彗星”が見えて数年経ち、肉を取り戻す日々への言い知れぬ虚無感が至ったとばかりに、ある日私にそうさせたのだ。

 当然彼は童貞ではなかったし、私も知識ぐらいは知っている。

 そういうつもりならノッてやるという、特に忌避感もクソもなくその一夜を交えた。

 だが、その日の部分部分のことは、私はよく覚えていない。

 

 彼は酔った勢いだったんだろ、と私に言った。

 酒も入っていた覚えがあるので、虚ろに忘れかけたその日の中身に納得して、私は私に蓋をした。

 だが、こうして今日のように彼に会った日には、思い出すように体を求めて、また次の日に軽く別れる。

 そうした日々がもう二年は続いている。

 

 「で、お前はどう思うんだ」

 「どう…って、何が」

 「星だよ。“エニシ”だ。

 感傷に触れたのか?いつもはもうちょいばかしおとなしいが」

 「…悪かったわね」

 

 拗ねたように言葉を返す私は、何に悪かったと言ったのか自分でもわからず、そのまま毛布を深くかぶる。

 まだ体の熱が冷めていないのだろうか。

 いっその事ベッドから出て、思いっきり体を冷やしたほうが落ち着くのではなかろうか。

 

 「弟子を取ってみると良い、と言ったのは俺だったな」

 「…そんなことも言ってたわね。それは覚えてるわ」

 

 リハビリから復帰したての私に彼が提案したのは、彼自身が得意とするメンター業だった。

 当時仕事もなく、退屈だった私はその思いつきに似た案を受け入れ、一名ほど弟子を取ることにした。

 荒船いわく、他大陸からやってきた未熟な冒険者が多いとのことで、指南職はある程度ブランクが有っても経歴があれば問題ないとのことだった。

 

 その時に引き受けた弟子が、魔導飛行銃手である宮藤芳佳である。

 年の差は10ほど違うばかりだが、荒船の言っていたように未熟であり、意識の差は天と地に等しかった。

 彼女は東大陸の出身ではあるが、亜人の差別世代と非差別世代の間の代であり、その中でもほぼ非差別に近い意識の持ち主だった。

 彼女は大空をまたぐ『砂漠の鷹』という英雄に憧れ、魔道具の最低限の機構技術と新魔道具を携え弟子入りを志願するが、やんわりと断られたらしい。

 

 

 『私の技は一子相伝でな。子でもない限り弟子は取らないんだ。

 センスの分が大きすぎるのでな、私の異能はそうそう他人を羽ばたかせられるものではない』

 

 

 ――魔道具で飛ぶ君と、風をただ身一つで受け羽ばたく私では、その戦い方は異なり過ぎる――そう伝えられたと。

 

 英雄の言葉は、凛とした言葉の強さを持ちながら、芳佳の望む飛翔とに決定的な差異の意見を顕した。

 天才の妙というべきか、英雄はそれを練技と語った。

 誰しもつかむものはいれど、それが他人と同じものであることはほぼ無き達人の技であり、同時に自らの誇りであると。

 お前がつかむべき技は、私とは違うところにあるのだろう、と。

 

 失恋にも似た虚構を味わった彼女は、そうして流れるように北大陸まで行き着き、斡旋所で私の弟子として引き受けられた。

 見た目明るく振る舞う彼女に、私はすっかり『最悪の機能』の味を忘れた“かつての得物”をノータイムで押し付けたのであった。

 

 

 結果的に、何故か犬の耳と尻尾が生えたことに関しては言及してはいけない。

 というかなんなのあのマッド?猫耳だけじゃないの?なんで犬かつ尻尾にも対応してるの???

 

 

 …芳佳には確かに一定のセンスが有った。

 高機動戦闘をこなしながら狙撃戦に徹するというのは、並々ならぬ集中力と平衡感覚では同時になし得ないことだ。

 飛ぶことと狙い撃つことが直線で繋がっていると称されたと聞く『砂漠の鷹』と比較すると、たしかに別方向の才能と言ってもいいし、そう言わざるをえない。

 彼女はその上で治癒魔術にも長けているようで――

 

 「目の前の誰かを守れるように、遠くまで見て、遠くまで手を伸ばしたいんです」

 

 そうして、ただただ近さと遠さに重きをおいたのが宮藤芳佳だ。

 

 ――だが、だからこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 いわば焦点の合っていないレンズが彼女だ。

 見つめる瞬間に、見つめるべき場所にピントが合わない。

 それを合わせる素質はあるだろうが、意志が致命的なまでにそれに追いついていない。

 だから一層空で彼女はふらつく――その大本の原因が自らのココロであると、未だはっきりと自覚しないままに。

 

 意志の自覚、指向性の認識と強化は、人であれば誰しも困難なものといえる。

 だから私は、まずは技術的な目標を芳佳に持たせた。

 基本的な狙撃の得手に、生存のための技能の教授、さらには飛びながらこの問題z…魔導銃を完全に制御するという課題である。

 無論、後者については未だ達成のめどは立っていない。

 後の経過次第であり、月日と経験を追うものだと思っているため、そこは焦っては居ない。

 

 こうして誰かを教えるということにも別種の充実感があって、弟子が技術を一つずつ飲み込んでいくことにはゆったりとした楽しさを覚えてくる。

 まぁこの弟子、勝手に胸を揉んでくるとかいう悪癖とかが有って油断ならないのだが。

 そこじゃない。そこも問題だけど私が焦っているのはそこじゃなくて…

 

 「…揉まれるなら荒船のほうが、こんなに…」

 「お、もう一回戦やるのか?煙草吸っちまったが」

 「………あっ」

 

 油断した。完全に油断した。

 すっかり灰皿に火の消えた煙草が押し付けられていたせいで、考えの主点からずれたネジの緩んだ思考回路が口から飛び出していた。

 いつもならこの煙草を合図にして、一度全てを区切って話も何も終わってるのだから。

 この一番嫌いなこいつの煙草で現実に立ち返れば、私はドライさを取り戻せていたと言うのに――

 

 「えっと…キス以外なら、なんでも好きにしても、い、いいけど」

 

 …弱みは私にとって貸し借りだ。

 あとで言質にされないように、その場で交換しておくのが私の流儀だ。

 そういうことにしておく。

 …そういうことにしておきたい。

 

 

 ―― 一度旅路の熱を失い、それでもともに居てくれた人と、こんなに寂れた奴でも一緒に居れるなら――

 

 

 「おいシノン。最初にヤッた日のお前の言葉、覚えてるか」

 

 私は答えない。

 本当はきっと覚えているのだろうけど、もう二度と言葉に出せないだろうから。

 なんだかんだでずっと世話になって、数年かけて色々と教わって、私から返せるものがないまま、若すぎる旅が終わった。

 そんなワタシ自身がとてつもなく女々しくて、彗星の流れた日から少しずつ膨らんで、リハビリの終わる頃の最後に弾けたその感情ごと、恥ずかしすぎて奥に封じたものだから。

 

 「あの時と同じ顔してるぞ。それでいいんだな?」

 

 

 ――あんたと離れたくないから、責任を取って、だなんて――

 

 

 「…何も確認しなくて、いいんだから…だから、避妊もしないでいい、から」

 

 指南者としての道は、そんな私を私が受け入れるために彼が提示したものなのかもしれないと今気づいた。 

 尽く的を得るのがこいつなのだと、こういうときほど気に食わないまでに思い知らされる。

 なので血迷ってきっとこんな真似をしていると、一夜の過ちだったとさっきまでいつも納得してしまっていたから。

 

 「だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「よしきた。任せとけ」

 

 なので、今日ばかりは溺れてしまおう。

 あの日から突っぱねたまま引きずってしまったこれまでの分まで――

 

 

 

 

 「……おぉぉ、シノンさん、すごいことしてます…!」

 

 それを望遠鏡でガッツリ覗いていた淫獣宮藤は翌日、特訓のデイリーノルマを10倍にされた。

 

 

 




シノン(と荒船)アフター。
リンクス含め、最初のアフター3つほどは、以前別所でのリクを受けて書いたやつを掲載してます。

洋画でありそうなピロートーク。爛れた感満載に、夜の光る星という清涼感と怠惰がごちゃまぜになった、そんな雰囲気で。
英雄の戦いのあとに残された諸人達はどのように日々を振り返るのか。
本筋ではほぼ関わりのなかったNPC達だからこそ、こういった描写が映える。
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