いつぶりだろう。
内容はあまり良いものではなかった。
つまらないことが原因の口喧嘩。
ただ、ずっとこの夢を見ていたい。
私たち三人一緒なのは、いまはここしかないから。
少女は生気を失った目で善子を見た。
服は破れ、髪は乱れ。
頭部と手元が赤いことに善子は気づいた。
ひどい姿だと思った。
視線を自分の腕にやる。
治りかけの切り傷に支配された自分の腕を見て、人のことは言えないなと心の中で笑った。
「放っておいて。おらはもう、何もしたくない。」
花丸は善子にそう言った。
善子はそれを聞いて、ただ
「嫌だ。」
とだけ返した。
文字に起こせばたったの二文字。
それだけの言葉なのに、花丸は心がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたような気分になった。
「何、何なの。ルビィちゃんを失って、ダイヤさんを傷付けて。善子ちゃんを敵に回して、それで私に何をしろって言うの。」
「敵じゃない。」
善子はただひたすらに花丸の目を見つめていた。
「だったら、ここで私を倒してよ。」
光のない花丸の目から涙が流れる。
善子は唇を強く噛んだ。
「あんたがそれを望むなら。私だって覚悟ぐらいあるわ。」
「「変身。」」
仮面に表情を隠し、互いににらみ合う。
「何もかも、変わっちゃったね。」
それは、花丸の一番の気持ちだった。
変わらないでと願うものすべて自分の知らない姿へ変わっていく。
自分でさえも例外ではない。
花丸はそれが怖かった。
大切にしたいことが、人が、想いが、いつの間にか自分の知っているそれではなくなっていることが怖かった。
だから願った。
今のままでいたいと。
けれど善子の返事は、花丸の期待していたものとは違った。
「あんた、まだそれ言ってるの?」
「・・・え?」
花丸のおびえた声に苦笑いしながらも、善子はつづけた。
「変わらないものなんて、ほとんどないのよ。当り前じゃない。」
「でも・・・!変わらなければずっとこのまま・・・。」
もう少し早くにこれを伝えていれば、未来は違ったのかもしれない。
善子は言いながら後悔したが、それでも言うことをやめない。
「確かにそうね。だから、一番変わって欲しくないことを守るために変わるの。自分の大切なことを守るために、私たちは『変身』するのよ。」
「変身・・・。」
「あなたは私に気付いてくれた。津島善子に気付いてくれた。それが私はとっても嬉しかった。だから、この小さな喜びをずっと守るために私は変身するの。」
「じゃあどうして、私を倒そうとしてくれるの・・・。」
「殺してでも救ってみせる、よ。」
『ソードベント』
剣を構え、善子は戦いの姿勢に入った。
覚悟を固め、剣を振りかぶる。
しかし、花丸を斬りつけるはずだった剣は振りかざされたまま止まっていた。
否、止められていた。
「そこまでよ、善子。」
剣を抑えていたのは王蛇に変身した鞠莉だった。
「どうして止めるの。」
鞠莉は優しく言う。
「あとは私に任せて。」
善子は反論する。
「マリー、私が花丸を倒すって答えたらうれしいって言っていたじゃない。」
鞠莉は語調を強めて言った。
「えぇ、うれしいわ。それだけの覚悟を持ってくれているということだからね。けれど、それと同じぐらい悲しいわ。その答えは、私たちと同じだもの。」
「あ・・・。」
言われて、善子は剣を持つ手の力を抜いた。
「とはいえ、その覚悟を無駄にするわけでもないわ。」
鞠莉は花丸の顔を見て言った。
「花丸、あなた今でもこの戦いに勝とうと思ってる?」
言葉が詰まる。
それでも、振り絞り言った。
「ここで倒してもらえないのなら。それ以外にはもう・・・!」
答えを聞き、鞠莉はため息をついた。
「そう、なら善子じゃなく私が戦うわ。」
善子が何か言っていることに鞠莉は気づいていたが返事することなく続けた。
「これが倒せるならね。」
『アドベント』
鞠莉は召喚のカードを使用し契約モンスターを呼び出した。
それは、大きな蛇ではなかった。
それは、梨子のもとにいたエイでもなかった。
三体目の契約モンスター。
花丸がそれに気づかないわけがなかった。
「そのモンスターは・・・。」
鞠莉は口元に笑みを浮かべ言い放った。
「えぇ。これはメタルゲラス。仮面ライダーガイ、黒澤ルビィが契約していたモンスターよ。」
仮面越しに花丸の表情が歪んでいる、善子はそんな気がした。
「さあ、来なさい。」
鞠莉の挑発に、花丸はカードを引いて答える。
『シュートベント』
「それだけは・・・許さない!!!!!」
花丸は叫ぶ。
けれど身体は反してそれ以上動こうとしない。
「なんで・・・!なんで動かないの!!!」
鞠莉は近づき、かみしめるように言った。
「出来るわけないのよ。だってそれが、あなたの強さだったはずだから。」
言うと、鞠莉はメタルゲラスを見てささやいた。
「友達と戦うのは、私たちだけで十分なのよ。」
それは鞠莉の本心だった。
鞠莉は戦うことでしか解を見つけることができなかった。
決してそれを後悔しているわけではない。
しかし、絶対にそれは間違っていた、とも確信をもって言えてしまう。
最後、鞠莉は果南を討つことになる。
だからせめて、鞠莉たち以外はこんな思いをせずにいてほしい。
そのためならば自分が外道と、最悪だと言われてもいいとさえ思う。
メタルゲラスはある意味その決意と言える。
一つ、ダイヤがこれを託してくれた時の顔はとても良かったと思い出す。
花丸は武器を下ろして変身を解いた。
「二度も阻まれたら、もうどうしようもないずら。」
善子も変身を解き、そばに駆け寄った。
「お帰り、花丸。」
強く抱きしめられた花丸は、流れる涙を止められないまま、うんと言った。
それを見ながら鞠莉は思う。
ダイヤはずっとこれを見てきたのだろうか。
想像もできないぐらいに、ずっと、ずっと。
果南もきっと―――。
「・・・バッドタイミングね。」
自分の心でも読んでいたのかと疑いたくなる。
果南がこちらに向かってきている。
それはそれで幼馴染感が出て悪い気はしないが、いまではないと切り捨てた。
それだけではなかった。
果南は大量のモンスターを従えてこちらに向かっていた。
一国の軍隊を思わせるような数に鞠莉は恐怖感を覚えた。
善子と花丸も異変に気付き、鞠莉の視線の先を見た。
「嘘でしょ、数が桁違いすぎる。」
いったいどこにあれだけの数が潜んでいたのか。
三人とも答えはすぐに出た。
「きっと、攫われた人々のものね。」
鞠莉は眉間にしわを寄せる。
突然、果南は一人別の方向に進路を変えた。
その直前、鞠莉と視線を合わせ、ついて来いと指示を出して。
数えるのも嫌になるほどの敵は変わらずこちらへ向かってくる。
そのほとんどがゴルドサンダーやそれと同等の強さを持つものだとわかる。
「これを倒してから来いってこと・・・?果南ちょっと壊れてんじゃない?」
そう言いつつ、鞠莉は武器を構えた。
「ここが正念場、デース。」
気合を入れた鞠莉の前に花丸が立った。
「? なんでそこに立ったのかしら?」
花丸は振り向いて言った。
「追ってください。」
理解ができなかった。
言葉の意味は理解できたが、意図が分からなかった。
「正気?死ぬわよ?」
建前でもなんでもなく、鞠莉は本当にそう思って言った。
しかし、花丸はそこからどかなかった。
「最後ぐらい、国木田の意地見せないといけないずら。」
そこで鞠莉はようやく理解した。
この少女は、ここで自分の戦いに終わりを見つけようとしている。
逃げるつもりで言ってるわけではない。
届かない分は、鞠莉に任せようとしている。
今ここでリタイアしても構わないと思ってる。
だから、そんなに晴れた表情をしているのか。
「気持ちはわかるわ。だから・・・。」
これでいいのか鞠莉はわからなかった。
でも、今の花丸の顔を見ると、間違えていないと思えてきてしまうのが憎い。
「だから・・・。任せた。」
振り返り、鞠莉は果南を追いかけるため駆け出した。
「私、こういう役回りみたい。」
「善子ちゃん?!なんで?!」
「ヨハネ!ってリリーの時もそうだったけど、いや、今度は置いていかないのか。」
「何を一人ぶつぶつ言っているずら。」
「うるさいわねー。せっかく残ってあげたのに。」
「頼んでないずら。」
「なっ!!帰るわよ・・・!」
「・・・そうして欲しい。逃げ延びて欲しい。」
「ずら丸もよ。」
「・・・そうだね。」
横たわる二人の少女。
重なる掌。
ベルトは砕け、原形は無い。
それに気付く者もいない。
軍隊のような数の敵は数えることができるまでに減っていた。
目標を失ったそれらは、果南の後を辿る。
仮面ライダーファム、仮面ライダーゾルダ、脱落。
残る仮面ライダーはあと6騎。
いつもありがとうございます。
あと、あけましておめでとうございます。
すいません、久しぶりの更新になってしまいました・・・。
大学の課題があったり、体調を崩していたりでこんな感じに・・・。
こんな感じですが、今年もよろしくお願いします。
それでは内容のお話から。
これで1年生がすべて脱落しました。
ずっと救いのなかった花丸への最後。
ライダーバトル序盤で善子と再会した時の夜、その時に善子が「変身」を伝えていれば、もっと結末は違ったと思います。
あるいは、もっと早く気付いていれば。
そう言った意味で、1年生の物語と3年生は似ています。
逆に鞠莉はそれに気づいてしまった。
そんなお話でした。
近況です。
課題のお風呂状態・・・。
それではまた。