いちご100% IF   作:ぶどう

11 / 11
第十一話

 

 古くは『唐人お吉』の例にもあるように、勘違いというのは碌な結果にならないことが多い。

 

 勘違いが単なる思い違いをしていたという話ならば笑って流せるが、勘違いが誤解を招いてしまうと面倒だ。往々にして恋愛事においての勘違いは誤解を招くことが多い気がする。

 

 典型的なのは思わせぶりな態度からの勘違い。後は痴情の縺れなども、そういった要素が含まれていることが多い。まあ、よく耳にする話だ。ドロドロの昼ドラでは定番の流れでもある。

 

 男女の交情というのは難しい。その難しさこそが醍醐味だという人もいるだろうが、オレはできることなら簡単であってほしいと思うタイプだ。好きなら好きとハッキリ言ってくれたほうが嬉しいし、その逆に嫌いなら嫌いとハッキリ言われたほうが切り替えるのが楽でいい。

 

「────と、まあ基本はそんな感じ」

「うん。なんていうか男の子らしい意見だね」

「まーな。だからもし仮に西野が脈ありなら、それっぽいサインを出してほしいと思うかな」

 

 勉強会での発言からの流れを汲んだ翌日。

 

 珍しく朝の早い時間から学校にやって来てはアドバイザーの東城と作戦会議をする。

 

 女子のことは女子に聞くのが手っ取り早いとばかりにアドバイスを求める。それは男なら見落としかねないポイントも、女子なら見逃さないだろうという根拠のない予想からだった。

 

「内海くんが思う脈ありサインって?」

「好きって言われたら流石に気づくわな」

「うん。そんな確定クラスじゃなくて、もっとこう、さり気ないサインってあるじゃない?」

 

 さり気ないサインと言われても難しい。さり気ないんだから中々気づかないんじゃないのか。

 

「なんだろう……。弁当を作ってきてくれて、白米の上にハート型のそぼろがあるとか?」

「うん……うん…………?」

「まあ、でもアレか。茶色のハートってなんか違うよな。ピンク色にするなら鮭の身かな?」

「色合いの話じゃ…………。ほ、他にはない?」

 

 なんだろうと頭を悩ませる。やっぱり行動で示してくれないとピンとこないように思う。

 

 オレの基準が元の世界の年齢であった20代の基準になっている。みんな好い年ということもあってか、知り合って少しでも興味を惹かれたらすぐ付き合うなんてことも珍しくなかった。

 

 それか『今は相手がいないから』とか『嫌いじゃないから』みたいな理由で付き合う人もけっこういた。それは年齢というか人によるのかもしれないが、基本的に学生時代と比べれば速い。何年も甘酸っぱく片想いなんてしていたら30代の足音が迫ってくるなんてことになるし。

 

「不意に頬にキスしてくるとか?」

「帰国子女じゃないんだから流石に……」

「なら下ネタが通じるとかはどうだ?」

「それは…………意外と否定できないかも」

 

 だからオレは中学生の脈あり基準なんて言われても的確なことがわからなかった。

 

 わからないと言うか忘れてしまっていると言うか。中学生の頃はどうだっただろうなんて思い返してみるも思い出せない。もう10年も昔の話になるんだから仕方ないっちゃ仕方ないが。

 

 変に勘違いをしてしまうのは避けたいところだが、今日は東城というアドバイザーがいるので頼ってみようと思う。事前にそれらしいサインや仕草を知っておけば、きっと役に立つだろう。

 

「お察しの通り色恋事云々に関してオレはボンクラだ。そんなわけで東城。アドバイスを頼む」

「うん。私もアドバイスをできるような経験なんてないけど、内海くん一人じゃダメそうだしね」

 

 そう言ってにっこり微笑む東城。柔らかい表情とは裏腹に言葉に少し棘があるような。

 

「ほとんど本や人伝から見聞きした知識の受け売りになると思うけど、一般的には────」

「ふむ。ふむふむふむ…………」

 

 東城の言葉に耳を傾ける。やっぱりというか女心ってのは男にはわからないものだ。

 

 視線が合うことや笑顔が多い。かと思えば目が合うと思わず逸らしてしまう。話をする距離が近かったりプライベートなことを聞いてくる場合なんかは相手に興味があるサイン。

 

 用事もないのに話しかけてきたり、意見や好みを相手に合わすといった同調行動をとること。行ってみたい場所の話なんかをされた場合は、そこへ誘って欲しいというサインの可能性が高い。後は相手と同じ持ち物を揃えたくなったりするのも、そういう気持ちの表れとのこと。

 

 それでいて性格の違いによってサインは変化し、必ずしも当てはまるとは限らないという難解さ。本当に女心ってのは複雑怪奇だ。これでは勘違いしてしまう野郎共が増えるのも無理はない。

 

「わかったような。わからんような……?」

「傍から見る分にはわかりやすいんだけどね」

「うーん。まあ、今日は東城のアドバイスを念頭に置いて西野と接してみるか。ありがとう」

 

 ともあれ情報も揃ったことなので、時間を見つけては西野に声をかけてみようと思う。

 

 授業の間の短い休み時間に他クラスまで行って話をするのは困難だ。長く時間が取れるのは昼休みか放課後。放課後は用事があるかもしれないし、定番ではあるけど昼休みが都合いいかな。

 

 そんなことを考えながら午前の授業を受ける。そういえば真中のヤツも『とっておきの秘策がある』とか昨日デカいことを言っていたけど期待していいのかな。若干不安ではあるけれど。

 

 いや、真中は締めるべき部分はビシッと締める頼りになる男だ。きっとオレなんかでは思いもつかない妙案を秘めていることだろう。雲を掴むような漠然とした難題であっても瞬く間に答えを導いてくれるに違いない。よし、期待しよう。

 

 そう思ってオレは真中の方を見ると、机の下でコソコソとなにかを読んでいることに気づく。エロ本でも読んでるのかなと考えていると真中の背後に音もなく先生が近づく。そして────。

 

「授業中に何やってんだ真中! 何だこの雑誌は『女にモテる50のコツ?』アホかお前!!」

「ち、違うんです先生! それは心理学の勉強にと思ってですね…………っ」

 

 先生に読んでいた雑誌を取り上げられ、その場でタイトルを読み上げられる真中。

 

 真中の苦しい言い訳むなしくクラス中が大爆笑に包まれる。先生に雑誌を取り上げられ、残りの授業中ずっと正座をさせられた真中を見ながら『やっぱりダメかもしれん』とオレは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休みになると足の痺れが抜けきらない真中を置いては西野のいる2組へと向かう。

 

 自分のクラスである4組から廊下に出るとひんやりとした空気が肌にぶつかった。空気の入れ替えのためか、開けっ放しにされている窓から入る外気は冬らしい冷たさを含んでいる。

 

 その冷たさに少し気が引き締まった。そして2組に着くと躊躇うことなく扉を開ける。締め切っていた教室の中へ入ると弁当の匂いとお菓子の匂いが混じったなんとも独特の香りがした。

 

「西野。ちょっと来てくれるか?」

 

 他クラスというのはアウェイなもので、中に入ると多方面から同時に視線を感じる。

 

 クラスが違うのでこればっかりは仕方ない。だがジロジロ見られるのは好きじゃないので最短で用件を済まそうとする。真中みたいに洒落たことはできないので普通に声をかけてみた。

 

 教室を見渡すと西野は友達とお喋りをしていた。出直そうかとも思ったが、お喋りをしていた友達が気前良く西野の背中をポンと押して送り出してくれた。『すまん』とオレはその子に軽く手をあげると『いいよ』とばかりにヒラヒラと手を振ってくれた。きっと良い子なんだろう。

 

「え、なになに? 何か私に用事??」

「用ってほど大したもんじゃないけどな」

「ていうか内海くん。2組に来るの、もしかして初めてじゃない? なんだか嬉しいなぁ」

「そうだったかな。まあ、ここで話すのもなんだし廊下に出て話そうか。ちょっと寒いけど」

 

 そう言ってオレは廊下を指差す。衆目の集まる場所でわざわざ話すようなことでもないし。

 

 そして西野を教室の外へと連れ出す。廊下は凍えるような寒さではないが今の季節、立ち話をするのに適した場所とは言い切れなかった。話をするにあたりオレは近くの窓を全て閉める。

 

 廊下はいくらかひんやりとしていたが西野は文句一つ言わずニコニコとしていた。思えば西野は普段から機嫌が良いのか笑顔なことが多い。東城の話していたサインの一つに当てはまる。

 

「それで話ってなーに?」

「いや、改まると話ってほどのことでもないかも。寒い中わざわざ連れ出して悪いな」

「ふふっ。いいのいいの。キミのことだから思わせぶりなオチの気もしてたしね。大正解っ」

 

 呼び出したのに話はない、と言ったにも関わらず西野は別段、気にしている様子はない。

 

 ほとんどノープランであったオレとしては非常に助かるがどうしてだろう。人が良いと言ってしまえばそれまでだが、なんだか西野はオレに対して妙に優しいというか寛大な気がする。

 

「特に話がないなら私の話を聞いてくれる?」

「いいぞ。願ってもないぐらい」

「内海くんって帰り道でよく缶コーヒー買って飲んでるでしょ? だから私も今朝キミの真似して買ってみたの。でもいざ飲んでみたら超苦くってね。でも残すのはもったいないし────」

 

 西野の話を聞きながらジッと観察してみる。

 

 距離は普段通り近いと思う。今日は意識して視線を合わせているが西野から逸らす様子はない。ジッと見つめるとジッと見つめ返してくる。その翡翠の瞳が宝石のように光輝いている。

 

 距離は近いが目は逸らさない。後はなんだったっけな。話しかけたのはオレからだし、コーヒーを飲んだって話も同調行動と受け取るには浅いか。朝イチのカフェイン摂取は基本中の基本だ。

 

 こうやって見聞きしていると、言行とは解釈の違いによって色々な受け取り方ができることに改めて気づく。都合良く解釈するなら全て当てはまるのかもしれないが、厳しい目で見てみると判断に迷うような部分が多い。

 

 だが確かに気を配って見てみると、少なくとも迷う程度には検討の余地があると思う。なら、どうしてオレは真中と東城に言われるまで気がつかなかったんだろう。鋭いとか鈍いとかいう以前に、なにか決定的に抜け落ちていたことがある気がする。それは一体なんだろうと考える。

 

「しかし難しいもんだ……」

「おーい。私の話聞いてる?」

「聞いてるよ。駅前のカラオケ店が学割効くって話だろ。んなもん100円かそこらの…………」

 

 半分うわの空で聞いていた西野の話に返事をしようとした瞬間、頭に閃光がはしった。

 

「…………ん? いや、待て。これは遠まわしに『カラオケに行こう』って誘われてるのか?」

「──────えっ!?」

「うん。よし、行こうか。それじゃあ何時が都合良い? 学校帰り? それとも休みの日?」

 

 危なくスル―してしまうところだったが、事前にアドバイスを受けていたオレに隙はない。

 

 どうよ、とばかりに西野に渾身のドヤ顔を向ける。西野はまさかのオレの的中に驚いたのか慌てふためいている。難聴系主人公じゃないんだから、誘いを聞き逃すわけないだろうに。

 

「え、ええ、ええぇぇぇぇぇぇ?」

「もしかして違ったか? てっきりカラオケに誘ってくれてるのかと思ったんだけど」

「いや、違わなくはない……ような…………じゃなくて! 普段のキミなら『学割なんて貧乏人じゃないんだから願い下げだ。むしろ値上げしないと行かない』って言うところだよね!?」

「え、普段のオレってそんな嫌味なヤツか?」

 

 金持ちキャラなんて出した覚えないけど。

 

 しかし的中したっぽいのに西野の反応は芳しくない。話の流れでこのまま日にちを決めるのかと思ったが、ここで謎のストップがかかる。廊下の温度が心なしか上がっているような気がする。

 

「どうしよう。ホント予想外…………」

「オレ的にカラオケのチョイスはアリかな」

「ここは普通に誘って────いや、でも少し遅れた感あるし。だったら──────ううん、そんな回りくどいことしたら逆効果かも。ならいっそ──────うん! 決めた決めた!!」

 

 まるでSNSに投稿する文面を熟考するかのように一人でぶつぶつと考え込む西野。

 

 誘ってはみたものの、あんまり気が進まないパターンだろうかと予想していると、考え込んだいた西野が元気の良い言葉と共に視線を起こし、オレをジッと見ては指差してこう言い放った。

 

「キミがどうしてもって言うんだったらね! 私が一緒に行ってあげても! いいよ!!」

 

 普段よりもいくつか高いトーン。声を張り上げたこともあり閑散とした冬の廊下によく響く。

 

 カラオケに誘われたと思って返事をしたつもりが、いつの間にやら立場が一転。なぜかオレが誘う側になっていた。高度なトリックに陥ったかのような、よくわからん錯覚に襲われる。

 

「ええっと、つまりどういうことだ?」

「ああ、もう違うの違うの。ホント違うの。時間を巻き戻してもう一回やり直したい…………」

 

 よくわからんオレは頭に疑問符を浮かべ、西野はその場にうずくまって絶賛取り乱していた。

 

 西野が声を張り上げたせいだろうか。閑散としていた廊下に人が増え始めた。遠巻きに見られているような視線も感じるが、傍から見るとこの状況はどう見えているのか割と気になる。

 

 よくわからん。よくわからん状況だが、おそらく西野は嫌がっていると訳では無さそうだ。そしてオレはカラオケに誘われて行きたいと思った。なら特別余計なことは考えなくてもいいだろう。率直な気持ちをそのまま伝えれば良い。

 

「楽しそうだしカラオケ行こうぜ。西野」

「…………本当にいいの? 私なんかホント、バカみたいなこと言っちゃったけど…………」

「どうしても、行きたい。だから一緒にカラオケ行こうぜ。受験勉強の息抜きにも丁度良いだろ」

 

 ニッと笑っては西野を誘ってみる。

 

 受験勉強の息抜き。ストレス解消。大いにけっこうだ。久々に大声出して歌ってもみたい。

 

 うつむいてトーンが落ちていた西野であったが、熱心に誘うとすぐに元気を取り戻した。西野は元気がある方がずっと輝いている。当たり前のことかもしれないが、そんな風に思った。

 

「…………うん。私も行きたい」

「なら決まりだな。何時が都合良いだろう? 喉のコンディションとも相談しないとな」

「ふふっ。そうだね。内海くんって時々子供っぽいトコもあるけどけど、やっぱり凄く大人なんだって思うな。きっと私はそんなキミに────」

 

 言葉の途中で西野はハッと目を見開いたかと思えば、自分の口を両手で抑えつける。

 

「どうしたんだ?」

「な、なんでもなんでも。なんでもないよ!」

「ならいいけど。しかし今のカラオケ機種はさっぱりわからん。西野はオススメとかある?」

「う、うん。ええっと私のオススメは────」

 

 そこからは昼休みが終わるギリギリまで西野とカラオケトークに花を咲かせた。

 

 カラオケトークに花を咲かせながら、花笑みを浮かべる西野を見る。間違いなく西野はオレが出会った異性の中で一番の美少女。誰にとっても高嶺の花。勿論それはオレにとっても同じだ。

 

 昨日、真中と東城と話をして、なんやかんやとアドバイスを受けたが、どうせ空振りに終わるだろうと内心では思っていた。二人に言われたからやってみるかという程度の話であった。良く言えば高嶺の花。悪く言えば無謀なことだと最初から決めつけていたのかもしれない。

 

 きっとオレが今まで欠片も気づかなかったのはそういうことだと思う。真中を中心とした原作のことばかりを考えていて、自分の回りで起こる出来事に対して碌に気を回してはいなかった。

 

「それじゃあ楽しみにしてるねっ!」

「おう。オレもけっこう楽しみにしてる」

 

 原作を俯瞰的に見ようとするあまり、自分の身近なことを見落とすなんて笑える話だ。

 

 しかし早い段階でそのことに気づけたことは朗報だ。これからは今まで以上に気をつけようと思う。にこやかに手を振って教室へ戻る西野を見ながらそんなことを考えた。だが────。

 

「結局、脈はどうだったのかは…………わからんか。まあ、一先ずはカラオケを楽しむとするか」

 

 真相は結局わからず仕舞いであったが、それでも不思議と気分は悪くなかった。

 

 頭の中で軽やかに流れる名曲を耳で反芻させながら、午後の時間がゆっくりと過ぎて行く。

 

 




いつも感想や誤字報告ありがとうございます。
次話は4人で集まる話の予定。主に西野と東城が中心となるかと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。