――人々は、口を揃えて「“彗星”を見た」と言う。
おおよそ五年ほど前のとある一夜。
『エニシ』と称される、あらゆる者共を引きつけた星の光。
人々が何時からこの世界が平穏になったのだと尋ねられれば、必ずこの時この光景を指し示すだろう。
だがしかし。
足立透にとって、それはある意味で。忌むべきものにしか感じられなかった。
何故ならば――
「よくわからなけど、あの彗星ってのは
そう、誰かが。
本来、誰かがこの星から出ていったことなど、彼には知る由もない。
けれども、それを証明するものは――
「マルガちゃん。君のやっている“語り部”は、その誰かさんの記録なんだろう?」
「――そうね。でもアンタ、あいつには直接遭ったこと無いでしょ」
「直接の面識が無くても、仕事した相手のクラン名称くらい忘れるものかよ」
まして、同じ名称の書籍を知り合いが書き続けているなら、嫌でも印象に残るというもの。
「足立さん…」
「ま、僕には普段ほんっとうにどうでもいいことなんだけどね」
関係のない赤の他人だ。
面識もない相手の考察や考慮など、普通行うべきではないし、行えるものでもないが。
「でもね、何故か、そいつが…そいつらが、
彼らは確かに五年半前の真都の悲劇を覆した影の英雄の三人である。
だが、そんな彼らよりも更にそれに貢献した存在が居ることを、彼らは知っている――否。
彼らは忘れてなど居ないのだ。
「“彗星神話”って言ったか…何でもかんでも天の星の恵みだよね。…あの頃、真都以外にも数多くの騒動が遭ったと聞いてる」
「………」
「その頃の説明できないことの軒並みが――まるで星が攫って解決した。
――お星様になった戦士たちが居ました。
彼らはあらゆる戦いを乗り越えて、あらゆる苦難を乗り越えて。
果てしない何か…果てしない悪を打倒するために、皆が積み上げた意志という希望、時間という武器をその手に掴んで。
その最前線で、成すべきことを為し、絶対なる悪を討ち滅したのでした。
けれどそうして地の果てへと至る頃には、『故郷に居ることを許されなくなってしまった』のです。
その戦士たちの代表は、めおとでした。
彼らは、人に背負うことを許されない力を――かつての悪より奪い、取り戻し、そして為し得た力を手にしていました。
それ故に、星は彼らがここにいることに耐えられなかったのです。
めおとは星を飛び出しました。
二人で共に在れれば――何処に行ったとしても、生きていけるのだと。
光となって、星となって、ずっと過ごしていたかった母なる故郷から遠ざかって。
それを人々は、この星から離れた誰かの『替わり』に、『奇跡の星』だと、ただただ認識したのでした――
「それが具体的な誰かさんが実際に居たって話は僕も信じられないけどさ――でも君、最後に会ったんだろう?」
「…ええ。子丁寧に日記も渡されたわ…すごい文量のね。しかも国家機密がザックザクよ」
「それは知りたくなかったなぁ」
ともかく、実際にあった話が、何かのはずみで真実がぼかされ、そして忘れ去られるなら――
「まぁ僕はさ、思うんだよ――
真実を伝えることの出来ない無辜の怪物。
関係の薄ければ薄かったものほど別の認識に置換され置き換えられる、揺り戻しの相互合わせ。
何事も物事には貧乏くじが、帳尻合わせが存在する。
その最大の犠牲となったものたち。
「だから俺はそれが気に食わない。そいつらにこそ、最大の報酬を与えてやるべきなんじゃないのかねぇ?」
「ええ――私達もそう思うわ。だからここ数年、こうして時効になった機密ごと、物語にしてぶっ放してやってるんだけどね」
物好きだけが買う書籍。
『真黒髪翼』サークルの出版物でも、最もニッチなものとして続いているシリーズ。
その名を、白き主と黄金の剣閃と云う。
「だってこの都は、真実を伝え、遺す国なんだから」