ラブライブ!魔法使いのIFルート   作:そらなり

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お久しぶりです。そらなりです。

最近は学校でゲームばかり作っています。死にかけながら……() 
楽しいは楽しいんですがやっぱり締め切りに追われると厳しいですね……。こんなところで以前の毎週投稿が生きてくるとは思いもしませんでした。

長々となってしまいましたが、今回の話はこの作品の最初のお話のアフターストーリーとなります。前編になりますが、楽しんで読んでいただければと思います。


存在が消えた魔法使い

 禁忌。それは自分の周囲だけではなく世界全体を巻き込んだ魔法が大体を占めている禁じられている魔法。使用を禁止されているもので基本的に禁忌は世に知られていないものであるはずなのだ。しかし、誰も知らないというわけではなく、ごく一部のものが知っているからこそ、禁忌として成り立っている。

 

 その禁忌とされている魔法は例えば台風レベルの風を簡単に起こして見せたり、4月30日のワルプルギスの夜になれば少し過去の11月1日まで時間を戻すというものまである。

 

 その禁じられた魔法をとある少年は使った。命というかけがえのないものを操るという禁忌の中でも特殊なものを……。

 

 事あるごとに少年に絡んできた大将勝手を存在ごと消そうとした時に苦し紛れで撃った3つの弾丸が人質になっていた穂乃果、真姫、絵里の3人の体を撃ち抜いた。額を撃ち抜かれた穂乃果、腹部を撃ち抜かれた真姫、胸を撃ち抜かれた絵里。3人の様子を見てもとても助かるような状態ではないことが嫌ほど伝わってくる。だから少年は3人を助けるために禁忌を使った。

 

 命と対等なものはなんだか知っているか? 命と同じ重さなのは命だって言葉があるけど実のところ、それは正しいものではない。確かにどの命もかけがえのないもので、何物にも変えられないのは事実だけど、他人が生きてきた人生とその先の未来はその人にしかないものだ。その癖に他人の命が自分と同じなんてことは一切ない。命自身は確かに平等だ。しかし、目に見える命があるからその人の人生がある。過去と未来すべてを構築している見えない命は生き方次第で価値を変える。

 

 では、何がその見えない命と対等なのか。それは自分という概念……つまりは自分という存在だ。自分が生きていたという確かな証。それを犠牲にすることで今までの過去とこれからの未知の未来を供物に他人の命と対等なものになりえる。

 

 多分これだけで察せる人は察せるのだろう。こんな禁忌を使ったのだから肉体があったとしても、寿命があったとしても、生命活動をそのまま続けていたとしてももうそこには存在しないものになっています。いわば無の存在。感知はしてもらえる。見られたり、会話したりすることができる。なのに記憶には残らない。これはただ他人から見えなくなって、忘れられていくよりも辛い、未来に何の希望もない時間を過ごさないといけない。死ぬよりもずっと辛いことだ。

 

 まだ、この禁忌を使って1日も経っていないからある程度覚悟しているとはいえ、少年はその苦しみを実感できていない。とそんなことを考えていると少年の頭の中に一人の少女の顔が思い浮かぶ。全く違う方法で似たようなことが起きた少女、アイシアのことを。けど、なんで今アイシアのことを思い出したんだろう? と少年が疑問に思う。しかしそれも数秒の事次の瞬間……あぁそうかと理由が分かった。いま少年がいる場所が第二の故郷である初音島だから。どうしても、少年のことを覚えていないμ'sに会いたくなかったから初音島(ここ)に来た。ここならμ'sのみんなにも合わないだろう。みんなはこの場所と少年を結びつけることなんてできないのだから。

 

 久しぶりにゆっくりと初音島を見て回っている少年はきっと安心しきっているだろう。ここなら自分に気がつく人はいないと。μ'sの誰にも会うことはないんだと……。見知った顔の両サイドにおさげを付けた女の子を見つけるまでは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって音ノ木坂。デパートで東條希は福引の列に並んでいた。一人暮らしの彼女にとって生活費の足しになるものは何としてでも手に入れたいところだろう。

 

「ほな、1回お願いします」

 

 1回分引ける抽選権を店員に渡し、希は店員の準備ができるのを待つ。

 

「はい。では左に好きなだけかきまぜた後、右に1回だけゆっくり回してください」

 

 店員は希にジェスチャーを交えて抽選機の回し方を説明した。希は店員の説明の後軽く新井式回転抽選器の持ち手を握り、祈るように中身をかき混ぜる。狙うは上位賞。ステーキは一人暮らしの希にとってうれしいものだし、ケーキバイキングは女子として目を引くものがある。そして旅行好きである希の最も目の引いたものが特賞にあった。このどれかを引いていきたい。そう思うのはガラガラを回す人にとっては当然の欲望なのだろう。

 

 ガラガラと中にある玉がぶつかり合い、音を鳴らしていく中、希はいよいよ右側に持ち手を移動させた。もうここからは己の運次第。いくら運がいい希でもずっと運がいいわけではない。だから外れるときもある。そのことを頭の片隅に入れながら、希は時の流れ、運の流れに身を任せた。

 

 覚悟を決めた希はそのまま抽選機の排出口が受け皿に近づくにつれてスピードを落としていく。やがて回っていた抽選機から1つの玉だけが出てきた。その玉をのぞき込めば希の姿が反射して見えるほど輝いたそれは、希の運の良さを物語っていた。

 

 受け皿に出た玉を見た店員は近くにあったベルを持ち上げ高らかにならす。

 

「おめでとうございま~す!! 特賞"初音島2泊3日旅行券"です!」

 

 ベルの音を聞いたお店にいるお客さんの拍手が上がる。でもその拍手が聞こえないくらい希は感動していた。

 

 初音島。1年中枯れることのない桜がある島として観光地にもなっている瀬戸内海にある三日月形の島。1年中桜が枯れないということでいつでもお花見をすることもできることから大型連休の際はかなりの観光客でにぎわっている島ではあるが希はまだ初音島に言ったことはなかった。それも過去に2回何の脈絡もなく枯れたことがある。その度また何の脈絡もなく復活している不思議な島でもある。行ったことのない地、しかも不思議なことが起こっている島に行くことができるという事実が希の好奇心をくすぐっていた。

 

 旅行券を手に入れた希はそのまま浮かれた足でデパートを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日、希の所属しているアイドル研究部では少しだけ奇妙なことについて話し合われていた。

 

穂乃果「でもさ、本当にこの動画は誰が撮ってくれたんだろう?」

 

 アイドル研究部にある唯一のパソコンにはμ'sが学校の設備紹介をしている動画が再生されていた。常にμ'sの9人が映っているその動画は"9人"しかいないアイドル研究部だけでは撮ることのできない動画だった。

 

 このことに気がついたとき、穂乃果たち2年生組はいつも手伝ってくれているヒデコたちにこの動画を撮ってくれたかどうかを確認していた。

 

 しかし、ヒデコたちにこの動画を撮った覚えはないという。ヒデコたちの答えがきっかけで今このことについて話し合われている。もしかしたらこの動画を撮った時のことを覚えている人がμ'sの中にいるかもしれないという僅かな期待をもった穂乃果たちから始まったこの話し合い。けど、どうやらみんなはその時のことを覚えていないようだ。

 

「でも、これは私たちの自己紹介の映像なのよ? ただのインタビュー動画なら三脚を使って私たちだけでできるけど、学校紹介も兼ねてるわけだしいろいろ校内を見て歩いてる。移動してる間も映像はあるし、みんな移動の時に移ってるから私たちの中で取ったわけでもない。それがいつも手伝ってくれる子たちじゃないとしたら一体誰がやったのかしら?」

 

 絵里は自分の考えを言う。確かにそうだろう。実際穂乃果たち2年生組以外がヒデコたちの答えを聞かずにこの動画を見ても何も思わなかっただろうが、手伝ってくれていたと思った人が手伝ってないと言えば、なぜ動画が撮れているのか疑問が出てくる。そしてその矛先はどうして動画があるのかではなく、誰が撮ってくれたのかという単純な疑問に行きついた。

 

「そうだよね……」

 

 絵里の言葉を皮切りにみんながそれぞれ考えてみる。そして最初にありえそうな可能性を見つけたのは海未だった。

 

「先生に手伝ってもらったというのは?」

 

 先生に手伝ってもらった。確かにいつも手伝ってくれているヒデコたちではないのであれば学校を紹介してる点を考慮しても学校側の人間である可能性は高い。それに先生が撮ってくれているのであれば学校のいろんな場所に行くのも難しくはない。現状一番あり得るような考えだった。

 

 しかし、例えその場面だけを見て先生に手伝ってもらったのだとしてもあることが説明できない。

 

「だったら私たちが覚えていないと思う? 私たちは学生なんだから先生が絡むと記憶に残るでしょ?」

 

 にこたちは学生だ。学生というものはいくら仲が良くたって、先生の前ではある程度緊張するもの。それも学校紹介という学校にとって大事なものを背負ってる中おちゃらけていつも通りにしていることなんていくら何でもできないだろう。それにカメラマンが先生であるなら、にこたちの記憶に根強く残っているはずだ。

でも誰一人としてその映像を撮った人のことを覚えている人はいなかった。

 

 にこの言葉からだんだんとこの現象への疑問が湧き出してくる。

 

「にこちゃんの言うとおりね。先生が一緒だと変に緊張することだってあるし」

 

 先生でもない、いつも手伝ってくれてる人たちでもない。これがどんなに不自然なことか、それは考えなくても分かることだろう。

 そしてここまで考えれば気になることはただ一つ。

 

「でも、ヒデコ先輩たちじゃなくて、先生でもないなら一体だれが?」

 

 この映像を撮ってくれた人は誰なのかという最初の疑問と同じこと。

 

「それなんやけど、アイドル研究部って本当に9人やったっけ?」

 

 凛が誰が撮ったのかと問うと、希が何かを考えながら呟いた。希がなぜそう思ったのか見当もつかない他の面々は信じられないという様子で希のことを見る。

 

「え? μ'sは9人だよ? それは希ちゃんが言ったことでしょ?」

 

 そして希以外の全員が思っているであろうことを穂乃果が代表して希に尋ねる。

 

「確かにμ'sは9人やけど、アイドル研究部としては本当に9人やったんやろうかって思ったんよ。ほら、そこに使ってない椅子があったし」

 

 希の言いたい言葉が他のみんなにも大体伝わり始めた。いち早く希の言いたいであろうことに見当がついた絵里は信じられないといった様子で口を開いた。

 

「つまり希はこの部に少なくてももう1人部員がいたって言いたいの?」

 

 震えた声の絵里の言葉に希は静かに頷いた。

 

「そうやな。多分そうなんだと思う」

 

 希がそう言い切った瞬間、驚きからみんなの目が見開いた。

 

「だとしても私たちが覚えてないのよ? それはどうやって説明するのよ」

 

 ありえない。きっとみんなの心の中にある考えはこの一つが大部分を占めているのだろう。にこもその例に洩れないようで納得のいかない部分を希に尋ねる。

 

「確かにそうなんやけど、ここにあるパイプ椅子って部員が増えてからその人数分揃えていたやんか? なのに1つだけ余ってるっておかしいと思ったことあらへん?」

 

 希はその考えに至った経緯を思い出しながら口にする。現在、このアイドル研究部の部室内には9人と10個の椅子がある。あらかじめ多めに椅子を用意していたと言われてしまえばそれまでのことだが、春までは1人しかいなかったこの部室は増えた部員の数だけ椅子を増やしていた。であればここに10個目の椅子があるのはおかしいのだ。

 

「確かにそれは思ったかも」

 

 希の言葉はみんなが今まで無意識のうちに覚えていた違和感を呼び起こす。それに加え、他にもよくわかっていなかった現象についても思い出させていた。

 

「それになんでかはわからないんですが、足りないような感じがするんですよね。変に間が空いている写真とか」

 

 海未の言う写真はμ'sとして撮った写真から過去に幼馴染たちと撮った写真までのことだ。

 

「あ! 確かにそれ凛も思った!! μ'sの集合写真もなんか左側が空いてるな~って」

 

 海未の言葉を聞いて、みんなが確かにと頷き始める。

 

「そう言われてみれば……。ただ単に写真を撮るのに失敗しただけかもしれないけど、それをホームページに載せてるのは違和感がありますね」

 

 花陽の言うようにただ失敗したと片づけることだってできるのだが、それをファンが見るホームページに掲載しているとなればただ失敗しただけではないのかもしれないという考えに至らせる。

 

「そうなんよ。しかもその間人一人を入れるとちょうどよくなるとは思わん?」

 

 写真のことからさらに希が考えていたことが告げられる。1人分の空白があるということを。

 

「確かにそうだとは思うけど……そんなことありえるの? みんなの記憶からその人だけの記憶が無くなるって」

 

 しかし、希の話を聞いたとしてもそう考えれば辻褄が合うとしても非日常的な現象があり得るとは今の真姫には思えなかった。

 

「でも、この違和感を解決しようとするならみんなの記憶から10人目の記憶が無くなっていて、もともとは10人目がいたって考えたほうが自然になるんやないかな?」

 

 それでも、こう考えれば辻褄が合うことだって事実。特に、占いという日常とは違う非日常的な部分を信じている希にとってこの答えは正解に近いものだと信じていた。

 

「それも……とても大事な人だったんだと思う」

 

 10人目の話題になった瞬間にずっと黙り込んでいた穂乃果が口を開く。

 

「最初はただ何かが足りないなって思ってただけだった。でもそれが日に日に強くなって、この動画を見ておかしいって気がついたんだ。上手く言葉では表せないけど絶対に私たちが経験してないようなことがあるんだと思う」

 

 この話し合いの根本を持ってきたのは確かに穂乃果だった。今まで感じていた違和感はここにはいないもう一人のことを認め始めている。それもとても大事な人だと認識したうえである。

 

「うちも穂乃果ちゃんの考えに賛成」

 

 希の言ったこと、穂乃果の感じたことを聞いたみんなはだんだん10人目の存在を認め始める。そんな話し合いをしていると部活動終了の時間になった。

 

 それから少しして練習も10人目のことが気になって身が入らなくなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 練習に身が入らないことを何とかしようと少しの間練習は休みにすることになった。

 

 その休みを利用して希はくじ引きで当てた初音島の旅行に出発した。

 

 新幹線で中国地方のほうまで行き、そこからフェリーで数時間かけて初音島に向かう。一年中桜が咲き続ける不思議な島。初音島。その島に希は初めて上陸した。

 

「ここが初音島……。本当に桜が咲いてる……。もう8月も半ばなのに。本当にスピリチュアルな場所見たい」

 

 初めての地、知ってる人はいないからこそ抜ける似非関西弁。目の前に広がる夏真っただ中にある咲き乱れる桜の様子はそれだけ希の心を乱させていた。

 

 最初に希が向かうのはこの旅行で止まることになっている宿だった。特に高級感は感じることはないが昔からあるような素朴な雰囲気を醸し出している宿泊宿。部屋数も多くなく、そんなに広いわけでもないこの宿は外に広がっている風景と合っていてとても心地よく感じた。

 

 荷物を置いた希が次に向かったのは初音島にある神社だった。胡ノ宮神社に向かった希は男坂にも似た石段を登り、鳥居をくぐる。いつも働いている神田明神とは違う見慣れない神社の風景。ココも初音島の中であるのだから当然ではあるのがだ8月なのに桜が咲いた胡ノ宮神社は希にとって明らかな非日常を感じる場所になっていた。

 

 その後希はお賽銭を済ませ、この宮神社を後にする。そんな希のことを驚いた様子で見ている少年に気がつかずに。

 

 希はその後商店街を見て回ったりとこの島の施設を少しだけ堪能していた。そして今日、最後に向かった場所は……。

 

「ここが、枯れない桜……」

 

 この島の象徴にして最も大きい桜の木がある場所。この島は年中桜が咲いていることで有名だが、それはとある伝説でこの大きな桜の木が原因であるとされている。こんな不思議な現象を起こしている桜の木だ、スピリチュアルを求めている希にとっては外すことのできない観光スポットなのだろう。

 

「……やっぱり、他の桜の木とは何かが違う……」

 

 桜の幹に触れ、高く咲いている桜の花びらを見る。その先に見慣れた制服を着た見慣れない人物がいることに気がつく。

 

「おーい。そんなところでなにやってるん? その制服、音ノ木坂の制服でしょ?」

 

「……っ!? 希か……」

 

 何かぼそぼそと喋っているようだがその声は希の耳には届かなかった。

 

 この場所にいることがバレたため、少年は桜の木から飛び降りた。高さにして学校の2階から飛び降りるくらいの高さ。明らかに大けがに繋がるであろうことをしている少年に対して希は驚きをあらわにする。

 

 しかし、少年が着地する寸前、ふわりと少年の体が浮いたような気がした。そして急に減速し、そっと地面に足を付けた。

 

「確かに、私は音ノ木坂の学生でしたよ。東條副会長」

 

「うちのこと知ってるん?」

 

 希は自分のことをスクールアイドルだと認識しているならこんなことは聞かなかっただろう。しかし少年が希を呼んだ時副会長であることを知っていると言った様子で話しかけられればこう聞いてしまうだろう。

 

「えぇ。ついこの間まで通ってましたから」

 

 希の問いに少年は短くそう答えた。

 

「転校したってこと? でもそんな話聞いとらんけど……」

 

 これでも希は生徒会の副会長だ。学校の基本的な情報くらいは生徒会に入ってくる。特に転校生や転校していく生徒に関しての情報はしっかりと先生を通じて入ってくるのだ。

 

 それなのに希はその話を知らない。そして見慣れない目の前の少年には違和感を感じざるを得なかった。

 

「記録も完全になくなってますからね」

 

 しかし、少年は希がそのことを知らないであろうことを知っていたかのような口ぶりでそう言う。

 

 記録が無くなっている。その言葉が希は引っかかった。転校したという記録が無くなっていて、今も学校にいないことになっているということは、そもそも入学、あるいは転校してきたことすら記録から何者かが消しているということ。そしてそれは記録を消した関係者でしか知るすべのない出来事だった。

 

「……あなた、何か知ってるの?」

 

 少年の言葉からそう思った希は真っ直ぐな瞳で少年のことを見つめながら、尋ねる。

 

「さっきの言葉だけでそこまで想像がつくなんて本当に東條副会長は鋭いんですね」

 

 かく言う少年も少しの言葉である程度の話を想定できた希に少しだけ驚く。……いや、評価しなおしたと言った方がおそらく適切なのであろう。

 

 希は少年に細かい話をしてくれるように、先日アイドル研究部内で話題に上がったことについて話し始める。

 

「ちょっとな、とある場所で話題になったんよ。記録も記憶もないけど確かに部活にいた人がいるって。そのことを覚えてたからやと思う」

 

 誰かがいたという記憶は希たちにはない。けれど、誰かがいたという痕跡だけは残っていて、それでも記録には残っていない。そんな不自然なことがあった後のこの出会い。どうしても関連付けて考えてしまう。

 

「へぇ……そんな話が……」

 

 自分のいない間にそんな話をしていることを知った少年は意外そうに笑った。

 

「だから教えてほしい。君は私たちμ'sと何かかかわりを持ってたんじゃない?」

 

 そんな反応をしている少年にさらにもう一歩歩み寄る希。自分たちとかかわりを持っていたのではないかという直接的な問いを尋ねる。

 

「……結論から言えばYes。そうですよ。……私はあなたたちの歌う曲の詩を書いていました。多分記憶上園田さんが担当していたと思いますけどね」

 

 ほんの少しの沈黙の後に返ってきた答えは肯定の言葉。そして少年は関わっていた時に担当していたことを告げる。

 

「確かに海未ちゃんが作詞を担当している。じゃあ聴きたいんやけど、学校紹介のPVを撮ってくれたのは君?」

 

 少年の言う通り記憶には海未が作詞を担当していた。だから嘘だと言い切ってしまうことも可能だったわけなのだが、なぜか少年の言葉には偽りの話をしているという感じはしなかった。

だから少年が話している内容が正しいという前提であの話題になったきっかけのことを聞いてみる。

 

「そういえばありましたね」

 

 それも当時のことを思い出しているのか遠い目をした少年は肯定する。

 

「やっぱり……。ねぇ、君の名前は?」

 

 やはり見ていてもうそをついている感じはない。そして、今の今まで聞いていなかった少年の名前を聞いた。その名前から何かを思い出せるかもしれないという淡い期待を抱きながら。

 

「時坂空也。……どうせ、すぐ忘れちゃいますけどね」

 

「時坂君……。空也君……。なんか思い出せそうなんやけど……」

 

 名前を復唱する希。自分の口から発せられる名前にはどこか懐かしい気分にさえなった。

 

「じゃあ、私はこれで。もう日も落ちてきましたし、東條副会長も早く戻るんですよ」

 

 しかし、空也は名前を教えた後日がかなり傾いていることを希に告げ、話を切り上げようとする。

 

「分かった。空也君、うちのことは名前でいいから。じゃあね、空也君」

 

 空也の言う通り時間は6時を回り、夕焼けと夜空の間の空が見える。踵を返し、空也に向けて小さく手を振りながら少し駆け足で宿泊する宿に戻る希。

 

「わかりました。希先輩」

 

 戻っていく希にそう言い、送り届ける空也。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、空也と別れた希は宿の前で立ち止まり枯れない桜のほうを見た希はひとつの疑問を口にする。

 

「……あれ? 私、誰と話してたんだっけ?」

 

 もやもやとしたまま希は自分の止まる宿へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初音島を出るまであと2日。

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

この後はどうなるんでしょうか? そして次の投稿はいつになるのでしょうか? いろいろと不透明すぎて混乱してしまいそうですがやり遂げるので安心してお待ちください。
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